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さて、この頃は順調にいっております。
やはり、教養の練習をさせて頂いているのは、とても身になっております。
なぜなら、練習の担当--これが面白いのですが、わたしの担当はアレクサンドル様がやると言い出されてしまい、ガスパール様はジルに教えることになったのです--してくださるアレクサンドル様は、練習時は伯爵御曹司として振舞ってくださいます。
これは、目上の方への基本の言葉遣いや、応対の仕方、たまに、いやみや皮肉への返答の仕方まで教えて下さいます。
この皮肉は素ではないか、とわたしは疑っております。怖いので言いませんがハイ。
ガスパール様が、アレクサンドル様に、なぜ俺じゃだめなんだ? なんて聞いておりましたが、
「お前は甘やかすからダメだ。」と、ばっさり斬られておりました。
甘やかしたら練習にならないだろうが。と、わざわざつけたされておりました。
この練習のおかげで、教養の実技は完璧です。ですので、授業では哲学をできるだけやっております。哲学とは一体なんなのでしょう? わたしにはさっぱりですが、授業にあるのですから仕方がありません。なんとか暗記して素敵な名言だけは覚えようと思います。
そして、クラスで班を作り応対のマナーの練習をすることになりました。
貴族と平民が混ざった四名の班を作るのですよ。と、言われて当然のようにわたしはジルと、それから平民の子、ニコルとキッドの二名でした。--これはテーブルマナーを見に来た子たちですね--、他のみんなはざわざわして中々班決めができないようです。
というか、わたしが貴族枠に入っていいのでしょうか?
貴族でも平民でも、応対は同じようにしないといけないということで、慣れさせるのだそうです。もう一つにクラスはどうするのですか? とつい聞いてしまいました。
すると、王族や公爵--公爵家は王族の血縁関係である大貴族です。今のご当主も先代国王の甥御様だそうです。侯爵家も公爵家と同じような大貴族です。先代国王の姪御様が嫁いだと聞いております。ただ、現在は跡継ぎがいないのだそうです。お子が出来ないのでしょうか?
話がそれてしまいました。
王族や公爵という大貴族の方や、伯爵の御曹司様たちをお客さんとしてするそうです。
うわぁ。それは嫌ですね……。
よかったわたし、こっちのクラスで。
よし、わたしは全員をアレクサンドル様と思ってやることにしましょう。
ほほほ!! なんと先生に満点を貰ってしまいました!
わたしの応対を見ていた先生が、途中から班に乱入してまいりまして、その応対をわたしがやったのです!
よくあの皮肉に対応できましたね。と頭まで撫でてくださいました。えへへー!
このくらいの皮肉はアレクサンドル様に比べたら、なんでもありません!
これはアレクサンドル様にご報告しなければっ!!
さて、経済の授業ですが、とても良いことを聞きました。
領地を発展させたいのならば、特産品がないといけない。ということでした。
特産品なんてうちの領地ににありましたっけ?
んー? 小麦……はどこにでもありますよね。
んんー? 芋? 大麦? ……も、どこにもありますよね?
思いつきません……。
これですか? 特産品がないから、貧乏なんでしょうか!?
「はい、先生。では特産品がない領地はどうしたらいいのですか?」
わたしは質問してみました。
すると、それは領地と相談だねぇ。例えば、山を見て周って鉱山などが出たら、それが特産になるだろうし、川があるなら魚をとって加工するとか、その領地によって何を特産にするべきか、やはり変わるのだよ。
なるほど! 領地をしっかり見て周り、特産品になりそうなものを探すのですね。それもなければ、もうみんなで考えろと。
うん、丸投げな気もしますが、その領地その領地で気候も違うから一概には言えないのですね。
しかも特産品ができたとしても、今度はその輸送を考えないといけないそうです。なるほどなるほど。
魚を加工しても腐っては意味がないですものね。うん、なるほどなるほど。
それで領地のある貴族は、商会と出来るだけ仲良くなるように、と教えられました。
同じように、領地のない貴族や平民は、商会に仕事を貰えるように出来るだけ仲良くなるように、と教えられておりました。
結局どちらにも商会は重要ということですね。なるほどなるほど。
……しかし商会の知り合いなんていませんし。残念です。
何日かたちまして、ついに、魔術学園からの交換生が来ることになりました。
わたしはものすごくワクワクしております。だって! もし適性があったらどうしましょう!!
全員が体育館に集められました。武官志望も文官志望も一緒にです。
全部で八十名弱でしょうか?
わたし王族の方を拝見するのは初めてです。王族の方々の美貌は光り輝くようだ。と聞いたことがあるので、早く見てみたいです。
と、その前に、
魔術学園の先生と、交換生の紹介のようですね。お二人は壇上に上がり、先生から紹介が始まりました。
お名前は、ピエール先生と、セルジュ様とおっしゃるようでした。お名前だけの紹介ですので、貴族の方ではないのでしょうか?
ピエール先生は、黒髪に白髪の混じったおじいさん先生でした。もっと髪も長くてお髭もあれば、イメージぴったりな感じの先生ですね。
セルジュさんは、こちらも短めの黒髪に薄い空色の瞳でした。なんというか、魔術師ぽくない感じです。華奢に見えるからなのでしょうか? それとも顔が整っているからなのでしょうか? こちらを睨みつけるように見ていますね。少々冷たそうな感じに見えます。
十五歳とおっしゃっておりますが、大人っぽい方ですねー。見えません、うん。
あっ、決して老けて見えるわけではございませんからね?
と思ったらメガネを掛けだしました。見えなかったのでしょうか……?
壇上に上がる前に掛けたらいいのに。……もしかして天然さんなのでしょうか?
なんかこちらを見ているようです。はっ!? もしや近くの誰かに適性があるのではっ!?
少しきょろきょろと周囲の子達を見てしまいました。
ニコルに注意されました……。わたしとしたことが!
魔力の適性検査は、水晶に手を翳すだけのようです。
ただの水晶ではないらしく、ピエール先生がなにかをしています。
実はわたし、魔法を見るのは初めてなのです!!
しかし、ピエール先生が何をしているのか全くわかりませんでしたっ。
さて、ピエール先生の方には、王族の方や身分の高い方が並んでいます。
武官志望と文官志望で分ければ簡単なのになー。なんて思いながらも、王族の方を見ようと背伸びをしました。
うわぁ!第三王子が出ていらっしゃいました!!
なんでしょうこのオーラ。これが王族ですか……。本当に輝いているように見えますね。うん。
金髪なんですよね? けれど、なんでしょうこれ? キラキラしすぎで金髪に見えない。銀髪でしょうか? 銀かな? ほわぁ。ほんと綺麗。
くわぁっ見えないっ! 周りの平民みんなも一目見ようと必死のようです。
泣く泣く諦めました。ええ。背伸びしても見えませんでした。
後でジルにこっそり聞きました。
「ねーねージル王子様の瞳は何色なの? 背伸びしても見えなかったんだ。」
ジルは思いっきり呆れた顔で、「……紫っぽかった…かな? あんまり良く見えなかった。」
と教えてくれました。
などとこそこそ話していると、公爵様のお姿を拝見することができませんでした。なんということでしょう……! わたしはなんて残念なことを……。
心の中でさめざめと泣いていましたが、段々検査に近づいてきていたので緊張してまいりました。
よくよく聞いていると、魔術学園に編入できるほどの適性を見せる方は中々いないようですが、弱い適性を持つ方はけっこういらっしゃるようです。
さて! とうとうわたしの番です。何でもいいので適性があればいいのですが……。
セルジュ様によろしくお願い致します。と、礼をします。
と、これは水晶に手を翳せばいいのでしょうか?
セルジュ様に確認しようと視線を上げますと、セルジュ様の眼鏡越しの視線とばっちりと目が合いました。じっと見つめられているようですが……何かいけないことでもしたでしょうか?
はっ!? 何か適性でもあるのでしょうか!?
と、セルジュ様が、手を出してくれる? と優しく聞いてくださいました。
あら、冷たそうに見えるけど案外優しいのかも。と思いながら、はい。と神妙に返事をして手を出します。
すると、セルジュ様がわたしの手を優しく掴んで、その上に水晶をそっと載せてくださいました。
水晶が、ぽっと白色に光りました。
わっわっ!? 光ったということは!? セルジュ様っ、もしかして適性が!?
わたわたしたまま水晶を見たりセルジュ様を見たりしているわたしに、優しく微笑みながら、
「うん、光魔法の適性があるようだね。編入できるほどではないけれど、おめでとう。よかったね。」
と言ってくださり、水晶を取ってくださいました。
うわぁ!! 本当にっ? うれしい……!
「ありがとうございます、セルジュ様!」
満面の笑みでお礼を言って、ジルを待つことにしました。
光だって! えへへー! 光魔法使えるようになりたいなー。
どういうのだろう? あーワクワクする!!
と、ジルが終わったようでした。ああー!見忘れました。
「ジルどうだった?」と聞くと、
なんと! ジルは水の適性があるようでした!! やったね、ジル!