ジル視点3
教養の練習をするためにガスパールたちと夕食を食べることになった。
俺の癒しの時間が……。
ガスパールと同室のアレクサンドルも一緒にとのことだったが、これは気が休まるスキがないな。この人は油断できない。
と、そのアレクサンドルがシリルを見て言ったのを聞いて、俺はなるほど、と思った。
そうか、ガスパールが彼女を気遣っているのは兄弟が欲しかったからなのか。……それもあったか。
警戒しすぎたか?
そしてシリルが細すぎるだと?
無茶なこと言うやつだな。だいぶ食べるようになったし、ちゃんと肉もついてるところについてきてるぞ……じゃない、それ言える訳ないし。いや思い出すな思い出すな。
と、珍しく彼女が反論した。
あああ! 今忘れようとしてたのに、
「肉も付いてきたよねージル。」
じゃないよ!! なんで今それを言う……!? せっかく忘れようとしたのにっ
俺は動揺のあまりガチャッと音をさせて皿をぶつけてしまった。
するとガスパールが嬉々として、食事中のマナーの説教を始めた。
うわぁぁ! こいつうぜええええ!!
今のはシリルが、あの柔らかそうな胸を思い出させるから……くっそ!
ああ、もういい謝っておこう。うん。
「申し訳ありませんでした。以後気をつけます。教えて頂きありがとうございます。」
はぁ……。俺のささやかな憩いの時間が……。
それから食事のマナー練習になりやがった。ガスパール……!
彼女はいい子だから、他の平民連中にもマナー練習見せたいと言って連れてきてた。やっぱり天使だろ?
……しかも彼女が見本になることになった。
って彼女はもう食べれないんじゃないか?
と、思っていたが、案の定懸命にアレクサンドルに断ってる。うん、でもこいつには逆らわない方がいいな。笑顔が怖い。
やはりそんなアレクサンドルに逆らえなかったのか、無理やりに食べてる彼女は子リスのようでかわいすぎる。
でも食べれなくなったようで、ガスパールに泣きついた。
なぜガスパールに行く!!?
あれか……、さっきアレクサンドルには逆らわない方がいいと思ったことがばれたのか!?
……俺に頼って欲しかった。
その夜……彼女が何度もトイレに駆け込んでいる気配に起きてしまった。
あーやっぱり……食べすぎか。
聞いても答えてくれないから、薬を渡した。彼女の買い物に付き合ったときに買っておいた痛み止めだ。
彼女は素直に飲んでくれ、そして俺の助言に従ってくれたようだ。
が、彼女が変な声をだした。ははは。なんて声だしてんだ? 手がなにかしたのか?
なるほど、手が冷たかったのか。
と、俺に腹に手を置いてくれとお願いされた。
…………彼女は俺に死ねというのか?
俺は慌てた。いや慌てないほうがおかしいだろう?
どうする? 触っていいのか? いやダメに決まっているだろう。……でも彼女がお願いしてくる。これはいいんだろうか? いや待てでも……。
俺は彼女の腹に左手を乗せた。
落ち着け。
何も考えるな。
無我の境地だ。
うおおおおおおお!!
彼女がっ、自分からっ、手を素肌の上に置いてきた。
これはっ!?
……暖かで滑らかな感触がする。
俺は鼓動が跳ねた。息を呑んだ。急激に下半身に血が集まっていく。まずい。
彼女が何か言っているが、聞き取れない。
まずいまずい、段々息が荒くなる。落ち着け。無理だ。俺は息が聞こえないように口を抑える。頼む、バレるなよ。
落ち着け落ち着けっ。俺は無意識に横に顔を振る。ダメだダメだ。
……もっとこの感触を堪能したい。指を動かしたい。白い肌を見たい。
そろそろ離さないとやばい。手が勝手に胸の方に延びて行きそうになる。
理性が焼き切れそうだ。
かろうじて残っている理性が彼女の「もう大丈夫。ありがとう。おやすみ。」という声を聞き取った。
なんとか「おやすみ。」とだけ言えた。
しかし彼女が寝返りを打った。
と、俺はもう自分でも意味が分からない。
一瞬指を伸ばしてその柔らかな胸に触れてしまった。
うっ!うわあああああ やってしまった。
欲望に理性が勝った。と思って油断した瞬間、欲望に負けた。
やばい、嫌われる。どうしよう? もう泣きそうだ……。
俺は土下座する勢いで謝った。
彼女は、顔を赤らめ、困りきった顔をして……それでも俺を気遣ってくれたりお礼を言ってくれた。そのいじらしさや仕草に身体が騒いだ。
俺はまだぬくもりと彼女の素肌の感触が残る自分の左手をひそかに握り締めた。
彼女が寝たのを確かめて、俺は部屋を出た。
この昂りを何とかしないと……寝れるわけがない。
……トイレは部屋にもあるが、そこではできない。例えば途中で彼女が起きてしまってもし見られたら?今の状態の俺は彼女に襲い掛かる可能性もある。それは絶対にダメだ。
その日はきちんと賢者になってから寝た。
ちゃんとしないと、夢でも見たら朝アウトだからな。
さて、教養の練習は続けている。
しかしなぜ俺の担当がガスパールなんだ?
ガスパールも迷惑そうだ。しかしきちんと教えてはくれる。こいつはあれだな。お人よし且つ世話焼きだ。
案外いいやつだな。
彼女はアレクサンドルが苦手らしい。信じられないほど真面目に練習している。あれは多分怖いんだろうな。
その練習の成果が出た。
クラスでの応対練習で彼女が満点を貰っていた。
そして、誇らしげに喜びを隠せない顔をしている彼女はなんて魅力的なんだ! おめでとうと抱きしめたいくらいだ!
しかし、これはアレクサンドルのおかげだろうな。やつはやり手だ! 恐怖政治だ!
経済の授業での彼女の食いつきはすごかった。
領地経営の話になってきてるもんな。……たしかに、うちの領地には特産品はないからなー。なんかあるかな? 今度考えておくか、多分彼女は聞いてくるだろうからな。
しかし、商会かー。ニコルにでも聞いてみるか。
魔術の適性検査の日になった。
彼女はワクワクしてるようだ。何がそんなに楽しいのか?ものすごくきょろきょろしている。
ああ、いつのまにか交換生の紹介が始まっていたのか。
へぇ?水晶に手を翳すだけで分かるのか。すごいな。
と、周りがざわめきだした。なんだ?
彼女も背伸びして見ているし、何があった? 第三王子か……。彼女はアイドルでも見るかのようなキラキラした瞳で王子を見ている。
気に入らない。
少しイライラしてるときに、彼女に王子の瞳の色を聞かれた。舌打ちするのはなんとか治めた。ホントは見えていたが、少し意地悪をしてしまった。
くだらない嫉妬をしてしまった。王子に嫉妬しても意味などないのに! そんなこと分かってるのだが、彼女からあんな瞳で見られてる奴がいると思うだけでイライラする。
俺は独占欲が強いのだろうか。
と、彼女の番だった。危ない危ない。
……っ!?
なんだこいつ、水晶に翳すだけでいいんだろう? おい彼女に触るな!
これは……、他の奴らとの態度が違いすぎる。
なんだ? 何があった?
まさか魔法か何かで彼女のことがばれた……?
やはり俺への適性検査は簡単だった。
手を水晶に翳し、
「お。水の適性だ。はい、次。」
これで終わりだぞ!?
こいつ、ガスパールよりもやばい。俺の本能に何かが訴えている。
彼女をこいつの側にやるのは危険だ。
彼女は適性があったのがうれしかったのか、何も警戒していないが……。
彼女を守るのは俺だ。
剣の練習の授業はないのか……?
俺はずっと考え込んでいた。