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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第五章 ニセ勇者になったった
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第89話 詐欺師になったった


 帝国第2皇子トウマ殿下、狼獣人の女剣士ナブラ、そして俺。


 「3人は異世界転生者らしい」ということで、別室にて、他の臣下に聞かせられない内緒話をした。


 殿下は前世の記憶こそ無いが、魔導具やアイテム作成に関するチート持ちで、不可能とされていた「魔結晶の製錬」や「真銀ミスリル精神感応金属オリハルコンの接合」を実現している。

 なんでも、『魔素』についての研究がこれらの技術を可能にしているらしい。


 一方、ナブラは日系人の転生者で、前世では幼少時から剣術や居合などの武術を叩き込まれたという。

 転生後も修行を怠らず、剣士・冒険者として名を馳せ、獣人でありながら第二皇子の護衛に抜擢されたそうだ。


 そして、話は『暗黒魔竜アルタミラ討伐』へと移る。


 皇位継承戦の条件となった魔竜討伐のため、殿下たちが用意したのは、「魔法が使えない環境」「(その環境で)自分達だけが魔法を使えるアイテム」「神竜の鱗すら斬り裂くオリハルコン刀」。

 人化したままの状態でアルタミラを連れ込んで、神竜の力を封じた状態で倒す、という計画らしい。


 だが、彼らは知らない。

 自分たちの討伐しようとする神竜が、どれほど圧倒的な存在かを。




――――――――――――――――――――




 人化したアルタミラは、褐色肌に銀髪の、ナイスバディな絶世の美女(俺主観)。

 女性にしては長身で、しなやかな長い手足の持ち主だが、腕力とは無縁のたおやかな姿……だが、それに騙されてはイケナイ。



「あなた達の計画には、色々と穴があります。まず、誇り高い闇神竜ダークバハムートを、どうやってこの建物まで連れてくる気ですか?」



 アルタミラに何かを強制するなんて、出来るはず無いよな。

 脅して言うこと聞かせられる相手じゃないし。



「それについては策がある。心配には及ばないよ」

「ちなみに、どんな策かお聞きしても?」

「うん、いくつかあるけど……」



 悪戯っぽい笑みを浮かべる殿下。



「『ゴルドの街の滅亡』という伝説によれば、暗黒魔竜は美酒とおだてに弱いらしい。

 酒場で上等な酒を奢ってヨイショすれば、簡単に付いてくるそうだ」

「ごふっ!?」



(なんて残念でチョロいんだっ!?)


 ……いやでもそういえば、アルタミラさんはそういうひとだった気がする。


 確か人間界の娯楽に目が無くて、あちこち放浪してたとか、トラブって街を滅ぼした話も聞いたような。



「酒に釣られて領主に捕まえられた暗黒魔竜が、逆上して竜の姿に戻り、街ごと破壊したという話だね」

「……」



 まったく、あの駄竜アルタミラさんときたら、頭を抱えたくなるわ。



「まぁ、伝説の件は冗談半分だよ。それが通用しない前提で、ちゃんと別の策を準備してあるから」



 そういって懐から取り出したのは、高純度魔結晶の玉を1つぶら下げたネックレス。

 先ほど見せられた回復系3種の数珠とは、色が違っている。

 琥珀色の玉には、どんな魔法を刻んであるのだろう?



「これは転移石の研究過程で生み出された品でね。転移石については、どの程度知ってる?」

「そういうものがあると話には聞いてますが……」



 実物を見たことも、使ったことも無いんだよな。



「まだ一般には普及してないから、無理もないか。

 転移石が発明されたのは、わずか100年程前のことだからね。

 ところで、異世界転移者が魔王を倒すと『ゲート』が開いて、選択すれば元の世界に帰れる、って話は聞いたことがあるだろ?」

「ええ」



 転移者のイゾから聞いた話だ。

 あの中年は、こちらの世界(時代)に留まることを選択したのだ。



「一方、われわれ異世界転生者には、元の世界に帰る方法がない。

 向こうの世界で死んでこちらに転生したんだから、仕方ないね。

 だけど、帰る方法を研究した転生者が居て、その研究の副産物として生まれたのが、『転移石』なんだ」



 もともと、魔導具の袋に応用されている「空間魔法」――便宜上無属性魔法の一種に分類されているが、実はかなり特殊な魔法――に着目していたそうだ。



「なんでも、その転生者の前世はフランス人で、素粒子物理学の研究者だったそうでね。

 彼女の残したノートによると、粒子加速器による粒子の衝突実験から生み出された「超弦理論」という物理学の仮説では、『宇宙の始まり(ビッグバン)の時、世界は超高密度で極小な11次元空間だった』と説明されている。

 それが、我々にお馴染みの《3次元空間+時間》になったのは、ビッグバンと共に3次元空間だけが膨張し、それ以上の高次元は極小なままに留まったため、ということだそうだ。

 高次元の空間は存在しているが、我々人間には小さすぎて観測出来ないらしい。

 空間魔法は、この高次元に接触する魔法らしいんだが……意味、分かる?」

「すいません、さっぱりです!」



 一応、前世は理系の学生だったんだけど、量子力学とかは辛うじて評価C(可)だったし。



「そうか、安心した! ボクもさっぱりだよ。

 その理論によると時間軸上での波動の揺らぎを利用して過去と未来を接続することも可能らしいんだけど……とにかく、そんな理論を応用して空間魔法を研究しているうちに、ある地点と別の地点を、亜空間を介して接続する複合魔法が生まれた。

 それが『転移魔法』だ。残念ながら、目的の異世界には転移できなかったけどね。

 それでも画期的な魔法には違いなかったんだが、術式が複雑過ぎて個人の詠唱では発動出来ないし、複数人で儀式を行っても作動が安定しなかった。

 そこで、魔結晶を材料にした塗料で描いた魔法陣と、魔結晶に発動術式を刻んだ核石コアストーンからなる『転移石』施設が開発された、というわけさ」



 で、その話が魔結晶のネックレスに繋がるということは。



「前置きが長くなって済まなかった。

 ボクは魔導具の開発・改良の専門家として、転移石の改良にも携わっててね。

 転移石の小型化を試みて、この『簡易型転移結晶』――登録した地点ポイントにだけ、一方通行で転移できるアイテムを発明したんだよ。

 既に、先の応接室を転移地点に登録してある。

 後は暗黒魔竜にコレを身に着けさせるか、或いは身に着けた人間が接触すれば、人化したまま『魔術妨害施設ここ』に連れ込めると思うんだけど、どうだい?」



(……ヤバイよ、それ成功しちゃうんじゃ?)


 暗黒魔竜アルタミラの巣窟には、さまざまなガラクタが山積みされていたが、宝飾品などの光りモノが多かった気がする。

 転移結晶をプレゼントされれば、アクセサリーと勘違いし、嬉々として受け取る姿しか想像できない。


(どうしよ……)


 こちらとしては、俺の考える案を呑んで貰うのが、「暗黒魔竜討伐」に協力する大前提なのだ。

 何しろ、アルタミラを傷つけるようなマネを見過ごしにするわけにはいかない。


 だが、いきなりそんな話をしても殿下たちには相手にされないだろうから、殿下たちの計画の不備を指摘して、計画を潰さなければならないわけで。


(何かないだろうか、彼らを翻意させるような条件が……、――そうだ!)


 かつて、俺とアルタミラとカゲミツの3人で「暗黒竜の巣窟」を旅立った直後、獣人集落を襲っている騎士団?と遭遇した。

 俺は連中を殺せなかったが、アルタミラは俺のために神竜の正体を隠し、人化したまま1人で彼らを皆殺しにしたのだ。

 完全武装した、50人以上もの屈強な戦士たちを。



「人化したままの姿で、ここに連れ込めたとしましょう。

 ですが、人化したままでも、神竜の身体能力は人間とは桁違いです。

 我々チート転移者・転生者でも、遠く及ばないかと」

「具体的にはどれくらい差があるか、分かるかい?」

「目の前に居ないと正確な鑑定はできませんので、ゲーム的なレベルに換算して説明しましょう。

 例えば、普通の人族なら錬度の高い騎士やAクラス冒険者でLV40超えるかどうか。

 我々のような戦闘向けのチート持ちの転移者・転生者ならLV100以上になることも出来るでしょう。

 ですが、暗黒魔竜のLVは900以上あります。

 自分はまだLV65です。ちなみにナブラさんは?」

「LV137だ」



 確か、同級生の愛理は90台だったな。

 一方、イゾと熊獣人メイドのベアトリスは200前後あった。

 剣術などの鍛錬に重点を置くより、モンスターを大量に狩った方が、LVは上がりやすいのかも。



「しかし、数値に換算出来る能力が全てではあるまい?」



 対人戦に限って見ればそうかもしれない。

 ナブラの古流剣術を見れば、体格差や単純な腕力差など物ともしない、相当な技術の高みに達しているのだと思う。

 俺が勝ったのは、まぐれみたいなものだ。

 だが、数字で表される能力の差を無視して良いわけでもない。



「LV900以上の神竜は、人化しても、身体強化した勇者を遥かに凌ぐステータス値を持っていると考えられます。

 ブルーは中国拳法の達人でしたが、『2倍の力を持つ相手には、技で3倍優れていなければ勝てない』と言っていました。

 素手の体術と、刃物や魔導具を使った闘いを同列に扱うことは出来ないかもしれません。

 しかし、力が3倍の相手には4.5倍の技術があれば勝てる、というものではなく、加級数的に難易度が上がっていくはずです」



 例えば、前世で古武術の見学に行った時、某流派の『合撃がっしうち』という技を見たことがある。

 向かい合った剣士が、袋竹刀というモノで正面から打ち合うのだが、大柄で力の強そうな青年――打太刀うちたちが、枯れた老人の仕太刀したちと打ち合うと、何故か仕太刀の剣は面を打ち、打太刀の剣は軌道を反らされ外されている。

 素人目には、どうして同時に打ち合っているのに、腕力に関係なく片方だけ真直ぐ切り下せるのか、不思議で仕方無かった。

 師範の解説によれば、同時ではなく、一瞬だけ仕太刀が遅れて打つ、高度なカウンターなのだという。

 ほんの一瞬タイミングを遅らせることで、先に振り下ろされた打太刀の剣の切っ先から物打ち付近を、仕太刀は鍔元で受けることができる。

 梃子の原理を考えれば解る通り、支点(持ち手)から作用点(剣の接触点)が近い方が力学的に有利となるので、仕太刀が体力的に劣っていても、打太刀の斬撃を反らして切り伏せることができる、という理屈だ。

 ただし、ほんの一瞬早くても遅れてもいけない。

 タイミングがずれて失敗すれば、頭を切り割られるのだから。

 真剣でその技を使いこなした某流派の剣士たちは、相当な胆力の持ち主だったのだと思う。


『切り結ぶ、刃の下こそ地獄なれ。身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ』


 流祖の遺した唱歌からも、命への執着を捨て、生死の境を踏み越えてこそ勝ちを拾えるという、悟りの境地のようなものを感じさせられる。

 技術的にも精神的にも、非常に高度なものが要求される、精妙な「必殺技」だ。


 しかし、その技が有効なのは、あくまでも侍同士が刀で戦う――「同じくらいの体格の者が、同じくらいのサイズ・重量の武器を使用する」状況で、腕力や武器の差も想定内である場合。


 もし打太刀が身長4mの食人鬼オーガで、得物が全長3mの金属製の棍棒だったら、刀を使って『合撃がっしうち』で倒すのは無理だと思う。

 それだけの重量物が刀を振るのと同じくらいの速度で振り下ろされたら、鍔元で先端を受けたところで、どうこう出来る運動量ではないだろう。

(もちろん、他にいくらでも闘い方はあるが、高度で精妙な技は、相手によっては通用しないことがある、という一例だ)


 そして、人化したアルタミラの腕や足の一撃は、オーガの棍棒より遥かに強力なはず。

 オリハルコン刀とナブラの技を以ってしても、勝てるとは思えない。



「これは傾聴に値する意見だよ、ナブラ」

「しかし殿下、恐れてばかりでは勝機を逃します!」



 ナブラの意見も一理あるが、俺の熱弁が功を奏したのか、「ふむ……」と思案顔になる殿下。



「我々は『聖女』殿からの情報で、人化した神竜なら人間の勇者と大差無い存在だと仮定していた。

 だから、魔法の使えない環境で、ナブラの剣技を中心に連携を取れば倒せると踏んで、計画を立てたんだ。

 だが、情報に誤りがあった。これは、少し考え直す必要があるね」



(その『聖女』ってやっぱりアイツだよな)


 俺たち帰還組のエルフに多大な犠牲を出し、少年の姿の地神竜ヨルムンガンドレギダスと戦った『吸血聖女マリナ』。

 アイツが、人化した神竜の戦闘力を過小評価するはずが無い。

 吸血聖女自体、元々は勇者カネダやブルーの仲間だったのだから、勇者と神竜の戦力差は、あの時身に染みて分かったはずだ。


(意図的に情報を歪めたのだとすれば、狙いは何だ?)


 帝国正規軍だろうと近衛騎士団だろうと、腕利きを何百人何千人集めたところで、生身の人間が太刀打ちできる相手では無い、と断言出来る。

 後継者候補の第一皇子と第二皇子を唆し、死地に送り込むことに何の意味がある?

 それとも、神竜を付け狙う自身の目的のため、帝国を捨て駒として利用する気なのか??



「それではヨシーロ、よかったら代案を出してくれないか? 率直な意見を聞かせて欲しい」

「まずはこちらの戦力の再確認ですね。

 俺の切り札は精霊魔法の一種で、この建物の中では当然使えません。

 ナブラさんは、勇者流剣術を使えますか?」

「もちろん修得しているが、アレは無属性魔法の一種だから、やはりここでは使えんな」

「それでは、殿下のアイテムに、闇神竜に有効な光属性の攻撃魔法を使えるモノがありますか?」

「一応『シャイニングフレア』を使える指輪を準備したんだけど、攻撃魔法のアイテムの場合、作成者であるボクの能力値に威力が左右されるから、あんまり強くないんだ。火力はアテにはしないでほしいな。むしろ、回復役と割り切って貰った方がいいと思うよ」

「それでは、火力が圧倒的に足りませんね」



 実際、未来で闇神竜アルタミラを殺したのは、同格の光神竜バハムートイクシオルと、勇者4人の連合軍だった。

 彼女を倒すには、それだけのチート戦力が必要ということだ。



「では、どうする? 他に帝国領内に居る勇者といえば、第一皇子側についたミツルギくらいしか……まさか、第一皇子と手を組むのか? それでは手柄を奪われてしまうぞ!」

「落着きなよ、ナブラ。ヨシーロの意見を聞こう」



(よし、会話の主導権がこっちに移ってきた)



「それでは、俺からの提案なんですけど、発想の転換をしませんか?」

「発想の転換……どういうことだ?」



 俺が、無い知恵を絞って考えたのは。



「手っ取り早く、暗黒魔竜本人に協力を仰ぎましょう!」




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