黒い天使短編「クリスマス狂騒曲」1
「クリスマス狂騒曲」1
クリスマス!
ということでプレゼントをもらえることになったサクラたち。
JOLJUはお菓子だ!
だがサクラはどうしよう?
ほしいものはいっぱいあるが、意外にプレゼントとなるといいものが思いつかない。
ということで、サクラたちのクリスマス狂騒祭、スタート!
「黒い天使短編」「クリスマス狂騒曲」
***
12月という季節は世界中が賑やかで、明るくて、忙しい。冬のイベントが目白押しだ。
が、毎日遊びたおしているサクラとJOLJUの生活は変わらない。
……はずだった。
12月22日。
のんびり朝ご飯のパンケーキを食べていたサクラとJOLJUの前に、珍しく遅く出勤するユージが二人のところにやってきた。そしてとんでもない爆弾を二人に墜とす。
「お前ら、クリスマスは何が欲しい?」
「クリスマス?」
「クリスマスだ。何が欲しい?」
サクラとJOLJUは顔を見合わせた。
一瞬、二人はその事の意味が分からなかった。
だがすぐにクリスマスプレゼントのことだと分かり、二人はその場で万歳大喜びした。
「いいのかだJO!? オイラたちクリスチャンじゃないケド?」
「今時関係なしにプレゼントするだろ? 常識の範囲内だったら何でもいいぞ」
「じゃあオイラこれだJO!」
JOLJUははしゃぎながら一旦自室に戻ると、一枚の広告チラシを手に戻ってきた。
「<駄菓子食べくらべパーティー用・キングサイズ徳用>! 駄菓子30種てんこもりパック!! あと伊勢屋の安穏芋たっぷり芋ようかん!」
えっへん! と胸を張るJOLJU。お菓子大好きJOLJUらしい選択だ。
「お前アホか? お菓子なんかクリスマスパーティーや新年パーティーで腹いっぱい食べられるじゃんか。てか何さらっと二つ要求してンのよ」
そう、クリスマスと新年にクロベ家ではパーティーをやる。ついでに飛鳥の家でもやる。お菓子なんかいくらでも食べられる。
「それはそれ! これはオイラ独占! それがいいんだJO」
JOLJUは嬉しそうに笑う。
ユージは「ま、いい。お前はそれな」とチラシを受け取る。キングサイズだが所詮駄菓子だ。そんなに高いものではない。ユージの経済力なら屁でもない。
問題はサクラだ。
「お前は何がいいんだ?」
「…………」
サクラは即答せず腕を組んだ。
「お金!」
「プレゼントだ、馬鹿」
「うーん」
好きな物がもらえる!
という嬉しいイベントなのだが、困ったことにすぐには思い浮かばなかった。
こうしてサクラの苦悩の狂騒ドタバタ劇が始まる。
***
それからサクラはインターネットのショッピングサイトで色々欲しいものを探してみた。
一応24日朝までに決まらなければ、ユージが勝手に決めるという事になっている。
猶予は二日。
「欲しいものは……たくさんあるんだけどなぁ」
サクラは頭を抱える。
ゲームは好きだ。だが大抵のゲームは家にあるし飛鳥の家にもある。
漫画は好きだ。だが飛鳥の家で読めるし、web漫画もあるし、立ち読みもできる。
本も読む。が、やっぱりwebで読めるし図書館もある。趣味で集める事はしない。
映画やアニメは好きだが、ケーブル契約もしているしネット配信の契約もしている。第一超一級のハッカーであるサクラはいくらでもネット上の違法動画を見ることができる。
ならばいっそどこか面白い娯楽施設に連れて行ってもらう……いや、遊園地も動物園もほとんど自分で行った。
JOLJUみたいに美味しいものを頼む……のも手だが、どうせパーティーでケーキは食べられるしチーズバーガーやお寿司で手を打ちたくはない。
オシャレ……には興味ない。服はいつものジーパンにジージャン。冬場はセーターにダウンを着るくらいでいい。
「うーん……意外に……ないなぁ」
こうして考えると、意外にサクラは恵まれている。大抵のものは身近にあるし、我が家はなんだかんだいって裕福なほうだ。そしてそこまで物欲はないのかもしれない。
が、くれるというのに貰わないのも損だ。
ということで、サクラは悩んでいる。
そんな時だ。
丁度大学に出かけるエダがリビングに現れた。そしてリビングでノートPCを開きネットを睨みっこしているサクラを見つけた。
自然の流れで、サクラはエダにクリスマスの相談をした。
「エダは何貰うの?」
「バッグをお願いしたよ? うん、今から楽しみ♪」
何を買ってくるかはユージの任せた。そのほうがプレゼントを貰ったときの嬉しさは大きい。エダらしい。エダもそれほど物欲はないから、プレゼントでいいものが欲しいというより、ユージが自分のために何か買ってくれる、というイベントのほうが楽しいらしい。
「サクラは何が欲しいの?」
「え? エダもくれるの?」
「当たり前だよ。プレゼントは皆で交換しあうんだし」
「そこは日本式じゃないのかだJO!? サンタさん方式じゃないの?」
日本ではサンタさんが子供にプレゼントを渡す。まぁ子供でなくてもプレゼントの交換はするが、欧米では家族の間でプレゼントを交換しあうの普通だ。違う点は、米国のほうがクリスマスは一大イベントだし、貰うのも子供だけではない。家族で交換しあうのが普通だ。そしてここは米国でサクラたちは米国人だ。
「てことは……あたしたちもプレゼントを用意しなきゃいかん?」
「無理はしなくていいんだよ? 自分にできるプレゼントでいいんだから。サクラは子供なんだし」
「オイラもプレゼント用意か」
うーむ、と腕を組むJOLJU。お菓子をもらう以上こいつも何か用意しなければ不公平だ。子供っぽいが子供じゃない。
もはや腐敗が進み骨まで見えていそうなくらい腐っているが約600歳の元神様である。
JOLJUが考えこんだのを見て、エダは「JOLJUも気持ちでいいんだよ?」と苦笑する。二人がそんなにお金を持っていないのはよく知っている。
「エダはユージに何あげるんだJO?」
「羊革の手袋! これから寒くなるし、ユージ、レザー好きだから」
「エダならあれじゃない? そんなの用意しなくても、エダ自身が箱に入って頭にリボンつけてたらOKじゃない?」
「サクラ!」
想像して耳まで真赤にするエダ。同棲しているのになんと初心なのだろう。
「ごめんごめん。からかうつもりはないの。エダが用意するなら、あの男は何でも喜ぶってだけサ。が、サクラちゃんはそういうワケにはいかない。……ま、エダが手袋ならそれ以外ね。ユージの好みねぇ……」
あの男も面倒くさい。金は持っている。欲しいものは大抵自分で買っているし、欲しそうなものは総じて高い。服は銃を身につけるから特注のオーダーメイドが多く普通のサイズではない。ユージにプレゼントすることが分かっていたらもう少し小遣いを残しておけばよかった。サクラは子供だが似顔絵やクリスマスカードを描いて誤魔化すようなキャラではない。
困る二人を見て、エダは苦笑した。
「これ、ユージには秘密だよ?」
エダは携帯電話を取り出し、操作する。
「サクラとJOLJU、二人に100ドルずつで大丈夫?」
「えっ!? お小遣いくれるの?」
サクラとJOLJUも自分の携帯電話を取り出した。エダが手配した100ドル(1万円)が電子マネーで入金されている。電子マネーは日米で使える。
思わぬ高額お小遣いにテンションが上がる二人。
エダは大学の授業があるので、その後すぐに出て行った。
こうして取り残された二人は、すぐに重大な問題に気づいた。
「プレゼント交換しあうという事は……皆の分のプレゼントを用意しなきゃいけない?」
「ユージだけじゃないJO」
だからエダはお小遣いをくれたのだろう。
「えー!? 最低限だと……エダと拓と飛鳥と……セシルとマリー?」
「オイラ、風禅のジッチャンやロザミィにもあげないと駄目かしらん?」
多分当日パーティーに来て、かつ親交度から考えると、そのくらいはしなければまずそうだ。パーティーで「あ、忘れたゴメン」では恥ずかしいし、エダからお小遣いをもらってしまったため、金がないという言い訳はしにくい!
そして誰にいくらかけたかでサクラの愛情度合いも皆にバレてしまうではないか!
「くそ! 増えたじゃん! 問題!」
「おーまいがだJO!」
こんなことなら一ヶ月前くらいから編み物の勉強をして人数分の手編みの手袋を作って子供らしさと女の子らしさと愛嬌を、金をかけずアピールする作戦とかあったのに!
が、もう手遅れだ。
「よし! ……日本に行こう」
「JO?」
「安い奴から片付けよう! 最悪日本の100円均一ショップでそれらしいの買えばいい!!」
サクラは愛情ではなく無難に乗り切る作戦に切り替えた。
今から日本に行けば、丁度日本は晩御飯時間だ。
ということで、二人は日本に向かった。
「クリスマス狂騒曲」1でした。
実はサクラとエダの短編の予定でしたが、そうすると「サクラたちドタバタ短編」が続く事に気付いたので(「ハワイ大騒ぎ編というのがこのあとあります」)、季節は違うけどクリスマスのどんちゃん騒ぎ編を公開することにしました。
サクラは一応子供だし、米国人なので、クリスマスは一大イベントなわけですね。
しかし何をもらうか。
そして皆に何をあげるか。
そんでもって、どんな馬鹿騒ぎが起きるか。
今回は完全日常系です。
これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。




