「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 9」
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 9」!
暴れる巨象!!
どうする一同!! もう手がないゾ!!
という時、エダが現れ……驚きの行動をとるのだった!
黒い天使「飛鳥の事件簿」9 <ゾウさん大攻略戦 2>
<ドベルクの悪魔>、暴れる。
吠える! 長い鼻を振り回す! 何が気に食わないのか何度も地面を蹴る。
もう完全に暴走中だ。サクラたちでも手が付けられない。
「猛獣暴れる!! これはこれでインパクト大っ!!」などと暢気にビデオを回す飛鳥は10mほどの距離で撮影を続けていたが、撮影するだけで特になんとかしようというわけではない。いや……その勇気と根性だけは常人場慣れしているが……。
「あいつは天然記念物級の馬鹿だな!」
と、サクラだけは飛鳥のすぐ後ろに控えていたが、セシルとマリーは用心のため20mほど離れて様子を見ている。この距離はショットガンで狙撃するギリギリの距離だ。これ以上だと威力も命中率も落ちる。セシルは後ろを一瞥するとマリーに言う。
「エダさんのところまで下がってください、マリー!」
「はいなのデス!」
マリーはすぐ後ろに立っていたエダのところまで走った。セシルは冷静にショットガンの弾をフル装填させる。
……と……装填し終えて、おかしな事に気付いた。
今振り返った視界の中に、驚くほど近くにいたのは……エダだった。
「え!? エダさん!? 何でこんなところにいるんですか!? 危ないです!!」
そう。エダは逃げるどころか、じっと暴れる<ドベルクの悪魔>をじっと見つめながら、その足は<ドベルクの悪魔>のほうに向かって歩いていく。
「ちょっ!? エダさん!!」
「だ……れ……だ。……お……ま……え……?」
エダの口から零れた言葉だ。セシルには意味が分からないが、ここは制止せねばと思った。エダの腕を掴み後ろに下がるようセシルは声を上げたが、エダはそのセシルの手を優しく握ると、無邪気な微笑みを浮かべて「大丈夫。任せて」とそっと囁いた。
エダは優しくセシルを振りほどくと、今度は真っ直ぐ暴れ狂う<ドベルクの悪魔>に向かって歩き出した。
サクラと飛鳥がエダに気づいたのは、エダが横を通り過ぎた後だった。
サクラも飛鳥も仰天した。
「大丈夫だよ、ゾウさん。そんなに怒らなくてもいいの。ホラ、ちゃんと話を聞きにきたよ? 落ち着いて落ち着いて……」と言いながらエダは一切迷うことなく近づいていくのには全員が仰天した。
あまりの事に、サクラですら唖然となってどうしたらいいかすぐには分からなかった。
その少しの間にも、エダは「大丈夫、大丈夫」と言いながら近づいていく。
「エダさんはゾウ使いか! もしかして荒ぶる猛獣すら魅了するのか!?」と飛鳥はカメラを回し続けるが、すぐにサクラの「そんなワケあるはずなかろーが!!」とツッコミを受けた。正気に戻ったサクラは強引にエダを連れ戻そうとしたが、すでにエダは5mまで近寄ってしまったし、サクラの気配を察して振り返り「大丈夫だから見ていて」と笑顔で返す。
「セシル!! 狙撃用意!!」
こうなれば仕方がない。<ドベルクの悪魔>を殺すしかない。そして狙撃と同時にサクラが全力飛行でエダにタックルを加え巻き込まれるのをギリギリ防ぐ!
……しかしマリーならともかく聡明なエダがどうしてあんな無茶を……?
それがサクラには分からない。最悪の状況が脳裏を過ぎり背筋が凍る。
それでもすぐに射殺を判断しなかったのは、自信に満ちたエダの表情を見たからだ。エダは無鉄砲でも愚かでもない事は全員よく知っている。
が…………。
「嘘……」
セシルは構えていたショットガンを少し降ろした。
「え゛……うっそぉ……」
とサクラは今度こそ本当に口をあけたまま唖然となり立ち尽くす。
なんと……暴れていた<ドベルクの悪魔>はエダが目前まで来ると、急に大人しくなったのだ。
「大丈夫。何かして欲しいことがあるんだよね? 大丈夫、危害は加えないから……」
全員が唖然とする中……エダは本当に暴れまわっていたゾウは嘘のように大人しくなり、暴れるのを止めた。するとどうだろう……<ドベルクの悪魔>は、本当にエダが飼い主であるかのようにその場に座ると、エダがそっと顔を撫ぜるのにも抵抗せず、撫でられるまま静かにしている。
「さすがエダさんや! 美少女と猛獣!! 美少女萌えは種族を超える!! まるでアニメ映画のような奇跡が今起きています!! これぞ感動のワンシーン!」と、報道アナウンサーのように込み上げる感動を伝えようと必死にカメラを回す飛鳥。
……そして、本当にエダに懐いてしまった<ドベルクの悪魔>……。
サクラもセシルも、あまりの出来事に混乱し言葉がない。エダが博愛主義で動物にも優しく動物が大好きなのは知っているが、エダを深く知るからこそ今起きた奇跡が理解できない。エダは聡明で危険察知の能力が高く、こんな無鉄砲をする人間ではないのだ。そして純朴なマリーだけは「奇跡なのデス!」と目の前で起きた奇跡の現出に感動していた。
サクラとセシルの二人は、互いの困惑を共有しあうように顔を見合った。この二人は奇跡など信じていないし物事を理性で考えるタイプだから、この現象が全く理解できない。
「これぞまさに奇跡!! 乙女とユニコーンならぬ美少女と巨象!! ヤラセなし! こんな奇跡があったのかぁーっ!!」と飛鳥だけは動画にナレーションを熱狂的に入れている。が……一通りナレーションを入れ終わった時、飛鳥も異常さに気付いた。
「エダさん、もうええでー! もう危険やから戻ってきたほうがええと思うんやが」
「懐いてるね。あのゾウ」と今でも半信半疑なサクラ。
「エダさんって動物語も喋れるん? テレパシーとか出来たっけ?」
飛鳥もようやく事態がおかしな方向になっていることに気付いた。
「それはサクラちゃんがやって失敗したダロ」
「危険やないか!? いいのかサクラ!?」と今頃になって慌てる飛鳥。
しかし一方サクラは、少しだけ頭が整理出来始めていた。理屈はよく分からないが、<ドベルクの悪魔>が大人しく従順になった事はハッキリと分かった。これまでゾウから感じていた攻撃的オーラは薄れ、敵意や殺気は感じなくなっている。
こうして<ドベルクの悪魔>がただの大人しいゾウに完全に変わったとき、ようやくエダはゾウの元から離れ、サクラたちのところに戻ってきた。
「さすがにちょっと……怖かったけど……良かった、落ち着いてくれて」とエダは笑顔で話す。
「どうなってんの!? なんでアイツ、大人しくなったの!?」と皆を代表してエダに問いかけるサクラ。それを聞いて、エダは苦笑すると右耳から透明なイヤホンを取り出した。
「ゾウさんの声が聞こえたの。<お前は誰だ>って……そして<人間、助けろ>って聞こえたから、きっとあのゾウさんはちゃんと話が通じる人間を探していただけだって気付いたから。だからきっと大丈夫だって思ったの」
透明なイヤホンを見て、それが何かすぐに全員が分かった。
「それって……JOLJUの自動翻訳機」
「サクラよ。この自動翻訳機は動物語も喋れるンかい?」
そんなわけはない。それが出来るなら飛鳥やセシルたちだって会話できたはずだし、エダとゾウの間で会話らしいやりとりはなかった。
しかしこの時、サクラだけは今の奇跡の原理に気が付いた。
「そっか! 脳波……脳内会話だ!!」
「なんやソレ?」
「全てはその自動翻訳機の力だったんだ! そっかそっか! そういう事か!!」
「翻訳機の使い方で動物サンとお喋りデスカ?」
「出来るのは多分エダとあたしだけ。でもあたしは自動翻訳機を使っていないから出来なかったって事!」
「よし、解説しろサクラ!」
「まず皆誤解しているけど、その自動翻訳機は発せられた言葉を改変して翻訳しているんじゃない。言葉にしようと頭の中に思い浮かべた事を事前に察知して、脳に直接電波信号を送って周囲の言語に合わせた言語を話させる。聞くほうはその逆で、耳から入った言語を自動翻訳機が勝手に変換して耳ではなく脳に変換した電気信号を与えている」
「つまりどういう事や?」
「これって翻訳機っていっているけど、原理としてはテレパシー装置の意味合いが強い。結局脳波になる時変換しているワケだ」
「成程分かりました。つまりコレって心の声を具現化しているんですね? あー……だから昨夜のUNO、中々勝負がつかないと思っていました。心の声が駄々漏れならカードゲームには不向きですね」
セシルもサクラの説明で合点がいった。
「エダの強い第六感が脳波変換装置で<ドベルクの悪魔>サンの心の声を翻訳させていたって事ね。これができるのは超人的な第六感を持つエダと、テレパシー能力があるサクラちゃんだけが可能。でもあたしは自動翻訳機をつけていないからそれが分からなかった」
「うん。あのゾウさんは、とにかく話ができる人間を探していたから、ちゃんと話が通じる人間が出てきたら、きっと大人しくなるって思ったの」
簡単にエダは言っているし話を聞けば「成程」と思わなくもないが、相手はゾウである。そこまでの知力が期待できる相手ではないし、見込みが違えば人間など一瞬にして踏み殺してしまう。エダの勇気は尋常のものではない。まぁ、エダの怯えず殺気のない穏健で優しい態度というのも尾大きな要因だったのだろう。他の村人たちは皆恐怖し大げさに逃げ回ったり敵意をもち対応したり……そういう気配には動物は敏感だ。
「ちょっとまってクダサイ。JOLJUは完璧に動物とコミュニケーションが出来るのに、どうしてボコボコに踏まれちゃったンデスカ?」とマリーは首を傾げる。しかし今ここまで分かればあのシーンの本当の意味は推測することができた。
「誰だお前は……つまり<ドベルクの悪魔>はJOLJUとコミュニケーションは取れたけど、謎のちっこい白い生命体には用がなかった。助けを求めたかったのは人間だから、踏み潰された……ってトコだな。神秘さや威厳が欠片もないからね、JOLJUは」
その結論に全員が納得した。全ては神様らしくないJOLJUの自業自得という事だ。
「で、あのゾウはエダさんに一体何を伝えたかったんですか?」
「何か二つ訴えたい事があるみたいだけど、一つはすぐに分かった。お水が欲しいんだって」
「水」
全員が、顔を見合った。
村のはずれ。
ちょっとした窪みの中に注がれた水を<ドベルクの悪魔>は無我夢中で何度も長い鼻で水を掬い口に運んでいる。そして、飛鳥とマリーはバケツで水を汲み、体にかけてやっていた。ちなみに水飲み用の窪みは飛鳥がシャベルで掘ったものである。
水はサクラが持ってきた四次元水筒の水だ。まだ3tほど残っている。
「水が飲みたかった……ただそれだけだったのか」と溜息交じりに零すサクラ。
「ホント、動物は難しいですね」と同じく溜息を零すセシル。
「あー……でも分かっちゃった。今回の事件の真相」
そういえば村に来た初日……村に流れる川が干上がっているのを見た。おそらくもっと上流で地震によって川の流れが寸断され、川の流れが変わってしまったのだろう。ゾウは綺麗好きだし水もよく飲む。しかし肝心の川がなくなり困ったに違いない。水を求めて下流にやってきたがどこにも水がない。人間に助けてもらおうと思ったが人間は逃げていくばかり。次第に機嫌も悪くなってきた……そういう事だろう。
そして起こったのが今回の騒ぎというわけだ。
ということで……事態解決のため、拓とJOLJUは川の上流に向かった。堰きとめられている岩を発破したりJOLJUの重力制御装置で岩を除けたりしてなんとか川を元に戻す。川と共に生きるインド人たちには川は重要だ。大雨が降れば自然解消するとみていたが、今回みたいに動物が水を求めて里山にやってこられても困る。ゾウならまだしも虎などがやってきては大騒ぎになる。
ちなみにエダはもうここにはいない。もうぼちぼち撤収するので、村人たちに挨拶回りに行った。そしてサクラがJOLJUの自動翻訳機を受け取り<ドベルクの悪魔>との通訳役となったので意思疎通もできるようになった。
さて……問題は解決したわけだし、<ドベルクの悪魔>サンもたっぷり水を飲んだし、ここらでお別れ……と思っていたが、そうはならなかった。
思う存分水を飲んで大人しくなった<ドベルクの悪魔>だったが、森に帰ると思いきや、グイグイと鼻を伸ばしサクラにアピールしてくるではないか。
「まだ何か用があるんやないか? サクラよ」
「今度は腹減ったとかいうんじゃないだろーな! そこまでは面倒見切れんゾ!」
「まぁまぁ折角なのデス。ゾウさん、なんだか必死なのデス」
「そうですね。まだ何か用があってまた村にやってきても困りますね」
サクラ以外の三人はゾウさんの要望を叶えたい方針のようだ。そうとなればサクラも拒否できない。サクラだけがゾウ語?が話せるのだ。
「まぁどうせ餌ダロ、餌。どうせ大した問題じゃないダロ」
とサクラも付き合う気になった。
そして森の奥に案内された一同。
しかしサクラたちの予想は斜めに裏切られる。
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 9」でした。
……水が飲みたいだけとは傍迷惑な!!w
とはいうけど、水は大自然豊かな場所では非常に重要なのは事実。
今回は地震で川が枯れるというハプニングありですからねぇ~……。
しかし、エダがいなかったらどうなっていたのだろう……普通の人間はゾウ語?wが喋れんしなぁ……まぁこれだけでもサクラたちかせ来た甲斐はあったのかもしれない。
ということで巨象<ドベルクの悪魔>が大人しくなる……と思いきや、まだ何かある様子……。
次回、それが判明!!
サクラ&飛鳥のAS探偵団の活躍はまだまだ続くのであった!
ということで次回もお楽しみに。
これからも「黒い天使短編集」をよろしくデス。