黒い天使短編「クリスマス狂騒曲」7
黒い天使短編「クリスマス狂騒曲」7
JOLJUの暴走プレゼント後半戦!
金はかかっていないが、とんでもないものが飛び出す!
そしてユージのプレゼント! この中で一番期待が高まるが……それを観たサクラは固まるのであった。
***
しかし、これで終わりではない。まだ欧米人編?が残っている。
ここまで色々出ると、さすがのセシルもマリーも何が出てくるのか警戒している。
「マリーにはコレだJO」
と取り出したのは木彫りの十字架と、一枚のサイン色紙と、ポラロイド写真が一枚。
色紙にはヘブライ語でサインと手形が。
「ナンですか? これ」
「キリスト教の有名人さんから貰った十字架だJO。この写真はそのおっちゃんと一緒に撮った写真で、これがその人のサインと手形だJO」
「ヘブライ語は読めないのデス」
「えーと」
と、サクラが身を乗り出した。
こいつはヘブライ語だってへっちゃらだ。
「マリーへ。……イイシュア・ベン・ヨセフより愛をこめて……」
「なっ!!??」
イエス・キリスト本人じゃないか!
この馬鹿は何やらかしてくれてるんだ!
その瞬間、サクラ、飛鳥、ユージ、拓の四人が一斉にJOLJUをど突きまわした。
よりにもよってカトリックのシスターであるマリーにキリスト本人のサインを貰ってくるなど神をも恐れぬ暴挙!! この元神様は暴走すると程度というものを知らない。まぁこいつにとって地球の神様や宗教なんて神聖でもなんでもないのだろう。
案の定……マリーは目を回して固まってしまった。
「こ……これはさすがにショッキングだから……あたしが預かるね」
さすがのエダもフォローが出来ず、世界を大混乱させかねないJOLJUとイエス・キリストの爽やかなツーショット写真を呆然とするマリーの手から受け取り財布の中にしまった。まぁ誰も信じないだろうが。
で、セシルの番。
「いりません! 怖いわ! 何をしでかすンですか!?」
いや、正確にはもうしでかした後である。
「ただの楽譜だJO。モーツァルトさんとショパンさんとブラームスさんから書いてもらってきたJO」
「ギャー!!!」
労力は大した事はないが、その価値は途方もないモノだった。しかもそれだけでなかった。恐る恐るページを捲ったセシルは仰天する。
「じょ! じょ!! JOLJU!! <レクイエム>が!! <レクイエム>が完成していますよ!!?? 完成しているんですけど!?」
「モーツァルトだと<レクイエム>が有名だからオファーしといたJO」
さらっという馬鹿たれ。
未完の大作<レクイエム>をこそっと完成させてしまった。
もしかしたらモーツァルトが死ぬ直前見たという死神はこいつの事だったのではないか? と勘ぐってしまう。
セシルも仰天のあまり目を回してしまったが、サクラやユージたちは散々驚いたからもう驚かない。
そもそもJOLJUに常識を求めるだけ無駄なのだ。
よく考えればクリスマスにマグロを一匹釣ってくるようなトンチンカンだ。それにここにいる面子だけが楽しむもので外に公表するわけではないから別にいいのかもしれない。
幸い馬鹿たれは事の重大さに気づいていないからこのままにしておこう。
それにJOLJUが皆を思って好きそうなものを用意したことは事実だ。馬鹿なりに真心は詰まっている。
ちなみに地球人ではないロザミアのプレゼントは琥珀の手作りの置物だった。どうやったかは知らないが音楽プレーヤーが取り付けられていて地球の全ての音楽が詰まっている。本来クリスマスのプレゼントはこういうものでいいのである。
「で……? サクラちゃんにはどんな吃驚仰天プレゼントがあんの?」
サクラは拓たちのように歴史にも偉人にも興味はない。何を用意したのだろう。
するとJOLJUが取り出したのは、掌大の大きさの黒い置物だった。
「……クマ……」
「アイヌの一刀彫のクマの置物だJO!」
「アイヌの一刀彫か。それならそれなりに価値あるぞ?」
元北海道民のユージが感心しながら説明する。アイヌの一刀彫は北海道の名産の一つで、5万円くらいの価値がある。プレゼントなら手頃だろう。
ただ……JOLJUなりに色々工夫はしてくれたようだ。
「これ、素材は南天か? ならこのサイズでも価値あるよ。南天って<難が転ずる>って意味で日本の数奇者には人気なんだ」
こういう事には詳しい拓が解説する。
しかもJOLJUはわざわざ120年ほど前にタイムスリップしてアイヌの名人に掘ってもらった一品だ。これがちゃんとした彫刻品ならそこそこ価値があり値がつけば結構高値になるはずだ。
ただし……モチーフは……ゆるキャラの<くまもん>だった。
<くまもん>では文化的価値がないではないか! 120年前に<くまもん>は存在しないし、アイヌと熊本、統一性もない。そもそも北海道のアイヌ民がどうして<くまもん>なんだ?
「何でまたクマ……どんだけクマ……」
しかもこれで終わらなかった。
次のユージのプレゼント。このメンバーの中では一番金持ちで、皆の要望にも応じてくれるし、こういう事には気前がいい男だ。エダや拓、セシル、マリーたちにはそこそこ高価でセンスのいいブランド物が贈られた。飛鳥はアウトドア用の携帯ハンドアックスで、折りたためるし他にも色々ツールが付いていて冒険を好む飛鳥もこれには満足だ。
そしてサクラのプレゼントは一番大きな箱に入っていた。
「なんだなんだ?」
ウキウキと箱を開いたサクラは、中を開けた瞬間笑顔が固まった。
そこに入っていたのは、またしてもクマだった!
「お前キャンプや野宿するだろ? それ、寝袋だ。手足は分かれているから着たまま動けるぞ」
「何が寝袋じゃ!! ただの着ぐるみじゃん!!」
SSサイズのリアル・クマ顔フード付き寝袋。
だがそれを身に着けて姿はクマの着ぐるみを纏っているようにしか見えない。
試しに着てみた。サイズはピッタリで中は温かく着心地もいいが……やっぱり着ぐるみだ! そしてリアルなクマの口の中に頭が入る仕組みなのだが……。
「ぎゃははははっ! お前似合っとる! どこからどうみても食われているようにしか見えんど!」
「ですね! あははははっ! 似合っていますよサクラ!」
「暖かそうデス! 可愛いのデス! サクラらしいのデス」
「そうだね。クマさんもサクラも可愛いよ、サクラ」
と、少女陣には好評だ。
だがサクラは……なんだか面白くない。微妙に着心地がいいのが余計にムカつく。
「てか……この着ぐるみ」
「寝袋な」
「寝袋! 米国の野外で来て寝てたらクマに間違われて撃たれるンじゃないの!? なんか微妙に頭がリアルなんだけど? もしくは襲われて食われた後か!?」
「ビッグフッドとクマならクマがいいだろ?」
「何その選択肢!?」
「その寝袋、確かちょっと昔話題になった有名な奴だよ。そこそこ高い、いい品だよ」
拓はフォローしてくれたが、相変わらずちょっとズレている。
この品が悪いのではない。
サクラは言いたい。
何で皆してクマなんだ!?
「しょうがないな」
ユージはいまひとつ喜ばないサクラの様子を見て立ち上がると自分の寝室に行った。そしてすぐに戻ってきた。手にはハーフシルバーのグロックG17が握られている。
「特別だ。コレもやる。拓がグロック・カービンのコンバーションキットだからだからな。グロックがいるだろう」
「グロックなら勝手に持ち出すのに」
「持ち出されたくないから、やるんだ!」
クロベ家にはそこらじゅうに拳銃が隠してあるが、グロックG17とG19が多い。グロックは安いし、流通は多いし、装弾数もあるし、スリムで頑丈で、室内銃撃戦用だから強すぎない9ミリは威力的に適当で扱いやすく、それなりの性能がある。非常用だからできるだけマガジンは共有できるほうがよいということでグロックが選ばれているのだ。グロックならエダやサクラも使い慣れている。隠し場所は家族の他拓も知っている。しかし飽くまで非常用だから、勝手に持ち出していざという時ないというのでは困る。ということで追加プレゼントだ。スライド・シルバーを持ってきたのはサクラ用だと区別するためだ。むろんサクラが使うのだから登録はしていない違法所持銃だ。未登録なら事件を起こしたとき捨てれば誤魔化せる。
「むぅ……ま、いっか」
グロックを呉れたのでサクラも溜飲を下げた。
実は中古のグロックよりリアル・クマ寝袋のほうが値は高かったりするが、高給取りのユージにはこの程度大したことではない。
しかし……これはこれでナンだ。
考えてみれば、サクラのプレゼントはエダのコートを除けばクマ関係か銃関係。皆サクラを何だと思っているのか。
確かにクマは好きだしそう公言もしているが、ここまでクマ尽くしにされると憮然たる思いである。犬や猫も好きなんだが……まぁある意味皆サクラのことをよく見ているといえばよく見ているのかもしれないが。
黒い天使短編「クリスマス狂騒曲」7でした。
JOLJU、大暴走でしたw
今回は誰も止めなかったので、この始末ですw
神をも恐れぬ奴とはこいつのこと! まぁ元神様ですし。
そして待望のユージのプレゼントは、まさかのクマ!
いや、いいものなんですけどねw
本編でもいうてますが、まさかのクマ尽くし!
これはオファーしなかったサクラにも責任はあります。
さて、これで終わりかと思いきや、最後にサクラが用意した皆へのプレゼントがあります。これで今回の話は終わりです。ということでサクラのプレゼントはオチみたいなものです。今回のメインはJOLJUの暴走劇でした。
ということで次回完結!
これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。




