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Find the Hero  作者: ハルト
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第13話 憂鬱な魔術師たち

「10ヶ月と6日目……長かったわ……

 ……よくもこのわたしから逃げだしたわねッ!」


 胸倉を掴んでルノアンを睨みつけるクリスの声にはすごみがかかっていた。


 一方ルノアンは弱りきった表情でそれを見返していた。手をあてている額は真っ赤になっている。

 ……少女の方に被害がなさそうなのが不思議だが。


「久しぶりに会ったのに頭突きはないぞ」


「知るか!」


 怒ったクリスはルノアンを前後に激しく揺さぶる。


 驚いて成り行きを見つめていたシュトラウスだったが、一応怪我をしていた幼馴染のために二人の間に割ってはいる。


「なんかよくわかんねぇけど、クリス、手を離してやってくれないか」


 クリスはそう言われてしぶしぶルノアンから離れる。


 ルノアンの手当てを済ませていたルヴィが、大きく目を見開いて尋ねた。


「お二人はお知り合いなんですね?」


 二人の反応からして初対面なわけではないだろうが、それにしてもあまり良好な再会の様子には見えない。再会して頭突きが挨拶とは、随分な間柄に違いない。


 ただ、幼馴染であるシュトラウスには覚えのない少女であることは確かだ。



 ルノアンは肩を竦めた。


「ああ。彼女は私が魔術を学ぶために学校を通っていた時の同級生なんだ」


「じゃあ、クリスも魔術師なのか!?」



 長いこと幼馴染をやってきた二人だったが、あまりお互いが会えなかった時期があった。それはルノアンが魔術学校に通っていたために4、5年の間、彼の休みの時しか遊べなかった時だ。シュトラウスとしてはなぜ学校に行って勉強などするのか理解できなかった。


 だから、あえてシュトラウスがルノアンの勉学について話を聞くことはなく、ルノアンも学校のことは特に話すことがなかった。

 そのため、クリスのような少女が同級生にいるということも聞いたことはなかったのだ。


「何よ、わたしが魔術師やってちゃ何か可笑しいかしら?」


「いやいや、そういうわけじゃないけどさ……。でも、さっき魔物を倒した時には……棒…だろ?使ってたのは。魔法使ってなかったよな?」


 そしてちらりと手にしている彼女の背丈ほどある棒に視線を向けた。

 棒といっても、ルノアンが持っているような装飾のある杖を長くしたもののように、精巧に作られた銀色の武器だ。所々に石が嵌められている。


 クリスはシュトラウスの鼻先に細い指を突きつけた。表情は呆れ顔だ。


「貴方の目は節穴?ちゃんと使ってたわよ、ま・ほ・う」


「え……?」


 クリスはにやりと笑う。


「えーと、シュトラウス、だっけ?貴方のおかげでね、魔物の身体の中まで雷の魔法が行き渡ってくれたわ」


「んん?」


「つまりだな」


 ルノアンがクリスのこたえを補足する。


「クリスにとってその棒は私の杖のようなものなんだ。

 彼女は先ほど雷の魔法を詠唱してその棒から、魔物に突き刺したお前の剣を伝って、魔物の身体の中から攻撃をしたというわけだ。

 まぁ……傷口を痺れで抉ってやったというわけか」


 なる程、とシュトラウスは手を軽く合わせた。


 だからクリスは手にしていた棒を剣に当てていたのか。

 だが、なぜ彼女は杖を使わないのだろうか。仮にも魔術師というならば、身体を張る必要はないはずだ。



 シュトラウスの疑問はクリス自身が再び手にしていた棒をルノアンに突きつけたことで本人に尋ねることはできなくなった。


「そういえば、あんたなんでこんな所にいるのよ!わたしから逃げ出して王宮付きの魔術師になったんでしょっ?」


 ルノアンはなんとも微妙な表情をした。困っているような、どうしたらいいのか分からないような……


「逃げたつもりはないのだが……ただ、卒業はどうにもできないだろう。それで逃げたと言われても……」


「卒業が何よ!だいたい、あんたがマキューズ先生との仕事を選べばよかったんじゃない!」


「それは……もちろん、先生との仕事には興味はあったし、正直、王宮での仕事と迷ってはいたが……」


 そこでちらりと棒を顔に突き出しているクリスを見上げた。


「何よ?」


 眉尻を下げて弱り顔のルノアンが、息を吐くように言う。


「……クリスが言ったではないか。『あんたと卒業してからも一緒なんて冗談じゃない!』って……」


「…………」



 話を聞けばルノアンの同級生であったクリスは、現在その魔術師のマキューズ先生とやらの下で働いているらしい。

 それは確かに、先生とやらのもとでルノアンが仕事をすることは彼とクリスが一緒に働くことを意味する。それなのにそれを拒んだクリスがルノアンの選択を問い詰めるのは可笑しな話である。


 だが自分が不利だと気づいた彼女はいきなり、



「そもそも、あんたが女の子じゃなかったのがいけなかったのよッ!!」


 と、言い出した。



「何分けわかんないこといってんだ?」


 あまりに突拍子のない、悔し紛れの言葉に、シュトラウスは笑ってしまった。

 確かに、ルノアンの容姿なら女装しても違和感がなさそうではあるが……



 ルノアンは馴れた様に、だがはっきりと言った。


「だから、勘違いをしていたのはクリス、お前だ。私は一言も『女』だと名乗ったことはない」





「だからって……だからって……あんなに可愛くて綺麗な女の子を目の前にしたら、男なんて思わないでしょ!?恋は盲目って言うのよ!気づかないわよ!」





「…………」



 何をいってるんだ、この女。


 ルノアンはその理解できない言葉の羅列に普通に対処する。


「だから、女の子ではないと言っているだろうが。それに、クリスの『恋』とやらは、少々偏った趣味であるような気がするんだが……」


「なんですって!?女の子が可愛いって思う気持ちのどこが偏った趣味なのよ!男だったら、女の子可愛いって思う時があるでしょッ?それと同じよ!」


「うーん……だが、少女に対するお前の反応は少し……怖いぞ」


「なんですって!?わたしはねぇ……」


 すると突然クリスが二人のやり取りを見守っていたルヴィの方に振り向くと、抱きついた。


 身長の高い彼女がルヴィを抱きしめると、少女はすっぽり腕の中に納ってしまう。

 ルヴィはいきなりのことで、目を瞬かせてクリスを見上げていた。


「うぅ、もう幸せー。ふかふかふわふわ、すっごく心地良いー!」


 見れば今まであった綺麗な顔が一転、だらしなく緩んでいた。

 しかもクリスはルヴィを抱きしめて、不気味な笑みを浮かべたのだ。


 ぶっちゃけ、少女にいかがわしい事をしようとする変態親父のようである。



 本人のささやかな抵抗を無視してルヴィの感触を味わっていたクリスは表情を元に戻すと、


「っていう、このわたしのどこが怖いのよ?」



「十分怖ぇーよ」



 クリスが言い終わる前につっこんだシュトラウスは、引きつった表情でルヴィをクリスから離してやった。見ているだけでも少女の身の危険を感じる。


 彼女といえば舌打ちをして、ちらりと一瞬シュトラウスに怨みの視線を送った。




「…………おい。お前の同級生はあれか、また変質者の類じゃないだろうな?」


「…………彼女はその……」


「何だ?」


「………………女の子が、その……大好きと言うか……」


「……」


「好みの女の子を見つけると見境がなくなると言うか……」


「……………………」




 十分、変態だ。





 シュトラウスは頭を抱えてしゃがみ込んだ。


 なぜ、次から次へと変人が現れるのだろうか。そんなにも自分の行いは普段から良くないのだろうか――シュトラウスは項垂れた。



「まぁ……私のことを一年くらいずっと女性だと思っていた人だから……」


 ルノアンは空の果てを見つめるように半分気力を失ったように呟く。


「……お前の容姿が勘違いされやすくても、ずっとは勘違いできないだろ」


 ルノアンとクリスの様子からして浅い付き合いだとは思えない。とすれば、もちろん会話や仕草、体格やいろいろと女ではないと気がつく場面はいくらでもありそうであるし、普通は気づくはずだ。

 だが一年も勘違い続けられるとは、彼女はそうとうの鈍感か天然か。


 彼女の台詞からして、ルノアンが「女」ではなかったことには相当のご立腹らしい。


「…………てゆーか、ルノアン、お前が勘違いに気づいて訂正してやれよ」



「…………」



 振り向いたルノアンは妙に淡々と、



「勘違いされてるとは思わんだろ」


 と、言った。



 確かに、それはそうなのだが。




 しかしどうにも、その時シュトラウスは違和感を感じた。

 でもそれがなんなのか良く分からなかった。




「ま、感動の再会ってヤツもそのくらいにして、いい加減馬車に乗ろうぜ。このままじゃ、本当に日が暮れちまう。村に着く前に夜になったら、さすがにさっきの魔物だけじゃすまなくなるかもしれない」


 魔物の中には夜行性の生き物もいて、強い魔物ほど夜に行動したがるのだ。



 シュトラウスは気絶中の気の毒な御者に起きてもらうため、しかたなく馬車から取り出した水筒を手に彼のもとに向かった。








このあとおっさんは水筒の中身を顔にかけられて起床します。

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