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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第五章 ニセ勇者になったった
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第86話 武道家になったった




(前回までのあらすじ)


 伯父に当たるイル・イーロから、「神聖ノトス帝国・第二皇子トウマ殿下が、皇位継承戦における起死回生の一手として『暗黒魔竜アルタミラ討伐』を行う」という話を聞かされた。


 輝かしい武勲で軍の実働部隊を掌握する第一皇子ゲオルグとは対照的に、第二皇子トウマは内政に明るく行政官や有力商人らの支持を集めているものの、継承戦では不利な立場。

 旧ルメールの行政官だった俺の伯父も、大物奴隷商というのは仮の姿で、帝国内の治安維持や諜報活動を行う情報機関・影に属する人物であり、トウマを皇位に就けるため暗躍していた。


 『勇者』として助勢することを求められたヨシュ・イーロだが……。


 彼らが掴んだ情報により、第一皇子を出し抜くために、わざわざトウマ殿下が転移石を使ってこの街に現れたということは、俺が市場で見かけたアルタミラらしき女性は、本当に彼女アルタミラだったのだ。


 となれば、俺のやるべきことは、何よりまず第一に『彼女アルタミラを守ること』だ。

 ……まぁ、最強の神竜である彼女を傷つけること自体難しいが。

 出来れば彼女と親しくなり、信頼をかち得ておきたい。


 それがクリア出来るなら、トウマ殿下の皇位継承戦に力を貸してもいい。

 伯父の悲願だという話だし、トウマ殿下に累が及ばぬよう逃げ隠れしている女魔術師コルスを救うことにもなる。


 一石何鳥かになりそうだ。


 そのための最初のハードルが。



「ヨシュ・イーロ、我の護衛たちが、そなたの実力の程を量るため、腕試しをしたいと申しておる。受けて立つか?」



 トウマ皇子の後ろに控える、2人の長身の護衛。

 フードを目深に被っているので人相も表情も読めないが、相当、腕に覚えがあるのだろう。


 だが、俺も武道家である青野さんの弟子。



「ご所望とあらば!」



 模擬戦だか何だか知らないが、受けて立ってやろうじゃないか!




――――――――――――――――――――




「良かろう。試合は、真剣による寸止め。勝ち負けは問わぬ。我が護衛を納得させられれば良いのだからな」



 腕試しを求められる、ということは、能力的に信用されていないということだ。


 初対面、ということもあるが……何しろ、俺とブレタは、この建物に侵入を試みた挙句、魔力を妨害する設備のお蔭であっさり捕まっていた。

 『勇者青野ブルーの後継者』と言ったところで、実力を疑われても仕方の無いことではある。



「ジョシュ、まずは私が……」



 トマホークを握ったブレタが、先陣を申し出る。

 先に自分が戦って、相手の手の内を明らかにさせるつもりのようだ。



「いや、ここは俺に任せてくれ」



 ブレタの申し出はありがたいが、ここで「(自称)勇者」の力を示さなければ、魔竜討伐の主導権を握るどころか、俺の話に耳を貸して貰えないだろう。



「では、それがしがお相手しよう」



 皇子の後ろに居た護衛の内、耳打ちしていなかった方の1人が、ゆらり、と進み出てきた。

 脱いだローブを小脇に抱え、自然体で歩み寄るのは、眼光の鋭い赤髪の中年紳士。

 普人族ヒュームのようだ。

 貴族の礼服のような仕立ての良い衣装を纏い、腰に細身の長剣をいている。

 長身痩躯だが、引き締まった体形でひ弱さは感じない。

 石造りの床の上でまったく足音を立てないあたり、見事な足捌きだ。


 俺も立ち上がり、腰の後ろに差した鞘から2本のナイフを抜き、八卦掌の構えを取る。


 皇子が、ほう、と意外そうな表情を見せた。



「……変わった構えだな。槍の勇者の弟子だというのに、槍は使わないのか? 良ければ兵士の物を貸して遣わすぞ」

「お気遣いに感謝いたします。これがブルー直伝の短刀術で、私の最も得意とする格闘スタイルです。ご心配はご無用に願います」

「さようか。それは楽しみなことだ」



 トウマ皇子がどの程度武術に詳しいのか分からないが、少なくとも八卦掌のような(破滅前の)旧世界の中国武術は知らないようだ。

 対戦相手も初見であれば、こちらの間合いや攻撃方法は読めないはず。


 一方、帝国の剣士が使う剣術は、片手剣と盾を用いて防具の隙間を狙うオーソドックスなモノで、力とスピードを重視する実戦的な剣。

 あまりトリッキーな動作は無く、突きや切り払いの軌道は読みやすい。


 問題は、地下の転移石施設を覆い隠すために作られたこの建物の中では、魔法が使えない事。

 転移に影響する魔法が発動されないように、魔法を妨害する仕組みが館中に張り巡らされているのだ。


 つまり、切り札の精霊合体は元より、肉体強化や障壁魔法、それに『心眼』のスキルすら使えない。

 幸いにも『気』を読む能力は影響されないようだが、あとは物理的な技術だけで対処しなければならない、ということだ。



「それがしはグラハム・オルコット」



 小脇に抱えていたローブを足元に放り出し、細身の剣を抜き放つ中年。



「勇者ブルーの後継者、ヨシュ・イーロです」



 お互いに目礼し、トウマ皇子の合図を待つ。



「それでは、始めよっ!」



バサリ


(なにっ!?)


 皇子の開始の合図と共に、何かが目の前に投げつけられた。




――――――――――――――――――――




 反応してから避けるには近すぎる、一足一刀の間合い。


 通常なら、為す術もなく、初撃を喰らっていたはずだ。


 俺の視界を塞ぐように拡がったのは、護衛の着ていたローブ。

 剣を抜いて意識が上半身に向けられた瞬間に、足元に丸めて落としたソレを、サッカーボールのように蹴ったのだろう。


 そのローブを貫いて、細身の剣が銀色の切っ先を露わにした。

 俊足の踏込みで、獲物を狙う蛇のように、銀の剣先が伸びてくる。


キィン


 だが、必殺の突きは虚空を貫くのみ。


 相手の剣は、俺の左手に握るミスリル製ナイフのガードによって、鍔元で押さえた。

 同時に、右手のナイフの切っ先は、相手の喉元でピタリと静止させている。



「ま、参った」

「そこまでっ!」



 投げつけられたローブを振り払うのではなく、八卦掌の歩法で回避しながら、真っ直ぐに踏み込んできた相手の内懐に入り込み、相手の武器を無力化しつつナイフを突き付ける。


 これが可能だった理由の1つは、『気』を読むスキルによって、真っ直ぐに俺の体の中心を貫く白い輝線が見えていたからだ。


 そしてもう1つの理由は、八卦掌の歩法にある。


 『平起平落へいきへいらく』……地面を蹴らず、足を平らに上げて、踵から平らに下ろす。不安定な姿勢で片方の足を上げれば、もう片方の足を支えにして、上げた足の方に倒れ掛かることになる。これによって、相手にタイミングを覚られることなくスムーズな重心の移動が可能になり、方向転換なども敏活に行える。

 『里進外扣りしんがいこう』……体の重心を、両脚の間より外に落とす。常に倒れ掛かる不安定な状態を保つことで、重力を推進力に変えることが出来る。


 思い出すのは、青野さんとの訓練で、最初にやった『鬼ごっこ』。


 身体強化した俺がどうしても彼を捕まえられなかった理由が、この歩法だ。

 こちらは地面を蹴ることで動きのタイミングを読まれているのに、青野さんの転身は気配が読めなかった。

 また、地面を蹴ることによって作用反作用で体の重心を動かすよりも、全身に絶えず掛かっている地球の重力を推進力に変える方が、体を移動させるのは早くなる。

 日本の古流武術で『抜重して膝を抜く』動作が取り上げられることがあるが、アレを絶えずやっているようなものだと思えばいい。

(ただし、八卦掌の歩法には、『扣歩こうほ』『擺歩はいほ』によって体の捻じれを『纏絲勁てんしけい』に練り上げる効果もあるので、古武術の足捌きと同一ではない)


 実際、八卦掌の歩法を身に付けることで体重移動がスムーズになり、突っ立った状態からいきなりダッシュしたり階段を駆け上がったりする時、自分の身体を羽毛のように軽く感じるようになった。

 最短距離の軌道をなぞる瞬速の突きを回避しつつ懐に入り込めたのは、八卦掌独特の円を描くような歩法によるものだ。


 初手から小物を使ったフェイントや大技の突きを見舞うなど、相手はこちらを舐めて掛かっていたのかもしれないが、これで認識を改めただろう。



「貴公、なかなかやるではないか」



 喉元にナイフを突き付けられたまま、冷や汗を流しながら虚勢の笑みを浮かべる中年。

 勝負が付いた以上、さっさと武器を納めてやるべきだが。



「そちらこそ、鋭い突きでした。死ぬかと思いましたよ」



 一言、云ってやらないと気が済まなかった。


(腕試しのはずなのに、殺す気か)


 俺の防具は、皮鎧の下に鎖帷子を着込んだもので、モンスターの爪や剣による斬撃には効果があっても、槍や細剣などの突きには弱い。


 にも拘らず、相手の殺気は、明確に俺の上半身の体幹部を狙っていた。

 『気』を読み取る能力で回避しなければ、致命傷を受けたかもしれない。



「はっはっは、勇者を騙るニセモノなぞ、死なない程度に殺す気だったがな。ご無礼つかまつった、貴公を勇者と認めよう」

「恐れ入ります」



 青い顔で冷や汗を流す中年の喉元からナイフを引き、試合開始前の立ち位置まで下がる。

 その間も、構えを崩さず、相手の動きから視線を外さない。

 いわゆる『残心』というやつだ。

 降参しても騙し討ちしてくる可能性があるとか、相手を人間的に信用しないということではなく、武器を持つ者に対して警戒を緩めないことは武道の基本だからだ。



「見事であった、ヨシュ・イーロ。もう1人の相手もして貰おう」

「……今の試合ではたまたま無傷でしたが、真剣を使うのはやはり危険です。日を改めて、木剣でお願いできませんか?」



 聖魔法が使えた前世アイザルトの頃ならいざ知らず、刃物で刺されたら普通に死ぬっての。

 腕試しで死んだり殺したりしたら、お互い犬死以外の何物でもない。



「怪我の心配はいらんぞ。殿下のお力があるからな!」

「馬鹿者っ、余計な事を云うでないっ」



(ん??)


 外野から声を上げた近衛騎士団長のハゲ(クリーグ)と、失言をたしなめる伯父イル・イーロ

 2人のやりとりが気になるが。



「隠し立てする理由は無いが、その件は後ほど話してつかわそう。ヨシュ・イーロ、試合を続けよ」

「……ご下命とあらば」



 女魔術師コルスや伯父の言を信じるなら、トウマは聡明な人物で、興味本位の余興で部下の命を失っても構わない、などと考える愚者では無いはずだ。

 何らかの対策が講じてあるのだろう。

 そういえば、暗黒魔竜アルタミラ討伐のために策を練ってある、という話だったし、何か用意してあるのかもしれない。



「では、次は私のお相手を願おうか」



 バサリ、とローブを脱ぎ捨てたもう1人の護衛。


 声から分かっていたが、膨らんだ胸元から明らかなように、女だ。

 先ほどの貴族っぽい赤毛中年とは違い、冒険者のようなラフな服装。

 腰には柄の長い曲刀を佩いている。


 そして、灰色の長い毛髪に、尖った犬耳、フサフサな尻尾。


(犬……いや、狼獣人か)


 身長は先ほどの赤毛中年より少し低く、体の線も細いが、獣人なら普人族より身体能力フィジカルが高いので、華奢な女性だからと油断は出来ない。



「それでは、始め!」

「剣士ナブラ。参る」

「ヨシュ・イーロです。お願いします」



 先ほどのような、不意打ちをする気は無いらしい。

 目礼し合って、開始位置で構える俺たち。


 だが、狼獣人剣士と正対した瞬間、俺の背筋にゾクリ、と寒気が走った。

 青野さんと向き合った時と同じ、足元が頼り無くなるような感覚。


(殺気が読めない!?)


 さらに。


 曲刀を抜かず、全く力みのない立ち姿で腰を落としているナブラ。

 刃を上向きにして左手の親指で鍔を少し押し上げ、右手は柄に掛けず自然体で垂らしている。

 これを、どこかで見た……そう、アイザルトとして転生した時、同級生の『斎藤さいとう愛理あいり』が見せた剣技。



(その構えは――日本刀の『居合』??)




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