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4#

 澪は休憩室で一息ついた後、デスクに戻ると今日の倉元との打ち合わせの内容について飯田に話をした。


「倉元さん、男としては気に入らないけど、仕事に関してはさすがですね。先輩、すごい内容になってきましたね。」


澪は飯田の反応にやや顔をしかめつつ、満足そうに頷くとデスクの電話に手を伸ばし、広報部の担当者に内線で電話をした。


「瀬戸さんですか?真藤です。お疲れ様です。今よろしいですか?」


そして澪は倉元の話をかいつまんで瀬戸に話した。


「それで、今、手元に資料があるのですが、見ていただけないかと…。」


瀬戸は澪の話に狂喜してすぐに伺いますと喰らいついてきた。以前から話す度ににおもちゃみたいに面白い人だと澪はクスッと笑った。


「はい、ありがとうございます。」


そう言って、澪はPCの社内ネットで会議室の空きをなれた手つきで検索する。2号に春日の予約の文字に一瞬どきっとするが、すぐに他へ目を移すと5号が空いていたので、すばやく真藤と入力した。


「では、5号の会議室で。」


了解と威勢よく瀬戸は返事をして電話を切った。そしてその電話ですぐに木村の内線ナンバーを押した。


「木村マネージャーですか、真藤です。ちょっとビッグなお知らせがあるので、今から少しお時間をいただきたいのですが。…ええ、おそらく20〜30分程度です。あ、広報の瀬戸さんにも来ていただく予定です。…はい。…はい、そうです。よろしくお願いします。」


そういって電話を切ると、今度は飯田に向き直った。


「飯田君、あなたもいいかしら?」


「あ、はい。」


PCのキーボードに指を滑らせてながら、電話の様子に耳を傾けていただろう飯田は、何事もなかったように顔を上げて返事をした。そしてすぐさま、自分のデスクの電話で食堂に電話してお茶を人数分手配した。

 こういうところが飯田の気の利いたところである。そして、澪はさりげなく飯田にいつも気が利くわねと笑いかけてねぎらうのを忘れない。飯田はこんな瞬間、澪と組んでよかったと常々思うのである。ちょっとした細かい気配りに気付いてくれてこうして必ずねぎらってくれる。仕事のパートナーとしても最高だが、こんな人が上長だったらいくらでもお役に立てるように働くのにと飯田は別の意味で澪に対して厚い信頼を持っていた。


 5号会議室にいくと、既に瀬戸が満面の笑顔で待っていた。


「お待たせしてすみません、瀬戸さん。あと木村マネージャーもまもなく参りますので。」


そういって少し申し訳なさそうに軽く頭を下げた。


「いやあ、いいんですよ。真藤さんからお電話いただけただけで、僕嬉しいですから。」


そういって照れながらニコニコ笑って答えた。その様子に飯田は澪の後ろからひょいっと顔を出して瀬戸を睨みつける。瀬戸は、飯田の姿を見て、がっかりした表情をおもむろに表わした。


「瀬戸、そんなにおもむろに嫌な顔しなくてもいいじゃないか。」


そういって飯田が笑って牽制する。瀬戸は飯田の同期のベビーフェイスで飯田よりやや小柄なかいわいいギャルソンみたいな青年である。


「ちぇっ、せっかく真藤さんと二人きりになれるチャンスだったのに。なんでいつもおまえがくっついてるんだよ。」


「悪かったな、お邪魔で。でもな、俺は真藤先輩のパートナーなんだ。当たり前だろ。」


飯田は自慢げに瀬戸に話をする。


「なんで組んでるのがおまえなんだよ。みんな真藤さんと仕事するの狙ってるんだぜ。」


瀬戸は子供のようにふてくされて頬を膨らませる。澪は思わず、おかしくて笑ってしまう。


「瀬戸さんって本当に面白いですね。」


瀬戸はその一言に反応して急に乗り出すようにして澪に迫ってくるので澪が一瞬驚いてひいた。飯田がすかさず瀬戸の前にはだかった。


「おまえねえ、近づきすぎなの。まだおまえ早死にしたくないだろ?」


「へ?」


瀬戸が飯田の意味不明の言葉にぽかんとしている。反対に飯田の話にいち早く反応したのは澪だった。仕事にモード切替をして忘れていたはずなのにまた、思い出してしまった。そのせいか、急に流星の顔がちらついてきて、さっきおさめたはずの熱がぶり返してくる感覚に捉われた。澪は困ったような顔をして頬を赤らめている。飯田はその様子に気付いて澪に声をかけた。


「先輩?どうかしたんですか?顔が赤いですよ。」


「えっ?いえ、なんでもないのよ。さ、とにかく座りましょ。」


そういって火照る頬をごまかすように微笑むと瀬戸と飯田に椅子を勧めた。まもなく、お茶が届けられ、木村も現れて4人でV誌とK誌の専属カリスマモデルが集うショーのスポンサーの件で話をした。木村も飯田も話に賛同し、瀬戸はといえば、興奮状態でやはり子供のような満面の笑顔で上に通して必ずいい返事もらってきますからと約束して打ち合わせを終えた。




 その日の晩、午後8時少し前にビル1階のロビーのソファに座って澪は流星を待っていた。ほとんど待たずして流星がエレベーターから降りて澪に近づいてくる。


「食事に行こう。おばさんには電話しといたから。」


しれっと流星は澪に言うとスマートな男のエスコートといった風にすっと背中に軽く触れて出口へと促す。一瞬流星が触れるだけでびくんと体が反応して肌が火照ってくる。澪は一瞬頬を赤らめた。


「なに、おまえ赤くなってるんだ?」


にやにや笑いながら意地悪く視線を遣る。


「流星のいじわる!」


そう言ってむっとして早足で歩きだす。流星は後ろからついて行きながら、澪が思い通りの反応するのに満足げな様子でクスクス笑っている。毎回こんな調子で仲直りするのだ。


 外へ出ると、流星はスタスタ歩いていく澪に追いついて、横から笑顔で澪の顔を覗きこんだ。澪は真っ赤になってふくれっつらをしている。


「澪、何食べたい?」


「誰が食事に一緒に行くって決めたのよ!」


「ふーん、じゃ、違う誰かといってもいいわけ?」


「えっ?」


 流星がいうと洒落にならない。今までいろんな女の人との遍歴がある。流星は半端じゃないぐらいモテる見目麗しい完璧な男なのである。その上、いつも冷静でスマートでエレガントとくれば、普段あまり仕事以外で他人に笑顔を向けることは少ない流星がその気になって見つめてニッコリ微笑むとほとんどの女はイチコロなのである。澪と想いが通じてからは全くなくなったが、流星におぼれるほど好きだと自覚している澪にとっては気が気じゃない。


「ちょっと、それ、本気?」


澪が焦ったような顔で流星を見上げる。


「さあ、どうかな。女王様に断わられたらしかたないだろ?」


「誰が断わるって言ったのよ。」


クスクス流星が笑っている。


「じゃ、何が食べたい?」


澪が真っ赤な顔してぷいっと正面を向く。


「怒ってる顔もステキだけど、機嫌直せよ。澪。」


そういって流星が澪の腰に手をまわして抱き寄せると、澪の頬に自分の頬でキスするように触れた。そんな流星のじらすような行動に澪はさらに心臓が高鳴って今度は体の芯からほてりだして湧き出してくる熱をもてあます。


「澪、体が熱いね。熱でもあるの?」


流星がまたにやにや笑ってからかう。


「流星の意地悪!そんなにいじめなくったっていいじゃない!」


流星はクスクス笑ってもう一度抱き寄せると頬にキスをした。


「いや、あんまりかわいい反応するから、つい面白くなっちゃって…。機嫌直せよ。澪が大好きなMEDOCのワインおごってやるから。」


「えっ?ほんと?いいの?じゃ、早くいきましょ!」


それまで頬を膨らませていたのにMEDOCのワインに釣られて急に機嫌を直す澪にまた流星はクスクス笑った。澪を見る流星の瞳にはあふれんばかりの愛情がにじみでている。流星がこんな表情を見せるのも澪の前だけだ。流星のそんな優しい幸せそうな表情を見るたびに、澪は流星が自分だけのものだと思えて嬉しさがこみ上げてくるのだ。機嫌を直した澪はまた目を輝かせて流星に話しかけては笑った。こんな風に二人はじゃれあうように楽しげに会話しながら、澪のお気に入りのイタリアンの店の中へと消えた。


しかし、その後ろでじっとその様子を見つめる影に甘く幸せを奏でている二人はまったく気づく様子もなかった。





このあと物語が展開します。

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