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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第五章 ニセ勇者になったった
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第91話 ナンパ初心者になったった




 俺たち――俺と炭鉱族ドワーフの女戦士ブレタ、狼獣人の女剣士ナブラ、近衛騎士のクリーグと部下2名は、スラム街の一角にある隠家セーフハウスへ到着し、無事、女魔術師コルス(と護衛騎士たち)をナブラに引き合わせた。


 大勢で乗り込んだので一瞬警戒されたものの、マントのフードを跳ね上げたナブラを見て、駆け寄り抱き着くコルス。

 落ち着いた大人の女性、という印象の強いコルスだったが、実は心細い想いをしていたんだな。



「よく無事だったな、コルス。殿下も心配しておられたぞ」

「わたくしが戻っては、殿下にご迷惑が……」

「そのような事を気にされる御方ではない。ルメール解放戦線の幹部だったイル・イーロをブレーンにスカウトし、お命を狙う暗殺者だったケインを護衛に抜擢した殿下が、苦境にあるコルスを遠ざけるはずもなかろう?」



 さらっと流したが、殿下に心酔し忠誠を誓っている2人――伯父イルが反帝国組織の元幹部で、『幻惑ケイン』は元暗殺者だったとか。


(ふところ広いにも程があるな、トウマ殿下)


 まぁ、俺自身も、殿下に『勇者』として認められた時、『百年の知己を得た』という気持ちになったけど。



「ここまで、どうやって辿り着いたのだ?」

「危ない所でしたが、ジョシュに助けていただきましたの」

「そうか。改めて礼を言おう、ヨシュ・イーロ」



 ひとしきりコルスとハグした後、今までより柔らかい声音で俺に頭を下げるナブラ。

 俺と同じ転生者なのに、何かあるとすぐに抜刀しようとするおっかない女剣士だが、仲間の身を案じていた事に嘘偽りは無いらしい。


 コルスの護衛たちも、クリーグたちに労われている。

 彼らは元々、第二皇子付きの近衛騎士隊所属でクリーグの部下だったらしく、敬礼しながら感極まって涙している者も居た。


(コルスの件は、これでもう安心だな)


 魔術師コルスは、ブレタ同様、未来のアイザルトが初めて会った人族冒険者PTのメンバー。

 この時代で再会するとか、何かの縁があるとしか思えない人物の1人だ。


 未来では詳しくは話してくれなかったが、帝国から亡命し苦労したという身の上話を聞いていた。

 再転生した俺が関わったことで人生が変わってしまったとしても、少なくとも悪い方向にでは無いはずだ(彼女の敬愛する殿下と一緒に居られるわけだし)。


 まぁ、時間ループSFモノでよくある「バタフライ・エフェクト」について気にならないわけじゃないが、この際考えても仕方ない。

 なぜなら、この先どのような経緯を辿ろうとも、今のヨシーロが死んで、魔神のアイザルトが誕生する『特異点』へと、決められた未来に収斂しゅうれんするはずだ。

 ソレは、逃れようのない運命なのだから。



「それじゃ、ナブラさんは殿下のもとへコルス殿を送って下さい。俺たちは、次の目的地に向かいますんで」



(……ここからが、本番だ)


 熊獣人の冒険者・ミハイロフが人探しの依頼を果たしてくれれば、今夜、運命のひと――俺のことを知らない彼女――『アルタミラ』に再会することになる。




――――――――――――――――――――




「で、なんで全員ついて来ちゃってるんですか??」



 『帝国家庭料理・ダンケルク亭』へ向かってる間、俺の袖をガッチリ掴んで離そうとしない炭鉱族ドワーフのブレタ。

 その隣を歩くのは、ローブで顔を隠しながらも、上気した頬を染め、目をキラキラさせて話しかけてくる女魔術師コルス。

 そして、上から目線の説教っぽい口調で先を歩きながら、後ろ姿のマントの下が激しく踊っている(尻尾を盛大に振っている)狼獣人のナブラ。


 ブレタは良いとして、コルスばかりか、当初、「コルスをトウマ殿下のもとへ連れ帰るための護衛」という名目でついて来たナブラまで同行しているのだ。



「いえ、ジョシュは女性に対して押しが足らないので、御恩返しに何かアドバイス出来ればと思いましたの」

「うむ、先の立ち合いでも消極的だったな」

「……ジョシュは女心に疎い。もっと積極的になっていい。むしろ押し倒すくらいすべき」



『運命の女性に告白をする』


 そう漏らした途端、この、ダメ出しの嵐である。

 何故かテンションの上がった女性陣から総攻撃を受けているんですが、どうしてこうなった?

 ……つか、おまいら人の恋バナを肴に騒ぎたいだけだろ。



「私は『活人剣かつじんけん』(カウンター狙いで敵の働きを活かす剣術)を得意とするタイプの剣士だが、ヨシーロは一向に攻めて来なかった。

 しかし、埒が明かぬからと、『殺人刀せつにんとう』(威圧して敵の動きを殺す剣術)に切り替えてみれば、萎縮せずに反撃してきたな。

 消極的ではあるが、どうしようもない臆病者というわけでもないようだ。

 ここは自信を持って、堂々と当たって砕けるべきだろう!」



 なるほど、トウマ殿下の御前での腕試しの時、気配の読めない「静」の姿勢から、少し強引な「攻め」に打って出たのは、そういう理由ですか。

 あと砕ける前提ですか、そうですか。



「ってナブラさん、剣術と恋愛を一緒にされても」

「『ここぞ』というタイミングで行かなければならないのは、恋も剣も同じだろう?」

「そうですわ。わたくしもナブラも、『ここぞ』というタイミングを逃したお陰で今があるのですわ!」

「コルスっ、それは言わない約束じゃないか!」



 ……薄々分かってはいたが、2人とも、この世界の普人族や獣人族でいう「婚期」を逃している年齢らしい。

 うん、有益なアドヴァイスを期待した俺が馬鹿だった。



「ジョシュ。今からでも遅くない。押し倒す練習をするべき。わ、私が相手になろう……」



 かつて、吸血聖女に殺された恋人の仇を討つため武術鍛錬に打ち込み、無口で無表情だったブラタ。

 そんな彼女が、俺を困らせるために「(女を)押し倒せ」なんて冗談を言うようになるなんて。



「何言ってるのブレタ? 青野さんの擒拿きんな術の指導で、さんざん倒しあったじゃん?」

「そういう意味じゃない。……(ジョシュのばか)」



 分かっててスルーしてみると、顔を赤くしてぷくっと頬を膨らませるブレタ。

 復讐に凝り固まって頑なに張り詰めていた彼女が、今は表情も豊かになって、年ごろの女の子らしくなってきたのは喜ばしいことだな。


 ちなみに擒拿きんな術というのは、中国拳法の投げ技・関節技のようなものだ。

 柔道や柔術ほど投げ技・関節技に洗練・特化した技術ではなく、経絡のツボに点穴しながら逆関節を極め、あるいは引き倒し、相手の動きを止めて、とどめに急所を打突する技が多い。

 投げ技・関節技自体で勝負を決するのではなく、あくまで拳法や武器術の攻防を補助する技術、という位置づけらしい。

 そして、相手を投げたり倒したりする技はあっても、自分が寝た状態で使う技――寝技が無いのも特徴である。

 俺たちの師である青野さん(勇者ブルー)によれば、おそらく、日本的な武士の「鎧武者が一騎打ちの末、組打ちで首級を上げる」という戦場で1対1の決闘をするお約束が無く、寝技を使えば周りの敵からフルボッコされてしまうので発展しなかったのではないか、という話だ。


 ……何が言いたいかというと、ムッチリと出るとこ出てるブレタさん相手に、寝技の練習をする機会は無かったのである。

 まことに残念である。



「なぁ、俺たち帰ってもいいか? ガキの色恋沙汰に付き合ってる暇はねぇよ」



 こちらはぞろぞろと後ろに続く、むさい男たち――スキンヘッドの大男・クリーグと彼の部下である第二皇子近衛隊のメンバーで、所属が分からないよう、紋章の無い金属鎧を着込んだ騎士たちだ。

 俺の伯父であり、「暗黒街の顔役」ということになっている『ウィル・フィーロ(イル・イーロ)』。

 クリーグらは、帝国駐留軍の警備兵に顔が利く伯父イルの「私兵」という体裁を取っている。

 本来なら第二皇子・トウマ殿下の警護を最優先にすべきだが、「もし暗黒魔竜アルタミラ説得の際、街で騒動が起きたら、コネを使って事態を鎮静化するように」という殿下の指示に従って同行してくれたのだ。



「これも『魔竜討伐』の一環なんで。いざって時は頼りにしてますよ(酒代とか、主に酒代とか)」

「ちっ、半長耳族ハーフエルフだからって女みてぇなツラして、初恋だの告白だの女みてぇに浮かれやがって。……この軟弱ヤロウが!」

「エルフの血を引く者が美形揃いなのは、俺のせいじゃありませんよ」

「自分で言うかよ、ムカつくヤロウだぜ」



 騎士にしては無頼な雰囲気のクリーグだが、不機嫌ながらも本気で帰ろうとはしない辺り、根は真面目なのかもしれない。

 なにしろ、このメンバーの中で『俺の告白相手』=『暗黒魔竜アルタミラ』と知っているのは、同じ転生者のナブラだけだ。

 恋バナに興味無い騎士たちがやる気無さげなのも、仕方ないと言えよう。


(俺の告白が成功した後、ホントの事知ったら驚くだろうな)




 ……この時はまだ、俺も楽観的な気分だったのだが。




――――――――――――――――――――




 目的の建物『ダンケルク亭』に近づくにつれ、圧倒的な『気』を放つ者の存在を感じる。

 『魔力』の漏出をコントロールすることは出来ても、『気配』を殺すことは出来ないようだ。

 或いは、気配を殺す必要が無いのかもしれない――圧倒的な強者であるが故に。


 昼間、市場の活気と喧騒の中で彼女に気付いたのも、俺がこの世界では珍しい、『気』を感じ取るスキルを磨いていたお陰かもしれない。



「間違いなく、中にいますね。みんなは、ひとまず外で待機してて下さい」



 俺の服の袖を離そうとしないブレタをなんとか引きはがし、「ご武運を」と何かを期待してウキウキしているコルスに頷き、やる気無さそうなクリーグたちに「早く行け」と身振り手振りで追いやられ。


 なんか、緊張と期待でドキドキしてきた。

 こういうときはアレだ、深呼吸だ。


(すぅ、はぁ……ふぅ。よし、落ち着いた。俺はやれる、行ける!)


 ダンケルク亭の両開きの扉に手を掛けた瞬間。


「待て!ヨシーロ」



 先程とはうって変わって厳しい表情になり、俺を呼び止めたナブラ。

 マントの下をゴソゴソ探ると、掌に隠すように何かを握りこんで手渡してくる。


(これは――)


 琥珀色の玉を金具に留めたペンダント……トウマ殿下謹製の『簡易型転移結晶』だ!



「念の為に持っていけ。殿下から、使用制限解除アンロックされたモノを預かって来た。もしもの時は……」

「そんな、その案は取りやめになったんじゃ……」



 『魔術妨害施設にアルタミラを連れ込んで、力を封じた状態で倒す』計画。

 俺の『アルタミラを説得して討伐されたフリして貰う』案の採用で、ボツになったものだと思っていたが。



「『策』というものは、上手く運ぶとは限らない。常に次善の策を用意しておくものだ。交渉決裂となれば、その時は致し方あるまい?」

「しかし、あの館には殿下が居るじゃないですか。建前としては『殿下が指揮を執る』という話でしたが、実際に戦闘に巻き込む気ですか?」

「殿下とイルは別館へ移動済み。他の者は足手纏いになる故、私とケイン、ヨシーロの3人で魔竜を討つことになる。……そうならぬよう、覚悟して交渉に挑め!」



 俺とナブラのただならぬ雰囲気が伝播し、静まり返る一同。

 緊張の余り、喉がひりつくように渇く。



「行け、ヨシーロ。その宝玉が役に立たないことを祈っているぞ!」




――――――――――――――――――――




 アルタミラさんが心を開いてくれるまで、時間を掛けて何度でも告白アタックするつもりでいたのだが、俺たちにそんな猶予は無いらしい。


 殿下たちの計画のリスクについて説明し納得して貰ったはずだけど、俺の案を採用することで既に譲歩してもらっているので、「第一皇子派が嗅ぎつける前に決着しなければ」というナブラの意見も無下に出来ないのだ。


(このタイミングで、ハードル上げられたなぁ)


 実際、もしアルタミラの機嫌を損ねるようなことになり、彼女が暴れ出した場合は、街に被害を出さないためにも、『魔術妨害施設』に隔離するのが一番かもしれない。

 もちろん、その場合でも戦うのではなく、最後まで彼女を説得するつもりだが。


(とりあえず色恋沙汰は後回しで、アルタミラとの協力関係について大筋の合意だけでも取り付けなければ)


 浮ついた気分はどこかへ消し飛び、事の重大さに身が引き締まる。


 気後れしたわけではないが、そっと扉を開き、中を窺うと。

 魔道具の照明など無く、大きめの燭台数本に照らし出された店内は薄暗い。


 だが、探すまでもなく、正面の奥の席に、半端ない波動オーラを放つ人物の姿。


(居た!)


 フードを目深に被った女性。

 まるでそこだけスポットライトを浴びているように、周りから際立って見えていた。

 盃を握る腕は褐色の肌で、フードから覗く首元に銀髪の房が幾筋か流れている。

 そして、間違えようのない圧倒的な存在感。


(――『アルタミラ』だ!)


 彼女の姿を目にしたときから、ドクドクと心臓が高鳴り、息苦しく胸が押しつぶされそうになる。

 駆け寄って、彼女を両腕に抱き締めたい。

 再会したら言いたかったこと、伝えたかったことが、奔流のように胸の中で渦巻く。

 言葉にならない声が、喉元から零れ出そうになった、その時。


(――っ!?)


 何かを感じ取った俺の足が、ピタリ、と止まる。


 視界に入ったのは、こちらに背を向けて座る筋肉質で大柄な毛深い男――熊獣人のミハイロフ。

 まるで何かに怯えるように、巨体を小さくして萎縮しているようだが。


 俺の警戒心を刺激したのは、彼ではない。


 2人の隣の卓につく、修道服のようなものを纏った女。


 こちらも、人化アルタミラと比較しても遜色のない美女だ。

 スタイルが良く、肌は白いのを通り越して青白くみえた。

 清楚な佇まいながら、妙に官能的な仕草が違和感を覚えさせる。


 ――そして、異様なまでの『殺気』。


(こいつは、『吸血聖女』!)


 かつて、地神竜ヨルムンガンドレギダスとエルフ難民を襲った、俺の母マリエルと、ブレタの恋人の仇。

 オリハルコンの巨人を手に入れるため、封印を施した神竜の抹殺を目論む、俺たちの『敵』だ。


(なぜここに??)


 店主も周りの客も、誰1人言葉を発しようとしない中、ゴクリ、と俺が唾を飲み込む音が大きく響く。


 『闇神竜ダークバハムートアルタミラ』と、『吸血聖女マリナ』。


 盃を手に睨み合う2人の美女によって、店内には氷結地獄のように酷薄で荒涼とした空気が漂っていた。




どーも、ご無沙汰してます^^;

続きを待ってて下さった方、ホントすいません&ありがとうございます。


エタだけはしないように頑張りますんで、本年もよろしくお願いしますm(_ _)m

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