「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 7」
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 7」
夜が明けた!
ついに暴れゾウと対決だ!!
相変わらず、飛鳥たちはボケまくるが、はたして……!?
翌朝……。
村の朝は早く、日が昇った午前6時すぎには村人たちは動き出していた。
ユージ、エダ、拓はさすがなもので午前6時にはちゃんと起きて、身支度も終え出てきたが、サクラたち未成年組は誰も起きてこなかった。
それでも一番時間にしっかりしているセシルは、6時半には目覚め「早く起きろ!! いつまで寝てるんですかー!!」と声をあげたが……他四人が起きたのは7時35分の事だった。テントから出てきたサクラ、飛鳥、マリー、JOLJUは半分以上寝ぼけ顔だ。
「あー……日差しが強い。まぶしいなぁ……」サクラが溜息をつく。
「セシルは元気やなぁ~……昨日あんまり働いてないンとちゃうかぁ? うちはヘトヘトになるまで働いたから疲れがとれへんねん」とぶつぶつ愚痴る飛鳥。
「眠いのデス。1のどろーなのデス」とまだ寝ぼけてUNOを口に出すマリー。
「ぐーすかだJO」JOLJUにいたっては本当に半分寝ている。
そして全員が合唱する。「腹減った」と……。
「皆何をしにきたか覚えていますか!? さっさと顔を洗ってきて目を覚ましてください!」
びしっ!
と井戸のほうを指差し命じるセシル。井戸は昨日飛鳥が掘った井戸で、多くの避難民たちが朝の水を使うため集まっていた。
すでに炊き出しも行われている。避難民たちの朝食は米の粥だ。
そしてサクラたちの朝食はエダの作ったジャガイモとベーコンの入ったコーンスープにパンだ。エダは子供の頃ガールスカウトに参加していた事があったりアウトドアが好きなだけあって、誰の手も借りずあっという間に火を起こし大鍋一杯のスープを作っていた。この温かく甘いコーンスープは、寝ぼけ眼のサクラたちを温かく起こしてくれた。
食事はエダ、拓も一緒に取る事になった。サクラたちを待っていたわけである。ユージだけはさっさと平らげ、村医者クディク氏のいる臨時病院のほうに行ってしまっていない。病人やけが人がいるかぎりユージに休みはない。そしてユージはワーカーホリックで働く事が大好きな人間だ。皆知っているからユージは放置。
美味しい朝食を食べて少しは元気を取り戻した一同。
さて、今日は……サクラ&飛鳥の災害救助支援の旅最終日である。
「被災者たちも落ち着いてきたし、病院のほうも山場は越えたみたいだから」とエダ。
元々個人レベルの支援団だ。とは村人たちがしばらく食べるに足りる食料は持ってきたし水の確保もできた。倒壊した家屋やインフラは整っていないがこれらはサクラや飛鳥たちがどう頑張っても限度がある。ここまで立ち直れば村人の大人たちがやっていくだろう。
エダは一応ユージのサポート、拓は村の見回りを続ける予定だ。
ということで、本日のサクラと飛鳥たちの仕事は……。
「<ドベルクの悪魔>対策やな!!」むんっ! と胸を張り宣言する飛鳥。
「そだねぇ~。ま、あたしらに出来ることっていえばそれくらいか。できるかどうかは別として」と、あむあむとパンを齧るサクラ。パンは焚火でほんのり焼いていて旨い。
「ということでしたら、私は最悪のケースを想定して警護する事ですね」とセシル。最悪のケース……暴れて手が付けられなくなり手に負えないとなった時、射殺するしかない。それが出来るのは銃火器のスペシャリストでこの村と全く無縁のセシルの役目になるだろう。そのために大型12Gショットガンを受け取り済みだ。
「<ドベルクの悪魔>サン、大人しく山に帰ってくれるといいんですケド」
マリーは「うーむ」と悩む。マリーは回復能力を持っているが、ややこしくなるというユージの指示で病院からは外されたので今日は飛鳥と一緒である。
「ゾウさ~ん……ゾウはでっかいゾゥ!! ……だJO」と、JOLJU。こいつは何も考えてはいないようだ。
サクラたちが食事を終えた時……村の山近くから、地を揺るがすような咆哮が聞こえた。
<ドベルクの悪魔>……怒れる巨象は、ついに村の中まで入ってきたようだ。
「行くか!! 皆の衆!!」
飛鳥は立ち上がり吠えた。それに賛同し拳を上げたのはJOLJUとマリーだけである。
「で? どうすんの?」とサクラは冷めた一言をぶつける。
「任せろ!! ウチに考えがある!! 寝ずに考えたとっておきの策!!」
「寝てましたよね飛鳥。昨夜はUNOしただけですよね?」とサクラ以上に冷たいセシル。が、飛鳥はそんなツッコミなどまるで気にせず「AS探偵団の真価を見せるでー!!」と高らかに宣言した。
『飛鳥発案! <ドベルクの悪魔>捕獲案』
①大きな穴を掘る。そして落とし穴にする。
②餌もしくは誰かが囮になって誘き寄せる。
③穴に落として身動きが出来なくなったところで冷静になるよう訴えかける。
④<ドベルクの悪魔>が落ち着いたら山に追い返す。
「…………」
全員が沈黙した。口を開けばこの安易な作戦を思いついた飛鳥に対する悪態しか出ない。
サクラたちの不満一杯の表情を見て、飛鳥が文句をあげる。
「他になんかいい案があるなら出せ!! 何ができるねん」
「そもそもゾウが落ちれるほどの穴はどーすんだ! 全長5mはあるんだゾ? そんなデカイ穴が重機もなしに掘れるか!」
とサクラは抗議する。全くもってもっともな意見だ。飛鳥が深さ5mの井戸を掘るのに半日かかった。全員でかかってもそんな穴を掘るのに一日はかかるであろう。第一ゾウが素直に穴に落ちてくれなければただの骨折り損である。
さすがにこのままというのは無責任だと感じたのか、無理やりリーダーに祭り上げられているセシルが発案した。
『セシル発案! <ドベルクの悪魔>対処案』
①村の中心に来させないため素早く接触、誘導を始める
②森のほうに誘導。とにかく人気のない場所に行く。
③孤立させたところでJOLJUが接触し説得する。
「…………」
今度もまた全員が黙った。セシルの案もなんてことない、誰でも思いつきそうな対処方法だ。CIA特別諜報員といっても動物は専門外なのだ。
「他にいい案があるならそうしますけど? 人気がある村の中でJOLJUが派手に動き回るのは問題がありますし、昨日のことを考えるとどうやら<ドベルクの悪魔>は人間に執着しているようなので接触し一定の距離を保って誘導できると思いますが?」
「無難で面白味はないけど、そんなトコかな」と、サクラも同意した。サクラも動物は専門ではないし、そんなに関心があるわけでもない。サクラにも特に名案もないし、とりあえず言い合っていてもしょうがないので、やってみるという事になった。
<ドベルクの悪魔>と呼ばれるゾウは、それはそれは大きなゾウであった。とても立派な角があるので雄なのは確かだ。何を怒っているのか、しきりに咆哮し、人の姿を見つけると威嚇したり向かってこようとしたりする。
大地震の後にこんな狂象の襲撃である。トムトロ村の人々にとっては踏んだり蹴ったりである。しかもこのゾウは昔から近隣に棲む神獣で殺すわけにも行かない。しかし普段は村周辺の森に時々現れるくらいのはずが、今回このように村内の人間の住むエリアまで入り込まれては放置もできない。
拓とエダは、村人を宥めながら避難誘導を行っていた。中には短気を起こし「神獣だろうが何だろうが構わず殺してしまえ」といきり立つ村人もいたが、それらを拓とエダは押さえた。この震災の最中、神獣を殺すという行為は後々村内で問題になるだろうし、第一この被災民が溢れる中、銃を使うのは混乱と暴動の元になりかねない。
という事で……サクラと飛鳥たちの出番となった。
「今拓さんとエダさんが村人の避難誘導をしています。私たちは、あのゾウを森の入口あたりまで連れて行きます」
セシルは手書きのごくごく簡単な地図を広げる。そこにサクラたち全員が覗き込んだ。
「サクラと飛鳥が接触誘導係です。今ドベルクがいる場所は住宅地ですから、そこから移動。50m先の白い家があってそこを左折。120m走ると大きな木があって、そこを過ぎると森に入ります。その森の中を350mほど走れば広場のような場所になっています。そこまで誘導すればJOLJUが接触しても大丈夫でしょう」
「ボクは何をするのデスカ?」
「マリーは私と一緒です。私たちは念のためサクラや飛鳥たちから少し離れたところで様子を見ます。もしサクラたちに何かあったときは仕方がありません。私が責任を持って射殺します」
「嗚呼憐れなゾウなのデス。アーメン……」
「暴れゾウと鬼ごっこか……中々ハードやな」
「どう考えてもあたしと飛鳥のワリが悪い気がするが仕方がない。じゃあ行くぞ飛鳥よ」
ということでサクラと飛鳥は立ち上がり、狂象<ドベルクの悪魔>に向かって行った。
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 7」
サクラ&飛鳥たちの<ドベルクの悪魔>巨大ゾウさん対策委員会話でした。
あいかわらず飛鳥たちはボケまくってます。
セシルがツッコミ大変そうです……
あいかわらず暢気な一同……
本当にこんなんで暴れゾウはなんとかなるのか!?
ということで次回に続きます!
これからもはんなりのんびり『飛鳥の事件簿』を宜しくお願いします。




