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貧乏貴族令嬢ですが男装して入学します  作者: 仲田野 寿
学園編
7/31

5

さて、次の日からガスパール様とご一緒に夕食してから、教養を教えて頂くことになりました。


ガスパール様と同室の、アレクサンドル=フォン=バルテス様--こちらの方も伯爵家の御曹司だったと記憶しております--も、ご一緒に食べてくださったのですが、伯爵家ですから、ご無礼にならないように、と緊張していたのですがこのお方も普通でいいとおっしゃってくださいました。

ガスパール様と同じく武官志望ですのに線が細く金髪碧眼の王子様然とした方で、武官の訓練をしているようには全く見えませんでした。


なんでも、武官は身分身分と言ってると上司が平民上がりの方とかになった場合大変なのだそうです。少しは身分も関係あるらしいのですが、今の王様になってからは実力主義になったようでした。


こうして四人で食べていると、アレクサンドル様がわたしを見て言いました。

「なるほど。ガスパールがなにこれと気遣うのもわかる。

お前は兄弟が欲しかったようだしな。

うん、たとえ文官志望だとしても、この子は確かに細すぎる。これではまるでこの寮がきちんと食べさせていないように見えてしまうね。

平民のみんなは免除されてるけれど、貴族でそう裕福ではない家は入学後のほうが大変なようだね。……これは盲点かもしれない。父に伝えておこう。」


ええええ!? どんだけ貧相に見えるということですかっ!?

いや、たしかに裕福ではないけれど、ジルも食べさせてくれるし、というか、わたしこれでもだいぶ肉がついたと思うんですが!?

と思ってつい口答えしてしまいました。


「あの、アレクサンドル様。わ、僕、早生まれなので少し小柄ですがたくさん食べていますし、裕福ではないですけれど、バルテス卿にお伝えするほどではないと思うのですが……。入学した頃よりだいぶ肉もつきましたし! ねー、ジル。」

と、ジルにも同意してもらおうと話を振ったのですが、ジルは急にガチャッと音をさせてお皿をぶつけてしまいました。


まあ! ジルったらアレクサンドル様に緊張してるのかな。

教養の訓練前に、これは怒られるのではないかな……。

少し心配になりました。と、案の定、


「ジルベール、教養の授業で練習するとは思うが、今も言っておこう。食事中に音を立てるのはマナー違反だからな。まあ、平民なのだし少しずつ覚えていけばよいが、頭にいれておくようにな。」

ガスパール様に注意を受けておりました。


ジルはピクッと反応してなぜかわたしをじとっと見てから、

「申し訳ありませんでした。以後気をつけます。教えて頂きありがとうございます。」

と答えていました。


なんで睨むのジルったら!

まるでわたしの所為だと言いたそうなじとっとした目を見て、わたしはプンスカしておりました。

なんでー? 今のはわたしの所為じゃ断じてないですよっ



さて、その日はジルのおかげというのは変なのですが、そこからその場で食事のマナー勉強になりました。

せっかくなので平民のみんなにも見せていいですか? というと、いいよ。というお優しいお言葉がありましたので、わたしはクラスの平民でテーブルマナーを知らない子たちを呼んできました。


……なぜかわたしが食べながら見本になることになりました。

「いや、僕たくさんたくさん食べましたよ。もうお腹一杯です。」

と言っても、アレクサンドル様がなぜか逆らえない良い笑顔のままで、わたしをじっと見つめるので、……頑張って食べました。最初は。

アレクサンドル様は王子様みたいなのに、ちょっとというかかなり怖いですよね?


途中でどうしても食べられなくて、涙目でガスパール様に助けを求めてしまいました。

ガスパール様は慌てて、アレクサンドル様を宥めてくださり、ジルが見本になりました。うん、ジルごめんね。

決してさっきの仕返しじゃないよ!?

しかし、食べ過ぎて動けない。お腹痛い……。



……食べすぎが祟ったようで、夜、汚い話なのですが、下してしまいました。


生理現象なのです! 仕方がないのです! でもお腹が痛い……。何度もトイレに駆け込んでいると、ジルを起こしてしまったようです。

「どうした? 具合悪いのか? ……食べすぎか?」


ひぃっ! なぜジルは分かるのでしょうか? いや、さすがにこれは分かりますよね。あれだけ無理して食べて、何度もトイレに駆け込んでいたら。うん、でも恥ずかしいのです。

と、ジルが側に来て薬を出してくれました。


「痛み止めだけど、飲んでおくか? あとは、お腹を暖めると良いと聞く。自分の手でも置いて寝てみたらどうだ?」


うん、やっぱりジルは優しい。

ありがとう、と受け取って飲みました。


そしてお腹に手を置いてみたのはいいのですが……何度もトイレに行って手を洗っていたからか、手が冷たい。これ置いても大丈夫だろうか?


「ひょえっ!」 

つめたっ! 奇声を上げてしまいました。……ものすごく恥ずかしいです。なんだ今の声。


ジルは「何やってんだ?」 と言いながら、わたしの手を取って何か手に付いていたのかと見ているようです。

「いや、違うの。手が冷たかっただけ。たくさん手を洗って冷たかったみたいだね。」

……うん、それにしてもジルの手は暖かい。


「ちょっとジルがお腹に手乗せてみて。ジルの手暖かい。」

と言うと、ジルが慌てだした。

「はぁぁ!? いや、でも、あの、「ああ、ごめんね、ジル。ずっと置いててってわけじゃなくて、少しだけお腹良くなるかみてみたいの。ちょっとでいいから。お願いジル。」…………分かった。」

ジルは右手で口元を押さえながら顔をそむけ、長い長い沈黙の後、しぶしぶ左手をお腹に乗せてくれました。うん、やっぱり暖かい。

わたしはお腹に直に触れるようにジルの手を中に入れました。うん、こっちの方が暖かいし気持ちいい。


「すぐ終わっていいから、嫌がってるのにごめんね。」

ジルは一瞬息を呑んだようでしたが、何も言わずに、首を横に振ってくれているようです。

そういえばジルはわたしのお願いはあまり断らないのです。


あまり無理強いをするのはやめよう。うん。

あーでも暖かいな。やっぱり暖めるのはいいんだなー。ジルは物知りだー。うん、眠くなってきた。さっきの薬の所為かなー?

寝ようかな……。


ジルに、お礼を言って寝ることにしよう。

「ジル暖かくて気持ちいい。ありがとう。もう大丈夫、薬で眠いみたい。おやすみ。」


ジルは酷くかすれた声で、おやすみと言ってくれました。


寝返りをして寝ようとすると、お腹から離そうとしたのか、ジルの手が一瞬わたしの胸に触れてしまいました。

つい身体を硬くして顔に熱が来てしまったようです。暗くて見えていないといいのですが……。


ジルは慌てたように、

「ごっごめん、わざとじゃないんだ! ぶぶぶつかってしまって!ごめんシリルっ。」

って、慌てまくりのようですね。珍しい。


「っいや、わざとじゃないのは分かってるよ。わたしこそごめんなさい。わがまま言ってしまって。大丈夫。気にしないで。じゃあ、おやすみ、ジル。」


ジルは深々と息を吐いたようでした。

くぐもった声で「おやすみ。」と言ってくれていましたが、もうわたしは眠いのです。



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