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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使短編「無実の有罪」3

黒い天使短編「無実の有罪」3



フロリダ州率刑務所。

死刑囚コーウェンは、そこで一人の不思議な少女と出会う。


その少女は言った。


自分は黒い天使だ、と。

***



 フロリダ州立刑務所。


 フロリダ州北部ブラッドフォード郡にある刑務所で、連続殺人犯テッド=バンデッドやアイリーン=ウォーノスが収監されていたことでも有名な刑務所だ。全米でも有名で大きな刑務所の一つだ。


 深夜3時半は過ぎている。刑務官たちは24時間体制で厳重な警備を布いているが、受刑者たちは深い眠りの中にいる。



 明日死刑が下されるコーウェン=ギブスは、狭く暗い死刑囚用の独居房で眠りについていた……はずだった。



「起きなさい。コーウェン=ギブス」

「……?……」



 コーウェンは少女の声で目を覚ました。



 三年も居住した狭く堅いベッド……ではなく、広い休憩室のテーブルで伏せていた。



 ここは外部の面会者と面談することができる休憩室だ。コーウェンも弁護士と打ち合わせをするときここに来たから覚えている。壁の時計は午前3時36分……無人だ。



 刑務官の姿もない。どういう事だ?



 手錠も足枷も付けられていない。独房と教会と運動場以外手錠が外される事はないのだが。しかし手足は自由だが全身重く気力が出ない。いつもの1/10くらいの力しか入らない。



 それに何だ? 何か甘い匂いを感じる。



 ……夢……か……?



 その時だった。



「死刑囚って、最後の晩餐に食べたいものがリクエストできるらしいわね? ここにダブルチーズバーガーとブルーベリーパンケーキがここにあるんだけど、よかったら食べる? ちょっと冷えているけどね」


 コーウェンは思わず息を呑んだ。


 目の前に小さな少女がいる。絶対にいるはずがない。それも驚きだが、その少女がとんでもない美貌の持つ美少女だという事も言葉を失うに十分な衝撃があった。


 だが目の前の少女に愛らしさは感じない。気高く、神々しく、そして妖艶だ。


 彼女に睨まれた瞬間、コーウェンは心が縮み上がるのを感じた。

 とても現世にいる人間とは思えない。



「天使……か?」



 やっと出た言葉がそれだった。明後日……いや、明日死を享ける自分の前に天使が現れたのか……そう思った。



「あたしは<黒い天使>。ま、人間じゃないのは確かね」


 黒い天使はそういうと笑う。

 夢……ではない。

 その声も、テーブルの上の料理の匂いも、現実だ。



「神は、人殺しも嘘も許さない。でも貴方の罪は嘘だけね。やってもいない人殺しで死ぬなんて、物好きったらないわ。それじゃあ天国には行けないわよ?」


「…………」


「ま。今なら嘘をなかったことにできる。あたしにだけ本当の事を話して、せめて<嘘吐き>の罪だけでも今清算してみない? まず夜中呼び出したお詫びにダブルチーズバーガーとパンケーキでもどうぞ。大好物でしょ? 別に食べたって刑務官は飛んでこないから」


 少女はそういうと自分もパンケーキの皿を取りそれを千切って食べ始める。


 ハンバーガーもパンケーキも、冷えてはいるが濃厚な匂いを放っている。夢ではない。こんなに上等なハンバーガーやパンケーキは久しく食べていない。


 コーウェンは黙ってそれを食べた。

 旨かった。こんなに旨いものは何年ぶりだろうか。刑務所の中ではまず食べられないものだ。


 少女に圧され、静かに食べていたが、食べ進めるうちについつい食欲が込み上げ、気がつけば貪るように食らいついていた。パンケーキの甘みと肉の濃厚な味が口中に広がる。


 3つのハンバーガーと、4枚のパンケーキが、瞬く間にコーウェンの胃の中に転がり込んだ。そして甘くて冷たいバニラシェイクでそれを胃に流し込むと、コーウェンはなんともいえない吐息を漏らした。生きている実感が、胃を通して全身に力を漲らせるようだ。


 少女は、コーラを飲んでいた。

 そして、言う。


「今貴方が感じているもの……それが<生きている実感>よ?」

「ああ。生きている。旨いなぁ」

「でも貴方はそれを明日捨てる。やってもいない殺人の罪を被って」

「いいんだ。俺のせいなんだ」

「15歳のヴィクトリアが、そんなに大事?」


 その言葉を聞いたコーウェンは、雷に打たれたかと思うほど仰天した。



 何故知っている!? 



 だがすぐに思い直した。

 目の前にいるのはただの少女じゃない。天使だ。だから全て知っている。


「ヴィクトリアは……俺の大切な友達だ。あの娘は本来行くべき道に進むべきなんだ。俺なんかの人生より、よほど価値があるんだ」

「どうかしら? あたしはヴィクトリアに価値なんか感じないけど?」

「価値があるんだ。それに、俺の死はあの娘にとって戒めで、教えで、約束なんだ」

「家族殺しを被ってあげるような価値?」

「人は更生する。その機会を与えたい。俺は死ぬ。それが……運命なんだ」


 何かコーウェンは隠している。この期になっても、彼の信念は変わらない。


「アンタが抱くヴィクトリアは幻想で、本当は断罪されるに十分な娘だとしたら?」

「俺が地獄に墜ちる。俺たちの友情が嘘なら、いずれヴイクトリアも地獄に墜ちるだろう。だが、それでも一つでいい。あの娘の才能が人類のためになれば、死も無駄にならない」


 コーウェンの意志は変わらない。


「今ここで……せめてあたしにだけでも事件を全て喋っちゃわない? それでアンタの罪の一つは消えるけど?」

「どうせ地獄に墜ちるのなら……地獄までもっていくよ」


 頑なだ。コーウェンは語るつもりはない。たとえここが神の御前であっても。それ自体が罪だと分かっていても。



「もし……神が彼女を裁くと決めたら、アンタは従う?」


「その時はそういう運命だったんだ」


「OK」



 その時だ。


 少女が急にコーウェンの目前に迫った。

 そしてニヤリと妖艶に微笑んだ瞬間、彼女の指がコーウェンの頭の中に突っ込まれた。



「!?」



 二本の指が、根元まで頭に刺さっている。だが痛くはない。それどころか血も出ていない。



「見せてもらうわ。アンタの全てを」



 次の瞬間、少女から何か強い波動のような力が放たれた。


 コーウェンの意識は薄れ、代わりに彼の人生のビデオ……走馬灯が早送りで浮かんでは消えていく。コーウェンにはそれをどうすることもできない。



 彼しか知らない記憶、想い、出来事……全て隠される事なく流れていく。


 全て丸裸だ。


 コーウェンの44年の人生が数秒の走馬灯にまとめられた。


 そしてそれが終わると、コーウェンは意識を失いその場にうつ伏せに倒れた。



「最後に……これはアンタとあたしの約束。運命は受け入れなさい」



 そういうと少女……サクラは立ち上がり、その場を後にした。





黒い天使短編「無実の有罪」3でした。



今回はある意味「黒い天使」らしい定番シーン! 

サクラの降臨編です。

こんなカンジでいつもは不思議な体験を体現しているわけですが、今回はあくまでサクラの接触だけです。

まぁ協力は受けられませんでしたが、これでサクラはコーウェンの情報を全て手に入れました。

まぁ、とはいえこれは反則行為だし、裁判でも捜査でも全く使えません。

とはいえ今回はまずJOLJUが口を滑らせていますし、サクラがコーウェンから情報を得ても決定的な進展にはなりません。


今回は犯罪推理シリーズです。


ということで事件はこれからです。


これからは超展開なしです。


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。

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