第83話 甥っこになったった
街の顔役に会いに来たものの、正面から奴隷商館に入れなかった俺たちは、アポ無しで上――屋上――から侵入することに成功したまでは良かったんだが、魔法を妨害するセキュリティに引っ掛かって、複数の警備員?たちに取り囲まれ中、ナウ。
……油断というか、普人族の魔導科学技術を侮っていたな。
そういえば、王侯貴族たちが使う道具には、転移石とか通信具とか、中世風の世界観にそぐわないハイテク魔導機器もあったんだっけ。
「ムダな抵抗はよせ、武器を捨てて投降しろ!」
並んで短槍を向ける前衛職の構えた盾の隙間から、クロスボウで狙いを付ける後衛職。
装備も規格が統一されてるし、妙に統率がとれている。
思いのほか厳重な警備態勢、そして魔術師による襲撃を念頭に置いているらしい謎の魔法妨害機能付きセキュリティ。
……ここは、本当に一商人が営む奴隷商館なのか?
警備にお金が掛かりすぎてやしませんか??
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「どうやってここを嗅ぎ付けた、雇い主は誰だ?」
「待ってくれ、俺たちは『イル・イーロ』殿に密航の手配をお願いしたくて参上した者。誰かに雇われたわけでは無い。」
「……(ジョシュ!?)」
殺気の白い輝線は見えているので、俺1人なら、連射の効かないクロスボウによる斉射を避け、短槍の林を掻い潜り、脱出するチャンスはあるかもしれない。
だが、それではブレタは助からないだろう。
力持ちの炭鉱族も、身体が石や鉄で出来ているわけでは無い。
動きを邪魔しないからと、魔力障壁頼みで刺突に弱いチェインメイルを装備したのは間違いだったかも。
「詳しくは、皮鎧の下に仕舞った紹介状に書いてある。屋根から侵入したことは謝罪するが、門前払いされたので致し方無かった。武装解除するので、投降を受け入れて貰いたい」
「良かろう!」
両親の形見の短刀を手放すのは抵抗があったが、ここで逆らって命を落とすのは馬鹿らしい。
魔道具の袋を腰から外し、ブーツの中の手裏剣も取り出して纏めて置く。
ブレタも、トマホークと投げナイフをしぶしぶと床に置いた。
「こいつっ、上に居たゲッタをどうした? 殺したのかっ!」
武装解除して両手を上げたら、前衛の警備員の1人が殴りかかってきた。
ガツン、と頬骨の辺りに籠手の一撃を喰らい、一瞬意識が飛びそうになる。
《気》で狙いは分かっていたので、衝撃に備えていて、なんとか倒れずに済んだ。
避けずに敢えて受けたのだ。
「ジョシュ!」
「……大丈夫だよ、心配ないから」
殴られた俺を見て、殺気を膨れ上がらせたブレタを宥め。
「見張りは気絶させて縛ってある。命に別状は無いはずだ。」
「落ち着けデイヴ、上へ確認に行ってこい。誰か付いてってやれ。
……お前たちは、こちらへ来い。騎士隊長が直々に尋問する。」
『騎士隊長』だって??
ただの商人私邸の警備員が騎士を名乗るって、どうなのソレ。
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ブレタとは引き離されて別々の部屋に監禁され、待つことしばし。
「お前が侵入者の半長耳族巡視官か。紹介状を確認しエルフ公使殿から裏は取って、暗殺者の疑いは完全とは言えぬまでも晴れた。
しかし、また間の悪い時に侵入してくれたな。」
日が暮れてから供を2人連れて現れたのは、スキンヘッドの厳つい大男。
クリーグと名乗ったこの男が隊長らしい。
「暗殺者……? イル・イーロ殿は命を狙われているのですか?」
「とぼけているのか、それとも我が国の内情を本当に知らんのか? どちらでも構わん、しばらく拘留させて貰うぞ」
「そんな!?」
いきなり拷問⇒処刑されないだけでも有難いと思うべきかもしれないが、コルスを連れて帝国を脱出しなければならない今の俺たちに、何日もグズグズしている余裕は無い。
それに、今夜は、熊獣人のミハイロフからアルタミラ(の可能性がある女性)の調査報告を聞く約束なのに。
「それよりも、あの武具はどこで手に入れた?
皮製の防具はともかく、武器と鎖帷子に籠手・具足は総ミスリル製、マントもレア素材をふんだんに使った1級品、しかも魔道具の収納袋まで持ってやがる。
上位冒険者や上級騎士でもここまでの物を揃えちゃいない。
エルフの里に引き籠ってた世間知らずの坊やにしちゃあ、ずいぶんと分不相応な装備に恵まれてるじゃないか?」
言いぐさにちょっとカチンと来たが、盗品と勘違いされても困るので説明しておこう。
「マントと魔道具の袋は養母から贈られたモノで、ミスリル製の武具は、里に居たドワーフの鍛冶屋の親方に教わりながら作ったモノです。色々事情があって材料だけは手に入りましたのでね。」
「ほう? 旧ルメール名家の家紋が象嵌された短刀も、お前が作ったのか?」
スッと目を細め、酷薄な雰囲気を漂わせながら尋問する大男。
身長的には俺と大差ないのに、なかなかの威圧感だ。
といっても、青野氏には遠く及ばないし、怒りで人化が解けかけた時のアルタミラに比べたら春風がそよいでいるようなものだが。
「私が旧ルメールの不満分子で、暗殺者だとお疑いですか?
今の私は、ルメールの人間ではなく、あくまでもエルフの里の巡視官として行動しております。
暗殺なんて、里に迷惑の掛かることはしませんよ。」
「……ふむ、まぁいいだろう。いずれにせよ、全部没収させて貰うからな」
ちょ、それは!
「待って下さい!
あの短刀は、赤子の頃に引き離された父が、母と私に贈った形見です。母も亡くなって、2本とも私が受け継ぎました。
養母のくれたマントとあの2本の短刀だけは、なんとしても返して戴けませんか!」
「……だそうだ。どう思う、『イル・イーロ』? いや、『ウィル・フィーロ』!」
気配で隣の部屋にも人が居ることは気付いていたが、こちらの声が筒抜けだったのか。
っていうか、ウィル、……『フィーロ』??
カツカツと石造りの床に足音を立て、部屋の前にやって来る数名の人物。
扉を開け、護衛らしき男に護られながら入って来たのは。
「……と、父さん?」
髭もじゃマッチョな普人族の元冒険者で、俺の今生の父、ガッシュ。
母・マリエルと仲睦まじい夫であり、子煩悩な父親だった。
白髪が混じり、顔には皺が刻まれているが、記憶の中にある面影に、よく似て――
「似ているかね? ガッシュは可哀そうなことをした。」
いや、似ていない。
記憶の中の、厚かった胸板や盛り上がった肩。
鍛えて筋肉の付いていた者が衰えた時の体形は、初めから痩せている人間とは異なる。
目の前の人物の身体付きや雰囲気を見て、若い頃に荒くれ者の冒険者として活躍していたとは到底思えない。
「あなたは、誰なんですか?」
「ルメール滅亡時に、フィーロ家の次男としてこの街の行政長官をしていた者だ。
ウィル・フィーロ。今は帝国風に『イル・イーロ』で通っている。
ジョシュ・フィーロ、君の伯父だよ。――いや、今は『ヨシュ・イーロ』と呼ぶべきだな。」
なんですとぉ!?




