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お待たせいたしました。

まだ完成はしておりませんが前作より長い話になりそうなので、思い切って連載開始することにしました。

ここからお読みになっても大丈夫だとは思いますが、よろしければ、前作「素直になれなくて」をご覧いただけると幸いです。


尚、今回は前作になかった会社名を香麗堂こうれいどう真藤澪しんどうれいが担当しているメイクブランドをBeauビューと設定しています。

いずれもフィクションであり、実在いたしません。もちろん、内容に書かれていることも事実ではございませんのでよろしくご承知ください。

では、最後まで努力してまいりますのでお付き合いくださりますようお願い申し上げます。

 「…れい…澪…。」


聞きなれた甘い声…。澪はやさしく髪の毛をなでつける暖かい手の感触に心地よく意識を戻してくる。ぼんやりと目を開けると流星の整った美しい顔が澪をのぞきこんでいた。端正で高い鼻梁にきりっとしたややクールな目元に優しく笑みを湛えている。


「…う…ん…。」


 澪は眠そうに流星の胸に頬を寄せ安心しきった様子で無邪気にまた眠りにつこうと潜り込む。澪はこのぬくもりと香りがこの上なく好きだといわんばかりに満足そうに大きく息を吸い込んだ。流星はその様子に少々ため息をつきながらも優しく目を細める。


「澪…。時間だよ。そろそろ目を覚ませ。遅れるぞ。」


出来ればこのままにしておいてやりたい。流星は澪の幸せそうな顔を眺めながら、毎朝心を鬼にして澪を眠りの世界から引きずり戻す。これが最近の二人の日課だ。

 お互いの両親にカミングアウトしてからというもの、二人はいつも一緒で、毎日澪は流星の部屋で寝泊りしている。澪の両親は流星が一緒なら安心とばかりに既にあたりまえの日常として受け止めているようだった。


「れーい、起きろ!」


流星は仕方なく澪の頬を軽くぱんぱんと弾いた。


「う…ん。」


 澪はもう一度ぼんやり目を開けてぼーっと潤んだ瞳で流星を眺める。やがて、視界がはっきりしてきたのか、流星にニッコリ笑いかけると大きく息を吸って吐き出しながら諦めたようにけだるそうに重い体を持ち上げた。


「おは…よう…。流星…。ふあ〜っ。」


朝の挨拶を言い終わらないうちにあくびが出てきた。その様子をクスクス笑いながら見ていた流星が顔を近づけ頬に軽く唇で触れると愛しむように澪の唇にやさしく重ねた。澪も目を閉じてそれに応える。流星は唇を離すと、子供に言い聞かせるように澪の目をじっと見て言った。


「さあ、澪、支度しないと間に合わないぞ。」


「えっ?」


澪は慌てて時間を見る。


「あ、ほんとだ!まずい。」


見れば、時計はAM6:40を指している。急にバタバタ動き出した澪は足早に自分の部屋に帰っていった。


支度してダイニングに下りると、流星がもう朝食を食べている。澪もあわてて、朝食をかきこみ早々に家を出た。


 澪は毎朝、流星と一緒に通勤する。昔から見慣れた光景だが、以前は朝から兄弟げんかのように互いに意地の張り合いで小学生の通学のようだったが、二人が互いの想いを告げてからは、甘い視線を交わしながら仲睦まじい様子が誰の目にも見て取れた。澪の同僚で流星の後輩、飯田は毎朝、このラブラブぶりを見せ付けられるのだ。


「おはよう。」


澪はデスクに到着すると既に座ってコーヒーをすすっている飯田にさわやかな笑顔を向けた。


「おはようございます。真藤先輩。朝から仲いいですね。俺なんかあてられっぱなしですよ。」


飯田が笑いながらため息を漏らす。


「え?やあねえ。仲いいって一緒に通勤なんて前とかわらないでしょ?」


照れくさそうに満面の笑顔でPCを立ち上げる。


「どこが前とかわらないんですか。二人で見つめあっちゃって、どう見たってラブラブモードでしたよ。こっちが照れるぐらい。」


飯田がすねたように口をとがらせる。

 飯田はバレー部だったせいか180cmと背は高いがいかつい感じはなく、スラッとして手足がながく、新人からベテランまで女子社員からの人気は高い。流星が見た目に美麗でクールエレガントな貴公子タイプなら飯田は爽やかイケメンスポーツマンタイプである。

 ただ飯田の人気は見た目だけでなく、頭がいいのでよく気がつくところも男女問わず好印象のようだった。その丁寧で用意周到な仕事ぶりは周りでも評判がいい。澪はひらめきやカン鋭く、クリエイティブで斬新なアイデアがあふれるような仕事ぶりだが、飯田の絶妙な行き届いたフォローにずいぶん助けられている。その自覚があるせいか、仕事に対して飯田には特に信頼が厚い。


「飯田君、昨日の件どうだった?」


澪はPCがたちあがると、スケジュールを確認して飯田に早速仕事の確認にはいる。


「はい。レインボープロモーション側は明日14時ならOKとのことでした。」


「了解。」


澪は返事と同時にデスク上に置いた手帳を手にとると、きびきびとページをめくっていく。


「あ〜、ちょっときびしいかなあ。レジントンホテル側との打ち合わせが13:00からなのよね。手島企画の担当者も呼んでしまったから今さら変更できないわ。木村マネージャーは?」


「OKです。」


飯田はすかさず応える。木村マネージャーとは澪達の上長でブランド統括マネージャーである。澪達の会社香麗堂にはいくつかメイクブランドが存在し、それらを木村マネージャーが総括し、その下に各ブランド担当者がいる形となっている。澪と飯田はいくつかメイクブランドがある中で「Beauビュー」というブランドを担当している。


「じゃあ、飯田君一緒に行ってスケジュール調整してきてくれる?全体のスケジュールはどんなあんばい?」


澪が飯田の方に顔を上げる。飯田は待ってましたとばかりに涼しげな笑顔でさらっと切り替えした。


「完璧ですよ。昨日遅くまでかかって必死に作りましたから。あとはスケジュールにあわせてアポイント取り捲るだけですよ。確認しておいてください。真藤先輩のファイルに貼り付けときましたから。」


「さすがね〜。用意周到だわ。そういうところは本当に助かるわ。」


澪が特級の笑顔を飯田に向けた。一瞬ドキッとする。こんな風に時折、澪が何気なく屈託のない笑顔を向ける瞬間がある。飯田はその度に、心の奥底に押さえ込んでいる想いに心を揺さぶられるのである。


「いえ、俺も今回の企画はいけるような気がするんです。絶対に1位とりましょうね!先輩」


そう元気よく言うと、飯田は平静を装って、澪を後押しするようにニッコリ笑って返した。


「もちろんよ。がんばりましょうね。頼りにしてるわよ。飯田貴俊くん。」


澪も同じ調子で勢いよく返す。


「はい。任せてください。真藤先輩のフォローはばっちりしますから。」


そう飯田が行った瞬間、澪の後ろから声がした。


「おはようございます。あの…、ちょっといいですか?R−10の予算の件ですけど…。」


Rー10とは、情報開示前に便宜上つけられる名称である。多くの場合、もともと試作品のモデルにつけられた名称で、いくつかあった最終モデルの中の商品化につながった物をそのまま引用して呼んでいることが多い。もちろん関連の書類にはすべてR−10と記されている。機密情報の漏洩を防ぐための対策でもあるのだ。


「ああ、おはようございます。佐々原さん。予算の件ですか?」


澪はニッコリ機嫌の良い笑顔を浮かべて販売企画の佐々原に振り返った。


「はい。今度の役員会議にかけるのですが、企画の追加があった件で予算修正をしてまいりました。内容の確認をさせていただきたいのですが、少しお時間よろしいですか?」


佐々原はいかにも数字に強そうなインテリ風の風貌で、シャープできつそうなキツネ顔のため、社内ではスネ夫君というあだ名で通っていた。


「はい。あ、9時には出かけるのですが、よろしいですか?」


澪が佐々原にそう断わると、佐々原は臆することなく淡々とすぐに切り返してきた。


「いえ、そんなに時間はかかりません。では、あちらの2号会議室でお話させていただいてもよろしいですか?」


澪はこのニコリともしない佐々原がやや苦手だったが、当初の予算を修正しないといけなくなった原因を作ったのは自分だったので、営業スマイルで応じた。


「はい。わかりました。」


澪はそう佐々原に返事をすると、飯田に予算修正の打ち合わせしてくると告げて席を立った。飯田はその姿を見送ると、ほっとしたようにため息をついた。







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