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もうすぐ進級です。
進級したらわたしはきちんとすべての制服を着ることをジルに約束させられました。
あー、暑いのに。ベストを着なきゃいけないのです……。
怖い顔のジルに言われたので仕方がありません。
サラシもしてるのに、ベストとかどんな拷問なのでしょう? あせもができちゃいますよ?
あと、そろそろ意識して声を低くしたほうがいいと言われました。えー。
まだうちのクラスには声変わりしていない子もたくさんいるのにー。できるだけ慣らしたほうがいいとのことでした。はーい。
まあ、ジルはいつもわたしのことを心配して言ってくれているので、ちゃんと言うこと聞きますけどね!
それにしても、来年度の授業はどうなるのでしょうか。わたしはこのままギリギリ優秀な部類に入れるのでしょうか?
心配になってきました。
ガスパール様とアレクサンドル様のおかげもありまして、教養の授業の成績がいいです。
そうそう、地理の授業の変わりに、セルジュさんからの魔術の授業をしてもらっていますが、わたしのヒールの使い道がないのです。そうです。怪我をしている人がいないので、治せないのです!
しかし、わざわざ怪我してもらうなんてころはできませんので、困っています。
なんというジレンマ!
一応聞いてはみたのです。他に回復の魔法で、できそうなのはありませんか?と。
すると、水でもできるからジル君もできるけど毒を治すのとかはあるよ? でも、毒飲むわけにいかないでしょ? とセルジュさんに言われました。
なんというジレンマ!
そうして、いつもジルが水の魔法を覚えていくのを見ているだけなのですが、これでいいのでしょうか?
と、そのような相談を夕食時にしていたところ、ガスパール様が言い出しました。
「ヒールか!? シリルはすごいな! じゃあ、練習がてら剣の稽古に治療師として来てくれないか? たまに怪我する奴がいるんだが、この学園には魔法が使える治療師がほとんどいないだろう? もっと下の学年に付いているから、手が回らないらしいんだよ。
なあ? ちょうどいいよな? アレクサンドル!」
「うーん、まあ、こちらとしては助かるが……。」
アレクサンドル様も言っております。
武官の方の稽古に治療に行くのですか!?
「それは、僕は願ったりかなったりですが、セルジュさんにお伺いしないといけません。教えて頂いている身ですから。」
と、答えました。すると、セルジュだな? 分かった聞いてくる。
と、さっそく行ってしまいました。
「ねージル、ジルも水の回復使えるようになってるよね? ジルも一緒じゃだめかなー? ジルが一緒なら僕心強い。」
そうです、ジルはきちんとキュアが使えるようになったのです。
セルジュさんは攻撃だけと言っておりましたが、やっぱりジルはすごいですよね。
と、なんとガスパール様がセルジュさんを連れて来てしまったようです。
「はじめまして、セルジュと申します。シリルとジルの魔法の講師をしております。このたびは、お二人に治療の場を頂けると言うことで、ありがとうございます。
中々、ヒールやキュアなどは練習ができずに自分の限界を見極めないまま、使わなければいけなくなるときが多々ございます。このような機会を作って頂き大変助かっております。是非、次の稽古からお願いしたいと思います。不測の事態にも対応できるよう私も一緒にまいります。」
アレクサンドル様に丁寧に挨拶しているセルジュさんはちょっと大人っぽいです。年上ですけどね!
なんて考えていたんですが、なんと! 許可がでたー。
セルジュさんちゃんと考えてくれてたんだ。ジルもかなり驚きの表情だこれは。
しかもお二人は、授業のスケジュールまで持ち出してきて、地理=魔法の授業と稽古の授業を合わせ始めました。
なんという本気度!
稽古はいつでもやってるようで、合わせやすいようでした。わたしたちに合わせてくださるそうです。お優しい!
ということで、とんとん拍子に明日からやることになりました。
そして、教養練習からはそのまま卒業となりました。
それは、なぜかジルが剣を覚えたいと言い出しまして、今までの教養の時間を剣の練習にしてもらいたいと言う事でした。
ジルは文官ですのに。
じゃあわたしはその時間どうしようかな。ガスパール様は、シリルも鍛えるか? と聞いてきましたが、ジルとなぜかセルジュさんが、絶対にダメだ。と言い張ってダメになりました。というか、わたしはさすがに剣はやらなくていいかなー。
その後、ジルとセルジュさんがにらみ合ってたのが珍しかったです。
じゃあ、わたしはその時間はお部屋に戻って勉強することにしましょう。
お風呂はジルが帰ってきてからいけばいいですし、うん、その時間に色々することもありますしね!
今までは、ジルが寝てからとか、こっそり焼却炉に行ってたのです。
何を燃やすのって? ……月の物のゴミです! ジルと一緒にこれをゴミ捨てに行くのはさすがに……。
一週間分を溜めておくのはかなり嫌ですが、毎日毎日一週間続けるよりは見つかりにくいですし、仕方がないのです。
一番困るのは洗濯物です。もちろん自分で洗いますが、乾かす場所が少ないのです。
仕方がないのでクローゼットの中に見えないように干していますが、中々乾きません。風の通りもないですし、太陽もないですし。生乾きなのも嫌です……。だからたまーに窓を全開にしてクローゼットも全開にして乾かしているときがあります。
こんな細々としたことはどうでもいいですよね!?
一人の時間の勉強のことを考えていたら、変な思考になってしまいました。
部屋に帰りながらジルに聞きました。
「剣は武官の方に任せたほうがいいんじゃないの?」
「シリルの領地は武官を雇えるほど裕福ではないだろう? なら、文官も武官くらいとは言わないけど、主人を守れるくらいにはならないと。何かあったときに、主人が逃げ出せるくらいの時間を稼ぐくらいならできるだろうし。」
ジルったら!!
これは、卒業したら王宮に仕官するのではなく、うちの領地に来てくれるということなのでしょうか?
気持ちはとてもとてもうれしいです。
でもそれは、ジルの素晴らしい未来を狭めてしまうことになるのではないでしょうか?
ジルには仕官の道も、顔がいいからもしかすると玉の輿という道もあるのです。
うれしいことですけど、きちんと言わないといけませんね。
「ジルはうちの領地に仕官してくれるつもりだったの?」
「え? あたりまえだろう?」
「んじゃ、それは最後に取っておいて!」
「どういうこと?」
「うん、わたしはね。王宮に仕官して、定期収入を得るのが目標なの。
それを領地に送って、そして少しでも領地が裕福になるといいな、と考えてるの。
父上が引退するとなったら領地経営に乗り出すつもりだから。それまでには、特産品も探さないといけないけどね。
ジルは自分の人生なんだから、ジルの好きにしていいんだよ。士官してもいいし、そこで見初められたりしたら玉の輿にだって乗れるかもしれない! ジルの素晴らしい未来を狭めてしまうのはダメだよ。
ジルはそんなことないと思うけど、もし、もしもだよ? 仕官に落ちちゃったりしたら、そのときはうちの領地を助けて欲しいけど。」
「……シリルが仕官するなら俺もする。領地経営するなら手伝う。ただ、玉の輿には乗る気がない。」
この顔は全く話を聞かない顔だなー。昔からこの顔になるといくら言っても聞いてくれなかったな。
うーん、まあ、ジルがいいならいいんだけどねー。
仕官しちゃえばどうなるかはわからないしね!
ジルの未来の邪魔だけはしないようにわたしがしっかりしなくっちゃ!




