黒い天使短編「あぶないFBI」1
黒い天使短編「あぶないFBI」1
「あぶない刑事」ならぬ「あぶないFBI」!
ユージと拓の無茶苦茶事件簿です。
サクラとJOLJUもいますが完全にオマケ。
そしてこれはよくある日常!
***
いつもと変わらないNY。
ある夜……NY港の倉庫エリアでFBIとギャングの衝突があり、二つのギャングが壊滅した。
ギャング側の死者は22人。負傷して逮捕されたのが6人。米国でも中々ない大事件だったが、特にマスコミは騒ぐことがなく、警察も早々に事件をFBIに押し付けて手を引いた。本来は市内の事件だし警察……NYPDの案件なのだが、今回は特別なのであっさり捜査権をFBIに譲った。
というのも……この摘発というよりは大虐殺……対象は皆犯罪者のギャングたちだが……これを執行したのはFBI・NYの名物捜査官……通称<死神捜査官>であるユージと拓の二人だったからだ。
***
事の発端はタレコミで、ユージ個人の情報屋からの情報だった。組織であるマフィア案件ではなく、米国の半グレというべき中規模ギャングたちの薬物取引で連邦捜査官であるユージたちの事件ではなかったのだが、取引を知ってしまった以上何もしないわけにもいかない。もっとも最初は二人ともこんな大人数がいるとはおらず、精々4、5人程度の取引だと思ったので「注意しにいくか」くらいの気分だった。
ということで応援も呼ばず、特に深く考えず現場にいって、予想外の大人数がいたので一々逮捕する余裕はなく、ほとんどを射殺して制圧してしまった。
こういうギャング組織が潰れることは司法組織としては良いことなのだが、それにしたって20人以上殺傷したとなれば報告書の提出だけでは済まない。
で、報告書を提出した後、ユージと拓は支局長コールから呼び出しを食らう羽目になった。
この物語は、その顛末と二人の無茶苦茶な対応を語った物語である。
***
「お前たち、いつから検事と裁判官と死刑執行人になったんだ?」
ユージと拓が支局長室に入ったとき、コールは事件報告書をラックトップで見ているところだった。
ユージたちが着席するなら開口一番、コールの口から出た言葉がこれだ。
「いつからお前たちは<殺しのライセンス>を持つようになった!?」
「俺はそれに近い許可を頂いていますが?」
悪びれもせず答えるユージ。
ユージは経歴上頻繁に命を狙われているので、悪党を撃ち殺しても特に問題にしない、となっている。政府関係も司法省もマスコミもそのことを知っていて、ユージが悪党を射殺しても騒ぐことはない。ちゃんと大統領命令で許可が出ている。
「それはお前を殺しに来た馬鹿に対する場合だ。<犯罪者狩り>をしていいなんて許可はでとらん! 馬鹿モン!」
「とはいえ一応東海岸でも札付きのチンピラギャングの組織の一つは潰れましたし、ドラッグも金も押収しましたが」
「やり方が著しく間違っている! 何で応援を呼ばん」
「呼ぶ暇がありませんでした。撃ち合いを始めてから終わるまで3分です。応援が来る前に終わりましたし、SMGで武装した阿呆ギャングが20人もいるなんていうとSWAT出動案件ですけど、それを待っていたら逃げ去るか、市内全域で戦争になってしまう可能性が大きいです。こっちが二人だから相手も現場に残って応戦してくれたんです。結果的にはこれで良かったんです」
本当に悪びれないユージ。頭を抱えるコール。
「メインはユージで、俺が撃ったのは5人くらいですよね?」
ユージと違って、拓は多少問題意識を持っている。しかしこの拓ですら一人で5人射殺している。米国だし違法ではないが、普通ならば「それだけ人を殺すと心的ストレスが心配です。カウンセラーを受けてください」と専属心理士が怒鳴り込んでくるところだが、この二人には全くストレスはないし良心も傷んでいない。
FBIがスペシャリストの集団なのは間違いないが、人を殺したり、逆に撃たれたりすると普通は何かしら心に影響が出るもので、むしろ出ない人間のほうが異常者なのだが、困ったことにこの二人の精神バランスや倫理観は優等生でメンタルも強いし変な正義感が強い問題児でもない。それどころかユージに至っては副業が現役の医者で専科ではないが精神医の知識も豊富で並の心理カウンセラーなど逆に論破してしまう。
「別に違法なことはしていませんよ。ちゃんとFBIだと名乗っていますし、わざわざ相手が撃つのを待ってから反撃していますから。今回はボディーカメラを付けていったから物的証拠もあります」
警察の違法行為や正当性を証明するため、制服警官は全員小さなボディーカメラをつけて事件を記録する。ただ私服の刑事や犯罪捜査がメインのFBIはつけない。だが銃撃戦率と容疑者射殺率が馬鹿みたいに高いユージは毎回報告書を何枚も書く羽目になり、今日みたいに呼び出されて叱責されるのに懲りたので、銃撃戦が予想される案件の時は予めボディーカメラを装着して手間を減らすことにしていた。勿論今回の事件の一部始終はすべて映像の記録があり、ユージが違法な虐殺はしていないことは確認されている。
しかし、これが逆に捜査本部が仰天する結果となった。
「鑑識も映像分析班も監査部も呆れて言葉を失っている! お前、説明しろ!」
「動画を見たら分かるじゃないですか」
「見て理解できんからお前たちを呼んだんだ! 今から動画を流すから説明しろ!」
こうして事件当夜を振り返ることになった。
***
ということで、コールの支局長室の壁に掛けられた大型モニターで、当夜の出来事の放送が始まった。
時刻も記録されている。午後22時14分。NYの港湾部にある無人の工場地帯が映し出された。
ユージのカメラで、ユージ本人は映っていない。
車はユージの仕様車として登録してあるユージの個人所有のマスタングEVコンバーチルのオープンカーで、屋根は出していない。
運転はユージで、助手席に拓がいる。
二人は日本語でだらだらと喋っていた。
「日本語で何を喋っている?」
「晩飯の話です。俺たちは20時まで支局で書類の整理をして飯の時間を逃したし、エダは明日が早いから早く寝てしまったんで、ハンバーガーでも食いにいこうと出たところ、タレコミがあったんで見に行くことにしたんです」
それは報告書通りだ。
が……コールが激怒しそうなことがまず一つ判明する。
「あのさぁー? サクラちゃんおなかペコペコなんだけど? そんなチンピラの喧嘩なんかどうでもいいじゃん。NYPDに任せてダイナー行こうよ、もう10時過ぎだゾ? バックスバーガー・ダイナー、閉まっちゃうじゃん」
「だJO!!」
日本語だったが、確認するまでもない。サクラとJOLJUもいる。
「お前!! 事件現場に子供を連れて行ったのか!?」
「この段階では事件は起きていませんし、元々晩飯を食いに行く予定で外出しましたし、10歳のガキを一人にすると俺が児童放置で罰金を食らうんですが?」
米国では子供を一人にすると親が罰せられる。州によって違うが大体10歳から12歳まで。サクラを一人にして外出するとユージは警察に叱られて罰金刑を食らう。これはFBIだろうが関係ない。
しかし白々と聞くコール。
サクラがよく一人でブラブラほっつき歩いている事を知っているからだ。
「お前は子供連れで銃撃戦をしたのか!?」
「結果そうなっただけです。それにサクラには銃を撃たせていませんよ」
二人の会話は完全に噛み合っていない。コールは飽くまで常識を語っているのだが、クロベ家の常識は別だ。
やがてユージは車を一旦停めた。そして車のライトを消して再び車を発進させた。
「不審車が見えたのでこっちはライトを消しました」と解説するユージ。
すると拓とサクラが何か喋りあい、一度拓は後部座席のほうに身を乗り出したかと思うと、戻った時には小型ナイトスコープを搭載したHKG36Cを手にしていた。
「監査部が『どうして手際よく自動小銃を持っていたのか』と怒っていたぞ」
「俺の車にはいつも積んでいますけど。HKM417とHKG36CとHKMP7とレミントンM590、後予備の弾と拳銃。弾は120発ずつ。ATFにもFBIにも登録して提出しています」
「お前らは一体何と戦っているんだ?」
「犯罪者でしょう」
「ATFは本当に許可しとるんだろうな?」
「ライセンス3の所持許可と司法省の所持使用許可証が発行されていますからデータで確認してみてください」
「…………」
こんな重武装していることが問題なのだが、やはり話は噛み合っていなかった。
黒い天使短編「あぶないFBI」1
ユージと拓ちんがメインの短編です。
この二人の乱暴捜査に頭を抱えるコール支局長の苦悩……
そして大事件だろうが大虐殺だろうがこれっぽっちも深刻さがないマイペースなユージです。
一応「黒い天使」なのでサクラとJOLJUも登場していますが、ほとんど活躍はありません。今回は完全にパセリ役どころかサービスのお冷くらいの存在感です。とはいえちょくちょくサクラはヤラかしますが。
「あぶない刑事」どころか、もう「ランボー」か「沈黙~」くらいの一方的に悪党をボコボコにするユージの物語。
しかし真面目に考えると問題行動ばかり!
そのユージに頭を痛めるコール支局長の短編ともいえます。
今回は本当に陰謀も裏もへったくれもない、ただの<ユージが暴れただけの事件>です。
ということで3話くらいで終わると思います。
これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。




