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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第一章 異世界転生者になったった
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第9話 ご主人さまになったった

 眼下には、こちらに向かって首をもたげ、ブレスを吐こうと待ち構えるデスバハムート。

 俺達は、光のバリアに包まれたまま、デスバハムートに向かって急降下した!


 途端に視界が奪われ、黒い霧の中に突入していた。

 迎撃の邪ブレスに突っ込んだのだ。


 だが、光の球の中に黒い霧は入ってこない。

 防御は完璧、後はヒールをかますだけ。


 デスバハムートは進行方向、直前に居たはずだ!



「くらえ、MP半分くらい使ったごっついヒールっ!!」


 ……ん、手応えが無い。

 ただの空き地のようだ?



 次の瞬間、俺達の通り過ぎた背後の空間を巨大な爪が抉っていった!


 敵はブレスで視界を遮り、いつの間にか斜め後方に回り込んでいたのだ。



「な、馬鹿な!?」



 追撃してくる巨大な牙や爪を避けながらジグザグ飛行し、なんとか上空まで逃げ延びる。

 子ドラゴンはブレスで応戦していたが、どの程度のダメージを与えただろうか。

 俺は逃げ回るのに精一杯で、ヒールを撃つ余裕は無かった。



 デスバハムートは、またブレスを吐いて自分の姿を覆い隠している。

 死竜忍法、黒霧隠れの術!ってわけか。


 バリアを見て、ブレスによるダメージが通らないと見てとるや、ブレスを煙幕代わりに使った肉弾戦に切り換える。

 俺達には敵に近付く必要がある、ということにも気付かれているらしい。



「ゾンビのくせに知恵使うなよ!」



< アンデッドに知恵で遅れを取るなんて。

 さすがアイザルトね、プークスクス。 >



「ねぇ、今どんな気分?とか聞いてきたら、このまま帰るからな!」



 近付かなければヒールを当てられない。


 近付けばブレスで視界を塞がれてヒールを当てられない。



「くそ、一体どうすれば!?


 ……って、そういえば、こういう時のためのスキルあったわ。」



 全方位探知スキルをVR画面にして使えばいいじゃない!


 そもそも戦闘に慣れていないことと、自分が飛べるようになったこと、ヒールで倒せそうな目途がついたこと、子ドラゴンの勇者並チート見て興奮したこと等、色々な要因で舞い上がっていたようだ。


 探知スキルをころっと忘れていた。


 本来の俺の臆病さ、もとい慎重さを取り戻さねば。



「いつVR画面使うの? 


 ――今でしょ!」



 視界の中で、デスバハムートが敵性認識の薄赤い光に包まれて表示される。

 これでもう、煙幕は効かないぜ!


 念のため、自分のMP残量を確認する。

 体感では満タンではないのだが、いつの間にか回復して「 * 」になっている。

 

 よし、行ける。



「今度こそ、決着だ!

 行くぞ、子ドラゴン、ついでにアルタミラ!!」



「< みゃぉー! (おー!) >」


< 誰がついでよ? 誰が!? >



 俺達は、光のバリアに包まれたまま、デスバハムートに向かって急降下した!(2回目)





 VR画面でデスバハムートの位置を確認しながら、爪や牙の届かない高さまで高度を下げて、その場で滞空した。


 別に急降下する必要は無かったけど、勇ましい演出っていうか、まぁ気分だよ、気分。


 敵は相変わらずブレスを吐いてくるが、気にしない。

 「MP半分くらい使ったごっついヒール」をもう一度唱えてみる。


 VR画面のデスバハムートが暖かみのある光に包まれた!


 あっさりと、一発で崩れ落ちる巨体。



「よし、楽勝っ!

 …ん、ぐごがっ?

 がぁああああああああ!!!」



(しまった、成長痛、忘れ、て、…た。)


 強張ったまま痙攣する右手から団扇が滑り抜ける。


 そして消える翼――飛行能力。


 俺は、子ドラゴンを抱き抱えたまま墜落していくのを感じながら、意識を失った。



―――――――――――――――――――――――――― 




< アイザルト、起きて!

 起きなさいよ!

 学習能力ってもんが無いの、アンタはっ!? >



 激しい喉の渇きと空腹、耳元で喚く女の声に目を覚ます。


 このシチュエーションは2回目だ。

 しかし、学習能力とか、アルタミラにだけは言われたくないな。



< 格上の相手を倒せば、急激にLVUPして成長痛に襲われるって分ってたでしょ?

 丈夫なアンタはともかく、この子に何かあったらどーすんのよ? >



 それは…、確かにそうだ。

 そこまで気が回ってなかった!



「ごめん、子ドラゴンは!?」



 見回せば、俺のへその上で丸まって、スピスピ鼻音を立てながら寝ている。


 ……無事で良かった。


 そして、俺がクッション代わりに凭れかかっているスベスベしたものは、神竜アルタミラの巨体だった。



 竜のアルタミラが動物園で見た巨大ワニくらいのサイズ、子ドラゴンが子猫サイズ、人型アルタミラは俺の小指くらいのサイズだ。


 どうやら、俺の巨大化も進んでしまったようだ。

 竜のアルタミラの全長の半分まで行かなくとも、きっと身長40m以上あるんじゃないだろうか。

 ますます人間離れした怪物になっていくようで、複雑な気分だな。



 さて、自分がどうなっているか心眼スキルで鑑定してみたいところだが、とりあえず今は、それを確認するよりも大事なことがある。


 子ドラゴンをそっと地面に横たえて立ち上がり、神竜の体を見降ろす。


 聖魔法のLV上げも、さっきの戦闘も、全てこの為だった。

 緊張のあまり、声が震える。



「アルタミラ。

 ……いいよね?」



< ええ、お願いするわ。 >



 蘇生魔法――、本当に死者を蘇らせる奇跡が、俺に可能なのか?



「神様仏様ご先祖様、去年死んだじっちゃんにうちで飼ってた猫のクロ、お願いします、目の前のドラゴンを蘇らせて下さいっ!


 ――リザレクションっ!!」



 確か使用MP量で成功確率が上がったはず。

 出し惜しみ無しで、残りの全MPを注ぎ込む!



 神竜アルタミラの巨体が、白銀色の眩い光に包まれた。


 やがて、光が消え去った後には、ピクリとも動かない神竜の巨体。

 さっきまで念話で話していたアルタミラの霊体の気配も無い。

 まさか、成仏しちゃったなんてことは……、



「アルタミラ?

 成功したのか??

 アルタミラ!


 ……何とか言えよ!?

 アルタミラァァァァっ!!」



「< グ、ゴガァァアアアアアアアアアアアアアア!?

 (ちょ、痛っぁああああああああああ!?) >」



巨獣の絶叫が響き渡る!



「< ググッ、ゴァア、グァラァッ!?

 (アイザルトっ、アイザルトさん、アイザルト様ぁ!?)


 ガァッ、グガァ、グオオオォォォォォォ!!

 (早くっ、早く、ヒール掛けてぇぇぇぇぇぇ!!) >」



 どうやら、蘇生したからといって、死因となった傷まで塞がるわけではなかったようだ。



「わ、わかった。

 ――キュア、それにヒール!」



 使いきったはずなのに、いつの間にか余裕でヒールできるMPが溜まっていて良かった。

 アルタミラの傷口をキュアできれいにした後、全体にヒールを掛けた。




――――――――――――――――――――――――――




< はぁ~、もう一回死ぬかと思ったわぁ。 >



 声量がハンパ無いので、アルタミラには念話だけで話して貰うことにした。

 俺はアルタミラの前に胡坐をかいて座り、子ドラゴンは俺の腿の上で腹這いになっている。



「生き返ってくれて良かった、ホントに良かった。

 ……また会えて嬉しいよ、アルタミラ。


 ぅ、ぇぁ、っていうか、なんていうか、き、危機は脱したようだな、このアイザルト様のお陰で!

 ほら、アイザルト様に感謝の言葉とか、何か言うことあるんじゃ、ないかな、かな?」



 会心のウザい笑みを浮かべながら、ドヤ顔を向けてみる。


 別に感謝の言葉が欲しいわけじゃないんだけど、やり遂げた感と気恥ずかしさが混ざり合って、自分でもよく分らないテンションになってるんだ。

 振り返ればあっという間の冒険だったけど、無駄にならなくて良かった。


 ほとんどチートのお陰だけどな!



< なによ、人が素直に感謝しようと思ったらムードぶち壊すとか。


 まぁアイザルトだし、仕方ないわよね。

 ほら、ワタシの角に触って! >



 アルタミラは、首を垂れると、額の角を俺の前に差し出した。


 言われた通り、アルタミラの額から生えた角にそっと手を添える。

 確か、竜は角に触られるのを嫌がるんじゃなかったっけ?



< 竜は恩義を忘れないわ。


 ――我、神竜アルタミラは、闇神イストラの名の下に誓う!

 魔族アイザルトよ、我と我が子を救った汝に、我が命運を委ねよう。


 我は汝の敵を打ち滅ぼす剣となり、

 汝の身を守る盾となり、

 汝の悲哀を包む闇となり、

 汝の足を支える大地となり、

 汝の渇きを癒す水となり、

 汝の勇気を熾す炎となり、

 汝の背中を押す風となろう。


 我は汝と共に生き、汝と共に滅びよう。


 ――汝を我が主と認め、主従の契りを交わさん。

 我が忠義の証、受け取り給えっ!! >



 俺の手の中にある角が光輝き、バキッという異音と共に、折れた角が手の平へと転がり落ちた!


 角は根元の僅かな長さを残して折れてしまった。

 角の断面は年輪のようになっており、中央から血が滲んで流れ出している。



「ちょっ、どーすんだよこれ!?

 角が無いと魔素吸収できないんだろ?

 血も出てるし、って、ヒール!!

 あれ、なんでくっつかないんだ?」



 折れた角を傷口に合わせてヒールを掛けたが、傷口は塞がっても角は元通りにならなかった。



< 心配いらないわ。

 そのうちまた伸びてくるから。

 それよりも、その角にアンタの魔力を流し込んでみなさいよ。 >



「あ、うん。

 ――何だこれ?」



 魔力を送った途端、硬かった角がグニャリとした質感に変わる。

 まるで、軟らかい粘土のような……。



< ソレは、もう竜の角じゃなくなってるわ。

 持ち主の魔力に反応して、自在に形を変えることのできるマジックアイテム、『竜の誓いの角』よ。

 まぁ、剣とか槍にすれば、伝説級の武器になるはずよ。

 アイテムの名前はアンタが付けるといいわ。

 変な名前付けたら許さないけどね。 >



 形を自在に―――


 俺が思い浮かべたのは日本刀だった。

 西洋の剣は、エクスカリバーとかの名前を聞いたことがあっても、実物なんて見たことが無い。

 その点、日本刀ならテレビの時代劇や大河ドラマで見かけるし、実家でじいさんの形見の刀を触ったこともある。

 正宗とか村正は見たこと無いので、じいさんの刀を元にイメージした。


 じいさんの形見刀は、全長1m弱、刃渡りは65cmほど、鍔に近い根元の部分は厚みが1cm以上もあり、蛤刃で、ズシリと重かった。

 あれは、美しさよりも、折れず曲がらず、という頑丈さを追求した戦場の刀だったんだろう。

 出来あがった刀は、そんなじいさんの形見刀のイメージそのまま、鍔元付近で反りの強い、厚みのある剛刀だった。

 まぁ、俺の身長に合わせてすごい長さだけど。

 頑丈さ重視の俺にはぴったりの刀だな。

 まぁ、これで誰かを斬るつもりなんてないけどさ。



< ふ~ん、反りのある片刃の剣か。

 砂漠の民が使う剣に似てるわね。 >



 名前は、日本神話の宝剣にあやかって――、



「名前は、――『神竜剣ムラクモ』でどうかな?」



< 悪くないわね。 >



「アルタミラからの誠意の籠った宝物だから、大事にするよ。」



 俺は、ムラクモを両手で握ってバランスを確かめた後、亜空間へ収納した。

 鞘が無いと危ないし、そもそも服が無いと腰に差せないし。



< さて、『竜の誓いの角』を受け取ったわね。

 これからはアンタがご主人様よ。


 早速だけど、魔力寄越しなさいよ! >



「へ?」



< ワタシの角をあげちゃったんだから、アンタがワタシに魔力を供給するのよ。

 当たり前じゃないの。

 1日3回、毎日よ。

 さぁ、まずはワタシの寝室へ行きましょう。

 この子と3人で暮らすのよ。

 掃除とか、育児とかやって貰わなくっちゃね。 >



「あれ、俺、何かの罠にかかっちゃった?」



 ……異世界に来て、バツイチ子持ちドラゴンに捕まった気がするのは、きっと俺の気のせいだ。






第1章 完


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