黒い天使短編「ハワイ大乱闘」10
黒い天使短編「ハワイ大乱闘」10
立て篭もり事件の担当になったユージ。
さすがはユージ、普通の捜査官では出来ない脅しをする。
困惑する強盗団たち。
一方別荘。
ついに突入してきた強盗団。
しかしサクラたちの反撃もはじまった!
***
ハワイ島 キングス・ショップス・モール前
『デニー=ファウロンだな?』
これまでの交信者と違う男の声に、デニー=ファウロンは妙な表情をした。
この電話はスピーカーにしている。二度無視して、これが三度目だ。
「アンタ、誰だ?」
『FBIのユージ=クロベ捜査官だ。俺が責任者だ』
「失せろFBI。話す事はねぇー」
『いいから聞け。俺は杓子定規の頭の固い役人じゃない。お前らだってスマホは持っているだろう?
FBIのユージ=クロベを調べてみろ。俺が誰か分かる。後、これは個人電話だ。他の捜査官も州警察も聞いていない。じゃあ俺が誰か調べろ。五分後にまたかける』
それだけ言って電話は切れた。
ファウロンは首を捻った。どうも普通のFBIの反応ではない。
そして、すぐにユージ=クロベという名前を調べた。
インターネットに載ってはいないが、仲間に問い合わせるとすぐにその正体が分かった。
NY・FBI在籍の捜査官で、<死神捜査官>と呼ばれる男。裏社会に精通していて、半分くらいは裏社会の人間といえる存在。容疑が確定であれば容赦なく射殺する男。裏社会のほとんど全てを敵に回して、三桁の犯罪者の死体を築き上げ、それでも殺す事が適わない化け物。
「なんでそんな大物がハワイにいるんだ!?」
話を聞いたファウロンは思わず怒鳴った。こんなことは予定になかったことだ。
当然だ。
ユージの管轄はNYを中心にした米国東海岸で、西海岸やハワイは行動圏外だ。同じ米国とはいえほとんど外国に等しい。
思わぬ展開に戸惑っているところに、ユージからの電話がかかってきた。
『俺が何者か分かったか? 悪党』
「俺たちを殺すって脅しか? 死神」
『ここがNYならな。いいか、よく聞け。実はハワイにはバカンスに来ていて、この馬鹿騒動に巻き込まれた。俺の街じゃないし、正直お前みたいなチンピラはどうでもいい。だからな、ファウロン、よく聞け。俺としては、人質さえ全員無事に帰ってくるなら最低限の仕事はしたということでバカンスに戻れるんだ。だから今回は特別だ。お前たちが人質に手を出さないのならば、殺さないでおいてやる』
「捜査官のくせに物騒だな」
『他の捜査官と一緒にするな。俺はな、別に今から突入してお前らを皆殺しにしてもいいんだ。そこで人質が死んでも、やったのはお前たちで俺じゃない。俺はお前たちを皆殺しにして始末書書いてバカンスに戻る』
「本気でやるならやってやるぜ?」
『本気だ。だがな……正直折角の休暇でハワイに来て事務所に篭って書類書きなんかしたくないんだ。俺もマイタイ飲んで家族とのんびり過ごしたい。だから特別サービスだ。お前たちの欲しいものを呉れてやる。まだ州警察もFBIも知らん、お前たちの本当の狙いだ』
「何だって?」
『1億ドル分の偽札だろ?』
「何だと!?」
『心配するな。この電話は誰も聞いていないし、俺しか知らん。気にするな、裏社会のことで俺の知らんことはない、それだけだ』
「……渡すっていうのか?」
『人質を全員解放するならな。州警察には分からんように梱包してやる。逃走後1時間は追わないでおいてやる。その後は知らん。仕事で俺が追うことになったら俺の敵だ。その時は容赦しないが、1時間は目を瞑ってやる』
「お前が1億ドルを持っている証拠は?」
『1億ドルって額を知っているのが証拠だ』
「…………」
ファウロンは黙った。確かにその通りだ。
『いいか? お前たちの襲撃部隊は失敗した。何故だか教えてやろうか? 笑うかもしれんが、あの別荘を借りたのは俺なんだ。で、知った。そういうカラクリだ。いいか、ファウロン。まずは人質を一人か二人でいい、開放しろ。女性を先にだ。俺はフェミニストで有名な男だからな。女性が死ぬとキレる。俺をキレさせたら全て終わりだ。だが誠意を示すのなら俺も考えてやる。一時間以内に女性を解放しろ。開放したら、俺と取引する気があるということで話を進める。いいか、次電話するのは開放を確認してからだ。一時間経過して何も変化がなければ、人質は好きにしろ。その代わりお前らを全員殺す』
そういうとユージは電話を切った。
ファウロンは苦々しく電話を置いた。
確かに普通の捜査官ではない。声に1gも捜査官らしいところがない。捜査官というより裏社会の大物を相手にしているようだ。とても駆け引きや容赦をしそうな相手ではない。
***
爆発の煙が薄らいでいく。
別荘内は静かだ。
別荘にいるのは女の子だけ……だと分かってはいるが、中国人の横槍もあったし、1億ドルだ。何があるか分からず、連中も警戒している。
三人が、空いた穴からそっと顔を覗かせた。三人共拳銃を握っている。男だ。
どうやら残り二人は外から警戒しているらしい。
三人が屋内に入った。
その時……蛇のような細長い物体が、音もなくリビングの床を這っていた。だが暗く爆発の煙と埃が舞っていて連中は気付かない。
三人は銃を構えながら、ゆっくりと部屋の中を進んでいく。
中にいるのは未成年の女の子だ。この爆発できっと驚き、今頃ベッドの下かクローゼットの中で震えている。そうに決まっている。
が……ここにいるのは、そんな型どおりの子供ではなかった。
三人がリビングの真ん中に集まった……その時だ。
「食らえ!!」
突然声がしたかと思った瞬間、侵入者の顔面目掛けてバケツが飛んだ。しかも至近距離だった。
<非認識化>ブレスレットを使った飛鳥と<非認識化>を使ったJOLJUが、すぐ傍に潜んでいたのだ。
そして至近距離で、特製ゲテモノソースを思い切り顔面に叩きつけた。
「ぐわぁぁっっ!!??」
「なんだこれは!?」
「くそっ!! くそ!!」
突然の攻撃に、侵入者たちはのたうち回りながら手にしていた拳銃をやたらめったら乱射する。そのうち数発が飛鳥に当たったが、飛鳥はJOLJUの携帯バリアーのスイッチを押してバリアーを張っているから当たっても死なない。
「いたっいたっいたっ!!」
だが痛かった。いつものバリアーなら痛くもかゆくもないのだが。
今回のバリアーはエネルギーが足りないので、ちょこっと痛いのだ。
黒い天使短編「ハワイ大乱闘」10でした。
相変わらず、ユージは裏社会の人間には手厳しい。
というよりどこまでも自己中心的?
ホント、理解ある上司がいないと、この男はとっくにクビになってますね。その代わり実績だけはピカイチですけど。
そしてついにサクラたちの反撃編!
ゲテモノソースで反撃が終わるはずがない!
ついにサクラの<ラファ>が起動する!
ということでサクラたちの大反撃が始まります。
これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。




