第5話「悲しみと出会い」
その手紙を読み終わったあと、頭が真っ白になった。
無理もないのだ。
自分がいつも接していた王がまさか自分の父親だと誰が思うだろうか。
その思いのあとに先ほど始末してきた死体の山の中の王ー父親の顔を思い出して悲しくないはずなのに次々と双方の瞳から涙が溢れる。
「ああああああああ!!!!!」
どれくらい泣いただろうか。
心から叫んだのはこれが初めてだった。
このまま死ぬのではないかと思うぐらい心が痛んだ。
母を亡くした痛みにさらに父親だと知ったものの死が重なり彼女の心は崩壊寸前だった。
辺りはもう朝を迎えていた。
ずっとここにいたい気持ちを押し切り、母のネックレスをつけ、父がくれたかんざしを手に歩き出した。
行き先なんてない。
でもただ誰が生きている人に会いたい。
その思いで歩き続けた。
しばらく歩くと民家が見えた。
と言ってもこちらにも被害はあり、屋根は飛び、壁は崩れかけの家が並んでいた一軒だけ残っていた。
他の家を探してもどれも瓦礫と化していた。
誰もいないはずの家を覗いてみるとそこには一人の少年がいた。
「あ」
その声に反応し、少年がこちらを見てきた。
その少年は自分と同じ黒髪に紅い目、カーキのTシャツに黒ズボン、黒のブーツを履いていた。
少し驚いた顔をしながら聞いてきた。
「誰だ、お前」
「ええっと、み、未娘です」
「未娘。お前が…。どうしてお前は生きているんだ!みんな…死んじまったのに」
その言葉に少女は何も言い返せなかった。
何を言っても言い訳にしかならないからだ。
ただ俯き手を握りしめることしかできなかった。
「ごめんなさい。私の、せいで」
「みんな消えた。家族も、友人もなにもかもみんな!一瞬で消えちまったんだ」
「守れなかった…。何も…。私は未娘なのに…」
「でも、お前のことは責めない」
その言葉に反射的に顔を上げた。
「お前を責めたところでこの事実は変わらない。もう、起きちまったことだし」
少年は苦笑した。
その笑顔に罪悪感を覚えたが、それと同時に救われた気もした。
「…ありがとう、ございます」
「俺はシン。お前は?」
「名前…無いんです」
「え?ずっと呼ばれなかったのか?」
「はい。皆からは未娘と呼ばれていたから。あったのかもしれないけど私は知りません」
「そっかぁ。でも未娘って呼ぶのもな。…んじゃあ名前付けちまうか。思い出すまで」
「名前を…付ける?」
「ああ。それとも未娘って呼んだ方がいいか?」
「いえ。付けてください。名前」
「自分で考えないのか?」
「私には未娘としての知識しかありません。だからシンさんに付けてもらいたいです」
シンは困りはて頭に手をやりながら、ふと少女の手にあるかんざしに気がついた。
「なあ、それかんざしか?」
「ええ。父にもらったのです。知っているのですか?」
「ああ。俺も母親に聞いただけだけどな。俺、純血の日本人なんだ。だからそういう知識とかよく親から聞いていたんだ。それ、着けてやろうか?」
「!いいのですか?」
「上手く出来るかわかんないけどな」
とかんざしを指差しながらいう。
「かんざしについてるそれ、桜っていう花なんだ」
「さくら?」
「日本の花だ。見たことはないけどな」
「綺麗な名前ですね」
「話しを戻すけどよ、名前、サクヤっていうのはどうだ?」
「サクヤ?いい名前ですね」
「桜のかんざしと夜見たいに真っ黒の髪で思いついた」
「…気に入りました。今日からサクヤと名乗りますね」
「そっか、んじゃ改めてよろしくな、サクヤ」
「はい。シンさん」
この出会いが全ての始まりだった。