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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
171/206

黒い天使短編「人生最後の生きた証」10

「人生最後の生きた証」10



銃撃戦に入ったユージ。

だが相手はプロの殺し屋……そしてユージにはDE44がない。

しかしユージには策が!


露骨に嫌な顔をするサクラだが、やるしかない!


そして思わぬ展開に。

***




 ユージは一瞬だけ目視で確認すると、右手だけ出して二発撃つ。


 手だけの目眩撃ちだ。しかもユージが銃を出した瞬間<シャドー・プロフェッソア>は柱に隠れた。弾は欄と空の彼方に飛んでいく。



 嫌がらせのようにすぐに三発応戦してきた。しかしユージはすでに陰にいて当たらない。



「あれ? 8発? 弾、切れた?」



 冷静に銃声の数を指折り数えて首を傾げるサクラ。そして超人的なサクラの聴力はスライドが下がり止まった音を確実に聞いた。集中さえすればそのくらいの能力はある。



 ワルサーPPKかPPK/Sかは分からないが、32口径であれば7+1か8+1、つまり7発から9発の間で弾は切れる。拳銃の最大の弱点は弾切れの時だ。


 ユージが攻勢に出るならばこの瞬間だ。


 だがユージは本当のプロだ。相手の技量がどれくらいか分かっている。


 サクラもすぐに知った。



 僅か3秒だ。



「え? もうリロード終わった? 早っ!」


 3秒なんて、ほとんど隙がないと同じではないか。



「俺もそのくらいでできるぞ。プロのリロードの隙なんて当てにするな」



 ユージだってそんなものだ。ユージはリボルバーですら3秒ほどでやってしまう。


 それにプロは律儀にマガジンが空になるまで待つこともなく、有利なタイミングがあれば途中でもマガジンチェンジをする。だから弾を数えて応戦するのは一流のプロ相手には計算を入れない。



 しかしこれでは埒が明かない。



 ユージの想定ではもう少し距離は近いと思っていた。30m前後であれば片手の勘撃ちでもヘッドショットで仕留める自信があるが、50mだとHK USPコンパクトでは心許ない。

 腕の問題ではなく銃の性能だ。愛用のDE44と違い、こっちはカスタムしていない市販品でユージの腕でも50m先のマッチ箱を当てることはできてもワンホールショットは出来ない。それに9ミリでは防弾ベストを着ていた場合全くダメージにならない。



 ユージがDE44なんてものを愛用しているのは、防弾ベストを無力化できるパンチ力と高い精度があるからだ。DEのバレルは固定式なので他のオートマチックよりバレルが動かない分精度がいい上に、さらに見た目では分からないが反則レベルにJOLJUがカスタムした特別性だ。



「サクラ」

「何?」

「FBIスペシャルに357マグナムを入れて寄越せ。持っているだろ、357!」



 今ここにある銃で一番精度があるのはサクラのFBIスペシャルだ。リボルバーはバレルが固定されている分、オートマチックより精度は高いし357マグナムの基本性能も高い、元々FBIスペシャルはユージの物で精度も熟知している。



「ちょっと待って。……あったと思うけど……そんなにあったっけ?」


 サクラは四次元ポケットを弄る。

 サクラのFBIスペシャルに装填されているのは38スペシャル+P。

 普通の38スペシャルより強力だがマグナムほど威力はないし、FBIスペシャルのKフレームの基本標準口径は38口径で357マグナムを使うには少々キツく、壊れたら嫌だからたまにしか使わない。


 サクラはポケットからなんとか357マグナムを3発取り出し、シリンダーに入っている38口径を抜いて357マグナムを装填した。



「3発!」

「十分だ。寄越せ」

「あたしの銃壊さないでよね」


 投げて渡すサクラ。それを受け取り、念のため弾を確認するユージ。


「登録は俺になっている。元々俺のものだ」



「で?」



 これからどうするの? とサクラが睨む。



「<非認識化>を完全に解いて、手を振りながら道に出ろ」

「撃たれたらどーする!?」

「ただの丸腰の10歳のクソガキが突然現れて誰が撃つか。誰がお前を見て警察官だと思う」


「成程。確かに」


「5秒惑わせればそれでいい」


「でもさ。思わず反射的に撃ってきたらどうすんの?」


「心配するな。俺は天才外科医だ。32口径なら頭部被弾でも致死率50%、即死でなきゃすぐに手当てして治してやる」



「……ソレ、本当に親の台詞?」


「行け」

「…………」



 本当に血も涙もない……これがエダならエダにやらせるか……!?



 と、山ほど出る文句を飲み込み、ため息をつくサクラ。感情では納得できないが、確かに理屈では銃撃戦のど真ん中に突然10歳の女の子が現れたとしても撃つことはないかもしれない。



「間抜けなほど効果的だ。歌でも歌って踊れ」

「……りょーかい!!」



 サクラは大きくため息をつくと、<非認識化>を完全に解き、ゆっくりと立ち上がった。



「チャーチャラララララ、チャッチャッチャー♪」



 そして大声で<ボレロ>を歌い、手で音楽の指揮をするように振りながら道に出た。



「チャララッラッラーラァ~♪」



 サクラは楽しそうに……半分以上自棄くそに大声で歌い、軽くステップして踊り始める。


 案の定……<シャドー・プロフェッソア>は撃ってこなかった。


 気配でわかる。

 明らかに突然現れた、いるはずのない少女……それもよく見れば目を見張るような超人的な美貌を持つ超美少女に、戸惑う気配が。



 完全に<シャドー・プロフェッソア>の気が、一瞬抜けた。


 その隙をユージは見逃さなかった。



 サクラが飛び出した5秒後……ユージも物陰から飛び出すと、一瞬で<シャドー・プロフェッソア>を捉え、右手に握ったFBIスペシャルの銃口を向けた。



 僅か1秒。



 それでユージの目と銃は、完全に標的を捉えた。


 2発、放たれた!



 弾は、戸惑い立ち尽くす<シャドー・プロフェッソア>の両胸に当たった。


 <シャドー・プロフェッソア>は倒れた。



「サクラ! バックアップ!」



 ユージはサクラに予備のグロック26を投げると、ズボンに突っ込んでいたHK USPコンパクトを抜いて駆け出す。すぐにサクラはダンスを止めて銃を受け取ると、<非認識化>を発動させてその後ろに続いた。



 ユージが階段を駆け上がる途中……近くで車が急発進する音が聞こえた。



 陸橋の上に到着したときには、すでに<シャドー・プロフェッソア>の姿はなく、大通りは何台もの車が日常と変わらずただ走っていく。



 逃げられた。



 ユージは先ほどまで<シャドー・プロフェッソア>が隠れていた場所に立った。



 血痕はなく、32口径の薬莢が転がっているだけで、ワルサーのマガジンも落ちていなかった。



 ユージはHK USPコンパクトの安全装置をかけた。


 もうここにはいない。



「なんだ、外したの?」


 追いついてきたサクラが呑気に声をかける。



「俺が外すと思うか? この距離で。右上胸と左下胸に当てた。防弾ベストを着ていたんだろう。だからDE44を使わせろと言ったんだ、あのハゲ!」



 いくら357マグナムでも防弾ベストは貫けない。44マグナムの場合貫けなくてもかなりのダメージになるし、ユージはいつも対防弾ベスト用のアーマーピアシング弾を装填したマガジンを1つ用意しているから、いつも愛用しているDE44があれば仕留められた。



「逃走用の車を用意していたのか、車で待つ助手がいたんだろう。防弾ベストがあっても357で胸を撃たれたら死ななくても結構痛いからな。そのまま撃ち合いになれば不利だと判断して逃げた。いい判断だ」


「この大通りならさ。監視カメラがどこかにあるんじゃないの?」


「そんなもん、壊しているに決まっているだろ」



 そういうとユージは携帯電話を取り出す。

 いくらFBIとはいえ発砲した以上警察に報告しないわけにはいかない。



「でも、これであのマエストロが<シャドー・プロフェッソア>だって分かったじゃん」

「状況証拠で令状は取れない。指紋を残すようなミスはしない。せめて血痕が採取できれば証拠になったが」


「なんで頭を狙わなかったの?」

「…………」



 ユージならば1秒あればヘッドショットできた。357マグナムのリボルバーの精度があれば問題ない。


 だが、ある理由があってできれば顔は撃ちたくなかった。


 パリ警視庁への通報が終わり、ユージは携帯電話を仕舞った。



「俺は事情聴取と報告がある。遅くなるからお前は先に帰っていていいぞ。エダも先に寝ていていいと伝えてくれ」


「そりゃあいいけど。でもさ。襲ってくるにしては徹底してないよね? 正体バレたから口封じしにきたわけじゃん? 防弾ベストもちゃんと着てさ。ここで逃げたって有名人なんだから隠れようがないのに、意味なくない?」


「それは俺も分からん」



 元々ここで仕留めるのがユージの作戦だった。これは前提として<シャドー・プロフェッソア>が完璧に口封じに来ると踏んだ作戦で、逃げるということは計算になかった。逃げるくらいならば襲わないほうがいい。決定的な物証はなく、これではユージたちに正体を自供しただけのようなものだ。



 そんなミスをするだろうか? プロの殺し屋が。



 何か……気になったが、その答えはすぐに見出せなかった。



 しかし翌日、ひょんなことから判明することになる。



 利用されていたのは、ユージのほうだった。



 翌日……パリの公園で、死体が発見されたのだ。



 <シャドー・プロフェッソア>だった。


「人生最後の生きた証」10でした。



まともな撃ち合いでユージが負けるはずがない!

そしてヤケクソに踊ったサクラ(笑 踊る必要があったかどうかは知りません(笑

普段は他人をおちょくって歩くサクラですが、相手がユージだとおちょくられる番です。


そして意外な展開に!

死体が発見されました。

ユージは殺してません。血が出ていないので防弾ベストは確定です。357マグナムだから傷は大きいですから外してはいませんが、当たっていたのならばこんなにすぐには逃げれません。

なんだか腑に落ちないユージ。

そこにまさかの死体発見。

次回、このカラクリが判明!

実は利用されていたのはユージのほうだった!!

しかしまたまた急展開が! 捜査能力でもFBI屈指です。

ついにこの短編も見どころに!


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ~えだぴーだったは行けとは言わずにむしろ 隠れていろっていったでしょうね いやこれも愛情だと思えば大丈夫だろう(笑) 最後はまさかの展開になってますね まさかユージが利用されていたとは…
2022/06/26 19:33 クレマチス
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