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あれから一年が経ちました。わたしは十二歳になりました。
ここからが本気の勉強になりそうです。歴史と教養、経済が授業に入ります。
歴史は大丈夫なのですが、教養はジルも苦手なようです。これは困りました……。
なぜなら、どうしてもできない科目は二つまで、高学年になったら変更できるのです。
--来年から変更可能なのですが、わたしはそれを、兵法と地理の二つにしようと考えていました。
兵法には敵の心理を考えるという手法があるので楽しいのですが、
--授業の一環としてチェスをするのです。これが奥深いのですよ! ええ! 負けますけども!
シリルは素直すぎるから、こちらには向いてないね。と先生に言われたので、確実にダメなのでしょう。
地理はもう、お分かりかと思いますが、ジルにもやめたほうがいいかもね。と言われました。くるくるしているのはとても可愛らしいけれど、それじゃ部隊は進めないからね。と言われ、やはりこの二つを交換しようと思っていたのに、また苦手な教養が出てきてしまいました。これは困りましたね。
経済は、本気で取り組まなければなりません。領地経営と密接に関係するようです。貴族の子弟がたくさん受講するようです。
さて、本当に来年は何を選考しようか迷いますね。外国の要人が来たときに通訳できるように外国語でもいいですね。ああ、それだと外国の歴史もセットでしょうか?
うーん。それも悪くないけれど、どうしようかな。
なんて考えていたらジルが食事を持ってきてくれました。
「はい、どうぞ。……ところで、何をかんがえていたんだい? シリル。」
と、ジルが取り分けてくれました。本当に親鳥みたいだー。ありがとう、とお礼を言ったわたしにジルは柔らかく微笑んでくれました。
二人で笑いあい、ほのぼのと和やかに食べながら、さっきの質問に答えます。
「えっとね、今年から歴史と教養と経済が増えたでしょう? わたしは経済はかなり本気でやらないといけないから、来年の交換選択科目を考えていたの。外国語と外国の歴史でもいいんだけど、どうしようかなーって。」
と教えると、ジルが魔術の適性を見てみてからでもいいんじゃない? と教えてくれました。
そうでした。と、わたしは手を叩きました。忘れていました!
もうすぐ十三歳、学園の七年生になる少し前に、魔術適性を判定してくれる魔術学園からの交換生が来るのでした。
なんでも、魔術もできて尚且つ他の成績も良い生徒で希望する方--例えば、宮廷魔術師団に入るとか、宰相狙いの方--は、見習いになる十六~十八の間か、十五の卒業を前に交換生として仕官学園に勉強しに来るらしいのです。
そうです、十六で成人してから見習いになるのです。これは、一応見習いと言っても少しですがお給金はいただけるとのことで、責任のある年齢になってから見習いにということになったそうです。かなり昔に議論になってこうなったようです。
たしか、十六より上の見習いと十六から下の見習いでも、同じ見習いなのにミスをしたときの責任が、十六からの下の子の方が軽くなる傾向にあり、それで議論になったようです。そして、線をはっきり決めたということでした。
ああ、魔術交換生のことでした。
交換生が来たときに、指導の先生お一人が挨拶に見られるようで、その時についでに判定をしてもらい、そこから魔術適性が大きく、且つ希望する人は魔術学園に編入できるんだそうです。
どちらかというと、それはかなり珍しいとのことでした。
普通は編入できるくらい適性がある方は、生まれたときに分かるらしいのです。そして、幼い頃から魔術を学ぶようですね。
でも極々稀に、成長してからも魔力が上がる人がいるようなのですね。それで、こういう制度を採っているそうです。
学園に来れない一般の方は、希望したら教会で出来るはずでした。こちらはうろ覚えですけどね。本当にやっているのかな? うちの領地の教会では見たことないのですけれど。
と、わたしが魔術のことに思いをはせていると、ガスパール様がまたデザートを持って来て下さっていました。
これ余ったから食べるかい?と言いながら出してくださったプリンにわたしは喜びました!
わたしはできるだけ平静を装って言ったつもりですけど、顔が綻んでいくのは隠せたでしょうか?
「ガスパール様、こんにちは。これもよろしいのですか? いつもありがとございます。ごちそうさまです。」
わたしが心の中では嬉々として、顔は平静を装って黙々と食べていると、ガスパール様が聞いてきました。
「だいぶ真面目な顔をしていたけれど、何か心配事かい?」
わたしはそんなに真面目な顔をしていたのでしょうか。せっかくのお昼ご飯でしたのに。ジルにも申し訳なく思いました。ご飯は楽しく食べるものですね。
「いえ、心配事とまではいきませんが、来年の授業のことを考えていたのです。」
「来年? どういうことだい?」
「はい。ええと、武官志望の方の授業はどうなのかわからないのですが、僕たち文官志望は、苦手な科目を来年から二つほど交換できるのです。苦手なものを頑張るより得意なことを伸ばして、専門的な道に進んで欲しいから。とのことでした。
それで、僕は兵法と地理がどうしても苦手のようでして、それと交換しようかなと思っていたのです。しかし、今年から教養の授業も始まったのですが、僕たち貧乏貴族や平民は教養を予習することができませんでした。それで、交換科目と苦手科目などのことを少し真面目に考えてしまったようです。
……ジルもごめん。ご飯は楽しく食べるつもりだったのに。つい考え込んでしまって。」
なるほど、と聞いていたガスパール様は、わたしとジルにこう言ってくださいました。
「もしよかったら俺が教えようか? 貴族的な教養なら普通になら分かるが……。授業が終わって寮に帰ってから少しの時間になってしまうが。」
えっ!? こんなところに家庭教師がっ!!
願ってもないことです!
「はいっ! 是非、よろしくお願いします! ね、ジル!」
わたしはうれしくなってお願いしました。
「…………よろしくお願いします。」
ジルもお礼を言っています。よかったねジル!
「じゃあ、明日からにするか? 授業が終わってから夕食までの間……じゃないな。逆にしよう夕食が終わって風呂に入る時間まで、練習しようか。」
やはりガスパール様は親分肌の世話焼きさんなのかもしれない!
「はいっ!」
「夕食を終えたら一緒に俺の部屋に行こう。ルームメイトにも話しておく。一緒に教えてもらえるかもしれないしな。じゃあまた。」
「ジルっ! 本当によかったね。これで、教養は心配いらなくなるかもしれないよ!」
と、喜び勇んでジルに話しかけたのだけど、ジルはなぜか食べている料理にフォークをグサグサ刺していました。
「ジルっ。食べ物にいたずらしちゃだめでしょう? 嫌いなものでもきちんと食べないと。」
ジルはため息をつきながら、嫌いなものを頑張って食べているようでした。
うん、エライねジル。




