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 翌日、飯田と早めのランチを取りながら打ち合わせした後、澪はレジントンホテルに出かけた。レジントンのロビーにつくと手島企画の棚橋が既に待ち構えていた。ソファにゆったりと座っていた棚橋が、澪の姿を見かけるとすぐに立ち上がって近づいてきた。


「やあ、澪ちゃん、今日は一段と綺麗だね。」


棚橋がにこやかに澪に話しかけてさりげなく、ソファまでエスコートする。澪が棚橋に勧められたソファに腰掛けると棚橋はにこやかに澪に親しみのある笑顔を振りまきながら、そのすぐ隣のソファに腰掛けた。


「まあた、棚橋さん、口がうまいんだから。」


澪がクスクス笑う。棚橋は澪より2つ上の30歳で、いかにも優しいデスを絵に描いたような男である。鼻筋が通っていて顎もとがり目なのだが、やや細めでソフトな目元や口角がいつも上がった感じのややふっくらした唇の方が印象深く、上品な優しいおにいさんといった風貌だ。しかし、中身はそれに反しておにいさんというより、やんちゃで頼れる兄貴といった風で手島企画でもやり手のマネージャーである。澪とは仕事で2年の付き合いで随分気心が知れている。


「いや、前よりもなんだか艶やかさがにじみ出てるよ。男でもできたのかい?」


「えっ?」


棚橋のつっこみに澪が真っ赤になって目を逸らす。


「えっ?マジかい?」


冗談のつもりで挨拶程度にからかった棚橋の方が澪の反応に驚いたような顔を見せた。


「えっ…いえ…あの…。」


澪が棚橋のつっこみにしどろもどろになっている。


「マジかよ…。しまったなあ…。もう少し早くアプローチしとくべきだったよ。ちぇっ、おしいことしたな…。」


棚橋は真面目に悔しがる風なそぶりでぶつぶつ言っている。


「まさか貴俊か?」


棚橋は誰とでも気さくで友達のようにざっくばらんに付き合えることから、飯田とは仕事を通して知り合ったのだが、会社も近くにあるため、ちょくちょく飲みに飯田を引っ張りまわしているようで、結構ウマが合うのか仲がいい。


「えっ?まさか。」


澪が驚いた顔をして思いっきり首を振ったのを見て、棚橋が笑って噴出した。


「なんだ、やけにはっきり否定するな。貴俊もかわいそうに…。随分澪ちゃんに入れ込んでたのにな。」


思い出すように棚橋が笑った。


「えっ?」


「なんだ、澪ちゃん気づかなかったのか?あいつは澪ちゃんにマジに惚れてたんだよ。」


「ええっ?飯田君が?そんなはずないですよ。だって、飯田君は…。」


澪は思わず流星の名前をうっかり口を滑らしそうになり、はっとして口をつぐんだ。その様子からカンのいい棚橋が状況を察したらしく、澪の傍に身体を乗り出して耳元に小声で囁いた。


「はあん、わかったぞ。流星とかいう貴俊の先輩だな。澪ちゃん幼馴染なんだろ?」


棚橋がにやにやして澪を肘でつついた。


「まあ、おさまるところにおさまったってことか。」


そういって棚橋が風貌には似合わないような豪快な笑いを見せると、澪はますます恥ずかしくて顔から火が出そうになった。澪が今から仕事の打ち合わせなのにと、必死で流星のことを心の奥に押しやろうと笑う棚橋の横で1人心の中で葛藤していると、黒いスーツの紳士が近づいてきた。


「あの…、香麗堂の真藤様と手島企画の棚橋様でしょうか?」


その瞬間に澪と棚橋はそれまでの気さくな雰囲気の顔からビジネスモードの顔つきかわる。二人はソファから立ち上がった。


「はい。そうですが…。」


30代半ばの上品な身のこなしの紳士はいかにもホテルマンといった雰囲気で営業用のスマイルを携えて二人の前で美しいお辞儀をして見せた。


「私、レジントンの企画マネージャーをしております。樫村と申します。」


そう名のると澪と棚橋に名刺を差し出す。澪も棚橋も両手で丁寧に名刺をを受け取ると、二人もおなじく各自の名刺を出して挨拶をした。


「このたびは私どもレジントンホテルをご指名いただきまして、誠にありがとうございます。」


そういってもう一度深く丁寧なお辞儀を見せた。澪も棚橋もかしこまってお辞儀を返す。


「では、こちらにお部屋を取ってございますので、ご案内させていただきます。どうぞ。」


樫村は無駄のないスマートな動きで二人を誘導してホテル側が打ちあわせように用意した会議室へと向かった。



 その頃、飯田はといえば、レインボープロモーションでの打ち合わせのために木村と同行していた。午後2時からの打ち合わせのためにタクシーで移動する中、隣にいる飯田に話しかけた。


「今回のBeauの新製品企画はどんどんすごいことになっていくな。今度こそナンバー1が取れそうな気がするよ。」


40に差し掛かるのに見た目30代前半にしか見えない木村が目を細めた。


「そうですよね。真藤先輩はすごいですよ。どっからあんなアイディアが出てくるのか不思議ですよ。それに、外に出ればビッグな企画を手土産に帰ってくるし…。毎回驚かされてますよ。」


飯田が自分のことのように嬉しそうに澪を賞賛する。


「本当だよな。私もこうしてマネージャーやってるけど、兼任でほとんどピンチヒッターぐらいしかできないから申し訳なくて…。」


「大丈夫ですよ。Beauは私達に任せておいてください。私が真藤先輩を完璧にフォローしますから、マネージャーは後ろでどーんと構えていてください。マネージャーが真藤先輩の裁量で自由にBeauの仕事が出来るようにしてくれてるからこそいい方向にいってるんですよ。いつも真藤先輩が言ってますよ。マネージャーは必要なときはちゃんとわかってくれて動いてくれるから仕事がやりやすいって。」


 飯田は人をその気にさせるのが非常にうまい。かゆいところにてが届くだけじゃなくて、人の心をくすぐるような絶妙なつかみを特技としていた。


「そうか?ならいいけど。でもなあ、あんまり役に立ってないようで俺はこれでも気にしてるんだぞ。」


木村は微笑みを絶やさずとも申し訳なさそうな表情を見せると、飯田がすかさずやり返した。


「そうですか?十分役に立ってますって。今からだってレインボープロモーションでの商談は木村マネージャーにかかってるんですから。」


「おいおい、そういわれるとプレッシャーかかるじゃないか。」


そういって謙遜しながらも木村は嬉しそうに飯田に笑顔を向けてくる。


「とかなんとか言って、いつもニッコリ笑って結構なことおっしゃってますよ。いつも感心して見てますから。頼りにしてますよ。マネージャー。」


 実際、木村はブランド統括マネージャーになる前に支店で営業系のマネージャーをしていたので、それまでの現場の営業経験もあって交渉が実にうまい。さらにマネジメントのスキルも高いことも手伝って、木村が担当するとメンバーがやる気を起こしていい成果を次々にたたき出すのだ。それで現場の地域採用だったのにも関わらず、本社スタッフとして大抜擢されたのである。

 現在、木村はメイクブランドのブランド統括マネージャーで、自分も直接担当しているものも含め5つのブランドを抱えている。その中でもBeauはトップブランドとなっている。Beauはそれまでトップブランドとして君臨してきたブランドが低迷してきたことを受けて3年前新ブランドとして誕生したばかりのまだ若いブランドである。特に澪が担当してからは、市場でメキメキ支持が向上してきて現在近差で業界3位のメイクブランドとして君臨している。


「あ、その角で停めてください。」


飯田がタクシーの運転手に声をかける。運転手は頷くとウインカーを左に出して車を歩道に寄せて停めた。木村が先にに降りて、飯田が車内で精算をすませて後からついて降りた。


「さあ、いくか。ななえちゃんにはしっかり活躍してもらわないとな。」


そう言ってさっきまで笑って飯田に愚痴っていた頼りなさ気な上長の顔から、びしっと引き締まった営業の顔変わった。飯田は木村のこんなところにいつも感心する。飯田も自分自身気持ちを引き締めて、レインボープロモーションの入居しているいかにも高級そうな高層ビルを見上げて心の中でつぶやいた。


『真藤先輩。がんばりますから。いい話期待してくださいね。』





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