黒い天使短編「人生最後の生きた証」1
「人生最後の生きた証」1
突然降ってわいたJOLJUの宇宙旅行!
だがサクラたちには別のスケジュールが。
こうしてサクラたちの豪華フランス旅行が決まった!!
そして当然……事件が起きる!
***
いつもと変わらないNYの日常。
サクラも珍しくNYの自宅でダラダラとしていた。
というのも、ここ数日、何があったのかJOLJUとは別行動で、一人で冒険にいくのはリスキー……ということで、自宅でゲームやドラマやアニメを観て過ごしていた。
そんなある日の夕方……JOLJUは珍しくユージと一緒に帰宅してきた。
ひょんな事件は、ここから始まる。
***
その報告は、家族みんなで晩御飯を食べているときだった。
「実は再来週、ク・プリの母星に行くことになったんだJO」
エダ特製のチキンステーキ・照り焼き味を頬張りつつ、ちょっと面倒くさそうに報告するJOLJU。
驚いたのはエダだ。
「ク・プリの星に行くの!? JOLJU!?」
「だJO」
エダ……そしてユージはク・プリ星人をよく知っている。何せ<AL大事件>で関わった異星人だ。
「ク・プリ? あたし、知らんケド」とサクラ。
サクラはク・プリアンの名前は知っているが、<AL大事件>に関わっていないから知らないし、会った事もない。サクラが養女になったのは事件後だ。
しかしユージやエダはよく知っている異星人だ。
「そうだね。サクラは会ったことないね。<AL>の時地球に来ていた異星人なの」
「よくわからんケド、JOLJUが勝手に宇宙旅行に行くの、しょっちゅうジャン。報告するようなことなの?」
腐りきって今ではただの居候ニートだが、こう見えても<全宇宙で神が名乗れる超生命体>だ。自分の能力を使えば宇宙船などなくても単独で全宇宙のどこでも、距離も関係なく行けちゃう奴だし、時々ぶらっと用事で宇宙にいっちゃうことがある。そういう時、別にJOLJUは皆に報告したりはしない。
が、今回はどうやら事情が違うらしい。
「実はね。ク。プリの星系にある第四惑星がなんか惑星変動で調子が悪くてね。ク・プリの政府も対応しているんだけど、わかんないみたいで。……で、銀河連合に協力の打診があってね。まぁオイラはアドバイザーなんだけど、今銀河連合で手が空いてるLV4以上の神レベルの存在がいなくて」
「それで地球でグータラ遊んでいる、LVだけは高い暇人に、監督してくれって依頼が来たそうなんだ」
と、ユージが付け加えた。ユージもこの話に一枚噛んでいるようだ。
「好きなだけ行って来い。お土産ヨロシク」
サクラはク・プリと聞いても全く思い出も興味はない。
「こいつがただ遊びに行くだけなら何も問題ないんだが、今回は事情が違うんだ」
「事情?」
「まずね。惑星変動の調整があるから、宇宙船に乗っていかないと調整できないんだJO。でも多分ク・プリの科学力では対処できなさそうだから、銀河連合は高性能の船を派遣したいってコトになって……<ヴィスカバル>で行くことになった」
どんな大問題でもJOLJUの能力を使えば一瞬で解決するが、一応そこは弁えていて余程の大事でないかぎりJOLJUは自分の能力は使わない。今回は最新の宇宙船の科学力で対処できるから、その操縦士として参加するようだ。それならばルール違反ではない。
「<ヴィスカバル>……あのパラの機動戦艦の?」とエダ。
「この周辺銀河で一番高性能だし。<パーツパル・ノアイ>は今別の任務で別の遠い銀河にいっちゃってるし。で、オイラ一人で馬鹿でっかい<ヴィスカバル>に乗っていくのも寂しいから、ロザミィも一緒に表敬訪問することになって……」
「<パーツパル>? 円卓の騎士?」
「それは<パーツヴァル>な。そのツッコミ、昔誰かもしていたな」
したのはユージだったかエダだったか。まぁそんなことはサクラには関係ない。
「あれ、大型宇宙戦艦だろ? そういう大型戦艦で旅行に行くのか? もっと手軽な小型の宇宙船でいけばいいだろう」
ちょっとして船旅に軍の空母を使うようなものだ。大げさにもほどがある。
「持ってないもん。手頃な宇宙船を買うお金はないし、性能落ちるし、作るのも大変だし」
「ロザミアさん、パラリアンの指導者だし、宇宙世界なら身分は高いし宇宙には詳しいからいいんじゃない?」
やっぱりサクラは関係ない話だ。
だがどうしてユージがこんなに関わっているのだろう。
「それだけなら良かったんだが」
祐次は大きくカットしたチキンの照り焼きを頬張る。
「ついでに客として地球のVIPが何人か同乗することになったんだ。完全にこっちは観光だけどな。元米国大統領や元英国首相の爺さんたちも行くんだよ」
おや? 変な話になってきた。
「いいの? 地球人の指導者が勝手に宇宙世界に関与して」
エダが首を傾げる。
JOLJUやロザミアは特別な存在で自由に宇宙にいけるし、元々超高文明の異星文明からやってきた異星人だから他所の宇宙人文明に接触しても問題ないが、未だ宇宙進出できていない、未発達文明に分類されている地球種族は勝手に宇宙に連れて行ってはいけないことになっている。ユージ、エダ、サクラは行けるが。というか、この三人はすでに宇宙に行った経験がある。
というのも、それで下手に科学躍進が起きればその惑星の科学文明のパラダイムが起きるので禁止されている。ユージとエダはそのあたりのルールは散々関わったから詳しい。
しかし、今回はそういう科学研修とは関係なく、引退した地球のVIPたち人生最後の慰安旅行ということらしい。未知の世界を記念に見てみたい欲求は分からなくもない。普通の人が死ぬ前に「オーロラが見たい」とか「南極に行きたい」の凄い版みたいなものだ。
艦長はロザミアで連中の世話はしない。なので、護衛兼世話人は一人まで同行可。世話人も基本75歳以上の引退者で、あくまで目的は自己満足のためのもので見聞きしたことや知ったことは家族にも口外禁止。手記や手紙に書き残したり写真を撮るのも禁止。着るもの以外は紙もボールペンも持ち込み禁止、むろんスマホやカメラも禁止。破ればJOLJUが容赦なく記憶を消す……という条件で、JOLJUとロザミアは譲歩して同行を認めた。むろん地球での地位は関係なく特別対応はしない、ただの観光客扱いだ。とはいえロザミアはともかく結局はJOLJUが世話をすることになるのだろうが。
それでも地球人にとって知らない宇宙旅行ができて、異星人の星が見られるのだ。喜んで参加するだろう。
「大体三ヶ月くらい行ってくるけど、帰りはタイムワープ使うから、地球時間だと一週間くらいだJO。ユージとエダとサクラなら連れて行ってあげてもいいんだけど」
「俺は別の用がある。いつか、な」
こう見えてもユージもエダも昔宇宙に行った。JOLJUもこの二人が宇宙に行くことは禁止していない。色々大変な苦労をしたし、その気になったときにJOLJUにいえば連れて行ってもらえるので、あまり宇宙に関心はない。
「あ、セシルちゃんの件だよね? うーん……宇宙観光は楽しそうだけど、JOLJUがいるなら別の機会もありそうだし。……ク・プリにいくんなら、ニ・ソンベさんやド・ドルトオさんたちには会えるのかな?」
「ニ・ソンベとレ・ギレタルは銀河連合探検部に復帰したって噂で聞いたから、行ってもいないと思うJO。他は民間に戻ったんじゃないかしら? 時間はあるから聞いてみるけど、会えるかどうかはわかんないJO」
「じゃあ、あたしも今回はいいかな?」
ということでユージとエダは行かない。
で、残ったのはサクラだ。
サクラも宇宙に行ってもいいのだ。
もう何度かJOLJUに宇宙に連れて行ってもらったことがあるが、全て銀河連合の宇宙ステーションで、異星人文明の惑星は行った事がない。正直興味はある。
しかし三ヶ月、ただ宇宙を眺めているのは少し暇だ。
それに宇宙ではJOLJUとロザミアの命令は絶対で勝手な行動はできないし、一番嫌な点は食事がそんなに美味しくないのだ。宇宙食は地球の宇宙食とは違いちゃんとした料理だが、合成機で作るからまずくはないが美味しくもない。それに旅の間の娯楽もなく、船内でも暇だ。体感的には往復三ヵ月もある。
それに、ちょっと気になることをエダが言っていた。
「セシルの件って何?」
「セシルちゃんからね、クラシックオーケストラコンサートの招待状貰ったの。有名なマエストロの引退クラシックオーケストラで、すっごい人気のコンサートなの! パリ公演だから、ついでにのんびりフランス旅行でバカンスしようって話があるの! あたしもフランスでフランス語の勉強したいし。実は丁度一週間後なんだよ! 一週間くらいパリ旅行!」
エダは大学ではフランス語専攻で、勉強中だ。完璧に喋れるサクラに時々教えてもらったりしているが、やはり現地で通用するか興味があり、フランス旅行にはずっと前から行きたいと言っていた。
「ユージ、有給取れたの?」
ユージは仕事中毒だが、有給はエダのためによく使う。そしてそれ以上に副業の医者の仕事でよく使う。だからFBIの有給はそんなに残っていないはずだ。
「今回地球のVIPを同乗させてくれっていうのはホワイトハウスからの要望だ。引き受ける代わりに有給と礼金が貰えた。だからフランス旅行は豪華にできるぞ」
抜け目ない。
こうやってホワイトハウス他世界のVIPに巨大な恩を売りつつ大金を貰いバカンスを楽しむ。セシルのコンサートにも行けるし、エダと旅行も楽しめる。一石何丁だろう。JOLJUと一緒に帰ってきたのは、ホワイトハウスでこれらの交渉をしてきたからだ。
これを聞いてサクラは決断した。
「フランスに行く!!」
サクラは不老だ。
JOLJUとロザミアがいるかぎり、宇宙はいつでもタダで行ける。フランスにはよく行っているが、いつもはぶらり貧乏旅。豪華旅行となれば話は別だ。エダはフランスの文化や美術や料理に興味があるから、きっと色々名所を巡って美味しいものを食べるだろう。これで金の心配をしなくていいとくれば、サクラにとってはこっちのほうが魅力的だ。
美食と芸術と歴史を思う存分堪能しよう!
ということで、ユージたち家族は豪華フランス旅行。JOLJUとロザミアは半分仕事の宇宙旅行……ということに決まった。
「ちなみに……ユージはいくら礼金貰ったの?」
「秘密だ」
「…………」
ホワイトハウスが秘密の宇宙旅行に支払う礼金だ。ただの観光とは訳が違う。人類未踏の宇宙文明に行けて、しかも絶対安全な最新の宇宙戦艦で行く。同行者は神と異星人の指導者だから粗略な扱いを受ける心配もない。こんな好条件はまずない。1万ドルとか2万ドルとか5万ドルとかセコい額ではなく、最低でも一人20万ドルくらいは出ているだろう。100万ドルといっても喜んで払うはずだ。しかも非課税だ。
「拓ちんは?」
「連続殺人事件を追っている最中だ。今は俺とチームが違う」
「そっか。なら純粋な家族旅行だな」
容疑者に婦女暴行歴があったりする場合、FBIはユージを捜査から外して別仕事をさせることが多い。
このドSだが女性にだけは優しいフェミニストは被害者がひ弱な女性だと理由をつけて容疑者を抹殺しかねない。相手が武器さえもっていれば、世間体はともかく規約的には射殺しても報告書を出して終わりだ。FBIとしては逮捕前提の方針の場合、殺されては困る。
今ユージは特に事件は抱えていないので、楽に休暇が取れた。
「万歳! 旅行だー!」
うむ……いいもの食べてたっぷり遊べるぞ! とサクラは晴々とした気分で晩御飯の残りを突いた。
そして……案の定、事件はここから始まった。
「人生最後の生きた証」1でした。
今回はユージがメインのシリアス短編!
サクラとセシルがちょくちょく出てきます。
ちなみにJOLJUは宇宙旅行!
ということで本編には出てきません。オチでは出てきますがw
宇宙戦艦<ヴィスカバル>やク・プリの話は「AL」ネタで、ちょこっとクロスオーバー+ネタバレですね。(ニ・ソンベやレ・ギレタルたちが無事地球から脱出した事がバレています)まぁ、そんなこといえばそもそも拓もユージもエダも生き残っていますし、ラスボスのロザミィと普通に暮らしている時点で壮大なネタバレかましているわけですが。
さて、今度の舞台はパリ!!
何が起きるのか!?
まぁユージがメインという時点でハードボイルド系ですが。
中々味のある短編です。
これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。




