ジル視点4 +セルジュの視点
あのいけすかない魔術師の野郎は俺たちと同じクラスになった。
平民出身なようだ。
奴はみんなに優しく接している。その所為で人気も出ている。だが、俺は警戒を解かない。
なぜなら、彼女には特に優しいように感じるのだ。女性だと分かっているのではないのか?
それがたとえ俺の贔屓目だとしても、警戒を解く理由にはならない。
教養はまだ続いている。もうやらなくてもいいんじゃないかと思うくらい完璧なんだが、ガスパールもアレクサンドルも何も言わずに続けている。
前に思ったとおりに、ガスパールが風呂がどうこう言い出したときには焦ったが、アレクサンドルが、それだと王子と一緒にもなる。さすがにそれはオススメしない。
と言ってくれたので助かった。これは本当に感謝している。
そんな中、彼女は十三歳になった。
学年が上がって夏服になる前に、ワイシャツの上に着るベスト--レンタルには一応制服の正装ということであるようだ--これは、着たい奴だけが着ればいいんだが今まで彼女は着ていなかった。
でも今年からはダメだ。どう見てもサラシがおかしく見えるだろう。なんとか隠さないと。
……今年からは借りるように後で言っておこう。
動きがあった。
やはり奴は怪しい。
俺と彼女に魔法を教えてくれるそうだ。他の奴らの講師は断ってだ。……何か裏があるのではないのか?
地理の時間に教えてくれるとのことだった。彼女が地理を交換しようとしてることまで調べたのか?
と、考えながら歩いていたから油断してたんだ!
自分の地理のことを考えていなかった。
奴は
「シリルだけでもいいよ。ジルベール君には後ででも教えてあげようか。」
言っているが、これはこうなるように仕組んだのではないか!?
俺は急いで先生の元に走った。
……彼女も連れて行けばよかったと心底後悔するとは……。
俺が全力疾走して帰ってきたときには、奴は彼女を押さえつけてキスをしていた。
……俺は怒りで目の前が真っ赤になった。
この野郎。
こいつは獣だ。
セルジュ。
シリルの唇を……しかもあんな深いキスを……くそが!
こいつは俺に見せ付けていた。絶対そうだ。
「…んっ」
という彼女の喘ぎ声のような声に我に返る。
「セルジュ!!! 貴様!!?」
俺は我慢できずに怒鳴った。
奴は平然とした様子で彼女の唇についていた唾液を指で掬い取った。
俺は頭が沸騰しそうだ。
「今のは……っ!?」
俺は怒りで言葉が出てこなかった。
俺の沸騰した頭にかろうじて、体液の交換という言葉や、魔力が流れやすくなる。や、シリルは小さくて細いからなどという言い訳が聞こえてきた。
そして奴は俺の手を取り指をナイフで切った。そして、その血を奴の指にこすり合わせた。
今のでいいなら、なぜそれをしなかった!?
彼女もそう思っていたのか、奴はもっともな言い分に聞こえるような言い訳を反省と懇願が分かる声で彼女にしている。
これは、まずい。彼女は優しいからこれでは騙されてしまう。
くそっ!!
奴は何事もなかったように授業を始めたが……俺は怒りが収まらず全くできなかった。
彼女は上手くいったらしく喜んでいるようだ。
くそ!彼女は騙されているのに!!
彼女の周りには、こういう黒い奴はいなかった。だから、わからないんだ……。
「ふふ。ジルベール君は、もう少し精神を落ち着けないと、できないかもね。また今度かな?」
奴は笑いながら俺を見た。
俺は悔しさで歯噛みしていた。すると彼女が俺を庇ってくれていた。
奴が何か言いながら出て行ったが、俺はイライラが収まらなかった。
と、彼女が謝ってきた。
違う、彼女が悪いんじゃないと思いつつ、彼女を見る。と、彼女の唇が目に付いた。
「……シリル。後でうがいと手洗いと消毒絶対だ。あと、治さなくていい、これを見て思い出すから。くそ!」
自分でも分かったくらいの低い低い声で彼女に言ってしまった。
彼女はびくびくしていたが、途中の水場で思いっきり手と口を洗った。
なんなんだあいつは。何がしたいんだ?
----セルジュの視点-----
俺は平民なのに魔術適性も魔力も高い。
そこらの貴族共より俺の魔法の方が強い。
だが、魔術は強いのに平民であるというそれだけで、宮廷魔術師にはなれそうもなかった。
地方の領主のおかかえ魔術師にはなれるようだったが、俺はそれではいやだ。
せっかくの能力を埋もれさせてたまるか!
では、見習いになる前に仕官学園に編入して仕官できるようになっておこう。
そして仕官してコネを作って玉の輿狙いだ。優秀になって爵位も貰うのもいいかもしれない。
そのために俺はすべての貴族名鑑の女性を暗記している。
あたりまえだろう? どこかの平民を口説くより、せっかくなら爵位を持ってる奴に粉かけておいたほうがいいに決まってる。
覚えるくらいなんてことはない。
まあ、今から行く学園は男子ばかりだから、コネ作りだな。
さて、適当にやるか。
あーあ、こんなとこにも身分身分。適性検査くらいどっちがやっても一緒だってのに。
王族や身分の高い奴らはピエールの方にやられていた。
おや?
なんだあのオーラ。あれは女のオーラだぞ?
メガネをかけてよく見てみる。
やはり女だ。
そこには女のオーラを纏った男装してるらしい子供がいる。
しかも後ろに十名いる。……ということは貴族だ。
そして俺はあの顔は知らない。どういうことだ?
……男の格好してこの学園にいるということは、貴族の女としているわけではないな。
じゃあ、……こいつを落として俺のものにしたら出世への道がもっとひらける可能性がある。
女という弱みを握るのもありか?
それともすぐに犯してしまってもいいかもな。
はは! 面白くなってきたな。
すぐに学園からやめられても困るか。
落とすにしても犯すにしても、まずは親しくなってからだな。
適性に喜んでいたから、魔法でも教えようか。
なんだこいつ、俺を睨んでやがる。ジルベール? こいつ俺を警戒しているな。
注意が必要だ。
負けはしないが。
やはりクラスは平民の側だった。
ちっ。
……むかつくが、あの女と一緒らしいからまあいい。
面倒だができるだけいい奴を演じて人気をとらないとな。
情報収集も必要だ。
ジルベールが俺と同じ平民……いや、孤児だって!?
平民より下の孤児のくせに仕官養成の平民枠十名に合格し、しかも魔術の適性もあるだと?
成績も優秀だそうだ。仕官の道も開けているんだと。
俺は十名に入れなかったというのに!
しかも、いつも側には貧乏でも領地のあの女がいる。どう見ても女の婿はこいつだろう。
……俺の欲しいものをすべて持っているというのか? 孤児の癖に? へぇ?
なんだそれ。
……許せない。
くすくすくす
面白い。
まずは大事に大事にしているこいつらの関係を壊してやろう。
女は俺に懐いた。そりゃそうだ、懐くように仕向けているんだからな!
魔術も教えることになった。
しかしこの女、甘すぎないか? 優しいし笑顔だし人を疑わないし。
……これでは世の中渡っていけないぞ?
周りの奴らはもっと、俺のような腹黒い奴もいるということを教えないといけないだろう? もっと人のことを疑わないと、……が、女の笑顔が疑いすぎで見えなくなるのも少し嫌だな。
って、そんなことはどうでもいいんだ。何考えているんだ俺は。
何だ今の考え??
……ジルベールは警戒してるようだが、まだまだ甘いな。
側にいなくていいのか? 食っちゃうぞ? ははっ。……そうだ。面白いことを考え付いた。
……へぇ? ガキかと思ったけど、これはサラシか? サラシごしにもけっこうあるじゃないか。うん、いいな。
しかもいい表情するじゃないか。声もよかった。
ジルベールはこの表情を見たことがあるのかな?
この怒り様じゃ、ないな。ははは!
ざまあみろ。お前の欲しかった最初のシリルは全部俺が貰ってやる。
ふふふ
……この女、俺を許しやがった。
また騙されたのか? なぜわからない? 余り人を信用するな。
上手くいったのになぜかイラつく。
うれしそうに俺を見るな。さっき掴んだ手が少し赤い……力が強すぎたか? しまったな。
それにやはり細すぎじゃないか。
もっと食え。
ジルベールはなぜ教えない?
お前が守るんじゃないのか? なぜかイラつく。




