「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 6」
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 6」
<ドベルクの悪魔>は巨大なゾウさんっ!
サクラたちは皆一緒に対策を考える。
しかし聖なる獣のインドゾウは殺せない。
はてさて困った一同……どうする!?
黒い天使「飛鳥の事件簿」6 <ゾウさん大攻略戦 1>
「本当にインドゾウだったの!?」
エダは最初に驚き、そして事実と知って無力を噛み締めながら溜息をついた。
陽はすっかり落ち、インドでの二日目の夜……二度目の避難所での食事時間である。
この日も避難所では大きな篝火が炊かれ、大鍋でスパイスカレー粥が作られ、村人や避難民たちにふるわれていた。
サクラたちやエダ、拓は校庭の端に陣取って火を熾し、そこに鍋を置いて飛鳥が持ってきたレトルトカレーとサクラが獲ってきた野ウサギのバーベキューを乗せたものを食べながら一日の反省会を行っていた。ここにユージはいない。ユージは1分で飯をかきこみ、さっさと仮病院に戻っていった。
「エンジンの入ったユージを止める事はできない」
「患者がいるかぎり何言っても止まらない」
「食事を摂っていっただけ、まだ理性が残っている」
というのがエダ、拓、サクラの談である。
もっとも、エダはユージに付き合おうとしたが、「皆と情報交換していてくれ」とユージに言われ、こうして皆で仲良く夕食タイムに興ずる事になった。
当然、そこで夕方拾ってきた不思議な赤ん坊の事と一緒に、<ドベルクの悪魔>という凶暴なインドゾウが村の周囲で出没している、という話になった。
「サクラの<竦み>も通じなかったの?」
「……通じなかった……んだよねぇ~」
サクラは二杯目のカレーをよそいながら溜息をつく。
サクラたちは突然現れたインドゾウ……<ドベルクの悪魔>に驚いて逃げ帰った。勿論慌てふためいて帰ってきたわけだが、さすがにサクラは一度だけ冷静になり、自身の能力……人間を含めた動物たちの精神に直接命令を下す<竦み>という能力を使った。よほど精神力や心の強い者以外サクラの術中に嵌まり、サクラの命じるままの存在になる。動物ならばほぼ100%かかる術だ。
が……あの<ドベルクの悪魔>には全く通じなかった。そうと分かったとき、サクラも本気で逃げたのだった。
「所詮クソガキのクソ能力やしなぁ~」と飛鳥。飛鳥も二杯目のカレーを口に運んでいた。
「サクラの<竦み>が効かない。よほど老練なのか、精神がまともではないくらい怒っているか……ですね」
とセシル。セシルはカレーは一杯目で終え口直しにドライフルーツを食べていた。
「ゾウさんは怒らせると危険なのデス! アフリカでもたまに凶暴なゾウさんの事件は聞くのデス」とマリー。同じくドライフルーツを食べている。
「たまたまそういう凶暴期に当たったのかもしれない。ゾウは賢いが、何かのキッカケで凶暴化するって話はよく聞くからな。地震で機嫌を損ねたか、何か怒らせるようなことがあったか……」と言ったのは拓。拓は三杯目のカレーに手をつけたところだった。肉体労働をしてきたし体が大きいからよく食べる。……どんだけ食べても飛鳥の持ってきた大量の不要なレトルトカレーは無くなるものではない。
「ゾウによる獣害事件も、時々ニュースで聞くな」
「簡単に言うケド、これは捨て置けへんやん、拓さん」
飛鳥はどこまでも前向きだ。飛鳥はこの新たに降って湧いた<ドベルクの悪魔>とやらに興味津々だ。どこまでも不謹慎な奴である。
確かに捨て置いていい事案ではない。このインドでも暴走ゾウによって小さな町が壊滅寸前まで破壊されたという事件が起きた事がある。怒りの原因が地震だとしたら、早々大人しくなるものではない。
「まったく! 何のためにライフルを背負ってきたんや! セシル。お前、護衛やなかったんかい!」
「ゾウを相手に、5.56ミリのセミ・オートライフルが何の役に立つんですか!」
「役立たずめ」
5.56ミリ……223口径は中距離までの対人用だ。ゾウを相手にどうにかなるものではない。そしてもし撃っていたら、さらにゾウを怒らせて事態はもっと大変な事になっていたに違いない。……さすがのセシルもパニックしていただけだが……さすがのCIAも野生のゾウ相手には無力であった……当然だが。
「しかし暴れている事実は事実。射殺するしかないんじゃない?」
サクラの結論ははっきりしている。可哀想ではあるが害獣になってしまえば人の敵だ。そんなものは始末してしまうのが一番手っ取り早い解決策だ。これもまた当たり前の結論ではあるのだが……
「生憎そう簡単に始末はできないんです。インドゾウは国の保護動物で殺処分はできません」
とセシル。その指摘は正しい。インドゾウは希少種で、さらにインドではゾウは神獣として崇められている。これまでインドゾウが暴れた事件は何度も起きているが射殺した例はあまりないような気がする。街中であれば麻酔銃など使って捕獲したりするが殺すことはない。怒り狂ったゾウに対しては、その怒りが収まるまで人間は逃げるしか方法がない。
「JOLJUがテレポートでどっか遠くに飛ばしてしまうのはどうや?」と飛鳥。ただこの案もどうやら無理そうである。エダが聞き込んだ話では、あの<ドベルクの悪魔>は村の守り神でもあるらしい。成程、これまで何度か村で暴れて<ドベルクの悪魔>なんていう異名を戴いてしまっているのに村人が駆除しようとしたり、その暴れん坊ぶりを容認してしまっているのは、元々は守り神としての側面があるからのようだ。そんなモノを余所者が「暴れるからどっかにやりました」なんて言えば逆に村人たちから信頼を失うだろう。完全余所者のサクラや飛鳥たちは最悪それでもいいが、一応この村も活動範囲であるJOLJUはそういうわけにはいかないので廃案。
「ゾウさんは賢いのデス。やっぱり、ここはゾウさんに暴れないで欲しい、とお願いするしかないと思うのデス」
「そうだね。それが一番穏便な方法だと思うけど。サクラとJOLJUがいればなんとか説得することができるんじゃないかな?」
グループの博愛主義者ワンツーであるエダとマリーはこの結論である。マリーはともかくエダにまでそういわれてしまえば、その方針で何か考えるしかない。マリーはともかく、エダはサクラやJOLJUの能力を知った上での結論だから出来ない事ではないのだろう。
「明日には避難者も落ち着くだろう。村人たちが自立生活を行うとしたら凶暴なゾウがいるっていうのは復興に関わる。明日でなんとかするしかないだろうな。俺たちが居れるのも明日までだし」
「そういう拓ちんにはいい案があるんカイ」
「殺さず捕まえるっていうんなら、村人も手伝ってくれるだろう。罠なりなんなりで捕まえて大人しくさせる。サクラやJOLJUがそれで説得したらいい。それでも暴れるんなら仕方がない。殺処分しよう」
拓はそういうと、持ってきた武器の入ったバックから大型半自動小銃とショットガンを持ってくる。大型半自動小銃は7.62x51mm NATO弾だから、急所を的確に撃てばいくらゾウでもダメージを与える事が出来る。後はショットガンの12ゲージのスラッグ弾が何発かある。至近距離ならグリズリーでも一発で致命傷を与える事が出来る威力があり、ゾウ相手でも通用する威力がある。ただしどちらも一撃で倒せないから、どちらも的確に急所に向かって何発も弾を放つことになるだろう。拓は少し考えて、ショットガンをセシルに手渡した。
セシルも無言で頷く。この中で、ショットガンの強装弾であるスラッグを扱えるのはセシルしかいない。セシルは体格的には普通の17歳の少女だが、ショットガンは彼女の愛用武器の一つで扱いには慣れている。
ということで、皆の食事会は終わった。
その後は自由時間ということになったが、拓は何度か自動ライフルを持って夜の村の見回りにいき、エダは午後10時まではユージのサポートに付き合った。午後10時と決めたのはユージを連れ帰って休ませるためだ。一緒に臨時病院を閉めることにしておかないとユージは延々と治療を続けてしまう。
幸い命に関わる緊急性の大きい手術待ちの患者は午後9時には始末がついたので、村医者クディク氏が夜間診察を引きうけ明日の朝ユージと交代するという話になった。「あまりユージが出しゃばるとクディクさんの負担になるから」とエダに説得されての事である。本当こういう時にエダがいてよかった。
ということでユージとエダでテントが一つ。拓が一人きりでテント一つ。そしてサクラたちでテント一つ……三つのJOLJU特製テントが建てられ、この日の活動は終了した。
「第二回!! 枕投げ大決戦っ!!」と、飛鳥はノリノリで叫んだが、さすがに皆疲れていてそんな元気はなかった。仕方がないので飛鳥も妥協し、静かにUNOをすることになった。
……そして予想以上に勝負は白熱して、サクラたちが落ちるように寝たのは深夜3時であった……このあたり、気分はまんま修学旅行生である……。
「黒い天使短編・飛鳥の事件簿インド編 6」でした。
ということで今回は作戦会議編です。
まぁ、本当はサクラのいう方法がてっとりばやいんですがね(笑
そうはいかないのがこのメンツなワケです。
こうして<幽霊編>が終わっての<凶暴ゾウ編>となった飛鳥の事件簿!
もちろん、こっちにも思いもかけない展開が待っています!
どうぞこれからも「黒い天使・短編集」を宜しくお願いします。




