ガスパール視点 アレクサンドル視点2
----ガスパール視点
教養の練習をしようとアレクを紹介したその日から、レッスンは始まった。
ジルベールのマナーが悪いのだ。俺は嬉々として説教した。うん、あれはジルベールが悪いよな。
……しかし、アレクがなぜかシリルを手本に指名した。
シリルはもう食べれないくらいなんだが……大丈夫だろうか?
案の定泣きつかれた。しかし、俺は、俺に泣きついてくれたシリルをうれしく感じてしまった。
やはり俺は男色家なのか……? いや、そんなわけはない。女性を抱けたではないか? 気持ちよかっただろう?
うん、やはり俺は女性のことが好きだ。うん、何かの間違いだ。
何日かして、なぜか俺がジルベールの担当になっていた。
なぜだ!?
なぜ俺がジルベールでアレクがシリルなんだ?
甘やかすって、いや、だってあの食事はシリルには多すぎだっただろう? 甘やかしたわけではない。
あーあ、俺が手取り足取りシリルに教えたかったのにっ! ……手取り足取り? いや待て。想像してはいけない。違う違う。その手取り足取りじゃない!! 落ち着け、俺は女性が好きなはずなんだ。
よし、シリルは見ない。気にするな。
アレクに任せるんだ。
……しかしジルベールも案外真面目に練習するんだな。俺もきちんと教えよう。
そんな折、シリルとジルベールが魔術の話を始めた。
前倒しで魔術を習っているそうだ。なんとも不思議だったが、講師になってくれている魔術学園からの交換生が好意でやってくれているようだった。
しかしシリルは回復の適性なので、練習相手が居ないようだ。
それならば、と、俺は提案した。
セルジュという講師に頼んでみたらいいのだろう。武官志望のみんなも喜ぶだろうし、一石二鳥だろう?
セルジュは了承してくれた。しかも危険があると悪いから自分も一緒にその場に来てくれるようだ。これは心強い。
そして俺たちは打ち合わせを始めた。
ジルベールが少々苦々しげなのが印象的だった。嫌なのだろうか? 何かあったのか?
まあこいつは話さないやつだからな。
そう思っていたが、ジルベールが剣を学びたいから教養はもういいと言って来た。こいつが自分から教えてくれということは、とても珍しい。
今から剣をしても上を目指すには遅いが、いいのだろうか?
それを言ってはみたが、それでも構わない。と言っていた。うーん、まあそのくらいならいいんだがな。
念のため、シリルもやってみるのか? と聞いてみたが、ジルベールと、なぜかセルジュから絶対にダメだと拒否された。
いや、ちょっと言ってみただけだ。あんなに細いのに無理だろう。持てる剣がなさそうだ。
さて、稽古と魔術の練習の日だ。
シリルが思いっきりびくびくしているな。みんなでかいからなー。怖がっているんだな。
みんなも言っているが、うん。小動物のようだな。かわいい。
さて、俺たちも稽古を始めるか。
ざわめいているが俺は気にしなかった。アレクに後で聞いたが、シリルに剣が飛んでいったらしい。
全く、武官ともあろうものが、試合中に剣を離すとはな!
あいつとは模擬大会でも一緒には組みたくないな。
進級した。
俺は火の適性があるから、魔術を受けることにした。シリルのヒールを見て、魔法を使えることは剣だけよりも強みになるかもしれないと思ったからだ。
適性があることは昔から知ってはいたが、弱いものだから、と気にもしていなかったのだ。
授業はセルジュ殿が講師のようだった。
王子やエルネスト様もご一緒のようだ。
王子は悪戯好きだからな、……俺は無理だが、アレクがなんとかしてくれるだろう。
と、さっそく王子がシリルをからかった。
シリルの、あの小動物のような怯えっぷりや表情が王子の気に入ってしまったのだろうか……。困ったな。
つい、庇ってしまった。
ジルベールは基より、アレクも庇っていた。
アレクは庇うというより、……うーん、あれはなんと言えばいいんだ? なんかずれているな。父上の仕事のことでもよぎったのか?
三人が庇ったことによって、もっと王子の気を惹いてしまったかもしれない。少し心配だ。
と思ったその矢先にまたシリルが王子の気を惹いていた。
これは、まずい気がする。
王子がこんなに笑っているのは久しぶりだ。
いや、たしかにかわいかった。
また呪文を言う嵌めになるところだった。
……シリルは男だ、俺は男色家ではない。俺は女性が好きだ。
ああ、これからの魔術の授業では、シリルにとっての安息はないかもしれない。
----アレクサンドル視点
ガスパールがクレティアン家の嫡男に教養を教えることになった。
私もそれに乗っかることにした。
しかし、これほど細いのに、前より肉がついてきているだと!?
昔はもっと細かったということなのか? ……なんと痛ましい。
これは無理にでも食べさせるほうがいいのかもしれない。
……私はやりすぎたのだろうか。ガスパールに泣きついているようだ。しかし、この程度で食べれなくなるというのか?
何日かして私がシリルの担当をするようにした。
少しでもシリルのためになるようにしたかったのだ。ガスパールだと甘やかしてダメだからな。
またやりすぎたのだろうか? いやでもこのくらいの皮肉など、貴族たちから見たら普通の会話の一種だぞ。うむ、慣れてもらうしかない。
教養も続けて教えている。先日など、授業でやった応対の実技で満点を貰ったと、至極うれしそうに私に報告に来ていた。うむ、教えた甲斐もあるというものだな。
なぜかジルベールとシリルが私たちの稽古に来るようになった。セルジュという交換生も一緒だ。
ヒールか。たしかに、助かるな。
まあ、許可が出たのだからいいか。
と思った私が甘かったのか?
稽古に来たその日に、シリルに危険が迫った。
私はジルベールに型を教えていたのだが、あいつの焦りっぷりったらなかった。まあ、たしかに私も焦ったが……。
そのシリルはセルジュに庇われて怪我はないようだった。よかった。
しかし、シリルに剣が飛んでいったときには肝が冷えた。
全く、武官ともあろうものが試合中に剣を離すとは!
あいつは後から罰だろうな。素振り百本くらいか?
シリルのヒールは初めて見たが、見事なもんだ。これは確かに、練習させておかないともったいないな。
模擬大会のときも来てもらえると助かるな。
進級した。
ガスパールが魔術の授業にでるようだ。なぜ急に? お互い昔から適性があることは知っているが--ああ、私は風だ--ふむ。気になるから私も受けてみるか。
魔術の授業は、セルジュが講師だった。セルジュ殿と呼ばないといけないな。
しかも王子も一緒だ。
これは一波乱ありそうだな……。
やはり王子がシリルをからかった。
最初のシリルを見たときから、王子の瞳がキラキラしていたと思ったのだ……。
これは、気に入られたのかもしれない。
王子は小動物が好きなんだ。
王子の一挙手一投足にびくびくしているのが面白いのだろうな……。これは困った。
つい庇ってしまった私も悪かった。
その反応も面白かったようで、これはシリルの安息はないかもしれないな。
こっそりジルベールに言っておくことにしよう。
あーあ。
シリルが王子を笑わせた。
……王子がこんなに噴出すとは考えもしなかった。
たまに王子を宥めないといけないだろうな……。エルネスト様にも交渉しておくか……。
本当にシリルの保護者になった気分だ。




