表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は、巡る季節の姫君へ捧ぐ  作者: xxx
序章・一章
6/46

一章・5

 外に出ると、日はとっぷりと暮れていた。


「なんというか……四姫様は相変わらずですね」


 言葉と共に、竜哉の口から白い息が漏れる。

 結局、熱いお茶を飲むこともなく、三人は屋敷を出た。四姫の部屋である離れには大した暖房器具は用意されていないし、体はすっかり冷え切ってしまっている。

 けれど楓はこれ以上、あの空間にいたくなかった。


「あの人の話はするな。僕たちは、与えられた命令に従うだけだ」

「了解です、楓」


 竜哉は苦笑して口を閉じる。


「でも……四姫様って、厳しい方なんですね。あたし、本当に楓先輩のお役に立てるのか、少し不安になっちゃいました」


 有希が不安そうに笑うのを見て、楓は表情を厳しいものにした。


「有希が気にすることはないよ。あの人はただ、有希を萎縮させたかっただけだ。別に、君の働き自体を評価したり、貶めたりするものじゃない。あんなのは単なる嫌がらせだ」

「……楓先輩って、結構きついこと言うんですね」


 驚く有希に、楓は何も言わなかった。ただ、ますます表情を硬くするだけだ。

 と、そのとき。楓のズボンのポケットで、携帯電話が震え始めた。

 そのディスプレイを見て、楓は小さく舌打ちをする。一瞬迷った後、有希に視線を向けた。


「有希、今日はもう帰っていいよ」


 楓の言葉の意味を、有希はすぐさま理解したようだった。――すなわち、有希に話を聞かれてはならない相手からの電話である、ということを。

 有希は一礼すると、駅の方角に向かって一人で歩き始めた。

 けれど、若い女性を一人で帰すのは、楓の礼儀に反している。


「おれが送っていきますよ」


 電話を無視するべきか、と迷う楓を見て取り、竜哉はすぐに有希の後を追っていった。

 竜哉が一緒なら、まず安全だろう。彼は一応、四季宮の警護部隊所属ということになっている。専門的な訓練も受けていた。

 やがて、二人の姿が完全に見えなくなると、楓はようやく通話ボタンを押した。


『俺だ』


 それから間髪入れず、


『遅い』


 低い、男の声だった。

 楓の耳に、その声はとても傲慢に響く。


「すみません、人払いをしていたもので」

『俺を待たせるとは、あそこに入ってから随分と偉くなったもんだな』


 当然とも言えるが、電話をかけてきた人物は、非常に機嫌を損ねていた。


(……やっぱり、出るんじゃなかった)


 この人は、いつもそうだ。

 後悔先に立たず……とはいえ、電話を無視したら、後で鬼のような嫌がらせが待っているに違いない。


「それで、用事はなんですか」


 こういうときは話を早く済ませ、電話を終えてしまうに限る。

 けれど、電話口から返ってきた言葉に、楓は携帯電話を握りしめたまま絶句するしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ