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 飯田は澪をクノチアキの元へ笑顔で送り出してから、すかさず、2号会議室へと向かった。ドアの前で一瞬立ち止まって何か考えるような顔をしたが、思い直したようにドアをノックした。中から流星の声が聞こえる。飯田はそれを確認して中に入ると、厳しい顔つきで流星を睨んだ。


「どうした、貴俊。なんか用事か?」


幾分疲れた表情の流星が気になったが、厳しい顔を崩さなかった。


「どうした、怖い顔して。」


「先輩、昨日どこへ行ってたんですか?」


「えっ?どこって?ああ、澪か。ここに居たに決まってるじゃないか。仕事が猛烈に忙しいからな。ほぼ徹夜だよ。ふああ〜。」


そういって欠伸をした。


「本当ですか?」


飯田は硬い表情をこわさず、問い詰めるようにたずねた。


「なんだよ。どうしたんだよ。貴俊。おまえ変だぞ。」


「応えてください。本当なんですか?」


「当たり前だろ?」


流星は面倒くさそうに返事をする。


「そうですか。」


飯田は低い声でそういうと表情を変えずに流星に近づいて来て流星の胸倉を掴んで立たせた。


「なんだよ。貴俊!」


「先輩、バラの香りがぷんぷんしますよ。先輩の香はエゴイストじゃなかったでしたっけ?この香水、上条さんのものらしいですね。別れたんじゃなかったんですか?」


飯田が流星の胸倉を掴みながら睨みつけて言った。


「だったらどうだっていうんだ。」


流星は飯田から目を逸らしてむっとして言葉を吐き捨てた。飯田がピクッとこめかみを動かして更に険しい顔つきになる。


「先輩、見損ないましたよ。あなたは真藤先輩一筋なんじゃなかったんですか!」


「なんだよ。なんでおまえが怒るんだよ。」


流星が掴まれた胸倉を強引に飯田の手からはずしてネクタイを整える。


「真藤先輩を泣かしたからです。」


「えっ?」


流星の手が一瞬止まった。


「真藤先輩は心配してほとんど眠れなかった様子で、朝、ここに来たんですよ。そして、眠ってるあなたに近づいたら、上条さんの香水の匂いがしたって、朝、先輩は泣いてましたよ。」


流星は急に険しい顔になってじっと床を見つめている。


「だから仕事にさしつかえるからっておまえがでてきたのか。」


「確かに先輩に何かあると仕事に支障をきたします。でも、違います。俺が来たのはそんな理由じゃありません。」


流星は今にも噛み付きそうな態度をぎりぎり押さえているといった様子の飯田に開き直ってからかうような態度で出てきた。


「おまえ、澪のことを好きなのか?まるで俺の大事な女に何するんだといわんばかりの態度だぞ?」


「そうです。俺はずっと先輩のことが好きだったんです。」


流星は思わぬ返事にまさかと言う表情で飯田の顔を見上げた。


「でも、先輩は流星先輩、あなたのことが好きなことはわかってましたから…。流星先輩も先輩のことだけを見ていたと思ってきたから…。だから諦めようと思ったのに…。なぜ…?あれほど、先輩にぞっこんだったじゃないですか!先輩以外に興味がないって…。あれ?嘘だったんですか?なぜ、泣かすようなことをするんですか?流星先輩らしくないですよ。」


飯田が今にも泣きそうな顔をして真剣に流星に訴えかける。流星はしばらく黙り込んでじっと飯田の目を見つめた。流星の黒い瞳の奥にせつなく悲しげな今にも消え入りそうな光の揺らめきが見えたような気がして、飯田ははっと息を呑んだ。


「先輩…。」


流星の悲しみに染まった瞳を見せられて、飯田は今までの勢いを失い言葉を失ってしまった。


「わかったよ、貴俊…。話はそれだけか?俺は忙しいんだ。時間がない。用事がないならもう出て行ってくれないか。」


そう言って流星は背を向けた。飯田は、さすがに拒絶して背を向けた流星の背中には声をかけられず、しばらく躊躇していたが、深いため息をつくと諦めたように出て行った。1人になった流星はテーブルを拳で思いっきりたたいてガタンとそのまま床に崩れ落ちた。力なくうなだれた流星の肩は小刻みに揺れている。手が震えるほど力をこめてもう一度思いきり床に拳を打ち付けた。どうしようもない思いを吐き捨てるかのように・・・。











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