ジル視点5
進級する前に、彼女に進級したら必ず夏服だろうと正装=ベストを着るように約束させた。
彼女はあせもがどうこう言っていたが、ダメだ。
サラシが見える可能性がある。というか、着ないと身体の線がおかしいのだ。
それにそろそろ意識して声を低くしないと、そう今のうちから慣らしておかないと咄嗟のときにでなくなる。
彼女は何も気が付いていないのだろうけど、周りの目線がかなり気になる。
ガスパール。これは、おかしいどころじゃない。意識しまくりだ。
ただ悩んでいるそぶりが見られる。これは、理性は女性とは気が付いていないのに、本能が気になって気になって仕方がないのだろう。
目がずっと彼女を追っている。絶対に近寄らせたくはない。……が、彼女は餌付けされているんだよな……。
アレクサンドル。この人は、いまいちよく分からない。思考が全く読めない。要観察だな。ただ、なぜか彼女を気にしているようだ。
思考が読めないから、彼女を近寄らせたくはない。
そして、セルジュ。
こいつは絶対に分かっている。しかし、どういう風の吹き回しだ? 彼女にちょっかいをかけなくなった。いや、違うな。ちょっかいはかけるが、悪意がない。
最初は悪意だらけかと思ったが、あれは俺に対しての嫌がらせだったのだろうか。
しかし、彼女を近寄らせたくはない。
そう、俺はただ単に、彼女を他の男に近寄らせたくないのだ。
それなのに!!
ああ、それなのに、またしてもガスパールが余計なことをし始めた。
稽古の練習に治療魔法の練習を混ぜてやることになった。
セルジュにわざわざ許可までとってだ。
しかもセルジュは俺も一緒に許可を出した。これには驚いた。
そしてセルジュも一緒に稽古に出るらしい。
俺はここぞとばかりに剣の練習をさせてもらうことになった。
稽古の日。
案の定、彼女は注目の的だった。文官クラスでも一番小さくなったというのに、武官クラスではな……。ガスパールめ……。彼女が目立つだろうが!
俺は油断していたのだろうか。
まさか俺が剣の型を教えてもらっているときに彼女に危険が迫るとは思いもしなかった。
というか、武官の癖に剣を手放すとはどういうことだ!?
くっそ!!
彼女はセルジュに庇われていた。
俺が庇ってやりたかった……。
いや、それもあるが、あのときのセルジュは本気だった。顔が驚愕に満ちてそして身体が勝手に彼女を庇ったような感じだった。
しかもそれを後悔しているようだった。
後悔というか、なぜ自分が動いたのかわかっていないようだった。
こいつには、絶対に近づけさせない。
こいつは彼女に惚れている。しかも自分でそれを分かっていない。そんなやつに渡せるものか! 俺は幼い頃からずっと彼女が好きなのだ。彼女は俺のものだ!
彼女に剣を飛ばした奴が謝りに来た。
……顔を覚えた。こいつは絶対に模擬大会で倒す。俺は目標を定めた。
彼女はそれから何度かヒールを掛けていた。どんどん顔色が悪くなっていく。
そろそろやめたほうが……と言おうとした時に、やはり休むようだった。
彼女に大丈夫なのかと聞きに行くと、彼女は恐ろしいことをのたまった。
「ねえ、ジル? ジルはみんなの匂い大丈夫? わたしこんなに臭いと思わなかった! 男の人たくさんだとダメだね。びっくりしたよ。」
正直に言おう。俺は後退した。そして誓った。剣を持って汗をかいた後は、必ず風呂に入ってから彼女に会おうと。
例えば彼女に、
「ジルちょっと臭いよ? 寄らないで。」
なんて言われたら……おれは死ぬ。
想像しただけできりきりと心臓が痛い……。
落ち着け、今のは想像だ。
進級した。
特に変わらない。俺は剣の授業を取った。彼女を物理的にも少しでも守れるようになるためだ。セルジュへの牽制もある……。
魔術の授業が鬼門になりそうだ。
彼女がアイドルを見る女たちのような目になってしまうあの王子と一緒なのだ。
彼女のはしゃぎっぷりはすごかった。
授業に早く来すぎてずっとワクワクソワソワしているのだ。
俺は嫉妬した。
あの王子の何がいいんだ? 見た目は確かにいい。だが、彼女が尊敬しているのは王様だろう? その方の息子というだけじゃないか!
イライラする。しかし我慢だ。相手は一国の王子。
生意気な態度でもしてみろ、学園をやめさせられるなんてこともあるのかもしれない。……そんなことになったら彼女を守るものが居なくなってしまう。それだけは絶対に避けなければならない!
よし、王子が入ってきても睨んだりしなかった。いい感じだ。
キラキラした目で王子を見つめ続けている彼女に一瞬ピクッとしてしまうが、落ち着け……ミーハーな彼女はそれはそれでかわいい。うん、彼女は何をしてもかわいい。
よし、落ち着いた。
ふぅ。
いつのまにか自己紹介が始まっていた。
ああ、聞いていなかった。
次は彼女か。噛んだりしないだろうな?
よし無事に終わった。次は俺だ。無難に無難にいくぞ。
って!! なんだこの王子は!
彼女に絡みだしただとっ!?
ちっ! フォローしないと!!
「恐れながら……。」
うわ、ガスパールにアレクサンドル様まで立ち上がってくれている。
王子笑っているし……。笑い事じゃねー。
ていうか、ほんとに、どんな保護者だよ……!
自分の自己紹介もしてほっとしていた俺も悪かった。うん、聞いてなかったんだ。
シリルと呼ばれた名前にはっと反応したが、驚いたのは彼女もだったようだ。
思いっきり噛んでいた。
あーあ。
これはまた笑われるぞ……。
思ったとおりだ。王子も公爵家の息子も笑っている……。
で、何をするんだ? ああ、手本を見せるだけか。
俺でも良かったのにな。
いや、やつが彼女に絡める隙を無くすはずがないか……。
彼女の頭を気安く触るんじゃない。
こいつはスキンシップが多い、彼女限定だが……。
くそむかつく。後で消毒がてら思いっきり俺も撫でておくか。
と、思ったんだが……俺ははっとした。そうだ、あまり触ると止まらなくなるからダメだ。うん。自重しないと……。
あーー正直に言おう、俺は卑劣な奴だ……。
実は前。
彼女に言われて腹痛の痛み止めを渡したんだ。
彼女はこう言ったんだ。
「ジルから貰ったあの薬、眠りやすくなる成分も入っているようでね、お腹も痛くなくてぐっすり眠れたの。ありがとう。あれ、まだ残ってる?」
と。
最初は、ああ、そうなのか。彼女が痛くもなく寝れたようでよかったとしか思わなかった。
ただ、彼女の寝息が聞こえてきたら……。ムラッとした。
そして、ほのかに明るくなるランプをつけた。そして布団をちょっと引っ張って彼女を見たんだ。
ああ、正確に言うと彼女の胸が隆起するところが見たかったんだ!
やめればよかった。そしたらこんなに悩むこともなかったのに……。
そう、彼女は寝るときまでサラシはしない。
素のままの彼女の胸がそこにあった。
最初は指で触れるだけだった。柔らかな感触に息を呑んだ。
そして眠っている、起きない、と分かるとダメだった。
指が、全神経が、喜んだのだ。
俺は彼女の胸を下から持ち上げるようにしてやわやわと触った。
そこからはもう、何も考えられなかった。
一瞬触れただけではわからない、確かな弾力。俺の手の中でいろんな形に変える、柔らかなそれ。
俺は脇目も振らずに、それどころか、一心不乱に弄んだ。
そのうちに、手の中で主張してくるものがあった。たまらなかった。
服の上からではなく直に触りたい……。見たい。
そろそろと彼女の服の中に手をいれ、そしてそれを摘んでしまった。
「……んっ……」
彼女はピクリと動いた。
俺はビクリとし我に返った……。
そう、俺は寝ている彼女に悪戯してしまったのだ。
自己嫌悪どころではなかった。俺は彼女の信頼を裏切ってしまった。
それなのに俺は息も荒く、そして身体の一部は痛いくらい漲っている。手から彼女の感触が離れない。頭には彼女の喘ぎのような吐息と鼻に篭るような声が渦巻いている。
このままでは眠れないどころか、また触れてしまう……ごめんシリル。今日は無理だ、今日だけは許してくれ……。もう、二度と、触らない。
俺は想像で何度も何度も君を犯した。
俺はもう君に触れない。触れたら最後、また我慢できなくなるだろう。
……あと二年も俺は我慢できるのか?
嫌われてしまう前に
なんとかして部屋を変えてもらえないだろうか……。




