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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
130/206

黒い天使短編「アイドルたちのハプニング」2

「アイドルたちのハプニング」2



エダたちののパーティーは盛り上がる。

だがその騒ぎに保安官が来てしまう。

相手が黒人だと知り差別的態度をとる保安官に、思わずエダは出て行く。

保安官はエダまで悪罵を放つが……相手が悪かった。

***



 パーティーは花嫁の自宅で行われていた。


 花嫁予定のバネッサ=キャシャーは明るい黒人の少女でエダとは高校時代の友人だ。けして裕福ではなかったが人付き合いもよく、多くの友達が彼女の結婚を祝福するため集まり、バチェロレッテ・パーティーを盛り上げた。少々ホームパーティーには羽目を外しすぎな喧騒だが年頃の少女が集まれば致し方ないだろう。


 もっともユージが危惧したような乱痴気騒ぎではなく、ビンゴゲームやカードゲームをしたり、恋話で盛り上がったり、映画の話や大学の勉強の話をしたりと健全なパーティーだった。


 サクラはのんびりお菓子を食べ、ジュースを楽しんでいる。


 元々人見知りだし、エダの友達に知り合いはいない。なので、サクラとJOLJUは食べることに集中している。「まぁ米国人のティーンエイジャーの宴会ってこんなだよねー」と、これもひとつの経験だと思いながら見ていた。ただちょっと騒がしいかな?


 そんなときだ。家の前に一台のパトカーが停まった。



「ほれみろ。保安官がやってきた」

「JO? 騒ぎすぎたかだJO?」

「住宅地でこんだけ騒げばねぇ~」


 サクラは何気に町を見る。どうやらこの周辺は郊外でもやや所得の低い人間が住むエリアのようで、綺麗な町とはいえない。こんな町の中で騒いだから誰かが通報したのだろう。


 出てきた保安官助手は中年の白人警官だった。一人は気が強そうで、一人は大人しい。



「…………」


 サクラはちょっと気になった。保安官助手はパトカーから降りるなり腰のホルスターの拳銃に手を置いていたが見えた。



「みんな! ホラ、騒ぎすぎだよ! 保安官さんに迷惑かけちゃだめだから」


 エダがやんわりと友達たちを叱る。そしてバネッサが応対のため玄関に出て行った。


 バネッサは今バチェロレッテ・パーティーの最中である事、騒ぎすぎたことは反省したのでこれからは控えることなどちゃんと説明した。


 だが様子がおかしい。


 保安官は薬物乱用パーティーだと決めつけ、全員の拘束と薬物検査を強行な態度で命じている。


 しかも応対に出たバネッサが黒人であった事が気に触ったのか、差別的な言葉やセクハラ的な発言を繰り返していた。



「あの保安官、ひどいJO」

「JOLJU。あの馬鹿カメラで撮ってやれ」

「撮ってやるJO」


 JOLJUはスマホを取り出し録画を始めた。


 一方、エダたちも玄関での異常に気づいた。


 むろん保安官助手の不適当で侮蔑的な言葉は全部聞こえている。ほかの女子からも不満や抗議の声がそこらじゅうから上がり、一人の保安官助手はさらに感情を荒げ始めた。


 とはいえ、エダはともかく多くの女の子はお酒は飲んでいる。21歳未満は飲酒はできない。ただ社会的に大学生になれば泥酔しない程度のアルコールは暗黙の了解だが、それでも保安官が強引にパーティーを中止させることはできる。


 エダは見かねた。



「ちょっと、あたし説明してくるね」


 エダは友達を中に下げさせて、一人玄関に向かった。それを見てサクラとJOLJUが続く。

 エダが外に飛び出したときには、もう保安官助手は拳銃を抜いていた。


「保安官。すみません。あたしたちはただバチェロレッテ・パーティーをしていただけです。薬物パーティーもしてないし淫らなパーティーもしていません。騒がしたら反省します。静かにやります」

「煩い小娘! ひっこんでいろ! どうせドラッグでハイになってる馬鹿のくせに! お前もこの薬物クロンボの仲間か!?」

「保安官! 薬物捜査なら令状をとってみせて下さい。後その発言は差別ですよ?」

「弁護士かお前!? 黙ってろ!」

「エダ、大丈夫よ。アンタは家にいて」

「この黒人女を逮捕だ。薬物検査する!」

「何もしてないわよ! このクソ保安官!」

「バネッサやめて! 保安官、聞いてください。あたしはFBI関係者です。違法なことはしていません。話はあたしが聞きますから彼女を解放してください。彼女は花嫁なんです。逮捕はひどいです」

「黙れ雌ガキ! 薬のパーティーじゃなかったら売春パーティーか!? ここで客でもとるっていうのか? 俺の町だ! 綺麗な顔して淫売娘め!」


 その暴言に、さすがのエダも真っ青になった。こんな暴言を吐かれたのは初めてだ。


 保安官助手は全く納まらず、ついに拳銃をバネッサに向け無線機を掴むと「薬のパーティーだ。応援を」と報告すると手錠を手に取った。


 エダは堪らず動いた。


 保安官助手とバネッサの間に割り込む。


「保安官。落ち着いて。あたしをよく見てください。お酒やドラッグの匂い、しますか? お酒も飲んでいない、健全なパーティーです。バネッサの逮捕は違法行為です。どうか冷静になってください」


 エダは冷静に保安官に向かって諭す。


 保安官は周囲を見た。騒ぎを聞きつけた周りの住民が恐る恐る顔を出している。

 ここで引き下がっては、町を守る保安官として沽券に関わると思ったのだろう。保安官は拳銃の銃口をエダに突きつけた。


「お前も逮捕だ! この雌豚二人をバトカーに連れて行くぞ!」

「保安官!」

「おい、いいのか?」


 大人しい同僚の安官助手も戸惑う。バネッサはともかくエダは整然としていて犯罪者の匂いはない。エダはみるからにホワイトカラーの身なりのいい白人だし、それにFBIを名乗った。素人はまずFBIの名前は出さない。


 だが怒る保安官は止まらなかった。強引にバネッサの腕を掴み、パトカーに押し倒し後ろ手を掴んだ。


 ついにエダは決した。


 エダは動いた。


 あっという間に保安官助手の腕を掴むと、捻り上げる。そしてその手から手錠を奪い取ると、即座に手錠をかけ、地面に押し倒し制圧した。


 見事な制圧だった。こういう逮捕術はユージから散々習っているし、エダが相手にするのはプロばかりだ。そこいらにいる警官よりよほどその手際がいい。


「何しやがるアバズレ!! 警官暴行だ!! 逮捕しろ!!」


 仕方がない。

 エダはズボンのインサイドホルスターに入れてあるキンバー・コンパクトを抜くと、銃口を保安官助手に突きつけた。


「抵抗しないでください! そちらの保安官も拳銃を置いてください! 落ち着いて話し合いましょう」

「ちょっと! 公務執行妨害だぞ!!」


 さすがにこれにはもう一人の保安官助手も銃を抜く。


 だが、すでに遅かった。いや、こちらのほうが早かった。

 その時には、もう一人の保安官助手の背後にサクラの姿があった。


「はい、アンタも拳銃を捨てる。子供だからって舐めないでね」


 サクラは愛用のS&W M13FBIスペシャルを保安官に顔面に突きつけた。保安官助手は突然銃を持った少女に驚いたが、この状況では抵抗のしようがない。拳銃を置き、手を上げた。


「ほれ、見ろ! お前ら警察に喧嘩売りやがって! このチンピラめ!! お前ら全員豚箱行きだ!! 応援はすぐに来るぞ!!」


 エダにも応援のパトカーのサイレンの音が聞こえる。5分もしないうちに何台ものパトカーがやってくるだろう。


 エダはちらりと後ろにいるJOLJUを見た。JOLJUがスマホで録画しているのを知った。


「JOLJU! そのデーター、うちのサーバーにあげて!」

「分かったJO」

「……仕方ないなぁ……」



 ……本当はこんな手は使いたくなかったけれど……。



 エダはズボンに入れた自分のスマホを取り出す。



 ユージは駄目だ。学会中で対応できない。拓も研修中だから多分無理だ。それにここまでの騒ぎになれば二人でも一騒動は避けられない。


 エダは最後の手段を取った。その人は今も勤務中ですぐに電話に出た。


 状況を説明し、クロベ家サーバーにあげた動画を確認してもらい、なんとか手をうってもらえないか頼む。


 相手は快く引き受けた。



 電話が終わったのとパトカーが駆けつけたのはほとんど同時だった。


 駆けつけた保安官は、武装した少女二人が保安官を制圧して銃を向けているのを見て緊張を走らせると、皆パトカーを降りると同時に拳銃を抜いた。


「私は保安官のデニス=グレーソンだ! 銃を捨てろ!!」

「不法逮捕の現行犯です。あたしはFBI関係者です」

「FBI? 子供が何を――」


 その時だった。彼のパトカーの無線が鳴った。

 その無線を受け取ったグレーソン保安官の顔色が変わった。



 しばらく……。



 彼の顔は真っ青になると、部下たちに拳銃を下ろすよう命じ、エダに意味ありげに頷いた。


 エダはすべてを理解し、キンバーをホルスターに戻すと、制圧していた保安官助手から離れた。それを見てサクラも銃を四次元ポケットに戻し、「ばいばい」とエダのほうに向かって歩いていく。


 エダはバネッサを抱き起こし、家に戻るようにいうと再び携帯電話を取った。


 見ていた人間は訳が分からない。



「この雌ガキっ!! 警察に対して何しやがる! 皆、撃て! 警察侮辱と暴行に武装は重罪だぞ!」


 同僚に支えられ立ち上がった保安官助手は怒号を発しながらエダに向かっていこうとする。だがそれを彼の上司のグレーソン保安官が殴ってとめた。


「馬鹿! お前、このお嬢さんが誰か知らんのか!?」

「保安官! 俺を倒して銃を向けたんですよ!? 弁護士が何て言おうと――」

「州知事の命令だ!!」

「……は……?」

「州知事とFBI副局長の命令だ! そのお嬢さんはFBIの準所属で仮捜査官の登録がされているんだ! だから拳銃の携帯も合法だしお前ごときが相手になるか!! 馬鹿者!! 私に恥をかかせおって!!」

「FBI? 馬鹿な!? 高校生のガキが!?」


 エダは大学生だが、童顔だから高校生にみえる。


 愕然となる保安官助手の男。だがよく考えればずっとエダは言っていた。FBI関係者だと。それにあの見事な逮捕制圧術は法執行機関の人間でなければできないことだ。


 地元警察にとって最高の権力者は州知事だ。その州知事が出てきた以上地元警察は何も出来ない。


 グレーソン保安官は苦虫を噛み潰した……そんな表情で部下たちを散らせると、すぐにパトカーの解散を命じた。


 エダはちゃんと仲間たちにこれからは静かにするようしっかり叱ると、電話でお礼と報告を終え、またパーティーに戻っていった。



「アイドルたちのハプニング」2でした。



実はこういう事件はよくあるんですよね、米国。

黒人差別と女性差別と警官横暴のセットですが……しかし今回相手はエダ!

ユージたちはいつもエダを必死に守っていますが、相手がプロだからで、ぶっちゃけエダはそこそこ強くて訓練も受けています。結構強いんです。あくまでユージや拓ちんたちは過保護なのと、この連中がおかしいほど強いだけで、エダは普通のFBI捜査官より上の技量です。

そしてここにはサクラもいます。まぁサクラはほとんどオマケですが。

こうして騒動を治めたエダですが……事件はこれで終わらなかった!


予想もしていない事件が今度はNYで起きます。


エダは一体誰に助けを求めたのでしょうか?

ということで次回です。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。

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