授業中
「わかんない」
数学の授業。何、方程式って、二次とか付けんな!!
もう訳わかめ。諦めたい。是非、私に諦め行きのチケットを与えて欲しい。
私が詰まっているのは、一次関数の文章題。x+y=4,2x+y=5ぐらいで限界なのに、文章題とか何?
そうやって一人で愚痴を言ってると、隣から声がかかった。
「そんなのもわかんないのか?」
はぁ?!
声の主は茅野だった。眼鏡越しの冷やかしの視線も、なんだか癪に障る。
「こんなのもわかんなくて、悪かったですね!!」
言い返してやると、少し笑って
「ここは、xとyが速さなんだから、時間をかければ、距離が出て方程式ができる」
と、問題を指す。
「じゃあ、60x+15y=、距離だから2400?」
「ん、そう」
うーん、なるほど。
少し考える。
「ありがと」
嫌味ったらしいけど、教えてくれたし。
「いいえ」
少し笑って言う。
私も嬉しくて笑った。
「わかんない」
隣から声がする。少し目をやると、七原が問題とにらめっこしていた。今すぐ怒り出しそうな鬼の形相だ。
彼女が見ている問題は、少し応用問題でわからなくなるのもわかるな、と思う。
だから、逆に神経を逆なでするようなことを言ってみる。
あれだ、あれ。女子にちょっかい出す小学生と同じ。
「そんなのもわかんないのか?」
と聞くと、七原はもちろん眉間にしわを寄せて、
「こんなのもわかんなくて悪かったですね!」
と、突っかかってくる。
そんなノリがなんとなく嬉しくて、笑ってしまう。
少し問題の解き方を伝えてみると、うーん、と考え始めた。かなり真剣な様子で問題を解いている。
ありがと
しばらくすると、恥ずかしそうな声が風に乗って届いてきた。
俺は少し笑って、おぅと答えた。