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「黒い天使」短編集  作者: JOLちゃん
「黒い天使・日常短編シリーズ」
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黒い天使短編「そうだ射撃場にいこう」13END

黒い天使短編「そうだ射撃場にいこう」13



危機一髪!

こうしてサクラたちは巨大イノシシから助かった。

そして、楽しい射撃大会も終わりとなった。



***



「た……助かった!! ひぃー……」



 飛鳥はその場に寝転がる。乱れた息はしばらく落ち着きそうにない。そしてそれはサクラとセシルも同じだった。


「何なんですか、この化物! はぁ……ヤバかった。でも、さすがユージさんです」

 セシルも立っていられず座って呼吸を整えている。サクラも座り込み汗を拭っていた。


「しかしよく当てるナァ~、あたしたち射線上に重なっているのに。ちょっと外れたらあたしたちに当たるンだけど?」


 サクラはユージたちのいる方向を見て溜息をついた。



 距離はそんなに遠くないが、時速30キロで走るサクラたちの間をすり抜けイノシシの頭と心臓を一瞬で撃ちぬいた腕は驚異的なレベルだ。



「しかしなんでニューヨーク州にこんな化物イノシシがいるんだ?」

 今更突っ込むサクラ。

 そんなこと言われたってNY在住ではない飛鳥やセシルが知るはずがない。


「オッコトヌシ様やな! イノシシ鍋にしたら何人前なんやろ?」

「食うのかお前!?」

「もう殺してしまったんやし、食べてもええやろ? それが供養や! 最近流行りなんやで? ジビエ料理! 東京やと中々食えへんからな~」


 そんな馬鹿話をしていると……とてとて~とJOLJUが駆けてくるのが見えた。


「なんやJOLJU」

「ユージからの伝言だJO~♪ その大イノシシ、牙を抜いて写真撮れ~という事だJO」

「記念撮影かい」


 なんて悪趣味な……と呆れるサクラ。しかしそうではなかった。


「そうじゃなくて……なんか指名手配の大イノシシさんだから、ハンター協会に報告するって言ってたJO。で、ちゃんと始末するなら報奨金の一部小遣いやるって。なんと100ドルずつ!」


「やる!」

「やるっ!!」


 サクラと飛鳥、即答。セシルは返事をしなかったがこの場を去っていくのも無責任だ。結局手伝う事になった。


 ということで三人はJOLJUからパワー手袋と、なんでも切れる万能特殊ナイフを渡された。


 セシルは汚れるのは嫌だという事で、JOLJUからシャベルを借りてJOLJUと二人で穴掘りだ。穴を掘って屍を埋めるのだ。埋めなければ野鳥や獣がよってくるし衛生的にもよくない。私有地だからそこまで真面目に埋めなくてもいいしパワー手袋があればそう大変でもない。


「どうせなら両足叩き切って持ち帰ろう。パワー手袋があれば運べるだろう~。モモ肉は柔かいし臭みも少ないし」


 幸いサクラは狩猟経験があり正しい肉の解体も知っている。サクラはささっとイノシシの大動脈を切断し、パワー手袋で逆さまにして血抜きする。その間に後ろ足の皮を剥ぎ取る。中々手馴れた手つきだ。そして人間二人分くらいありそうな血の海ができたところでサクラはサクサクと後ろ足を切断していく。


 サクラはなんてことないが、飛鳥は血の海を見て気分を悪くしている。


「やっぱウチ……食わなくていいかも」

「もったいない。結構肉質いいよ、コレ。多分旨い。本当はロースとか取りたいけど、本体の解体は大変だからね~。足なら切るだけ!」


 そんなこんなで一時間……サクラは両足のモモの部分だけ切り取り終えた。丁度セシルとJOLJUも穴を掘り終えたので、そのまま埋葬した。


「成仏してくれ、オッコトヌシ様! 肉はウチが美味しく食べるから成仏するんやで!」


 南無~と両手を合わせる飛鳥。足元には切り取られたモモ肉がある。ざっと推定20キロくらいはありそうだ。そしてサクラの足元にも同じものがある。


「シャワー浴びたい。ベトベトだ」


 サクラは全身血と脂でベトベトだ。こんな大きなイノシシを刃渡り30cmのナイフで両脚の解体をしたのだから血塗れにもなる。汚れたら困るので愛用のデニムジャケットとショルダーホルスターは外している。


「じゃあ、これから流水処理よ。血とか汚れとか筋とか切ったり洗ったりしないとね。その後は冷蔵処理だ」

「意外に手間やなぁ」

「これも美味しく食うための手間よ。仕方ない」


 ということで三人は射撃場に隣接してあるバーベキュー用の炊事場に向かった。サクラの服と銃はセシルが持ち運んでいる。そこでサクラ主導飛鳥助手で肉の処理を行った。あわせて40キロだからそう簡単には終わらない。ここでさらに洗って血を抜いたり手頃なサイズに切り分けたりと大変だ。幸い昼ご飯のバーベキュー用のクーラーボックスと保冷剤があるから、処理が終わった肉は次から次にクーラーボックスに入れていく。結局ここでも余計な部位を捨てたので30キロくらいになった。しかし時間もかかり、処理が終わった頃には今月の射撃大会の時間も終わりの時間になっていた。ここからNY市の自宅に帰るまで2時間のドライブだから3時には終了なのである。


「なんか……後半は射撃じゃなかった。何しに来たやら」と飛鳥は大きな溜息をつく。

「あたしはペイントで撃たれた挙句肉汁ベトベトだぞ? ま、100ドルもらえるならいいけど」


 別にユージは食肉処理しろなんて言ってない。埋葬と記念の牙の採取だけだったのだが、もうやってしまった。そしてこれでは車に乗せてもらえないから水浴びして着替えなくてはならないだろう。


「あ……そういえばサバイバル・ゲームは私の勝ちですよね?」と思い出すセシル。


 確かにゲームはセシルの圧勝だ。サクラも飛鳥もコテンパンにやられたから異論はない。セシルはニンマリと嬉しそうに微笑んだが、すぐに自分の服に染み付いたイノシシの獣臭と汗の匂いに気付き、泣く泣く「ユージとのハグ」を諦めた。こんな状態でハグをして「臭い女」と思われる事のほうがセシルにとってはダメージだ。


 結局……あのサバイバル・ゲームは誰も勝者ではなかった……ということになった。




***



 で、帰路……。


 車は二台。ユージとエダと大量の銃はユージ運転のマスタング。サクラたちは拓運転のレクサスSUVだ。



「お前、匂うで?」

「仕方ないでしょ!? 水浴びくらいで落ちるか!!」


 サクラは炊事場で水浴びして着替えたが、獣臭は完全に落ちなかった。


「まあ気にするな。夜はシシ鍋! もしくはバーベキュー大会や!」

「あー、あの肉ね。今夜は食べないわよ? キャンプならともかくちゃんと食べるンなら少し熟成させないと美味しくないし、昼バーベキューだったのに夜もバーベキューだなんて嫌だ」

「夜はデリバリーになると思うよ。エダちゃんだって疲れているしね」


 射撃は意外にいい運動で一日もやれば結構疲れる。それに加えてエダは早朝からお昼のバーベキューの用意もしていたから今頃クタクタだ。多分今マスタングの助手席で疲れて眠っているだろう。そんなエダにまた大人数分の晩御飯を作らせるのは酷というものだ。


「ところであのイノシシは何? なんであんなトコに指名手配イノシシがいたわけ?」


 何度もいうがニューヨーク州はイノシシがたくさんいる場所ではない。それが寄りにもよってどうしてあの射撃場の森なんぞに潜んでいたのか。


 その点に関して、拓は一つの推論があった。


「イノシシは行動力あるからな。餌を求めて移動してきたんだろ? そして人から逃げるためあの森に棲みついた。ハンターたちが見つけられなかったのは、あそこが神崎さんの私有地だからだ」

「成程。私有地には勝手には入れませんね。特に普段射撃場にしているような場所なら流れ弾とか飛んできますし」


 セシルも拓の推論が分かった。


 つまりあの近辺で他人が入ってこられない広大な土地は、あの神崎さん所有の射撃場だけだ。そして射撃大会は月に一度の事だから、その日さえ見つからなければイノシシさんにとっては安全な土地という事だ。見つからないはずである。


 だが今回、予想に反して森に人は入ってくるし、挙句にペイント銃で撃たれまくった。イノシシさんが怒って襲ってきても不思議ではない。


「可哀相だけどあれだけ大きくなった個体は人間にとってはもう害獣だからな。殺処分は仕方がない。家畜用の飼料の味を覚えたイノシシは人を襲うから」

「それも美味しくいただいて供養やな~」

「単に飼料食いすぎで太りすぎただけ? あんなに大きくなるものなの?」

「食肉用のブタと交配したんじゃないかな? そういう例はよくあるよ。食肉用はデカくなるよう品種改良されているから」

「ま、それも一応今回で解決やな! これはネット記事にできるで!! ふっふっふ」

 と飛鳥は楽しそうに笑う。記念写真も撮ったし、これは別に世に出しても怒られない事案だから別にいいだろう。



「なんか忘れている気がするけど……まぁいいや」


 サクラも疲れた。

 どうせ自宅まで二時間ある。サクラは後部座席の前に設置してあるモニターの電源を入れると、HDDに入れてあるアニメを再生させた。そしてのんびりアニメ観賞しながらくだらない雑談で帰路の時間を過ごした。


 こうしてクロベ・ファミリー恒例射撃大会は終わった。


 結局、サクラと飛鳥は今回バカスカ大量の銃を撃ったが、特に腕は上がらなかった。




 そして……。



 サクラたちはど忘れしている。

 あの巨大イノシシ……デビルズ・ボアに子供イノシシが三匹いたことを。


 数年後……デビルズ・ボアのジュニアたちが近隣農家を荒らしまわり悪名を轟かせ、指名手配を受けるが……それはまた別の物語である。




黒い天使短編「そうだ射撃場にいこう」13でした。




これで「射撃話」も完結です。

半分が射撃ノウハウ話、残り半分がサバゲーとサクラたちのドタバタでした。

ちなみに巨大イノシシは米国では実際にある話です。あと確かにNYは北なのでイノシシは少ないエリアですが、陸続きだしこういうことも起きます。NYは実は州としてはカナダ国境まである大きな州です。


さて、次回はあるキャラがメインとなる犯罪推理系に物語の予定です。

犯罪捜査+推理系です。

推理がつくのは初めてですね。

あるキャラとは誰なのか……お楽しみに!


これからも「黒い天使短編・日常編」をよろしくお願いします。

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