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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使」シリーズ
16/206

「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 12」完

「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 12」


飛鳥の事件簿インド編完結!!


衝撃のオチ! 

飛鳥の大冒険はどうなる!?



 村のほうの被災者たちも落ち着きを取り戻したようだ。


 昼ご飯の炊き出しも村人たちは自分たちで行い、平和そのものだった。


 その様子を見て、ユージたちも帰る決意をした。


「10日後の午後7時!! 待ってるJO! ムハマド君っ!!」

「バッチリだよ! 任せろJOLJU!! 今回は色々アリガトね!」


 がしっ! と熱い握手を交わすJOLJUとムハマド君。そしてJOLJUは他の村人たちにも挨拶をして回っていた。


 人懐っこく人怖じしない飛鳥も、仲良くなった人たちと挨拶をしている。そしてさりげなく宗教を聞き、牛や豚肉を気にしない人には邪魔なレトルトカレーを配っていた。

「サクラちゃんは挨拶なんてしないから、さっさとテレポートで帰して貰いたいもんだ」

 人の輪から離れ、レトルトカレーを食べながら呟くサクラ。その隣では同じくセシルもレトルトカレーを食べていた。

「それはこっちの言葉です。私は無理やり貴方たちに拉致されたんですよ!? 終わったんならいち早く帰して欲しいものです!」

 来たくてきたわけではないセシル。帰ったらすぐにこの三日間の穴埋めと音楽の練習がある。しかしテレポートで拉致されたセシルの帰還方法は、やっぱりJOLJUの転送しかない。そのJOLJUが挨拶回りしているのだから待つしかない。ちなみにマリーは昼寝中である。


 昼食後、ユージたちはやってきたトラックに乗り、多くの村人や被災者に見送られ去っていった。ちなみにトラックで移動しているが、人気がなくなったところでユージがJOLJUから渡されている携帯転送機でトラックごとNYに帰るのだ。


「んじゃあ、後はウチらやなぁ~」と飛鳥もようやくサクラたちのところに合流してきた。


「まず私ですっ!!」


 セシルが飛鳥を押しのけ宣言する。セシルには仕事があるのだ。


「ま……そやな。お疲れサン、セシルっち」

「もうこんな事はしませんからね!! 私には仕事があるんです!」

「あースパイのね」

「音楽家ですっ!!」

「分かった分かった。行け行け。また連絡するから」

 サクラと飛鳥の偉そうな態度にセシルはムカッ腹を立てたが、文句を言っても懲りるように二人ではない、仕方がない相手だ。幸いJOLJUが「じゃあ行くJO」とやってきたので文句は飲み込んだ。



 ……傍若無人な連中だけど、私が着飾らず本音をいえるのはこいつらだけだし……。



 表の顔は天才音楽家。裏の顔はCIA特別諜報員……表も裏も<仮面>を被って生きざるを得ないセシルにとって、本当の自分を晒せるのはこの馬鹿な悪友たちだけだ。そう思うと鬱陶しいが嬉しい事だ……と、転送でこの場を去るほんの一瞬、セシルはそれを思い出し苦笑した。だからきっと、また厄介事を持ち込まれても何だかんだ言ってセシルは協力するだろう。それが友達というものだ。


 転送は一瞬だ。すぐにJOLJUが戻ってきた。


「オイラなりに面白く帰る方法考えて用意してたんだけど……マリーは寝てるからしょうがないJO」


マリーもJOLJUの転送で一瞬で南アフリカ、ケープタウンの教会に帰っていった。


 残ったのはサクラと飛鳥である。


「ま! 色々あったけど面白かった! 面白い象さん動画も撮れたしな!」

「アレな。でもエダが出て行って大人しくさせたシーンは公開したら駄目よ? エダが変な超能力者みたいになっちゃうじゃん」

「事実超能力みたいなモンやん。ま……でもエダさんに迷惑かけるのはマズいか。まぁエダさんにモザイク入れたらどうや?」

「まるで放送禁止みたいだろ!」

「しゃーない。襲われるシーンを面白おかしく編集して今回の大事件をまとめよう! あー……女幽霊サンも動画で撮れていればもっとセンセーショナルな動画ができたのに」

「そだね。ま、諦めろ」

 こういう摩訶不思議で面白い事件に遭遇するが、何故か中々お金には結ばれない、それが飛鳥である。


 しかしこの事件もこれで終わりだ。明日から平凡な日常が待っている。


 そしてJOLJUがやってきた。


「さ、帰ろ帰ろ。しばらくは平凡にダラダラ暮らそう」と体を伸ばすサクラ。寝袋ではなく布団で寝たい、そんな気分だ。

「帰る方法だけど村の外れに用意が……」

「そんなんええねん! チャッチャとテレポートで帰るんや!」

「むぅ……折角用意――」

 と……その時だった。JOLJUの携帯電話が鳴った。このヘンテコ元神様も携帯電話を持っているのである。



 が、事件は再び起こった。


 暢気に電話に出ていたJOLJUが途中で声をあげ、慌てて携帯電話を切った。

「大変だJO! 実は知り合いのボレヘイラー君が嵐に遭って船が壊れて困ってるJO。なんか近くまで来てるって話は聞いてたけど予想外の電磁嵐で参ってるみたいだJO」

「は? もう付き合わんぞ、一人で行け一人で」とサクラ。

「嵐なんか何が楽しいねん」と同じく取り合わない飛鳥。

「仕方ないJO。ちょっと行ってくからサクラたちは待ってるがいいJO」

「太平洋か? 大西洋か? どこの海だ?」

「約880.4光年先のワームホールの中だJO。現在亜光速で宇宙磁気嵐に流されてるらしいから急いで行ってくるJO!」



「……は……??」



「もしオイラが戻らなかったら自力でヨロだJO。用意はしてあるから。でわ~!!」と早口で言い残し、JOLJUは消えた。



 JOLJUが消えた後、サクラと飛鳥は顔を見合わせた。意味が分かっていない飛鳥と違い、サクラの顔からは笑みが消えている。



「なんだとぉーっ!!?」



 愕然となり空に向かって思わず叫ぶサクラ。その声は虚しくインドの空に木霊するだけだった。

「なんや、騒々しい。戻ってくるんやろ、あのウーパールーパー犬モドキ」

「戻るか! あいつ宇宙に行きやがった!! 880光年先の宇宙!!」

「宇宙?」

「宇宙だ! 880光年なら銀河系内だな。確かにあいつからしたら880光年くらいは近距離かもしれんけど!!」

「けど?」

 JOLJUは元宇宙の神様だ。当然宇宙も活動圏内で、テレポートの制限距離はない。もっとも宇宙というものは実はものすごい速度で動いているから、長距離すぎる場合、何度か通常宇宙に出て方向とか時間を調整してテレポートやワープを繰り返していくわけだ。こんな大宇宙の旅はサクラだって同行できない。そして別にJOLJUが宇宙に飛んでいったのに驚いているわけではない。

「問題なのは、あの阿呆が時間にルーズだって事!! ちょっとした計算ミスもしょっちゅうやるポカな事だ! あのカバモンが宇宙に遊びに行って、時間ピッタリに帰ってきたことはないっ!!」


「じゃあ……ウチらのテレポート帰還は?」

「もう一切アテにできんっ!! ていうか大体三日から一週間はいつもズレる!!」


 そう。宇宙は旅行でも移動速度でも何もかも『光速』が尺度の世界だ。そして行きはともかく帰りはただのワープではなくタイムワープとなる。超正確無比な計算をすればきっちりと戻ってこられるが、そのあたりJOLJUはズボラな奴で適当に計算して適当に帰ってくる。その誤差が三日から一週間で済むのは凄い事なのだが、そこは人間の物差しで考えてはいけない。あいつは宇宙で元神様やっていた奴なのだから能力からいえばピッタリ帰ってこれるのにズレるのは全然几帳面さがない性格のせいだ。



 結論……JOLJUはここから消えた。誰もテレポートで日本まで送ってくれない。


 つまり、サクラと飛鳥は自力で帰らなければならない!!


 ようやくサクラが喚く意味を知った飛鳥は「なんじゃとてーっ!!」と声をあげ、慌てて携帯電話を取り出しJOLJUの携帯に電話してみるが反応はない。地球上どこにいても通じるスーパー携帯電話も、地球から880光年先には届かない。届くはずがない。


 二人は10分ほど、勝手に消えたJOLJUに対する罵詈雑言を喚き散らしたがやがて疲れてその無意味さに気付き沈黙した。


「そういや、帰りはなんか用意しとるとかいうてたな、あの阿呆。去り際に……」

「嫌な予感しかしないけど……村の外って言ってたな」


 もはやJOLJU特製のヘリコプターモドキでも乗るしかない。なんとかニューデリーの神崎氏の事務所に行けば備え付け転送機で帰る事ができる。もうそこに望みを託すしかない。


 しかし、村を出たところに用意されていたのは……二台のオンボロ自転車であった。


「…………」

 その自転車には、一枚の張り紙がついていた。JOLJUの手紙が汚い字体の日本語で書かれている。



『サクラたちへ。帰りは楽しいサイクリングを楽しんでもらおうと作ったスーパーチャリンコだJO。この自転車は空が飛べます。最高時速は約300キロ、フォース・フィールド付きでけして落ちないし<非認識化>もあるから見られないJO。面白おかしく帰りの空の旅を満喫するんだJO! 

PS・この自転車は五時間で普通の自転車に戻ります。検討を祈るJO!』



「間違いない。こんなん用意している以上、あいつにあたしたちの事は念頭にないな」

 もう別の方法を考える余裕も、二人にはなかった。

 時間も昼過ぎ。五時間というなら時間もない。


 やるしかなかった……!




 二台の自転車が高度1000m、時速250キロのスピードですっ飛んでいた。


「映画みたいや! アトラクション! 楽しいぞ、コレ!!」

 と飛鳥がはしゃいでいた……のは最初の20分だけで、すぐに単調な風景と単純な労働に飽きた。

 飛行自転車に乗る事30分……もうここがどこだか分からない。

「疲れた。ていうかココどこだ?」もうゲンナリとしているサクラ。サクラは飛鳥と違って空を飛ぶ事に新鮮さも感動もないから飽きるのも早い。

「東南東に進めば辿り着くっていうたんはお前や!?」

「その方向でデカイ川にぶつかればその北か南進めばデリーのはずだけど」

「全然デカい川なんかあらへんやん!!」

「あたしが知るわけないでしょ!? インドのこんなとこ来たことないんだから!」

 こうして探り探り飛び事1時間経過。全然どこを飛んでいるか分からないままだ。


 二人は本格的に迷っていた。


「……疲れた。サクラちゃん、象を助けた疲れがあるのに何故にこんな肉体労働を」

「どこを見回してもインド~インドばっかりやぁ~ どうなってんねんインドォ!!」

「そりゃあインドの広さ考えたら当たり前だ。大都市なんて一握りなんだし」



 さらに……2時間が経過した。


 まだ迷っている。もうどこをどう飛んだか覚えていない。

 ついにサクラがブチ切れた。

「こんな事ならユージたちと一緒に帰ってればよかったぁぁ!! 少なくともNYの自宅には帰れたじゃないか!!」

「……知らんわい……」

「大体ナビもなくただ牧歌的に自転車漕いで何が楽しいンじゃい!!」

「いっそ自転車捨ててテキトーな町でニューデリー行きのバスなり電車に乗るほうがいいんとちゃうだろーか?」

「いい意見だが問題がある。サクラちゃんもお前もインドの金持ってるか? 持ってないだろ? つまりそのプランは廃案だ!」

「どないせい言うねん!!」

「というか飛鳥よ、お前ニューデリーの神崎さんのビル覚えてる?」

「覚えてへん。あっという間に飛び立ったし」

「同じく」

「あかんやん!! そもそもニューデリーに辿り着いても辿り着けへんヤン」

「また絶望的要素が増えたぁ……」

「がんだーらーがんだーらー~愛の国がんだーらぁ~」

「こんな時ヘンな歌を歌って人の気力を削ぐな!」

「失敬な! ちゃんとした歌やっちゅーねんっ!! もんきーまじっくっ!!」


 さらに三時間経過……。


 一度一般道に出て行ったサクラが戻ってくる。

「南に行き過ぎてた!! ニューデリーはここから北西に約120キロだ!!」

「ふざけんなぁー!! なんじゃそれは!!」

「サクラちゃんに文句言うな! お前も同罪じゃ!! 海が出る前に気付いてよかった」

「てか、もしかしてアレちゃうんか!? 全力で東に飛んでたら日本に辿り着けたンとちゃうか!? 五時間あれば!!」

「阿呆! 最高時速300キロで五時間だと約1500キロ。インド日本間の半分にしかならんわ! あー……でもアレか、季節風やジェット気流に乗れれば…………て! そんな高緯度寒くて飛べるか!! 第一空の航空路は結構すごい交通量だ! 『空飛ぶ自転車』なんか目撃されたら大事だ!! 馬鹿モンっ!」

「何一人ボケツッコミで喚いてるねんお前」

「うるさいっ!! もういい加減自転車飽きたんじゃあ~!!」

 ついにサクラが壊れてきた。


 そして4時間経過……。


「まーだーかー。今どーこーやー」

「しらん。わからん。疲れた。腹減った」

「レトルトカレー食うか? 冷たいけど」

「もう当分レトルトカレーは食べたくない~。家に帰りたいー」

「もしかしてこれって迷子通り越して遭難しとらへん? もう自力で帰れる自信ない~」

「みーとぅー」


 こうして二人、愚痴りながらインドの空を右往左往していた。


「なんか……昔のテレビでやってたクイズ大会の罰ゲームみたいや」

「テレビの罰ゲームのほうがマシだろ、ちゃんと帰国できるんだし。下手したらあたしらこのままじゃあ放浪だ。ていうか冗談なし真面目にヒッチハイクコースだ……」

「心配するな。レトルトカレーはまだ沢山ある」

「いやじゃーーーー!! もうそんな生活嫌だぁぁぁ~!!」

「ウチかて嫌じゃ!! みーそーしーるぅ食いたい~……」



 二人は、インドの空を飛んでいく……。








 サクラと飛鳥………………『日本帰国?』



「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 12」でした。



今回で「飛鳥の事件簿インド編」は完結です。


無事、サクラと飛鳥が帰国できたかどうかはシリマセン(笑

ま……その後も普通にシリーズは続いているので帰国はできたんでしょう。


次回はもっとショートシリーズの短編にするか、もしくはユージ・メインの中編にするか……


とりあえず短編集だけど色々なジャンルがあるので、お好みでお楽しみ下さい。



これからも「黒い天使・短編シリーズ」を宜しくお願いします。

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