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Monochrome ー白の少女と黒の亡骸ー  作者: 藍川ユイ
第二章 大地の民
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拾い物

「で、なんで俺がお前の飯作らなくちゃならないわけ?」

「おかわり!」

 少年は憎たらしいほどの笑顔で皿を差し出してくる。聞いちゃいねぇ。

「いやぁ、悪いな! お前結構速いからさぁ、ちょっとどんな腕前か試させてもらおうとしたんだって!」

 閉店ぎりぎりに飛び込んで店員に迷惑そうな顔をされながら買ってきた食材は、ほとんど大地の民の少年の胃袋におさまることになっていた。

 テオドールーー本人はテオと呼んでくれと実に親しげに挨拶をしていたーーと名乗った小柄な少年は現在「始まりの日」の食卓を仲良く囲んでいた。

「うまっ! あーっ! ちゃんとした飯食ったのいつ振りだろう! おっ陽菜、食べないんならもらうぞ?」

「あのさーここ保育園じゃないんだけど。食ったらさっさと帰ってくんねぇかな」

 穂積が陽菜の皿に手を伸ばそうとしたテオの手をはたきつつも、空になった皿を回収しおかわりをよそってやる。

 結局、あのあと倒れたテオをそのままにするわけにもいかず、半ば引きずりながら本部まで運びこんだところ、「ハラヘッタ」というありがたいお言葉をいただき現在に至っていた。

 別に置いてきても良かったし実際のところ穂積はそうしたかったのだが、あのまま死なれても後味が悪いので結局拾ってきてしまっていた。

「穂積、拾いものがお前の最近のマイブームなのか?」

 テオの隣に座った団長が物珍しそうに少年をつつきながら聞く。多分それとなくおおよその光力を測っている。

「俺だって拾いたくて拾ってるわけじゃない・・・・・・」

 ようやく自分の食事を用意してテオの向かいに腰をおろしながら言い訳がましくつぶやいた。どうして自分を攻撃してきた奴に飯をふるまうはめになってしまったのだろう。

「なぁ穂積ー俺もしばらく居候するー」

 チャーハンを口の横につけながら言う。古来より受け継がれる伝統の時間と材料がないときに役立つ(作り手にとって)最高の食事になんてことしやがる。一粒残さずありがたく食え。

 むすっとした様子の穂積を尻目に、団長が楽しそうに答える。

「おっいいねぇ。お前なら即戦力になりそうだし。そうなったらうちに入る初の大地の民になるな」

「そうなのか? ちょうどいいや、俺も病気の妹のために稼がなきゃいけないもんでね! でも残念だが所属はしないぜ。つまるところ傭兵だな。俺は流民だからな。誇り高き大地の民は誰に媚びたりもしないもんさ!」

 テオが胸を張って答える。

 大昔、太陽と月が同じ大陸上にあった旧時代から存在するという、どちらの光をもエネルギーに変えることのできる民族。影の巣が生まれ勢力が二分してからも太陽にも月にも属さず、戦争にも荷担せず、大地の民として流民の道を選んだ誇り高き孤高の民族。

 確かにそう言われている。

 だが、誇り高き大地の民は誰にも媚びない代わりに、誰にでも飯をねだるのだろうか。

「そうか。ならしかたがないな!」

「まあでも、しばらく世話になってやってもいいぜ!」

「あぁ。分からないことはなんでも穂積に聞けよ」

 団長がにこにこと嬉しそうにテオをつつきながらうなずいた。他のメンバー、主に穂積の意向など関係なしに勝手に話が進んでいく。

「頼むからやめてくれ。そんな素性の知れないやつ懐かせてどうするんだよ。っていうかもう空いてる部屋ないだろ。空き部屋は全部団長の物置になってるし」

「いいじゃないか、穂積の部屋で寝れば」

「よくねぇよ」

「じゃあ陽菜と同じ部屋に、」

「もっとよくねぇ!」

 と、横を見るとあまり箸の進んでいない陽菜がまるで置物のように静かに座ってチャーハンを眺めていた。

「おい、陽菜」

 じっと眺めたまま動かない。これは本当に生きているのか。

「おい、具合悪いのか? それともチャーハン嫌いだったか?」

 団長とテオのやりとりを聞き流しながら、ためらいがちにそっと陽菜の肩を揺する。するとはっとしたように顔を上げ、穂積の方へと視線を向けて口を開いた。

「あっ・・・・・・ごめんなさい」

「なんで謝るんだよ」

 困った顔をした陽菜にかけるべき言葉がうまく見つからず、とりあえず肉を多めに入れてやったチャーハンの皿をすすめる。陽菜は少し細すぎる。

「とりあえず、食え。疲れてるだろ」

「うん。ありがとう」

「・・・・・・おう」

 陽菜がようやくチャーハンを食べはじめた。

 陽菜が食事をとり始めると同時に、テオが三杯もよそってやったのに今はもうすっかりきれいになった皿を置いた。

「よーし食った! じゃあ改めまして、俺の名は大地の民テオドール! 大地の民の名にかけて穂積と陽菜に恩を返すまでここに居座らせてもらう!」

「よろしくな、テオ」

「おう!」

 嬉しそうな団長。元気のない陽菜。うんざりした顔の穂積。

 そんな中、勢い良く立ち上がったテオの少し高い声はよく響いていた。

「恩を返すなら早く帰ってくれないかな」

「何を言う! 大地の民はそんな不義理はしねぇ!」

 こっちには別の意味でかけるべき言葉が見つからなかった。


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