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お風呂事件からは、わたしは普通の日常でした。
普通と言えばそうなのですが、夕食だけは変化がありました。それは、魔術組みで夕食をとるようになったのです。
普通じゃないといえば……これはただ、なんとなくですが、あれから王子とエルネスト様がよくわたしとジルを観察するような目で見ている気がします。
少し怖いです。なのでジルの側から離れないようにしています。
わたしは夕食を食べながら、みんなの話を聞いていました。
模擬大会がもうすぐあるそうで、稽古は大変です。武官志望の方とジルは本当にいつも稽古稽古のようです。
なにか賞品でもでるのでしょうか?
わたしはつい、聞いてしまいました。
だって、大会といえば賞品ですよね?
王子は笑い出しました。
「模擬大会で賞品とか! シリルは本当に飽きないな。面白い。……ふむ。しかし、たしかに良い案かもしれない。みんなの士気もあがるだろうな。少々大々的になってしまうが、今からでも変更できるか?」
エルネスト様と考え込んでいます。
「……そうですね。出場者のご家族にも案内を出して、そして賞品になるものも寄付して頂くというのはどうでしょう?
ご家族なら大会を見たがる方も多そうですし。……それに、例えば騎士になっているOBに講評してもらうこともできます。それならば、大会に出る武官志望のみんなも得るものが大きいかと思います。」
セルジュさんが口を挟みました。珍しいですね。
「じゃあ、武官だけが楽しそうだから、文官志望も授業の一環として何かしたらいいのではないでしょうか? 例えば、経済の成り方や平民の商売の仕方を覚えるために、仮の商会を出してみるとか。んー、出店ですね。
本格的なのは無理でしょうから、まあ、学食の食事を提供することになるでしょうが……。それでも、商会に入る者にとってはかなりの実地訓練になりますし、ご家族様がいらっしゃったときの応対の仕方などは、教養の授業になりますしね。」
王子の瞳がキラッキラし始めた。
「それはいい!! 武官だけが楽しそうだな、と少し面白くなかったのだ。それなら、文官の家族も呼んでもいいしな! セルジュでかした。良い案だ! さっそく理事長に話を通してくる。」
ふわぁ! なんかすごいことになりそうです。
王子が理事会に掛け合って決定したことはこうでした。
武官の模擬大会のときに、一緒に文官の授業兼商会実技訓練をする。
名称は、仕官学園祭とする。
呼べる人は生徒の家族及び親戚、または、それに準ずる人。案内状を貰った人からの推薦者。
そして学園のOB。OBからの推薦者。
一、二年生は、飲み物だけを売る店。
三年生は、受付と案内をすることに決まりました。
四年生は、軽食を出す店。そしてその食べる場所への案内兼応対。
五年生は、四年生の手伝い兼運び係
六、七年生は、軽食ではなくきちんと食事するお店。そしてその食べる場所への案内兼応対。
八年生は、手伝い兼運び係。
九学年は総合案内係兼低学年のお手伝いのようです。
わたしたちは、七年生ですのでがっつり食べる系のお店ですね。
大々的になりすぎて、驚きましたが、なんとなんと、理事長がノリノリのようなのです。
というか、この模擬大会兼お祭りを開催した場合の学園に入ってくる経済効果を算出してみたところ、ものすごいらしかったのです。
それで諸手を挙げて賛成してくれたようですね。
貴族と取引のある商会も入ってきてくださいました。こちらは学園とのコネ作りの一環のようです。
大変なのは学食の方々のようでした。
なので、先生もここをお手伝いするようです。
さて、それからの準備も大変でした。
ただ、わたしたちはそのまま学食をお店に使ってもいいことになりましたので、運ぶことはそんなに大変ではないのかもしれません。
学食中を飾りつけ、メニューを作成する。
こういうことに慣れているのか、平民のみなさんが音頭を取ってやってくださいました。
メインで応対する方を決めて、--これはほとんど貴族みんながやることになりました--
そして運ぶ係り、これは、平民のみなさんがしてくれることになりました。
わたしは一応貴族とのことでお客様との応対担当になりました。
そして交代で休む番を決めて、模擬大会に見学に行けるようにしてくれました。
この準備で、わたしたちクラスの平民も貴族もみんな仲良くなったと思います。
一時は街の酒場にいるような、看板娘ということでわたしを女装させてお客様をもてなしたらどうだろう? などというふざけた話になったのです。
しかし、わたしはどうしてもそれはできないので……、ええ、当たり前ですよね!?
それをするなら、一人ではなく全員で看板娘になったら面白いんじゃないの? と提案したら、自分のことになると嫌だそうで、普通のままになりました。
あぶなかった!!
そして、模擬大会のほうはというと、なんと魔法を使える人は魔法も使っていいのだそうです。
魔法を使ってくる賊や魔物もいるのだから、それの練習にもなるために許可されているそうです。
ただ、それが隙になって敗れることもあるらしいので、一長一短のようですね。
ジルはどうするのでしょうか?
この頃はずっと稽古ばかりしております。
あまり無理をせずに、怪我などしないで欲しいのですが。
そしてわたしたちは、学園祭の案内はやはり出さないことにしました。
ジルは神父さんに出そうか迷っていましたが、孤児みんなを置いて来ることは無理だろうし、ここまで来るのはもったいないしね。
と、少し寂しそうに話していました。
わたしが神父さんの分までジルのことを全力で応援するからね!
ただ、怪我はしないようにね! もししたら治せるけど、でも心配だから。
と言って慰めると、ジルはうれしそうに穏やかに微笑んでくれました。
さあ、もうすぐ学園祭です!




