黒い天使短編「アイドルたちのハプニング」1
黒い天使短編「アイドルたちのハプニング」1
いつもの平和なNY。
エダは友達のパーティーで地元に帰ることに。
しかし運悪く、サクラの面倒を見る人間が誰もいない。
ということで、サクラも行くことになったが?
「アイドルたちのハプニング」1
***
今日もNYは平和だ。
クロベ家は、家族四人+拓が揃い、仲良く晩御飯のすき焼きを楽しんでいた。
「あのね、ユージ。あたし、今週末ペンシルバニアにいってもいい?」
とエダが突然言った。
「実家か? お父さんやお母さんに何かあったのか?」
「ううん。友達のバチェロレッテ・パーティーに呼ばれたの。あ、夜はちゃんとロンドベルの実家に帰るし、日曜日の夜にはNYに帰ってくるよ」
「月曜まで実家にいていいぞ。たまには両親に甘えてこいよ」
「ユージたち、困るでしょ?」
「俺は困らない。というか、実は今度の土日、急遽学会に出席することになりそうだ。最新医学技術の学会で席は埋まっていたんだが、知り合いが欠席することになってな。一席空いたから参加希望の申し込みをしたところなんだ。多分結果は明日メールで届くが、いく事になると思う」
「どこなの?」
「アムステルダム」
「オランダじゃん。転送機ないゾ?」
「だから飛行機で行く。ちゃんとしたルートで。二泊三日で帰ってくると思う」
つまりユージは月曜日まで帰ってこない。だから心配はいらない。
が……ここに問題が一つあった。
「あたし……どうなんの?」
サクラが挙手して発言する。
ユージもいない。エダもいない。サクラの世話をする人間は誰もいないではないか。
別に二日や三日、勝手に過ごす事はできるが、本当はそれは違法なのだ。法的には10歳であるサクラを一人にすることは刑法に引っかかる。一応JOLJUがついていてJOLJUが保護者、という建前を押し通しているが、通じないときもある。サクラが大人しく過ごすならいいが、何かやらかした時NY市内に保護者が誰もいないというのは、何かあったとき親であるユージの罪になる。罰金600ドルとられた上に警察に呼び出されて児童保護局から説教を食らう。
「練馬にいけ、練馬に」
日本には子供を一人にするなという法律がないし、サクラの居候先だ。
しかしサクラは手を振った。
「飛鳥とジッチャン、今週末は温泉にいくんだって」
となれば……と、全員が拓を見た。
別に保護者は家族でなくていい。
が……拓は罰が悪そうにビールを舐める。
「俺もクアンティコでの研修、入れちゃったところなんだけど。一泊二日で……」
クアンティコにあるFBIアカデミーでは、様々な専門研修が行われていて、現役捜査官も参加することができる。
今日の午後、ユージが土日学会にいくと知り、拓も暇だったから犯罪研究学の研修を申し込んだところだったのだ。
ということで、拓もアウトだ。
「マリーやセシルは?」
「二人共今すごく忙しい」
なので、サクラはここ数日自宅にいるわけだ。
「ま。別に勝手にやっとくけど?」
「もし良かったら、あたしと来る? サクラ」
エダの提案に、全員が反応した。
「いいのかい? エダちゃん」と拓。
「ちょっとまて。バチェロレッテ・パーティーだろ? サクラもいっていいのか? というかまずくないか?」とユージ。
「拙くはないよ。サクラも女の子だから参加できるよ?」
「酒も飲むしストリッパーだって来るだろ? 別にサクラの教育上がどうとは思わないが周りが気を使うだろう」
「ストリッパーなんか呼ばないよ! あのね、ユージ。未成年ばかりのパーティーだよ? ご馳走食べてお菓子食べて盛り上がるだけ。まぁ……お酒は出るかもしれないけど、あたしは車を運転して帰るから飲まないし」
「米国人のバチェロ・パーティーはそんな行儀よくないけどな」
バチェロ・パーティーは結婚前に行う同性の友人が集まって行われるパーティーで、異性は参加できない。女性のパーティーがバチェロレッテである。そして独身最後の馬鹿騒ぎパーティーとも呼ばれていて、相当風紀が乱れる事もある。男性の場合も女性の場合も、ストリッパーを呼んで乱痴気騒ぎをすることは恒例で珍しくない。
「ユージはバチェロ・パーティーにはストリッパーを呼ぶの?」
珍しくエダの言葉と目線が冷たい。
これにはユージだけでなく拓も黙った。
二人は何度か同僚や友人のバチェロ・パーティーに参加したことがあるが、FBI捜査官であることを忘れなければ気まずい乱痴気騒ぎは何度もあった。バチェロ・パーティーは、米国人最大の馬鹿騒ぎの機会だし開放的で派手に行うイベントだ。エダは日本育ちで未成年の大学生だからこの悪癖をあまりよく分かっていない。逮捕騒ぎもよくある話だ。
が……確かに十代のバチェロレッテ・パーティーなら大人しいかもしれない。
花嫁が乱痴気騒ぎで結婚前に逮捕されるなんておきたら笑うに笑えないだろう。それに先方もエダの性格は知っているはずだ。そんな乱痴気パーティーだったらエダは誘わないだろう。
サクラも考えた。
「そだねぇ……あたしも米国人だし、人生で一度くらいはバチェロレッテ・パーティーとやらがどんなものか見てみたいかもしれない。こんな機会、あんまありそうにないし」
と興味を示した。
サクラには結婚適齢期の友達はいないし、米国の悪癖だから米国以外では行われない。そう考えるとサクラが参加する機会は当分なさそうだ。
そう考えるとこれはこれで貴重な体験かもしれない。
「じゃあエダが迷惑でなきゃ、あたしはいいよ」
「うん。聞いてみるね。多分大丈夫だよ。ユージや拓さんが考えているような不健全なことはないし、お酒だってビールやシャンパンやカクテルが少しでるくらいだと思うから。あたしは飲まないし」
エダの珍しい刺のある言葉に、この時ばかりはユージと拓は罰が悪そうに顔を背け、酒に逃げた。
「ところでオイラはどうなるの? パーティー出れるの?」
JOLJUは首を傾げた。
むろんこいつもサクラたちと一緒に行く気だが、パーティーは女性限定のパーティーで、JOLJUは一応性別は男だ。
「女装でもしたら?」
「通じるかしらん? リボンつけてみようか?」
「というか、地球人がお前が男か女かだなんて区別つくか!」
「それももっともだJO。というかオイラ、そもそも男でいいのかしら?」
そう言ってJOLJUは首を傾げながら、すき焼きの肉を口に頬張った。全宇宙で一人しかいないのに性別もへったくれもないが精神的にも人格的にもJOLJUは立派な男の子である。が、確かにいても文句は言われないだろう。
こうしてひょんな事でサクラの週末の予定は決まった。
そして、これが騒動の発端であった。
黒い天使短編「アイドルたちのハプニング」1でした。
サクラとエダがメインの短編です。
パチェロッテ&パチェロ・パーティーは米国の悪癖ですw
ストリッパーや酒盛りはもちろん、ホテルでバンド呼んだり掃討ハデになることもあるパーティーです。原則同性だけの「独身最後の馬鹿騒ぎ」なので、成人しているとかなりハデです。
今回はエダの友達で未成年なのでそこまでいかない……と思いますが。
ちなみにエダは飛び級しているので、友達も年上が多かったりします。まぁペンベニアでやるから多分高校の友人ですね。
しかしサクラが行く事に!
事件が起きないはずがない!w
ということで次回は事件編です。
大体全4話くらいになると思います。
これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。




