第84話 第2皇子派になったった
アポ無しで会いにいった街の顔役『イル・イーロ』が、俺の伯父、『ウィル・フィーロ』だって?
いきなり過ぎんだろ。
それよりも、俺が『ヨシュ・イーロ』……もしかして、アルタミラの前カレ、カゲミツの実父、『勇者ヨシーロ』なのか?
……この俺が??
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「この短刀に刻まれた『愛する息子、ジョシュ・フィーロへ』という文字と、柄に象嵌されたフィーロ家の家紋、そして君の証言が本当なら、君は弟の倅で私の甥、ということになる。
父ジョセフからも、弟の妻であるエルフと乳呑児を追い出した話は聞いているしな。
間違いないだろう。
顔は……、似ていないようだが、背格好は若い頃のガッシュに生き写しだな。」
さっきまでとは一転して和やかな空気になるが、状況がまだ掴めない。
「ちょっと待って下さい。あなたは旧ルメール共和国の元・地方行政長官で、俺の伯父……なんですよね?
それが何故、この街の『裏の顔役』、帝国有数の奴隷商に??」
ジェロームに聞いた限りでは、金次第で動くダーティーな人物だという話だった。
「良くない噂を色々聞かされたかね?
私は売国奴だそうだが……1つの国が滅ぼされようとする時、自分の統治する街とその住民を守るために、最大限の努力をしただけだ。
傷ついた義勇兵と無力な国民を置き去りにして、逃げ出した正規軍。
その糧食を、私の一存で進駐軍に供出したのは事実だが、それで私腹を肥やした訳ではない。
街が略奪されるのを防ぎ、帝国軍司令官と顔を繋ぐチャンスにもなった。
歴代の代官を懐柔したのも、私費を投じて行ってきたことで、これは帝国内の官僚閥に人脈を作っておくためだ。
風俗営業に手を出したのは、戦死者の寡婦たちが糊口をしのぐために売春は仕方の無いことだという前提で、悪質な業者が台頭するのを阻むため。
奴隷商となったのも、戦時奴隷となった元ルメール兵士の帰還を促すためだったのだが、想定外に商売の規模が大きくなったのは、さる方面からテコ入れして戴くことになったからだ。」
「は、はぁ」
捲し立てられて、気の抜けた相槌を打つことしか出来ない。
自分に都合の良いことだけ話してる気もするが、身内の言葉だし、信じてあげたい気もする。
「もちろん、キレイごとだけでやって来たと言うつもりは無い。
だが、清廉潔白で無能な人物となるより、手を汚してでも民を守ることの方が、フィーロ家の男として、その名に恥じない振る舞いだったと思っている。
……お前の父・ガッシュのように」
「父さん? そうだ、父さんはどうなったんですか、生きているなら――」
「死んだよ。自ら反乱者の汚名を被ってな」
今まで俺の耳に入って来なかったのは、ロジーナが酷だと思って口止めしていたからだろうか。
敗戦色濃厚なルメール共和国において、共和国議会は降伏勧告を退け、徹底抗戦を採択した。
降伏条件が許容できないから、という理由だったが、要するに自分達指導者層――特権階級の身の安全が保障されていなかったからだ。
帝国軍が首都目前に迫った時、首都防衛軍の将軍がクーデターを起こして議会になだれ込み、大統領以下有力政治家を拘束して臨時政府の樹立を宣言し、すぐさま帝国軍に無条件降伏した。
この結果、新たな指導者となった将軍の他、数名が処刑されたのみで首都は無血開城され、ルメール共和国は滅亡。
その反乱軍の将軍こそが、俺の父、『ガッシュ・フィーロ』だったのだと。
「ガッシュは、ルメールを破滅に導いた亡国の将と呼ばれ、フィーロ家の名声は地に落ちた。
だが、私はガッシュが間違っていたとは思わない。
敗戦確実なあの時期に、徹底抗戦に何の意味がある? 首都の国民を巻き添えにしようとした政治家たちの愚行を止め、無辜の民を救ったのだ、お前の父は。
胸を張って、誇ってやってくれ」
「……はい」
マリエルと俺を迎えに来なかった時点で薄々察してはいたことだが、亡くなっていた、と聞かされるのは衝撃だった。
頭の中が真っ白になって、しばらく言葉が出てこない。
「内輪話は済んだか? なら、この先のことを決めようじゃねぇか」
「そうだな」
スキンヘッドの騎士隊長から催促され、伯父が改まった態度になる。
「炭鉱族の娘から聞き出したところによれば、お前は『槍の勇者・ブルー』の愛弟子で、後継ぎに指名された者だそうだな。
我が甥、ヨシュ・イーロよ、我らにその力を貸して欲しい!」
そういえば、命を狙われてるんだっけ、伯父さんは。
「伯父さんを狙う暗殺者を倒せばいいんですか? それくらいなら協力は惜しみませんが」
俺の言葉に顔を見合わせた伯父と大男。
途端に困ったような顔になる伯父と、遠慮なくゲラゲラ笑うハゲ。
なにソレ、意味分かんねぇ。
「済まん、説明が足りなかったようだな。
お前には、帝国の未来を背負うある御方の力になって欲しいのだ。
帝国は今、岐路に立っている。
これまで通り、他国を侵略して領土を増やし、周辺から搾取することで繁栄を続けるのか。
それとも、産業を発達させ、東に台頭してきた商業連合国家との交易で栄えるのか。
帝国軍を掌握する第1皇子ゲオルグ派と、行政組織の後ろ盾を得ている第2皇子トウマ派。
どちらが主導権を握るかで、この国の未来は決まる」
コルスの話では、大雑把に「辺境伯たち貴族派と皇帝派の争い」というイメージだったが、皇帝派の中でも後継者争いが激しさを増している感じだな。
貴族派は眼中に無いようだが、足元掬われなきゃいいけど……
「我らには悲願があるのだ」
「悲願?」
「街の様子を見たか?
旧ルメール国民は、いや、ルメールだけではない、我ら帝国に組み入れられて日の浅い地域の臣民は、重税にあえぎ、反乱を押さえるために働き盛りの若い男たちを兵役に取られ、生産業は衰退し、女たちは夫や息子を奪われたことを嘆きながら、春を売って糊口をしのぐしかない。
領土を拡げることによって繁栄を求める帝国のスタイルは、もう限界に来ているのだ。
我らの悲願とは、この状況を変え、内政改革によって豊かな帝国を実現できる人物を指導者に戴くこと、すなわち、『第2皇子・トウマ殿下の帝位承継』だ!」
第2皇子って、コルスが入れ込んでる皇子だよな。
これは、話の流れによっては、コルスを保護して貰えるかも?
「分かったであろう。私の命など、悲願成就の大望の前には些事に過ぎぬ」
「この警備態勢も、トウマ殿下を極秘裏にお迎えするためのものだ。じゃなきゃ、俺らが出張って来るわけねぇよ」
なるほど、皇子以外は、自分達も含め誰が犠牲になっても構わない、って集団みたいだ。
コルスの事は話せそうにない。
まずいな、密航の件頼む雰囲気じゃないぞ、コレ。
「紹介しておこう。
クリーグ殿は、トウマ殿下付きの『近衛騎士団長』。
わたしは、表向き有力貴族や豪商を顧客に持つ奴隷商として、裏で情報収集を行っている対内諜報機関、『影』のメンバーだ」
ニヤニヤしてるハゲと、真剣な表情の伯父さん。
ここまで話を聞いたら、ただでは帰して貰えない雰囲気だよなぁ。
「この奴隷商館は、地下に設置されている『転移石施設』を隠蔽するための仮の姿。
帝国各地にある支店は、全て同様の造りだ。
この分厚い石壁の中には、魔力を吸収するための術式が組み込まれておる」
「効果の方は身を以て知りましたが、何のために魔力吸収を?」
「表向きの理由は、奴隷の反乱防止や顧客の安全のためだが、本当の理由は、不用意な魔法の使用で転移に影響を及ぼさぬためだ。
この技術は異世界人によって確立された歴史の浅いシロモノでな、完全にコントロールするためには、干渉の可能性のある魔力行使を排除せねばならん」
どうやら、魔術師対策のセキュリティではなく、転移石のための安全装置だったようだ。
「それで、俺はどんな協力を求められてるんでしょうか?」
「おぅ、そのことよ! この度、皇帝陛下は聖女さまの予言を容れ、2人の皇子のどちらに跡を継がせるか、条件をお決めになられた」
予言ねぇ。
なんか、いかにもファンタジーらしい展開になってきたよ。
ってか、聖女って、まさかあの『吸血聖女』じゃないだろうな?
「その予言によれば、帝位継承の条件とは、『暗黒魔竜アルタミラの討伐』だ!」
「へ??」
ちょっ、嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?




