ジル視点2
俺は十二歳になった。
段々変声期になっているらしく、たまに声が掠れる。
クラスでもそういうやつらが多くなってきている。彼女のように小柄なやつはまだなようだが。
これは少し注意しておかないといけないな。
そして彼女は昨年よりもっと女性らしい体形になってきている。
胸もかなり成長した。
多分彼女の母上は、大きめな胸の方なのではないだろうか?
聞いたことはないし、聞けるはずもないが、彼女を見ているとたぶんそうなのではないか?と思っている。
だからなのか、念のためなのか、彼女はサラシも巻き始めた。
しかし、サラシは逆に胸が厚くなって少しおかしいかもしれない。これはどうしたらいいんだろう。
って、俺はいつも見ているわけじゃないぞ!?
たっ、たまに、っ少し、ほんのちょっと、見るだけだ。朝とか……。
ああ、落ち着こう。思い出してはダメだ。
ここは食堂だ。うん。気をつけろ。
ふぅぅ。
この年からは本気で授業を受けないといけない。俺は地理と兵法はいいんだが、教養が苦手だ。貴族相手のマナーなど分かるわけがない。
……これは変更科目に教養を入れてもいいかもしれないな……。
しかし彼女を一人にするのは嫌だ。
うーん、どうしようか。
などと考えながら、僕と彼女の食事を取ってきた。
と、彼女は雛鳥よろしく、ちょこんと座って待っている。やはりかわいい。
一瞬胸元に目線が行ってしまった。まずいまずい。落ち着け。
が、今日はどこか真面目な顔だな?
うん、俺の目線は分かっていないようだ。
何かあったか?
いつもは今日のご飯は何かなーという顔をして俺を待っているというのに。
彼女に食事を渡し、真面目な顔して何かあったのか、と聞く。ありがとう、とニコっと彼女に言われ、俺は笑顔でううん。と返しながら食事を食べ始めた。すると彼女はさっきの俺の質問に答えだした。
来年の交換選択科目を考えていた、と、彼女はその丸い目を思案に輝かせながら言う。
なるほど。これは魔術の適性のこと忘れているな。と思い、
「魔術の適性を見てみてからでもいいんじゃない?」
と言ってみた。
すると、彼女は手を叩いてぱぁっと表情を変え、うれしそうに笑った。
どうして彼女はこんなに可愛いのだろう。
俺は癒されながらその顔を見て食事を続ける。
と、ガスパールがまたデザートを持って来た。
くそ、またこいつか!
しかもプリンは彼女の好物だ。この野郎……。よく見てやがる。
やはり女だと気付いているのか?
彼女を見ると、ものすごく喜んでいる!
平静を装っているのだろうか? 顔が綻んでいくのを隠すかのように、ピクピクさせながら言っている。
うん、バレバレだよ。
そんなところも可愛らしい。俺はついついほっこりしてしまった。
「ガスパール様、こんにちは。これもよろしいのですか? いつもありがとございます。ごちそうさまです。」
そうだった。持ってきたのはこいつだった。……俺が彼女にこの表情をさせたかった!!
ガスパールもうれしそうにしやがって!
と、
「だいぶ真面目な顔をしていたけれど、何か心配事かい?」
……いつから見てやがったこいつ。ストーカーじゃないのか!?
彼女は何も気付かず、ガスパールに答えている。
「……ジルもごめん。ご飯は楽しく食べるつもりだったのに。つい考え込んでしまって。」
俺ははっとして彼女を見た。あまりのイライラ加減についガスパールを睨んで聞いていなかった。
いやいや、なんでもないよ。と答えながら、俺のことも気にしてくれていた彼女にうれしくなる。
と聞いていたガスパールがこう言った。
「もしよかったら俺が教えようか? 貴族的な教養なら普通になら分かるが……。授業が終わって寮に帰ってから少しの時間になってしまうが。」
くそがっ! こいつやっぱり侮れない!!
俺はげっと思って彼女を見たが、彼女は顔を歓喜に輝かせ、
「はいっ! 是非、よろしくお願いします! ね、ジル!」
と言った。
おお、彼女は俺のことも一緒だと思ったようだな……。
あれはどう聞いても彼女だけを誘っていた。
「…………よろしくお願いします。」
しかしそうはさせるか!
一瞬ガスパールが俺を睨んだように見えた。こいつやっぱり……。
要警戒注意どころじゃない。警報だ!
「じゃあ、明日からにするか? 授業が終わってから夕食までの間……じゃないな。逆にしよう夕食が終わって風呂に入る時間まで、練習しようか。」
「はいっ!」
彼女は可愛らしく微笑んで返事をしているが、なぜ風呂前までなんだ? これは罠だシリル!
これは彼女を、教養の訓練終わった=疲れたな、風呂にでもいくか=一緒に行こう の流れなのではないか!?
警報どころではない!! 次はなんだ!? 退場だ!!
これは、けっこうまずいな。どうやって彼女を守ろう?
あざでいけるか?
いや、どうだろ……。うーん。あの野郎……。面倒なことしやがって!
俺は考えていたら、無意識に料理をガスパールに見立てていたらしく、食べている料理にフォークをグサグサ刺していたようだ。
「ジルっ。食べ物にいたずらしちゃだめでしょう? 嫌いなものでもきちんと食べないと。」
彼女に怒られた。
彼女は食べ物を残すのが嫌いなのだ。もったいないお化けが出ると信じている。
違う、嫌いなものなんかじゃないんだ。ガスパールにちょっと腹が立って……。と言い訳できないのがツライ。
俺はため息をつきながら、細切れになった料理を食べた。




