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ジルの番になりました。
お相手の方はジルと同じくらいの背丈ですが、横に大きいです。
勝てるのでしょうか? 怪我はしないでしょうか? 心配です……。
打ち合いはできているようですが、段々ジルが下がっていきます。
ジルのほうが何回も攻撃はしているのですが、お相手の方の剣を受けると、ジルの顔が歪みます。これは、お相手の方の力が強いのでしょうか?
……ああ、負けてしまいました。
やはり武官志望でずっと稽古していた人とは、まだ勝負にならないのでしょうか。
ジルは頑張っているので言いませんけれど。
ふぅ。と、ため息をついて王子とエルネスト様を見ます。
お二人は文官一本で行くのでしょうか? 剣はやらないのかな? と聞こうと思ったのですが、王子とエルネスト様だけではなく、ご家族の方々全員が恐ろしいほど沈黙しております。
? 何があったのでしょう?
なんか怖いので、エルネスト様に一言断ってからジルのところにいきましょう。
「あ、あのエルネスト様? 僕はジルのところに行ってそのままクラスに戻りますので、ごゆっくり観戦してきてくださいね。では、失礼します。」
と、そそくさと行こうとしたところ、誰かに腕を捕まれました。
むっ。こういうことをするのは王子ですね!? 痛いですよ!
と、思いながら振り向くと、
王子は王子でも、第二王子殿下が腕を掴んでいました。
ひっ!ひぃぃ!?
もっ、もしかしてみなさまに退席のご挨拶をしたほうがよろしかったのでしょうか!?
不敬罪にあたるのでしょうか……っ?
やだ、こわい! 痛い! 力強い!
どうしよう。どうして離してくれないのでしょう? 痛いし……!
でも振り払ったら、もっと不敬罪ですよね!?
どうしましょう?
わたしは怯えたままエルネスト様に助けを求める視線を送ります。
「シリル。ジルベールのところにはみんなで行こうか。僕たちも行こうとしてたんだ。……セレスタン殿下。シリルが痛がっておりますから手を離してください。」
「……すまなかった。つい。……っ」
エルネスト様が取り成してくださいました。
セレスタン殿下は慌てて離してくれましたが、捕まえてたわたしの腕を確かめるためにでしょうか? 急にワイシャツを肘までめくり上げられました。
もうやだーやっぱり王子に似てる。
赤くなっていたらしい腕を、すまなそうに撫でてから謝られてしまいました。
「いいえ、大丈夫です。僕のほうこそご挨拶もせずに申し訳ありません。」
といいながら、エルネスト様の後ろに隠れてしまいましょう。うん、怖いし。
セレスタン殿下とエルネスト様お二人から、少し驚いたような顔を向けられました。
あら? あからさますぎましたでしょうか? いやでも、ねぇ? 怖いし。
ということで、なぜか全員ぞろぞろとジルのいる控え室に行くことになりました。
あー、この方々と一緒に動くのは嫌過ぎます。
ものすっごく目立っている気がします。
控え室につきました。
ジルはシャワーを浴び終わったところだったようです。
ああ、よかった。すれ違わないで。
「ジル。残念だったね。お相手の方力強そうだったね! でもジルに怪我がなくてよかったよ。あ、こちらの方々は、王子やエルネスト様のご家族様方だよ。一緒にジルの応援していたんだよ。」
わたしはジルを労ってから、ぞろぞろとそこにいるご家族様方を一応紹介しました。
というか、紹介するのってわたしの役目なの?
ジルも目線で、なんで一緒に来たの? とか、わからない。という会話をわたしとしています。
ほんとみんな静かだし、なんで何も話さないんでしょう?
と思って首を傾げていると、侯爵夫人がお話になりました。
「あなたは、ジルベールと言うのね?」
「はい。お初にお目にかかります。ジルベールと申します。王子やエルネスト様と一緒に魔術を教えて頂いております。」
「あなたは、北に、クレティアン家の領地に住んでいたの?」
「は? ……ええ、孤児ですので、そこの孤児院におりました。」
「そのとき持っていたピアスは、その耳のピアス?」
「……ええ、そうですが……。なぜそれを?」
「貸して頂けるかしら?」
「はぁ? ……失礼致しました。どうぞ。」
やだジルったら! わたしは肘でジルをつついた。はぁ? じゃないってば!
ていうか、何これ?
侯爵夫人は震える指でそれを受け取ると、急にそれを机にぶつけて壊してしまいました。
そして壊れたピアスをまじまじと見ています。
って、ええええええ!?
「ちょっ!? ……なにをっ?」
それはジルの大事なっ
つい、抗議しよう侯爵夫人の方に行こうとしてしまいました。
と、エルネスト様が、
「シリルっ。いいから。大丈夫、そのままで。」
後ろからわたしを抑えるように腰に手を回して、侯爵夫人に行かないように引き寄せているようです。
そこまでしなくても、もう行きませんが!? 近いですっ。
手を引っ張ってくれてもよかったのでは! って、ああ、先ほどの赤くなってる腕を見ていらっしゃるからでしょうか? 気を使っていただいたのでしょう。
ジルの目線がきつくなりました。
と、夫人から嗚咽が漏れています。
え? 泣いてるの?
何したの?
ジルも驚いて見ています。
と、夫人がジルに抱きつきました。
ちょっと!? わたしのジルに何するの!!
エルネスト様の腕の中で動くわたしの肩を押さえたまま、エルネスト様はわたしの前に移動してきました。
そして、わたしをじっと見つめると、宥めるように髪を撫でました。
エルネスト様の指先がすっとこめかみから後頭部に移動し、後頭部から首筋を撫でて頬を経由し、髪を耳に掛けてくれました。
わたしは背中がぞわりと反るような感じになりました。
エルネスト様がわたしの耳元で囁きました。
「シリル。後で説明してあげるから、もう少し待っててね。」
すみません、たぶんわたしの顔は赤いはずです。
とても熱いのです。
わたしは俯いてしまいました。
ふっと笑ったようなエルネスト様は、わたしの頭をぽんぽんと安心させるように、撫でるように叩いてくれました。
なんでしょう? 今の。
なぜこんなに身体が熱いのでしょう?
夫人の泣き声がまだ聞こえてきます。
「ジルベール。わたしの大切な子。こんなところにいたのね。生きていてくれたのね! ずっとずっと探していたの。」
ええええええ!?
ジルが侯爵夫人のお子さん?
どういうこと!?




