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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
172/206

黒い天使短編「人生最後の生きた証」11

「人生最後の生きた証」11


<シャドー・プロフェッソア>の射殺体。

だが真犯人は別にいた。

これは巧妙に仕組まれた陰謀!

それに気づいたユージの逆襲が始まる!

***




 午後9時46分


 妙なことになった。


 <シャドー・プロフェッソア>と思しき遺体がパリの中央公園で発見されたという報告を受けたのは、ユージたちがホテルで朝食を食べた直後だった。



「死んだ?」



 ユージは首を捻った。


 現場から逃走された。致命傷を受けた体で逃がすはずがない。


 遺体の発見は午前7時すぎで、すでに簡単な検視は終わり、遺体は検死解剖に回されている。それでもいくつか重要なことは分かった。


 胸部被弾で重体。助からないと判断し、愛用のワルサーで頭を撃ち抜き自殺した。


 胸を撃ったことは昨夜パリ警視庁に報告している。

 状況は合致。そして手に握っていたワルサーPPKは先日ホテルで使われたものだ。



 身元も分かった。



 ホレット=ルベット。64歳。

 なんと、ルーデンのマネージャーだ。




「防弾ベストを着ていたんだよね? ……それって」


 ユージから話を聞いていたエダはすぐに分かった。


 エダだけでなく、サクラもセシルも分かった。



「本当の狙いはこれかぁ~。なかなかやるねぇー」

「これで公式には<シャドー・プロフェッソア>は死んだ、ということになりますね」

「他に正体を知る人間はいないからな」



 自分の死を偽造して殺し屋としての人生を終わらせること。


 それがユージに手を出してきた本当の理由だ。どんな凄腕の殺し屋でも<死神捜査官>に返り討ちにあったということであれば裏世界も納得する。



 だが……。



「本当か? それは?」



 電話中のユージの口調が変わった。



「ありがとう。後で報告する」



 そういうとユージは食後のコーヒーを置き立ち上がった。



「何かあったの?」


 エダの勘は誤魔化せない。



「俺を嵌めたのは、<シャドー・プロフェッソア>だけじゃなかった。連中はミスを犯した。俺を甘く見たな」



 ユージは上着を掴む。



「これはパリの事件じゃない。米国の案件だ。お前たちは知らないほうがいい」



 そういうと、ユージは部屋を出ていく。 


 エダたちは顔を見合わせた。

 あの剣幕は誰かユージの怒りを受けることになる。




 おっかないので……今回サクラは付いていかなかった。






***





 ユージが向かったのはCIA・パリ支局だ。


 すぐにマクギー捜査官を呼び出した。


 どこで聞いたのか、<シャドー・プロフェッソア>を始末した件はすでに知っていて、ユージの手腕に手を叩いて褒め称えた。



「秘密の情報がある。空いている会議室はあるか?」

「ああ、いいとも」



 マクギーはユージを小さな会議室に案内した。



 そしてドアが閉まった瞬間……ユージはマクギーを部屋の真ん中にあるテーブルに叩きつけると、腰のHK USPコンパクトを抜いて顔面に強く押し付けた。



「何をする!? 正気かお前!?」

「安全装置は外してトリガーに指が掛かっている。抵抗したら撃ち殺す!」

「狂っているのかアンタ!!」


「そりゃあこっちの台詞だ。お前、俺を利用したな?」


「何を言っていやがる!」


「じゃあこういえば理解できるか? お前たち……いや、多くはない。思うにお前の独断だ。お前、<シャドー・プロフェッソア>と内通していたな」


「狂ったのかお前!」



「じゃあ馬鹿なお前の企みが何故バレたか教えてやる。お前がミスしたんだ。俺の使用拳銃がHK USPコンパクトであることを、どうして<シャドー・プロフェッソア>が知っていた? パリ警視庁の鑑識が、ルベットから摘出された弾は9ミリのHK P10……つまりHK USPコンパクトだと証言した。俺の普段の愛用銃はDE44、9ミリをメインで使うことは滅多にない。使うとしてもFBIの推奨はグロックかSIGだ。HKを使っている捜査官は珍しい。じゃあ何でルベットの体内からHK USPコンパクトの弾が出たか? 誰かが教えたからだ! 知っているのはパリ警視庁上層部と弾の都合を頼んだこのパリ支局のお前だけだ!」


「裏世界の情報網だろ!?」


「かもな。だがルベットは本物の<シャドー・プロフェッソア>じゃない。なぜか分かるか? 昨夜銃撃戦で俺が<シャドー・プロフェッソア>を撃ち抜いたのはHK USPコンパクトではなく357マグナムだったからだ! そのことはお前には教えていない!」



「何……357!?」



 そう、<シャドー・プロフェッソア>を撃ったのはサクラのFBIスペジャルで357マグナム。しかも弾は公用の配給品ではなくユージのオリジナル特別弾だ。



 パリの鑑識では、使用された弾丸は米国公用のミリタリー弾だと言っていた。連邦捜査官の装備だし、直前にCIAで弾を受け取っている。弾にもメーカーがあり政府が使用する弾は決まっている。そしてそれは民間でも手に入る。



「防弾ベストを着ていた。だから重傷になるはずがない。弾はベストに当たって潰れるから鑑識のプロでもない限り、見ただけでは9パラと357の区別は付かない。だから<シャドー・プロフェッソア>はお前の情報を信じてHK USPコンパクトを用意して身代わりを撃った。だが実際使ったのは357マグナムだ! 本格的に調べたらすぐに分かる!」



 9ミリパラベラムも357マグナムも弾丸の大きさは9ミリで、弾頭のサイズもほぼ同じだ。防弾ベストに当たれば弾丸は潰れるから9ミリ口径としか分からない。プロの科学鑑識が調べればわかるが、そうではなく手に取っただけでは判断はできない。約50mの距離で、使用していた拳銃まで識別できるはずがない。




「で、気づいた。<黒薔薇の毒婦人>の件だ。あの女はCIA保護下で殺された。なのにCIAは報復行動を取らなかった。何故か? CIAが情報を流したか手引きしたかだろ? 裏社会の大物とはいえ引退した婆さんをいつまでも保護しているのは予算の無駄だし、売春斡旋や薬の密売がメインの悪党はCIAにとってはそれほど利用価値が高いわけでもない。そんなときお前たちは<シャドー・プロフェッソア>が悪党狩りを始めたことを知り、あの男と手を結んだ。……脅迫的な方法で利用することにしたといったほうが正しいか?」


「そんな証拠はない!」

「これが証拠だ」



 そういうとユージは携帯電話に表示したルーデンの秘密情報を突き付けた。これは今朝拓から送られてきたDNAの検査結果だった。



 ルーデンはCIAにこの情報を握られ、協力を余儀なくされたのだ。



 まさかこの短期間にユージがここまで調べ上げているとはマクギーも思わず、言葉を失った。


 沈黙は肯定だ。


 だがこれで屈する男ではなかった。



「こういう科学捜査はFBIのほうが上だ」

「CIAの案件だ! FBIが口を出すのは管轄外だ! これ以上口を出すなら正式にFBI本部に抗議を出すぞ!」


「他の人間相手ならそういう脅しも効果があるのだろうが、俺にはない。それにこれは俺の身内の問題だ。CIAだろうがNSAだろうが俺の身内に手を出すのならば、それ相当の覚悟をしろ! これを然るべき立場の人間に報告して、お前を秘密収容施設送りにする。看守じゃない、反逆者としてぶち込む。お前がぶち込んだテロリスト共が収容されている極秘収容施設だ。そんなところに罪人としてお前が放り込まれたらどうなる? 三日以内に集団リンチに遭って死ぬだろうな」


「脅しには屈しない!」



 ユージはマクギーを突き放し、銃をホルスターに戻した。


 そして携帯電話でどこかにダイヤルをし始める。



「俺をただのFBI捜査官だと思うは間違いだ。脅しでないことを今証明してやる。お前なんか一時間で抹殺できる」


「FBI長官が出てきても俺には関係ないぞ!? 国防省の人間でお前たちには手が出せない!」


「どうかな」



 電話が繋がった。



「すみません、早朝に。大した用ではありません。何も聞かず一言あるCIA職員に挨拶をして貰えませんか? はい。助かります。では代わります」

「…………」

「挨拶しろ」



 突き付けられた携帯電話。仏頂面で受け取ったマクギーは、次の瞬間表情が一変した。緊張で目が見開き、開いた口が塞がらない。




「はい。勿論。……はい、クロベ捜査官とは協力関係にあります。お声を掛けていただき恐縮です、大統領」




 なんと、相手は米国合衆国大統領だった。しかもホワイトハウスの回線ではなく個人回線……つまりユージのコネだ。これほど最強のコネはない。



 ユージはすぐに携帯電話を奪い取り「ありがとうございました。また後日例の件でご連絡いたします」と言い電話を切る。



「なんなら次は情報局局長と話すか? それとも国防長官と話すか? 英国首相やフランス大統領も呼び出せるぞ?」



 まだ米国は早朝で公務の時間ではない。だがユージは関係なく個人的に連絡をとっても怒られない、そんなVIPなのだ。



「……いや……いい」



 なんてコネを持っているんだ……途方もない権力ではないか。

 正規ルートではなく個人ルートであることがユージの恐ろしさだ。

 つまり記録に残すことなく、一職員を抹消することなど、ユージには造作もないことなのだ。



 むろんからくりがある。元々ユージはホワイトハウスにコネがあるが、今はさらに特別だ。


 何せ各国首脳関係者を宇宙旅行に行かせた本人で、地球人の常識でいえば大統領たちはとんでもない借りがユージにある。そのユージの頼みとなればどんな代償でも軽い。



 この瞬間、完全にユージがマウントを取った。



「俺に何をさせたい!? <シャドー・プロフェッソア>を差し出せか!?」

「このデーターで奴を脅した。違うか?」


 ユージは自分の携帯電話に表示されたデーターをマクギーに見せた。

 マクギーが苦々しい表情を浮かべ、黙る。



「ただの平凡な頭でっかちのFBI捜査官だと思ったか? しかも俺の身内だ。俺が本気で調べたらどんな捜査機関も利用できる」


「…………」


「お前はこの情報を掴み、<シャドー・プロフェッソア>の首に縄を付け、利用できるようにした」


「保険だ。裏世界のプロを相手にするんだ。そのくらいの保険の手は打つ」



「いいか。コレに関する情報をすべて消せ。本部のデーター、お前の個人用、メモも全てだ。必要なら脳手術してお前の記憶を消してやる。すべて忘れて二度と思い出さないと誓え」


「分かった。誓うよ。全部消す」


「後で本土のスーパーコンピューターで確認するからな。俺を欺けばお前を殺す」



 そういうとユージはマクギーを突き離し、もう出口に向かった。



 これで用は終わった。



 後、残っている用事は一つだけだ。



「人生最後の生きた証」11でした。


ということでした。

そう、ユージは志望の偽装の片棒を担がれていたわけです。

しかしこういう駆け引きならばユージも専門!

何が厄介かというと、ユージはいろんな敵がいるにも関わらず、こうみえて裏も表も協力なコネを持っているからです。表のコネは世界VIPですから、これだけ無茶苦茶外国で暴れてもクビになることはありません。ある意味ユージを叱れるコール支局長は特別です。でもコール支局長ですら叱れるだけでクビにはできないのでチートです。


ユージが気付いた、<シャドー・プロフェッソア>と自分の共通点!

実はこれがこの物語の最大のカギだったりします。


ということで次回がこの短編のクライマックス!

すべての謎が明らかに!


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。



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