9
そして翌日から、稽古にお邪魔することになったのですが、……怖いですっ! ……しかも、いいえ。なんでもありません……。
まず、何が怖いのかと申しますと。
人が怖いのです。さすが武官志望ということなのでしょうか。みなさん大きい方が多いのです。はい、身長だけでなく横にも大きいのです。
ガスパール様も大きいと思ったのですが、もっと大きな方もいらっしゃるのです。
この方々が、わたしと本当に同じ年なのでしょうか?
……あと実は、みなさんには言いません。言いませんよ?
ですが……少々汗臭いと申しますか、ええ、一人二人は大丈夫なのですが、それが二十人とかになりますともう、なんなのでしょう?
窓は開いています、ええ。
うぅ、わたしは耐えられるのでしょうか?
今はみなさん側にいらっしゃってわたしを見ておりますので、余計そう感じるのでしょうか?
わたしはびくびくしておりました。
しっかりして自己紹介をしなければ……。
と、セルジュさんがわたしの前に庇うように立ってくださいました。
「はじめまして、セルジュと申します。こちら、シリルとジルの魔法の講師をしております。このたびは、お二人に治療の場を頂けると言うことで、ありがとうございます。
このような機会を作って頂き大変助かっております。不測の事態にも対応できるよう私も一緒におりますので、何かありましたらお声がけください。シリル、ジル自己紹介を。」
「シリル=フォン=クレティアンと申します。精一杯頑張ります。よろしくお願い致します。」
「ジルベールと申します。よろしくお願いします。」
指導の先生から、こちらこそ助かるよ。どうもありがとう。と言われたわたしたちは、こちらこそ!と会釈をしながら端側に移動しました。
「文官は小さいな。」とか「女みたいだな。」とか「俺たちも自己紹介を!!」
とか言ってる声は、
アレクサンドル様の
「いいから稽古だ。進級したら模擬大会があるだろう?」
という鶴の一声に消えていきました。
武官には模擬大会なんてものがあるのですね。
わたしはみなさんの模擬戦--主に見ていたのはガスパール様です。他に知り合いがおりませんので--をぼーーっと見ていました。
ジルはせっかくだから、と、アレクサンドル様に型を教えて頂いているようでした。
わたしは誰かが怪我をするまでは待機ですからね!
いえ、決して誰か来ないかなー。なんてことは考えておりませんよ?
ぼけーーーっとしすぎていたのでしょうか?
ガスパール様じゃない別の方向から叫び声が聞こえてきました。
ん? 怪我!? と思って慌ててみてみると、
稽古中に弾かれたらしい木剣がこちらに向かって飛んできました。
えっ!?
ちょっ!!? ぶつかる!??
ジルが何か言っているのが聞こえました。
ほわー、なんかスローモーションみたいに見えるんだなー。なんて場違いなことを考えていると、
わたしは目の前が暗くなりました。そして、身体がぎゅうっと苦しくなり、暖かくなりました。
ん?
あれっ?
痛くはない。けど、暗いし苦しくて重い。
っと、上に誰かが覆いかぶさって庇ってくれたようです。ジル? ありがとう!!
……ジル? ん? ジルの香りじゃないな。
あれ?
身動きすると、その人は少しわたしを離してくれました。
セルジュさんっ!?
わたしはセルジュさんに庇われていたようです。
「ぶつかってないな!?……怪我はないな!?」
と、わたしを確かめるようにパタパタ叩きながら、心配そうに聞いてくれるセルジュさんに少し驚きつつもお礼をいいました。
バタバタと走ってくるジルとアレクサンドル様の方を見て、大丈夫だよーと言います。
剣を飛ばした人は、先生にこっぴどく叱られているようです。
そして、セルジュさんがふっと呟いたのをわたしの耳は聞き取りました。
「くっそ……なにやってんだ俺……。しかも一番最初の怪我が俺とか……だせぇ。だが、武官志望のくせに剣を飛ばすだと!? アホか!?」
怪我!?
「セルジュさん怪我をしたのですかっ?」
セルジュさんははっとしたようにわたしを見て、一瞬口元を押さえ、答えました。
「っ……あー。そんなに酷くない。シリルの所為じゃないから。剣を飛ばした奴の所為だから気にしなくていいよ。だけど、せっかくだから治療の練習をしようか。お願いできる?」
「はい、もちろんです。」
さっきの口調は、つい素がでたんだろうなー。ちょっとかわいい。
と言ってるときに、シリルっとジルの声がしました。
「無事か? 怪我はないか?」
「うん、ジルありがとう大丈夫。セルジュさんが庇ってくれたの。怪我はセルジュさんがわたしを庇った所為でしちゃった。今から治すの。」
ジルは無言でセルジュさんを見つめた後、
「…………シリルを庇ってくださってありがとうございます。」
と硬い口調で言いました。
「いや……。」
セルジュさんも硬い表情です。
セルジュさんの肩に剣はぶつかったようでした。木剣だし、距離もそんなに近くないから大丈夫とは言ってますが、練習のために上着を脱いでもらいます。
肩が赤くなっていました。
そっと肩に触れて、
「ヒール」
上手くいきました!
「もう痛くないですか? どうですか?」
と聞くと、大丈夫、ありがとう。と答えてくれました。
いよっし!
「セルジュさん、本当に庇って頂いてありがとうございました!」
わたしは笑顔でお礼を言いました。
セルジュさんは驚いた顔をしてから、なぜか一瞬眉をひそめて
「いや、こちらこそ回復ありがとう。」と言ってくれました。
先生に叱られた、剣を飛ばした方が謝りながらこちらに来たときのジルの温度は怖かったです。
そしてジルはわたしの側で剣の型を習うことにしたようでした。
それから、三、四名の方の怪我を治しました。
みなさん打撲です。
突きを入れられた方の怪我は結構酷く、わたしはヒールを四回も唱えました。
すると少し気持ちが悪くなりました。
まだ治っていないようでしたので、後はジルに任せました。
と、セルジュさんが来ました。
「気持ち悪いか?」
「はい。」
と答えると、ヒール何発だ? と聞かれ、八発でしょうか? と答えると、
「分かった。それを覚えておくんだよ。八発くらいが限界になりえるから。それ以上だと最悪気絶するからな? 自分で感覚を覚えて、できないときはできないと断ることも必要だ。いいね? 少しずつ魔力は増えるかもしれないけれど、限界は八発と覚えるように。」
と教えてくれました。
わたしは
「わかりました。ありがとうございます。」
とお礼を言い、休んでいることにしました。
ええ、休む場所はもちろん、窓の側ですよ?
みなさんは気にならないのでしょうかね?
こっそり後でジルに聞いてみましょうか。
さて、進級しました!
わたしは地理と兵法を魔術と外国語に交換しました。
魔術の授業は適性を持っている人全員が受けることになりました。セルジュさんが先生になって、たまーにピエール先生が来てくれるようでした。
そしてなんとこの魔術授業は、文官も武官も貴族クラスの方々も一緒なのですよ!
気を引き締めねば!!
なぜかって? はい、実は適性を持つのが八十名中八名しかいなかったのです。しかもほとんどが貴族でした。ほとんどどころか、平民はジルだけです。肩身が狭いですねー。
だからセルジュさんは先に教えてくれたのかもしれませんね。
第三王子と公爵家御曹司様、ガスパール様、アレクサンドル様、文官の子爵家家御曹司様、文官の男爵家御曹司様、わたし、ジル。
王子と一緒に授業とか!?
どどっどどうしましょう!!
ガスパール様は火だそうです。
アレクサンドル様は風だそうです。
ほかの方は分かりません。
そして、わたしとジルはセルジュさんから許可がでた場合のみ、武官クラスの稽古に練習に行くことになりました。




