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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
165/206

黒い天使短編「人生最後の生きた証」4

「人生最後の生きた証」4



大殺戮事件の翌日。

関係のないユージたちはのんびり観光を楽しんでいた。

そこにコールから電話が。

ユージへの捜査協力の命令。

こうして他人事ではなくなってしまった。

***




 ユージたちに呼ばれて合流したセシルとで、楽しく街で朝食の特製ワッフルを食べに行った午前10時過ぎ……ユージの携帯電話が鳴った。



 履歴を見たユージは露骨に顔を顰め、電話に出た。



「あの……支局長? 俺は休暇で、今は家族旅行中で、ついでに海外ですが? NYはまだ早朝でしょ?」



 電話をしてきたのはNYのFBI支局長コールだった。

 ちゃんと有給所得目的の書類を出すとき海外旅行と書いて届けを出しているからコールも知っている。



『パリでの事件の報告は聞いた。で、お前今回フランスに10日滞在すると言っていただろう? まだ一週間はそっちにいるな? パリ警視庁はお前にアドバイザーとして協力をしてほしいと打診があった。お前、欧州の裏世界にも詳しいからいいだろう』


「休暇中ですよ? それに管轄外です」


『ホワイトハウスに吹っかけて取った有給じゃないか。給料は出ているんだから働いてもかまわん。それに管轄外がなんだ。お前、管轄外の外国でしょっちゅう事件に首突っ込んで私に後始末をさせているじゃないか。たまにはこっちの融通も聞け』


 そう、ユージはFBI捜査官だが、CIAやNSAにも出向するし、休暇で日本行って、勝手に事件に首を突っ込んだりすることがままある。そういう時事後処理や根回しや外交的な後始末をしているのは直属の上司であるコールだ。その件を持ち出されるとユージも反論できない。



『容疑者がプロの殺し屋だということはパリ警視庁も把握している。お前はアドバイザー兼ボディーガードだ。だがあまり関係のない悪党を殺しまくるな? 国際問題になるからな』


「まさか殺し屋を捕まえるまで帰ってくるな、とか言わないですよね?」


『心配するな。ちゃんとNY支局の席は残しておいてやる。今NYで大事件は起きていないし、こっちは忙しくない。州立病院にも話をしておいてやる。特別に滞在中のホテル代は当局に請求していいから、納得するまでフランスにいろ』


「…………」



 つまり、逮捕するまで帰るな、ということだ。



 ユージは手で顔を覆い、大きなため息をついた。



「銃はNYですが?」


『バックアッフを二丁持っていっているじゃないか。9ミリと45オート、十分だ。念のためエダ君の嘱託捜査官の手続きもしておいた。銃を取りに帰ったり勝手に調達するなよ? 余所で44マグナムは使うな。弾はパリ警視庁が用意してくれるし、なんならウチのパリ支局かCIAの支局にいって貰ってこい。しかし使っていいのは9ミリと45口径だけだ。街を壊されてはたまらん』


 全部コールにはバレている。FBI捜査官は書類と許可さえ取れば外国でも拳銃携帯が可能なので、ユージは事前にNYでその手続きをしてやってきた。コールはその手続きのデーターを見たのだろう。


 ユージにとってはバックアップだが、これが普通の捜査官の装備で普通の捜査をするには何も問題ない。これでユージの逃げる口実は全てなくなった。今回は完全にコールのほうが一枚上手だ。



「分かりました。ですが大規模で長期のマフィアの抗争になったら付き合いきれませんから帰りますよ? 俺は組織犯罪担当でも欧州マフィア担当でもないんで」


『しっかりやれ。午後にパリ警視庁に顔を出せ。ああ、そうだ。CIAのリロイ=マクギー捜査官が顔を出してほしいと連絡を受けている。面識があるとも聞いている。捜査協力してくれるそうだ。あと一応今回限定でお前をグレード4に臨時格上げにしておいたから、本国やCIAの鑑識や衛星やデーターベースも使える。文句はあるまい』


「CIA? なんであいつらが?」


『海外は国防総省の管轄だからだろう』


 なんだかキナ臭くなってきたが、ユージに拒否権はなかった。



「……はい……いいですよ、分かりましたよ」



 言いたい文句は山ほどあるが、ここまで根回しされた後ではどうにもならない。


 電話を終え、仏頂面で席に戻るユージ。

 それをサクラ、エダ、セシルが黙って見ていた。


 三人とも、ユージの今の会話で、どういうことになったか完璧に理解した。



「ユ……ユージも災難だね。どこにいってもお仕事で」


 エダは苦笑いする。せっかくの旅行でユージの休暇が潰れたことは残念だが、ユージが仕事人間であることはよく知っているし、こういう事件に巻き込まれることもしょっちゅうだから、別に驚かないし怒ったりもしない。


「ユージだけでしょ? あたしとエダは普通に観光楽しんでるからガンバ~♪」



 サクラも関係ない。

 面白そうな展開になれば勝手に首を突っ込むし、そうでなければ当初の予定通り楽しく旅行を満喫するだけだ。まさかコールもサクラに捜査協力してもらえ、とは言っていない。



「CIAも関係あるみたいなことをいっていましたけど?」


 セシルはやや気にしている。彼女はCIA所属の秘密諜報員だ。しかし今パリでCIAが裏社会相手に暗躍するような作戦はあっただろうか? そういう情報は聞いていない。だから今セシルは表家業の音楽家としての活動に集中できているわけだ。


 ユージは不機嫌そうに席に座り、コーヒーを一口飲んでからセシルを見た。



「セシルはリロイ=マクギーは知っているか?」

「はい。CIAのパリ支局の現場チーフです。グレード4の捜査官なので私のことは知らないと思います」


 セシルは同じCIAでも表の捜査官ではなく、本部情報部門の特別な秘密諜報員で、グレード5以上の人間しかその正体は知らない。セシルも特にパリが担当というわけではなく、CIA本部直属だから知られていない。


「俺が知る限り、マクギーは北アフリカのテロリストが専門で欧州の裏社会担当じゃなかったと思うが」


 ユージの得意な裏社会は欧州、南米、東アジアで、アフリカやイスラム系は専門ではない。ユージはヒゲを生やさないからイスラム圏での潜入捜査はあまりしていないのだ。イスラム圏でヒゲのない東洋人は逆に目だって裏世界に入れなかった。


 しかし欧州は散々活動したから、欧州の米国の組織についてはそこそこ詳しい。だからコールもパリ警視庁もユージに捜査協力を依頼したわけだ。



「何でCIAがしゃしゃり出てくるかは知らんが、これも仕事だ。顔は出してくる」

「あたしたち、協力する?」とエダ。

「いや、いい。お前たちは観光していろ。ただ念のため銃とバッチだけは持ってな」


 エダは半分FBI関係者で、嘱託臨時捜査官として登録されていてバッチも持っている。許可が出たときは捜査権と拳銃携帯許可が下りて、合法的に拳銃を携帯できる。エダの場合捜査能力を買われているというより、ユージの事件の巻き込まれ防止の意味が大きく、実際に捜査に関わることは少ない。こうしないと未成年のエダは本当は拳銃を携帯できない。



「私、コンサートのレッスンは午後3時からですから、エダさんにお付き合いしていいですか? 色々案内できます」

「ああ。頼む」


 セシルが護衛としてついていれば安心だ。今は関係なくとも、ユージが裏社会の捜査を本格的に始めれば、報復や警告としてエダが狙われる可能性はある。コールもその危険があると思ったからエダを臨時に嘱託捜査官として手続きして、銃の携帯を合法化させたのだ。エダもセシルには及ばないが並の捜査官以上の戦闘力はある。こういうこともこの家族は慣れっこだ。



「じゃあエダとセシルは観光で、あたしはユージのお守りかー」

「何でお前が俺のほうに来るサクラ。エダたちのほうに行け」

「通訳いるじゃん」

「CIAやパリ警視庁は英語が通じる」

「しかしフランス語でコソコソ話するかもしんない。そしてユージはロシア語は分からない」


 昨夜の遺体の1/3はロシア系だった。ユージもロシア語は分からない。

 当然サクラはロシア語だってペラペラだ。



 そして事件捜査は大好きだ。趣味として、だが。



「正直、パリの観光名所はほとんどカバモンと行った事あるからねぇ~。ルーブルもノートルダムもベルサイユもエッフェル塔もめずらしくもない」


「そうだね。サクラがユージの手伝いしてくれると、あたしも安心できるよ」


 エダが真っ先にサクラの意見に賛同してしまった。エダにとってはユージがどんな事件でも心配なのだ。サクラの旅行の目当ては観光ではなく美食を楽しむことだから、財布であるユージにくっついていくほうがいい。



 だけではない。サクラの表情が好奇心で活き活きとしはじめている。美術や芸術よりも、事件のほうが面白い、と考え出したようだ。



「…………」



 いつもならこういう時サクラを止めるのはJOLJUなのだが、ここにJOLJUはいない。

 通訳で連れていくのなら正直サクラより元相棒のJOLJUのほうが気は楽だし扱いなれていてやりやすいのだが、いないものは仕方がない。



「分かった分かった。常に<非認識化>使えよ。そして万が一容疑者見つけてもお前は撃つなよ? ややこしくなるから」

「ほいほい。任せなさい♪」


「拓さんには連絡しないの?」


「あいつ、今は別の捜査班に行っているんだ。俺が10日休むからな。ま、コールから話はいっているだろう。落ち着いたら連絡は取る」


 拓は有給休暇中ではない。


 FBIは基本二人一組セットで事件を捜査するが、事件によってはチームで動く。

 拓はグレード2の捜査官で単独では原則事件担当処理できないから、ユージ不在の間は別の捜査班のヘルプに飛ばされている。


 しかしこういう状況になれば、ユージのバックアップをしてもらうことになるだろう。



「じゃあ……昼からは別行動だから……せめて何か旨い軽食でも皆で食いに行くか」



 このユージの提案に、女子三人は素直に喜んだ。ユージにとっては皆で食事を楽しむというより、結局旅行が台無しになった埋め合わせみたいなもので、機嫌をとるためだ。




 ……なんで俺ばかりこんな事件に……。



 たまには静かに旅行を楽しむ権利はないのか、と天を恨みたくなった。恨んだところでどうにかなるものではないが。



 その後皆で有名スイーツ店に軽食を食べに行ったが、結局ユージは不機嫌なまま、愉快な気分になることはなかった。


「人生最後の生きた証」4でした。



めでたく自分の事件となったユージ。

いつも勝手に事件に首を突っ込むからこういう目にも遭う。

たまには上司の理不尽にも振り回されろ、という天の啓示ですね。

まぁ……普段勝手に事件を起こすユージはこういわれると拒否できないわけですが。

ちなみにユージはFBIの準上級捜査官で、拓は一般捜査官です。ユージは単独捜査権限があります。日本警察でいえば警部補の主任くらいの地位です。ちなみにFBIは役職やアクセス制限の階級これがグレードですがはあっても警察と違って身分は一応階級はありません。ユージの準上級職員というのも権限で階級ではありません。そういう組織です。


さて、ユージと勝手についていくサクラの捜査が始まります。

ということで次回はCIAパリ支局!

FBIも支局はありますが海外は職務権限外なので(あくまでFBIは米国国内の捜査機関)海外だと海外が活動拠点のCIAのほうが立派な設備があります。逆にCIAは実は米国国内での捜査権はなかったりします。このあたり昔FBIとCIAは権力争いで大喧嘩したこともありますが、今はそういうことはありません。


ということで始まった殺し屋事件!


とはいえ今回は短編なのでそんなに長期シリーズにはなりません。

さくさくと話は進みます。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。

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