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この世界の終わり

プロローグ この世界の終わり


 ゆっくりと目を開ける。

 視界に映るのは白い天井。

 その先に広がる光景をもうしばらく見ていない。横になったまま頭の中でその先にあるはずの光景を思い描いた。その妄想はすぐに脳内映像に青い色を広げていく。しかし、すぐにその光景を思い描くことはできても、それは全く自分の目で見る景色としての実感を伴わない。

 ただの、妄想。

 少女は白一色で埋め尽くされた部屋の一画にいた。そしてこの無駄にだだっ広い部屋の真っ白な天井や壁が少女の世界の全てだった。


「起きてる?」


 壁越しに微かにくぐもった声が聞こえて、寝ころんでいた少女はベッドから上体を起こした。時間だ。


「待ってた」


 壁に耳をつけて、少女も小さな声で答える。壁の外には聞こえているのだろうか。少女が答えようが答えなかろうが、外の声はいつも勝手に話を続けていく。

 夜になると壁の外から聞こえてくるこの声に耳を傾けるのが少女の楽しみだった。人一倍聴力が良いらしい少女にぎりぎり聞こえる程度の微かな声。

 それは唯一外の世界を知らせてくれる声。

 白い天井も、白い壁も突き破って、外の世界へと少女の意識を連れて行ってくれていた。

 その声が知らせるのはなんでもないような日常の話。とりとめもない話がほとんどで、それらがどこかで役に立つこともなかった。だが、それでも少女はその声が楽しみで仕方がなかった。

 だからその日も、またいつものように壁の外の声にそっと耳を傾けていた。ひとつたりとも聞き逃さないように。


「今日は仮定の話をしよう」


 声は言った。それはどこか、いつもと違う緊張を含んだ声だった。


「この世界から、抜け出す方法の話だ」


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