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貧乏貴族令嬢ですが男装して入学します  作者: 仲田野 寿
学園編
25/31

ジル視点6

魔術の授業で大変な敵ができた。


王子だ。

なぜかいつもいつも彼女に絡む。

彼女の髪に触れ、頬に触れ、唇に触れ、首筋に触れる……。

くそ。触るな!!


ついつい睨むように見てしまう。それが面白いのだろうか?

反応しなければいいと思うだろうが、無理だ。彼女が嫌がっているのに、それを庇うなというのは俺の存在意義に関わるのだ。

そして、ドヤ顔で俺とガスパールを見る。こいつ何なんだ!? 本当に王子なのか!?



そんなイライラを稽古にぶつけてしまう俺は、剣士ではないのだろうな。


何度か相手に怪我をさせてしまった。申し訳ない。反省して集中しなければ!


と、シリルと呼ぶ声がして意識が浮上する。


はっとして見ると、エルネスト様が彼女を抱き上げるところだった。

何があった!?

彼女が怪我をしたのか!?


と、彼女がエルネスト様の首に手を回している。

シリルっ!!? どうしたんだっ?


彼女が俺以外の男の首に手を回している。


俺はおかしなくらい息が浅くなり、心臓がぎゅっと潰れそうになった。

見たくない。

何があった?


……エルネスト様が真っ赤だ。

……これは確実に、彼女が性別を偽っていることを気付かれた。

こいつの動きによってはシリルは退園になってしまう。

まずこいつから彼女を離さなければ。


「シリル、こっちにおいで。」

俺の顔は今どうなっているんだ? エルネスト様からものすごく怯えられた気がする。


彼女は俺とエルネストを間違えたようだった。

……それで彼女はエルネストに抱きついたのか。

先ほどの息苦しさが嘘のように、俺は心の底から安堵した。


いや、俺が側にいれば!


俺がきちんと見ていたら。彼女が無理をしないように見ていたら。と不機嫌になっていると、彼女が謝ってきた。


いや、彼女が悪いんじゃない。どちらかと言うと、彼女がヒールを使う、その怪我をさせているのは俺だしな……。

自分に怒っていたんだ。



その日魔術組みで夕食を食べることになった。それはいい、それはいいんだが。

なぜ風呂も一緒なのだ!? しかも王子が、彼女が絶対に断れないように仕向けた。やはりこいつも敵のようだ……。


しかしどうする……。

彼女が覚悟を決めた。

彼女が退園になるなら、俺も出る。


と、セルジュが部屋に来た。

なんだこいつ、俺たちの部屋に来るな! 


幻影魔術だと? ……それならいけるかも。こいつは俺にとっては敵だが、彼女の味方だ。


?? なぜか彼女がぶれて見える。セルジュは気が付いていない。なぜだ?


風呂では問題がなかった。王子とエルネスト様がじろじろ彼女をみるのが気に食わない。

念のため、言い訳をしておこう。

そして、すぐに出よう。



この風呂の日から、魔術組みで夕食をとるようになった。

彼女に絡まなければ、俺は別にいいのだが……。俺を見る二人の目がなんともいえない感じで、気持ちがいいものではない。

なんなんだ?一体。



模擬大会から学園祭に変更になったが、俺のすることは変わらない。稽古だ。


家族を呼べるようだったが、俺には神父さんしかいないし、神父さんは俺だけの家族ではないから、呼ぶのはやめた。


……模擬大会では、彼女は俺を応援してくれるそうだ。

頑張ろう。



学園祭当日。


俺の相手は彼女に剣をぶつけそうになったやつではなかった。残念だが、仕方がない。


相手はでかいやつだった。


手数は俺の方が多いのだが、一撃が重く、避けるのも精神的にきつい。


俺はジリジリと負けていった。

あー、くっそ。

もう少し早くから稽古をやっておけばよかった。


汗臭いのを彼女に知られたくないので、急いで控え室に行きシャワーを浴びる。


そのうちに、彼女だけではなくぞろぞろと王子やエルネスト様や、そのご家族様方がやってきた。


俺は彼女に視線で問いかける。

こいつら何? 彼女は首を振り、わからない。

と答えた。俺も意味が分からない。


何なんだ? 沈黙しているし。


と、なんというか、美人なのだが薄幸そうな人が俺に話しかけてきた。声が震えている。


「あなたは、ジルベールと言うのね?」

「はい。お初にお目にかかります。ジルベールと申します。王子やエルネスト様と一緒に魔術を教えて頂いております。」


「あなたは、北に、クレティアン家の領地に住んでいたの?」

「は? ……ええ、孤児ですので、そこの孤児院におりました。」

なんだ? 俺が何かしたのか?


「そのとき持っていたピアスは、その耳のピアス?」

「……ええ、そうですが……。なぜそれを?」

ピアスのことは俺と神父さんしか知らないはずだが……。


「貸して頂けるかしら?」

「はぁ? ……失礼致しました。どうぞ。」

思わず、はぁ? と言ってしまった。

彼女に肘でつつかれた。だって、何なんだこいつら?


さっきの女性が震える指で俺のピアスを受け取ると、それを机にぶつけて壊した。そして壊したピアスをまじまじと見ている。


じゃねえ! おい、こら。なんだこの女、人の大事なピアスを壊しやがった!

これは怒ると不敬罪になるのだろうか?


と、彼女を見ると、彼女はエルネスト様に抱きかかえられていた。


お前、彼女に何やってる?


と、ピアスを見ていた女が泣き出した。

なんだ!? なぜ泣く??


おわぁ!? 抱きつかれた。


な、な、なにするんだ!? 彼女がみているだろう?

と彼女に目を移す。


エルネストが、やつが、彼女に触った。

あれはどうみても女性に対してする、しかも、なんだ? なんとなく手つきがいやらしかった。


しかも彼女の顔が赤い、瞳もいつもと違うように見えた。

何を言われた?

……あのエルネストの顔。あれは彼女に欲情している。


こいつは、敵だ。

彼女は、渡さない。


俺に抱きついたまま、女性の泣き声がまだ聞こえる。

そういえば、抱きつかれたままだった。

と、

「ジルベール。わたしの大切な子。こんなところにいたのね。生きていてくれたのね! ずっとずっと探していたの。」


えっ!?

ええええ!!?


そう言ったきり、俺を離さない母と名乗る女性に変わり、公爵様という方が話し出した。


俺はこの人の甥らしい。


俺は捨てられたのではなく、攫われたのか。

戦争の捕虜交換の道具にされるために攫われたのか。


……南の国から、公式に殺したと言われていたのに、ずっと探していてくれたのか。

病気になるまで。

病気になってまで。


そのとき俺は、母の側にいてあげなければ、と強く思ってしまった。


離したらまたいなくなってしまうのではないか、と思っているのだろうか? 女性にしては強い力で俺を離さない母。


震えながら俺を抱きしめている母の背中を、感謝の気持ちで俺は撫でた。



俺はこのまま一度、侯爵家に行ったり、王様に会いに行ったりするとのことで、学園を休園することになった。


俺が見つかったのは、シリル、彼女のおかげだ。

彼女がこの学園に入ると言わなかったら、俺はあの領地からここには来なかった。


母と叔父が落ち着いたら、これは必ず、言っておこう。

後、彼女の事情も。


俺が少し学園からいなくなって母の側にいる間、彼女のことを守れるように手を回そう。

ほんの少し、彼女の側から離れるけれど、必ず戻ってくるから待ってて欲しい。


あのときはバタバタしていて彼女に何も言えなかったから、俺は手紙を書くことに決めた。


大好きなシリル。

俺の女神。


待っていて欲しい。



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