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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
168/206

黒い天使短編「人生最後の生きた証」7

「人生最後の生きた証」7



裏世界のCIA協力者との接触。

そこで出た、意外なヒント。

しかしこれだけでは捜査にならない。

ユージの次の捜査は?

***



 午後5時24分 パリ郊外 工場地帯


 工場地帯の一角……といっても工場は稼働しておらず、働く人の姿はない。


 廃工場の見晴らしのいい一角に、ボロボロのセダンが一台止まっている。

 その横に、中背の黒人……北アフリカのアラブ系の血が混じった、レザージャンパーとレザーズボンを履いた派手な男が落ち着かない様子で煙草を吸いながら立っていた。


 そこに一台の黒のSUVがやってきた。


 アフリカ系の男は顔を上げ、煙草を捨てた。


 SUVはすぐに男の元に行くのではなく、周囲をぐるりと二周ほど回ってから、ようやく男のセダンの横で止まった。


 そしてユージが運転席から姿を現した。



 ユージの姿を見た男の顔に緊張が走った。



「ドルコ=モンバの右腕、ボルド=グドンだな?」

「ああ。来てくれて感謝するよ、<死神捜査官>」


 ベルド=グドンだ。ユージには見覚えはなかったが、グドンはユージを知っていた。ユージは裏社会の有名人だ。


「武器はもっていないし手下もいない。安心してくれ」

「嘘だったら殺すだけだ」


 ユージは初めから右手にHKUSPコンパクトを握っている。非武装が約束でも油断はしない。最初に二周回ったのも伏兵が潜んでいないか確認していたのだ。


 SUVの中にはサクラが乗っていて周囲を警戒している。目視だけではなくラックトップを使ってCIAの秘密衛星を勝手に利用して周辺の監視をしていた。衛星を利用する許可はCIAから貰っている。こういう事前チェックの上、接触したのだ。


 ユージも左手で煙草を取り出しそれを咥え、火を点けた。



「無駄話をする趣味はないしお前が犯罪者だとしても俺の事件ではないから興味はない。用件をさっさと言え。<シャドー・プロフェッソア>のことを知っているんだな?」


「アンタならあの男を始末できる」


「会話も成立できんのか? 俺は世の中の犯罪者を殺すのを生業にしているわけじゃない。そんな暇人でもサイコパスでもない」


 ユージは別に正義の味方を気取ったことはない。


 彼が犯罪者を殺すのは、まず連中がユージを殺そうとするからで、次いでFBIの仕事として舞い込んできた犯罪者だけだ。裏社会で犯罪者だと知りつつ放置している連中も多い。犯罪者を皆殺しにするとしたら毎日殺し続けても寿命が尽きるまで続き終わることもない。



「で? <シャドー・プロフェッソア>とどういう関係だ? 何を知っている? 何でお前が狙われる?」

「怒らず聞いてくれ。話の途中で俺を撃つなよ?」

「いいから喋れ」


「2年前だ。俺はアンタの暗殺を<シャドー・プロフェッソア>に依頼した。ああ、待ってくれ! 依頼しただけでその時は事情があって断られたんだ。別にアンタに恨みがあったわけじゃない、金が目当てだったんだ!」


「どんな事情で<シャドー・プロフェッソア>は断った?」


「<気が進まない>とか<借りがある>とか言っていた」


「俺はそんな借り、知らんぞ」


「とにかく<シャドー・プロフェッソア>は断った。相手がアンタだ。いくらプロだってアンタ相手じゃあ割が悪い」



「…………」



「先日のロシアン・マフィア殺しで気づいたんだ! <シャドー・プロフェッソア>が殺して回っているのは、過去あの男を雇ったことのある組織ばかりだ」



 成程。だからこの男も狙われている、と判断した。

 自力ではとても身は守れないし警察組織ではないCIAは利害関係があったとしても親切に保護してくれる組織ではない。


「ここはフランスだ。俺に泣きつかれたって証人保護プログラムには入れられないぞ」


 ユージはFBI捜査官で、その職権は基本米国国内に限られている。FBIの証人保護は世界でも屈指だが適応されるのは米国内の事件だけだ。今回ユージが動いているのはパリ警視庁の要請だが立場はアドバイザーに過ぎない。


 そんな事はベルド=グドンもわかっている。


 保護を求めているのではない。狩犬としてユージに討ち取らせるのが目的だ。最もユージを狩犬として利用しているのはパリ警視庁とCIAもだが。


 ユージにとっては面白くない話だが、<シャドー・プロフェッソア>の手掛かりは、今のところこれしかない。



「何で<シャドー・プロフェッソア>は昔の依頼主を殺して回る?」

「知らねぇよ! 自分の過去を消したくなったのか守護天使が囁いたか、そんなこと俺が知るもんか! とにかく<シャドー・プロフェッソア>の標的は以前関わった悪党だ! なんとかしてくれ!」



 ……いっそ後一年ほど放置して欧州の悪党を掃除してもらいたいくらいだ……。



 正直ユージはそう思ったが、捕まえるか殺すまでNYに帰るなと命令されているからそういうわけにもいかない。



「よし。じゃあドラッグを50gほど仕込んで警察に捕まれ。当分は警察がブタ箱で守ってくれるし、その後はCIAに手を回して不起訴にしてやる」


「本当に不起訴になるのか!?」


「お前が本当にCIAにとって重要だったらな」



 個人使用が目的の少量のドラッグ所持であれば警察もそこで喧しくはない。圧力をかければ不起訴になるだろう。その間にユージが<シャドー・プロフェッソア>を捕まえる。



「<シャドー・プロフェッソア>の連絡方法、特徴、情報は今話せ」

「分かった」


 そういうと思って、ベルド=グドンはデーターの入ったUSBメモリーをユージに手渡した。


 ユージはすぐに自分の携帯で中のデーターを確認する。


 中にはいくつかの電話番号とネットの掲示板、メールアドレスが入っていた。



「お前は<シャドー・プロフェッソア>と直に会ったことはあるか?」

「ない。だが一つ情報がある」


「なんだ?」


「奴はクラシック音楽好きだ。特に<マエストロ・ルーデン>のファンだ」


「<マエストロ・ルーデン>? あのヘルベルト=ルーデンか?」


 有名なオーケストラ指揮者だ。ユージは音楽関係の知識も豊富だ。だがそうでなくてもヘルベルト・ルーデンの名は知っているだろう。クラシック・オーケストラ指揮者の巨匠で、今度引退記念オーケストラが予定されている。しかもセシルがそのオーケストラに参加していて、ユージたちも引退公演を参観予定だ。



「オーケストラで取引でもしたのか?」

「いや、以前聞いた話だ。<シャドー・プロフェッソア>と電話で話した奴がいて、電話の後ろで<マエストロ・ルーデン>指揮のピアノ協奏曲を聞いたらしい。一度だけじゃなくてそういう噂は他でも聞いた」


「つまり今度の引退公演に、<シャドー・プロフェッソア>は必ず現れる……と言いたいのか?」


「ドイツが誇る巨匠の引退オーケストラだ。きっと来る」


「だが顔までは分からん」


「60代の身なりのいいドイツ人のはずだ」


「そんな人間、何十人もいる」


「アンタ優秀なFBI捜査官だろ!? これだけわかれば見つけられるンじゃねぇーのか!?」


「簡単に言うな」



 引退公演は3500人収容の大ホールだ。ドイツ人巨匠のオケだから当然ドイツ人の客は多いし、クラシックを好むのは主に年配者だから、見つけ出すのは困難だ。



 だが手掛かりは手掛かりだ。



 どうやらこれ以上の情報はありそうにない。



「命が惜しかったら早々に警察に捕まれ。後はこっちで手を打ってやる」



 そういうと、ユージは自分が乗ってきたSUVに戻る。


 それを確認したグドンは、苛々した様子で煙草を半分ほど吸うと周囲を確認しながら小走りにこの場を立ち去って行った。


「人生最後の生きた証」7でした。



ということで鍵はドイツ人音楽家の巨匠?

しかもその引退公演はもうじき!

果たして殺し屋はそこに現れるのか?


オーケストラ文化は欧州は盛んですからね。とはいえ来る客は大体身なりのいいお金持ちが多いわけで。年配者も多いので、そこで音楽好きの老人を見つけろというのはかなり無理難題ですが。

でも、これでなんとなくセシルがかかわってくるわけです。

セシルもこのオケに参加する……となれば、他人事ではなくなりました。

別にFBIもここまで予想してユージを捜査に加えたわけではないですが。


さて、次回はそのマエストロと対面!

何もないと思いきや……意外な事実をつかむユージ!


今回は短編なので話の展開は早いです。

とはいえ丁度今回の話が中間地点。まだ事件は続きます。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ユージの思いとは裏腹に なんやかんやでセシルちゃんも巻き込んでしまう 事態になってしまいましたね 果たして断ったときの借りというのは 何なのか・・・ あ~なるほど、後で不起訴にしてもらえ…
2022/05/01 20:06 クレマチス
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