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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第五章 ニセ勇者になったった
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第90話 お見合い参加者になったった




 異世界転生者3人で、『暗黒魔竜アルタミラ討伐』を検討することになったのだが。


 この俺が、アルタミラを傷つけるようなマネ、させるわけにはいかない!



「魔法の使えない環境を準備して、人化した暗黒魔竜を連れ込み、ナブラさんの剣技と魔導具を使った連携攻撃で倒す――そのアイデアは神竜の能力を低く見積もり過ぎていますし、火力が圧倒的に足りません。不可能です」



 舌先三寸で丸め込んだ気がしないでもないが、その計画を実行させれば、大きな犠牲を出すのは間違いないし、アルタミラと人族社会の間に決定的な不和をもたらすだろう。



「ではヨシーロ、何か代案を出してくれないか?」



 そう。

 アルタミラとのガチンコバトルを避ける一方で、俺は第二皇子トウマ殿下の手伝いもしなければならないのだ。


 まず、匿っている女魔術師コルスの件がある。

 彼女の身の安全のためにも、トウマ殿下が次期皇帝を継いでくれれば安心だ。

 自由や民主主義という価値観を共有する転生者なら、圧制を敷くような心配もなさそうだし。


 それだけでなく、トウマ殿下のチート能力は、現在のヨシュ・イーロが死んだ後、『魔神アイザルト』として再転生するため必要となる『魔神の魂の器』について、重要な鍵となる可能性がある。


 エルフの里を出たのは、『器』の有力な材料候補となる『神竜の誓いの角』を手に入れるため。

 だが、魔結晶や精神感応金属オリハルコンの錬成が可能なトウマ殿下と友好関係を築けば、屑魔石を集めて高純度魔結晶を生成し、『人造人間ホムンクルス』を作ることや、オリハルコン製の自動人形オートマタを作って貰うことも不可能ではない。


 同じ転生者だからという心情的な理由だけでなく、トウマ殿下たちと信頼関係を結んでおくことが重要な利益になると判明した以上、彼らに加担することはもはや必要不可欠と言っていい。



「私からの提案は、発想の転換です!」

「暗黒魔竜を倒すのに、発想の転換? どういうことだ?」



 俺が誘導したかった案、それは。



「手っ取り早く、暗黒魔竜本人に協力を仰ぎましょう!」



 無い知恵を絞って考えたのは、誰も傷つかずにトウマ殿下の魔竜討伐を成功させる案。

 その案とはずばり、『アルタミラを説得して、討伐された演技をしてもらう計画』である。


 もし俺が、本当に(未来でアルタミラの彼氏となる)『勇者ヨシーロ』なら、あのベタ惚れっぷりから説得も容易な気がする。

 なんせ残念チョロイン……じゃなくって、情に厚くお人好し……でもなく、話せば分かるタイプだ、彼女は! (たぶん)


 現在のジョシュは一応ハーフエルフでイケメンだし、酒を飲ませて誠心誠意おだて上げれば、きっと話に応じてくれる(……ってホストか俺は!?)


 とにかく、そうすればアルタミラが傷つくことはないし、俺は彼女と友好的な関係を結べる。

 トウマ殿下一行も、命を危険にさらすこともなく、無事に皇位継承戦を勝ち抜くことが出来る。

 殿下の地盤が固まれば、俺が匿っている女魔術師コルスも、安心して殿下の下へ戻れる。


 三方良し、万々歳だ。

 そのはずなんだが……


チキリ


 「同じ転生者同士」という、秘密を共有する者たちの親しげな空気は、ナブラがオリハルコン刀の鯉口を切る音によって、掻き消された。




――――――――――――――――――――




「我々を愚弄する気か? 他に言い残すことが有れば聞こう」



 瞑想中の禅僧のような、穏やかと言っていい表情で、淡々と死刑宣告を下す狼獣人の女剣士・ナブラ。


(しまった!?)


 背筋に嫌な汗が流れる。

 彼らに気を許していたせいで見過ごしてしまったが、この距離は完全にナブラの抜刀術の間合いだ。

 魔法の使えない狭い室内で、後ろに下がればすぐに壁。

 下がって間合いを外すことも、横に躱すことも難しい。

 腰の後ろの短刀ボウィナイフを抜いても、防御は間に合わないだろう。


(こんなところで死ぬわけにいかないっ!)


 同じ転生者というだけで、「そう無茶なことはしないだろう」と油断していた自分の間抜けさに、ぎりり、と歯を噛み締める。

 ナブラ相手に通用するか自信は無いが、素手のまま懐に飛び込んで、抜刀を封じつつ急所に八卦掌の点穴てんけつをするしかない。



「待つがよい、ナブラ。いま少し、話を聞こうではないか」



 トウマ殿下が止めてくれたお陰で、少しだけ寿命が延びたものの。


 殿下の気さくでフレンドリーな雰囲気は、一瞬で霧散むさんしていた。

 そこに立っているのは、初対面の時のような、怜悧れいりな美貌の中にも強い意志を秘めた、カリスマオーラ溢れる第二皇子。



「ヨシーロよ、そなた、何を隠しているのだ?」



 彼はその瞳に、偽りを許さない激しい炎を宿していた。




――――――――――――――――――――




 隠していることは、たくさんある。


 元はといえば日本人だが、(未来において)魔神に転生したこと。

 魔神として死亡し、その時点から過去(この時代)へ再転生した未来人?であること。

 この世界が、滅亡後の地球であり、外宇宙から飛来した『精神生命体』によって復興されたものであること。

 魔素の正体は半物質化した『精神生命体』であり、魔結晶やオリハルコンは、全て彼らがもたらしたものであること。

 未来において、再びこの星の生命が滅亡する運命が確定したこと。

 破滅を避けるため、魔神として復活するための『魂の器』を準備しなければならないこと。


 ……そして、俺が闇神竜アルタミラの伴侶であり、彼女を愛していること。

 彼女の娘であり、世界を滅ぼす運命を背負わされたカゲミツと、共に生きる世界を勝ち取りたいこと。


(だけど、どうやって信じさせられる? そんな話を)


 地神竜レギダス養母ロジーナ師父ブルーにしか明かしていない重大な秘密を、どうして今日会ったばかりの相手に話せるだろう?



「ヨシーロ、そなたが我らを信用出来るか見定めようとしていたのと同様、我らもそなたの人物を見定めていた。

 ナブラ、どう見た?」

「兵士としては不向きでしょう。果断さに欠けます。

 戦士としても冒険者としても、大成するか疑問です。

 功名心も欲も無く、戦う技術はあっても、攻める意志が無い。

 『波風立てない穏便な方法』、という逃げ道を探している臆病者です」

「ぐっ」



 酷い言われようだが、心当たりが無いでもない。

 反論出来ないのが悔しい。



「……予の見立ては、生粋の剣士であるナブラとは少し違う。

 先ほどの腕試し、寸止め試合というルールにも係わらず、ケインやナブラから致命的となりうる攻撃を受けた。

 ルール違反の理不尽な攻撃に怒ったものの、しかし、反撃には手心を加えたな。

 それどころか、自決したナブラを助けようと、魔法妨害術式のもたらす苦痛に耐えながら回復魔法さえ使おうとした。

 実力による暗黒魔竜討伐を止めようとするのも、我々と暗黒魔竜、双方がダメージを負わないようにするためだ。

 馬鹿なお人好し、で済ますことも出来よう。だが……」



 小柄な美青年は間近に歩み寄ると、俺の目を覗き込みながら手を取った。



「『勇者』とは何か、考えたことはあるかい?

 ただ強い者でもなく、正義を振りかざす者でもなく、神託に選ばれた者でもない。

 力を持ちながら、己の私欲のためでなく、誰かのために戦うことのできる者こそが、そう、勇者と呼ばれるべき者ではないか。

 LVやステータス値で表される能力や、チートスキルだけが全てではない。

 他者に共感する力、同胞への愛情、弱者や傷ついた者への配慮、無用な争いを避ける知恵。

 そういったモノを失い、ただ力のみに縋るならば、我々は魔王と何ら変わりの無い存在へ堕ちる。

 他の誰が認めなくても、キミ自身が自分を信じられなくても、ボクが断言しよう。

 キミは『勇者』だ。

 勇者ヨシーロ、どうか、我々を信頼し、全てを打ち明けてくれ。

 キミの力になりたい。

 そして、民のために、ボクに力を貸してくれないだろうか」



 俺を見上げる小柄で華奢な体が、とても大きく見える。

 翠色の瞳の中に燃える炎が、俺の中の迷いを燃やし尽くしていくような気がした。



「……分かりました。全てをお話ししましょう」




――――――――――――――――――――




 薄暗くなったベーザルゴの街中で、その一角だけ煌々と魔力街灯に照らされた歓楽街。

 俺は、ドワーフの女戦士ブレタと並んで、街外れのスラムを目指していた。



「それで、何故その狼女ナブラとハゲ(クリーグ)たちがついてくるの? 邪魔する気なら……」

「いやブレタさん、ちょっと落ち着こう」



 俺とブレタの後ろについてくるのは、傷・凹みだらけのプレートメイルを着込んだ近衛騎士隊長クリーグと部下2名、そして冒険者風のマントの下にオリハルコン刀を帯刀した剣士ナブラ。



「ドワーフの姉ちゃんが強いのはもう分かったよ。でも、俺たちはヨシーロの作戦の手伝いに来たんだ。あんまり邪険にしないでくれよぉ」



 クリーグたちの姿がボロボロなのは、トウマ殿下たちと話している間、俺と引き離されてご機嫌斜めなブレタさんが、近衛騎士団相手に練習試合(という名の八つ当たり)をしていたためらしい。

 青アザは殿下のアイテムで治したが、予備の防具に着替える暇は無かったのだ。



「ジョシュ、作戦って?」

「ある人物を説得に行くんだ。酒代が足りない場合に備えて、街の顔役イル・イーロの代理人であるクリーグ、あと、コルスの件で護衛役のナブラについてきて貰ったんだよ」



 俄かには信じられない話だろうに、殿下は俺の話を信じてくれた。


 21世紀の一般的な科学知識を持ちながら、魔導具の専門家として魔結晶やオリハルコンの研究をしていただけに、「魔素の正体が実は……」なんて話にも、「長年の疑問が晴れた」なんて納得してくれて。

 そして、俺の『アルタミラを説得して、討伐された演技をしてもらう計画』を許してくれたのだ。



「わたしは、ヨシーロの話を全て信じたわけではない。だが、同僚コルスを助けてくれたことには感謝しているよ」



 一方、ナブラは「アルタミラが未来の俺の嫁」という話に半信半疑ながらも、魔術師コルスのお迎えのために同行している。

 護衛が殿下の傍を離れるのは抵抗があったようだが、殿下が言うなら、ということで渋々引き受けてくれた。



「とりあえず、コルスを匿っている隠家セーフハウスを目指しましょう。ナブラさんはコルスを連れて殿下のところへ帰って貰います。俺たちはその後、中央市場の傍にある『帝国家庭料理・ダンケルク亭』へ向かう予定です」



 ハーフ熊獣人の冒険者・ミハイロフが有能なら、今夜、彼女を連れてきてくれるはずだ。


(――っ緊張してきた)


 期待と不安に鼓動が高鳴る。


 『闇神竜ダークバハムートアルタミラ』と『勇者ヨシーロ』。


 なんだか、今から見合いするみたいだ。


 2人がどうやって出会ったのか、(未来で)アルタミラさんの惚気話のろけばなしをもっと聞いておくべきだったな。




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