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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
110/206

黒い天使短編「無実の有罪」5

黒い天使短編「無実の有罪」5


ユージと拓の捜査会議。

サクラがもたらした情報で二人の捜査方針も決まった。

ユージの提案に、拓は改めてユージが優秀な医者であると認識する。

だがうまくいくかどうかは賭けだ。失敗すれば一日が無駄になる。

猶予は36時間ほどしかない……。


***



 サクラとJOLJUがUSFへと向かって消えた後……。


 事件のあったワートル郡に向かうヘリの中で、ユージと拓は作戦会議をしていた。


 本来二人一組のコンビで動くのがFBIのルールだが、今回はそうは言っていられない。圧倒的に人手は足りないし時間が足りない。


 だからそれぞれ担当を分けることになった。


 アレックスはコーウェンの供述と裁判記録、ヴィクトリアのその後について調べる。


 拓は生前のレイター家の情報と生前のヴィクトリアについて。

 なので、拓はワートル郡に到着し次第、現場を見て回ったり、彼女の生前の友人たちを訪ね高校に顔を出す。


 そしてユージは、当時の殺人事件の再捜査だ。


 はじめは書類仕事を覚悟していたが、サクラの話でユージの捜査方針は決まった。



「墓を掘り起こす? 三年は経過しているぞ?」


「一つ、心当たりがあってな。もしかしたらこれが突破口になるかもしれん」


 ユージの仮説を黙って聞く拓。

 聞き終わったとき、改めて自分の相棒がただの戦闘捜査官ではなく優秀な外科医であることを再認識した。


「しかし遺体の損傷具合によるからな。それに二人共立証できなければ証拠とはいえない」

「半分焼死体だけど大丈夫か?」

「それは大丈夫だ。どうせもう白骨化している。ただ……問題は俺だ」


 ユージは面白く無さそうに腕を組む。


「解剖資格は持っているが……法医学や鑑識資格はない。FBIの鑑識チームに依頼するには時間がないし、本当は再検死の書類だって正規のルートで申請したんじゃ通らない」


 墓の発掘に施設の手配。それは上司であるアレックスが手を回してくれるだろう。だが早くて今日の午後遅く……見当違いであればユージの一日が無駄になる。


「朝になったら……といっても10時にならないとどうにもならんが、コール支局長に頼む。マイアミ支局の鑑識官を借りられたら、共同署名という形で証拠化する」


 アレックスにも一応同じ要請はするが、大きな支局にはコールのほうが顔は利くだろう。

 昔潜入捜査官時代ユージとコールは一時期麻薬組織潜入のためマイアミに来ていた事もある。コールは時間に正確だから10時にはNY支局に出てきているだろう。



「俺たちFBI名探偵チームと、サイコパス少女の知恵比べか」


 やれやれとユージはため息をつく。


「そもそもコーウェンの馬鹿がヴィクトリアをかばわなければこんなことにはなっていない。どういう心境だか。愛しあっているわけでもなし」


「いや、俺はちょっとコーウェンの気持ちは分かるよ」


 そういうと拓は懐から煙草を取り出し、一本咥えながら苦笑した。



「もし……エダちゃんが人を殺して死刑になると思ったら、俺は身代わりになるよ」

「エダは人を殺さない」

「仮定だよ。死刑になると分かっていて……お前が動けなくて、エダちゃんが受け入れるなら、俺は身代わりになる」



 言いながら……拓の表情の笑みが真剣な笑みに変わった。


「俺はエダちゃんをよく知っている。俺たちは親友だ。あのエダちゃんが人を殺すのなら、相当な理由があったはずだ。お前とサクラが殺された、とかな。俺はエダちゃんの死刑を見たくないし終身刑にもしたくない。それなら身代わりになるのは分からない気持ちじゃないよ」


「…………」



 拓は仮定の話をしている。


 だがこれはコーウェンの心境かもしれない。


 何も男女の絆がSEXだけではない。拓とエダはお互い一番の友達で理解者だ。家族より絆は強いかもしれない。


 拓はエダを異性としては愛していない。

 むろんユージがいるからだが、ユージを差し置いて奪おうなど思ったこともない。

 拓はただ、エダの幸せな姿を見ている事に幸福を感じるのだ。

 彼女の幸せのためなら、拓だって人は殺せる。


 これは何も拓とエダだけの話ではない。一般人だってそういう愛をもつ友人関係を築いている。

 そこまで説明されなくても、ユージにも拓の言いたいことは分かった。


 ユージは無言で「煙草」と手で合図を出す。そして拓から煙草を受け取り、二人は黙って煙草を燻らせた。



「ま……エダがそういう事になれば、俺が脱獄させて第三国に亡命させるだけだけどな」

「いや、普通に大統領脅して恩赦だろ?」

「その手もあるな」


 そう言い合い二人は笑った。


 エダなら、その第一線を越えそうな人間はユージや拓だけでは済まない。サクラとセシルは間違いなく超えるし、飛鳥や学校の友人、そしてコールだって一線ギリギリまでは加担しそうだ。それ以前にまずJOLJUがなかったことにしてしまうだろう。


 2分後……ヘリの操縦者が迷惑そうに「機内喫煙!」と注意されるまで、二人はちょっと幸福な時間を共有した。



 エダのためには死を厭わない。

 それは彼女にそれだけの魅力があるからだ。



 コーウェンも同じ行為をしたとすれば、何かヴィクトリアにそうさせるだけの何かがある。

 それを見つける事が、この事件の解決の糸口だ。



黒い天使短編「無実の有罪」5でした。



ユージと拓ちんの捜査会議編でしたが……なんか気付けばエダの話になっていました。

まぁエダはたとえなんですけどね。

実はエダは正当防衛でも人を殺した事はありません。今のところ。実はそういうエピソードもあるんですがまだ書いていません。

そこは射撃が得意なこともあり、うまくやっています。

ちなみに米国は修によっては一人殺しても死刑はありえます。懲役も日本よりはるかにきついです。

まぁ……本当にそういうことになるときは拓ちんが言っていた通りユージやサクラが殺されるくらいのインパクトがあると思うので、エダが怒る前にJOLJUが怒ってなかったことにしちゃいますけどね。なんだかんだJOLJUはエダに激甘だし大好きだしこいつがなにかやっても法律にひっかからないですし。



という話は置いておいて。


実は今回で、いわばヒント編というか捜査編は終わりなのです。

次回からはいきなり推理編になっちゃいます。

今回は犯罪捜査メインではなく犯罪推理がメインの短編です。

ということでこれからがこの作品の本番です。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。

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