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Find the Hero  作者: ハルト
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第4話 麗しき夫人の悩み

 コンスタンツ夫人、セシーリアに招かれ訪れた屋敷は、白壁(はくへき)と色鮮やかな花々が咲く大きな庭の印象的な所であった。

 武器屋の息子であるシュトラウスからすれば、いままでの経験で夫人の館のような場所に訪れた機会が、ルノアンの屋敷と城のごく一部しかないわけで、繊細な屋敷の造りには少々落ち着かない。屋敷には飾り、という以上に玄関も廊下にもどの部屋にも、絵画が異常に並べられていた。


 二人が通されたのは日当たりの良い南窓の部屋で、中は心地良い程に温かかった。


「何、お前たちは勇者グレイドルを探してるのか」


 ソファにゆったりと腰かけ、侍女が運んできた紅茶を飲むセシーリアは、優雅で実に美しかった。

 その一挙一動に目を奪われながら、シュトラウスは彼女の問いに深く頷いた。


「はいっ。ですが、捜し始めてまだ二日目。それなのにセシーリア様のような方と出会えるなんて、きっと神の思し召しじゃないでしょうか!」


 一旦は結婚していると分かり落ち込んでいたシュトラウスだが、既に立ち直っていた。未婚であろうが既婚であろうが、セシーリアの美しさには関係がないのだ。


 妙にテンションの高いシュトラウスに夫人は苦笑を漏らす。

 ルノアンといえば隣に座っている青年のせいで、セシーリアと話す事も話す隙もなくなり、ゆっくりと紅茶を味わっていた。


「ふふ、面白いことを言うな。……それでは、勇者がこの街に来たのかどうかを調べればよいか?」

「は、はい!その、お手間を取らせてしまうとは思うんですが、ぜひお願いしますッ」

「構わぬよ。先に声をかけのは(わたくし)なのだ。気にするな。その分、私とたくさんおしゃべりしてくれ」

「そ、それは……もちろん……っ!」


 艶やかで熟れた果実のような唇が微笑みをつくるだけで、シュトラウスの心は有頂天にも上るのだった。


 セシーリアはテーブルの端に置いてあったベルをつまみあげると、それを揺らして綺麗な響きを鳴らした。

 その音がしてすぐに、初老と思われる男性が部屋にやって来た。


「いかがなされましたか、奥様」


「うむ、今から勇者グレイドルがこの街にやってきたかどうか、来ていたのならばその日付や滞在日数、それから場所を調べて欲しいのだ。頼まれてくれるか?」


「もちろんでございます。早速、情報を集めてまいります」


 実に数十秒のやり取り。

 シュトラウスはあまりにあっさりしていたため、本当に勇者の足取りなどわかるのだろうかと思ってしまった。


「どうかしたのか、シュトラウス殿?」

「あ、いいえ!何でもありません」

「調査には一日、二日はかかると思う。その間、ぜひこの館で休んでくれ」


 シュトラウスとしてはセシーリアといられる時間が増えて断る理由がない。ルノアンも、調査結果が分かるまでは待っているしかなく、二人は彼女の好意に甘えることとなった。



 三人(実際は二人なのだが)が談話をしていると、セシーリアが突然よろめき、ソファの背もたれに倒れこんだ。


「大丈夫ですか!?」


 目頭を押さえるセシーリアの顔は真っ青だった。

 だが、駆け寄ろうとするシュトラウスを彼女は制した。


「なんでもない、ただの寝不足だ」


 だが、寝不足にしては顔に血の気がない。


「何か眠れない事情でもおありですか?」


 ルノアンも心配そうに彼女へ声をかける。


 セシーリアは無理に笑みをつくると、無理やり会話の調子を取り戻そうとした。


「ああ、ちょっとな。最近どうも夜中、部屋の外に気配を感じてしまって。……まぁ、思い過ごしだと思うが、ふふ、霊感などは持っていないはずなんだが」


「…………」


 申し合わせたように、シュトラウスとルノアンは顔を見合わせた。






 館の明かりは殆どついていない。肌寒い風が時々服の間を通り過ぎていく。


「やっぱりこれくらいはしないとな」


 自分のマントに包まりながら、シュトラウスは真面目な顔でルノアンにそう言った。


「そうだな。勇者殿の情報を調べてくれたり、我々に食事や寝所を用意してくれたりと、夫人の心遣いに恩返しせねば失礼に当たる。…………だが、シュトラウス。お前の場合は下心が見えるぞ」


 ルノアンが半眼で彼を見上げると、シュトラウスは明後日の方向を向いて口笛を吹き始めた。――しかも彼の場合口笛を本当に吹けないので、掠れた息が口の間から漏れるだけだ。



 コンスタンツ夫人が眠れない理由が本当に彼女の部屋の外で見張っていれば分かるのかは分からないが、二人は徹夜覚悟で芝生に腰を下ろしているのであった。

 そもそも霊の仕業だった場合、剣士と魔術師ではどうにも解決できない。明日の夜に聖職者でも連れてこなければならなくなるだろう。


「つーかさ、俺、実は霊とかお化けとか嫌いなんだけど――」


 セシーリアのためだけを考えていたため、自分の嫌いなものを忘れていた。

 シュトラウスの顔は少し青ざめている。


 だがルノアンといえば――


「知っている。昔シュトラウスがうちに泊まりに来た時、夜中にお化けが出たと騒いで私の部屋で一緒に寝たではないか」


「え゛ぇッ!?そ、そーだったか??」


 自分に不都合なことはすっかり忘れていたのであった。



 そんな調子で時間を過ごしていたが、いつまでたっても問題の「気配」はやってこない。

 眠くてふらふらし始めたシュトラウスは、眠気を吹き飛ばすためにしゃべり続けた。


「やっぱりあれか?俺らがいるのに気がついたのかも」


「かもな」


「今日はもう駄目かなぁ。明日はもっと遠くからこの辺見張った方が良いかもしれないな」


「かもな」


「お前さ、なんか無いの?姿を消す魔法とかさ。俺、いまだに魔法ってよくわかんねぇんだよなー」


「かもな」


「…………」


「かもな」


「…………話聞いてないだけか寝てんのか、どっちかにしろよ」



 結局どちらだったかというと、器用に返事しながらルノアンは、木にもたれかかって寝込んでいたのだった。










ルノアンと夫人の口調が似ているので、微妙に書き分けているんですが

どうも混ざってしまう……。

なんとなく間抜けな方がルノアンです。

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