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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第五章 ニセ勇者になったった
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第81話 行商人になったった


 冒険者たちに賞金首として狙われていた、普人族の魔術師コルス。


 彼女は、未来で俺が魔神だった時に出会った冒険者PTのメンバーで、ハイエルフのロジーナ、ドワーフのブレタに続いて、この時代で再会した3人目の知り合い?だ。

 俺をこの時代に送り込んだ風神ティタンダエルの思惑を感じずにはいられないが、これも何かの縁かもしれない。


 そんな彼女は、何故か国家レベルで追われていた。




――――――――――――――――――――




 帝国軍が駐留する旧ルメール領の街『ベーザルゴ』で、頼ったエルフの公使グリューネワルトからは、『出国禁止令が出ている』とコルスの亡命申請をすげなく却下され、代わりに密出国を勧められた。


 元々レグルス大陸へ渡る予定だったことから、代案として出されたルートのうち船での密航を選択し、伝手を求めて裏社会に顔の効く人物を頼ることになったのだが。



「そろそろ、追われている理由を教えて貰えませんか?」



 ここは、ベーザルゴのスラムにある宿の一室。


 安宿だが、実はエルフ公使のジェロームが情報屋などと密会するために使う隠家セーフハウスの1つで、信頼のおける人物が経営しているらしい。


 街中で目立つチンピラエルフ達は公使館に置いてきたし、ブレタとコルスの護衛騎士たちは買い物に出掛けているので、今この部屋に居るのは俺とコルスの2人だけ。

 秘密を聞き出すには都合の良い状況だ。



「事情を知れば貴方あなたにもご迷惑が……いえ、もう十分巻き込んでしまっておりますわね。」



 溜め息を吐きながら目を逸らしたコルスだったが、思い直したように居ずまいを改める。

 公使館を出た後、『亡命が却下されたので、密出国するしかない』と話してからずっと考え込んでいた彼女は、俺に打ち明けるタイミングを計っていたのかもしれない。



「ロジーナに頼まれた以上、コルス殿を見捨てるという選択肢はありません。なにしろ、彼女は私の養い親でしてね。

 それに、ロジーナの『人を見る目』を信用していますので、貴女が悪事に手を染めて追われているとは考えておりませんし。」

「それはどうでしょう? もしかすると、わたくしはとんでもない悪女かもしれませんわよ。」



 ふふっ、と一瞬自嘲的な笑みを浮かべた後、意を決した表情で俺の目を見つめ返すコルス。



「何もかもお話いたしましょう。わたくしは……」




――――――――――――――――――――




 『神聖ノトス帝国』では、現皇帝が即位して以来、果断な改革が推し進められてきた。


 それまで戦時だけ貴族から差し出されていた兵力を、徴兵を主体とする常設の『帝国軍』へ切り替えた。

 貴族の領地経営の一環として行われていた商業活動を自由化、半官半民の『帝国商業ギルド』を創設することで商習慣・商法を統一し、国税を納めればどこでも商売が出来る制度を作り上げ、帝国の財源に取り込んだ。

 初等教育に加え、新たに士官学校、魔術師学校などの高等教育機関を創設し、優秀な者は身分に関わりなく軍人や官僚として登用した。


 身分が低くとも実力のある者にとっては、従来より開放的な社会になったといえる。

 だが、それまで幅を利かせていた特権階級にとっては、既得権益の喪失と没落を意味する。


 急速に中央集権化を進める皇帝派と、巻き返しを計る門閥貴族派。


 2つの大きな権力の争いに巻き込まれたのが、目の前の女性魔術師――コルスだった。



「9年前、身分の低い出自でありながら、わたくしは『魔術師学校を主席で卒業した逸材』として第2皇子・トウマ殿下の家庭教師を拝命いたしました。

 異例の大抜擢だった、と申しても差し支えないでしょう。」



 何の後ろ盾も無い、貧乏子爵の嫁き遅れの20歳の娘が、皇子の家庭教師に。


 ちょっと想像するだけでも、さまざまな妨害に遭いそうだ。

 実際、第2皇子に近づきたい適齢期の大物貴族令嬢や、貴族の子弟である魔術師たちからさんざん足を引っ張られたらしい。



「トウマ殿下は当時15歳ながら、既に英明な資質をお持ちでした。あらぬ讒言・妄言に耳を貸すことなく、わたくしを魔術の師として立て、擁護して下さったのです。

 ですが……」



 最初コルスは、早くに母である第2皇妃を亡くしたトウマが、師である彼女を母か姉のように慕っているものだと思っていた。

 それが、いつしか男女間の愛情へと育っていたことに、気付かなかったと言えば嘘になる。



「周囲からの圧力もありましたが、わたくし自身、寵愛を受けるなど過分なことと思い、殿下の元を去ることにしました。

 そこに付け込んで来たのが、巨額の収賄容疑で失脚しかけていたスプリングフィールド辺境伯です。」



 かつては絶大な権力を誇った、貴族派の首魁である辺境伯。

 失脚しかけた彼が、起死回生の策としてコルスに持ち掛けた陰謀は。


 『第2皇子に、帝位を』


 身内にも実力主義を適用する皇帝は、息子たちを競わせ後継者を見定めようとしている。

 継承順位もさることながら、武将としての活躍著しい第1皇子ゲオルグとの間に水を開けられたトウマは、このままでは皇帝の座につけない。

 それだけでは済まず、皇帝となった兄に足元を脅かす者として疎まれ、暗殺される可能性もある。

 トウマを守るには、皇帝に就かせるしかない。


 辺境伯は、劣勢のトウマを帝位に就かせた功績によって、後ろ盾として返り咲く。

 コルスは、愛するトウマを守ることが出来る。


 いいことずくめだ。


 そのために、――第1皇子を暗殺する。



「実行犯として、女性でありながら有能な魔術師であるわたくしに目を付けたのだと。」



 表向き、嫁入りとして辺境伯の元へ身を寄せたのは、弱小子爵である実家が辺境伯の寄り子――人質となって断れなかったからだ。



「しかし、辺境伯の本当の目的は、第1皇子暗殺の下手人であるわたくしを第2皇子と情を通じていた毒婦として告発し、第2皇子をも失脚させる――両皇子を排して現皇帝派の力を削ぎ、自分の遠縁に当たる継承権第5位の皇甥を有利にすることでした。」



 聞いた限りでは随分無茶な計画だが、辺境伯には白を黒と言いくるめるだけの自信と、それを裏付ける根回しがあったのだという。



「何も知らず喜んでいる実家のことを考えて悩みましたが、トウマ殿下に仇なすことだけは……」

「つまり、断れない状況で暗殺を強要され、逃げて来られたのですね?」

「はい。ずっと監禁されておりましたが、暗殺実行の夜、隙を衝いて。

 見届け人として随行した者を始末して、宮殿には向かわずそのまま脱走して参りました。」



 ……良かった。暗殺は未遂だったか。



「ところで、護衛騎士の方々は?」

「トウマ殿下の元を辞する際に、『護衛に』と遣わされた者たちです。示し合わせて、脱走を手伝って貰いましたの。わたくしのせいで、騎士としての彼らの未来をも奪ってしまいましたわ……」



 両肩を落として俯く彼女は、最初の印象よりも幼く頼りなげに見えた。

 きっと、これがコルスの素顔なのだろう。


 第2皇子に全てを打ち明けて庇護して貰う道もあるだろうに、自分が彼の弱点となることを怖れて、1人で全てを背負い込んでいるのだ。

 この華奢で折れそうな身体付きの聡い女性は。



「お話は分かりました。あなたの身柄は、我々が必ず無事に国外へお連れ致します。ご安心を。」

「……なぜ、そこまでわたくしに肩入れして下さるの?」

「養母の願いを叶えるのが親孝行だから、ではいけませんか。

 あと、誰にでもあるでしょう? やるしかない、って気持ちになることが。」



 未来の知り合いだからというだけではなく、彼女の力になりたいと思った。

 ただ、それだけだ。




――――――――――――――――――――




 賞金付きで冒険者に依頼したのは、おそらく辺境伯。

 外交省に手を回しているのは、第2皇子の後ろ盾となっている勢力が考えられる。

 どちらも、第1皇子派に気付かれる前にコルスの存在を抹消したい連中らしい。



「というわけで、密航の手筈を付けて貰うためにお金が必要なんだよ。」



 顔役に支払う金銭を得るため、俺とブレタが親方から教わりながら打ったミスリル製の武器や防具を売り払うことにした。


 ミスリル製の武具を取り扱ってくれるところとなると、貴族向けの武器屋とかになってしまうだろうが、この街には貴族街が無い。

 駐留している帝国軍に売り込みに行くとしても、平の帝国兵士には購入する金も無いだろうし、将官に取り次いでもらえるとも思えない。

 『行商に来たエルフ巡視官です』なんて相手にされないよな。



「……まったく。ジョシュは、女に甘い」



 俺とブレタがやって来たのは、この街にある『帝国冒険者ギルド』。

 ここでは、モンスターを狩って得た素材だけでなく、ダンジョンで入手した武具(主に冒険者の遺品)の買い取りも行っているのだ。



「……お人好し。無計画。女たらし。」



 無口・無表情なブレタにしては珍しく、口数が多いし、ちょっとふくれている。

 やはり、丹精込めて鍛えた武具を、みすみす安く買い叩かれるのが気に喰わないのだろうか。

 しかし、こうして表情が豊かになると、武芸者然とした彼女も年頃の可愛い女の子だな。



「まぁ、そう言わずに。ロジーナから頼まれたことだし。ブレタだって、コルスとは歳も同じだし、仲良くなれるはずだよ。」

「……何度間違えるの? 私は『ベレッタ』。いまだに名前を間違えるなんて、ありえない。」



 最近は、『ブレタ』と呼んでも返事をしてくれるようになっていたのに。

 なんでこんなに機嫌が悪いのだろう。

 街中で目立つからと、自慢の槍斧ハルバードを預かって魔道具の袋に収納したのが気に障ったのかな?



「よぉ。誰かと思えば、ハーフ長耳族エルフのアンちゃんじゃねぇか。

 耳が隠れてるから一瞬分からなかったぜ。もしかして冒険者登録にきたのか?」



 入口の扉の前で揉めている俺たちに声を掛けてきたのは、コルスたちを襲っていた冒険者のリーダーで熊獣人の巨漢、ミハイロフ。


 ハーフエルフの俺の耳は、形こそ尖っているが長さはそれほどでもない。

 巨漢の熊男が言う通り、バンダナで髪の下に押さえれば隠せる程度だ。



「いえ、急にお金が必要になって、冒険者ギルドに武具の買い取りを頼みに……」

「そういうことなら、俺にまかしとけ! 足元見られないようについててやるぜ!」

「ぇ、ちょっ」



 やたら愛想が良いところを見ると、渡したミスリルの大剣がよほどの高値で売れたのだろうか。

 大男から強引に肩を組まれ、建物の中へ連行されると。



「……ジョシュから離れて、熊。

 ジョシュ、アイシャ以外の相手とベタベタするなら、私にも考えがある。」



 何故か不機嫌になったブレタが、俺と熊男の間にグイグイと割り込んできた。



「ぉぅふ!?」



 ドワーフである彼女は背が低くちょっとガッチリしているが、ムッチリと出るとこ出てる若い女性。

 密着されるとイヤでも意識してしまう。


(いかんいかん)


 気持ちを逸らすため、ギルド内を見回してみれば。


 ハロワみたいなお役所的な雰囲気の漂う1Fには、依頼を貼り付けた掲示板と、中年男性の事務員が座る受付窓口。


(アイギスの冒険者ギルドと、変わらないなぁ)


 美人の受付嬢、なんてこの世界に実在しないのだろうか。

 そんな感慨にふけっていると。



「……(鈍感)」



 むにゅむにゅと身体の膨らみを押し付けてくるブレタが何か呟いたようだが、熊男の声に掻き消された。



「買い取りは2Fの鑑定窓口だが、冒険者として登録されてないと受け付けて貰えないぜ。

 一応、盗品は取り扱わないことになってるからな、建前上は。」

「始めから、冒険者登録させる気でしたね? 一体何のつもりです?」



 ちょっとキツめの視線を向けてみるが、どこ吹く風と上機嫌な熊獣人。



「だっはっは、腕利きの魔術師でしかも世間知らずとくれば、いいカモかいい仲間になる。なんちゃら官とかいう仕事の合間でいいからよぉ、一緒に稼ぎに行こうぜ?」

「巡視官です。カモにされるのは御免蒙りますよ。でも、冒険者には興味ありますね。」



 登録しないと買取して貰えないなら、どのみち登録するしかないじゃんよ。


(おぃ、バンダナは取るなよ。ここの事務員はルメールの人間だから、ハーフでもエルフとばれない方がいいぜ)


 ぐいっと顔を近づけてきたミハイロフに注意事項を囁かれていると、



「兄さん、登録に来たんだろ。早く書類書いてくれや。」

「ぁ、はい」



 ボーっとしているように見えたのか、受付の事務員に怒られた。


 普段荒くれ者たちを相手にしているせいか、結構横柄だな。

 21世紀の日本では、お役所の窓口にいる公務員さんは、みんなもっと親切だったよ。



「……ジョシュが登録するなら、私も」



 並んで名前と生年月日を書く俺たち。

 旅に出ることは決まっていたので、俺もブレタも、この大陸で普及している普人族の文字を勉強していて、ちゃんと読み書きできるのだ。



「こっちの普人族の兄さんは『ヨシュ』、そっちの炭鉱族の姐さんは『ブレタ』だな。

 冒険者カード作るから、ここに手を載せて魔力を」

「あの、俺『ジョシュ』ですけど」

「……私は『ベレッタ』」



 綴りは間違えてないはずだが?



「兄さん達、よっぽど田舎から出てきたらしいな? 今じゃ、『ルメール読み』は公文書や契約書では通じないんだ。早く『帝国読み』に慣れた方がいいぜ」



 なにソレ、聞いてないよ!?




――――――――――――――――――――




 なぜ、普人族社会に派遣されるハイエルフたちが、一律に『グリューネワルト』と名乗っているのか。


 勇者と共に魔王を倒し世界を救った『初代グリューネワルトの知名度にあやかって』という説明を鵜呑みにし、なんとなく『そういうものだから』で済ませてきたが。



「いや、急に『今日からお前はヨシュだ』って言われても」

「……本当にそう。私も、ジョシュ以外から『ブレタ』なんて呼ばれたくない。」



 もしかして、国や地方を移る度に自分の名前を勝手な呼び方で呼ばれるのが屈辱だったから、世界中どこでも『グリューネワルト』で統一したのではないだろうか?

 そんな邪推をしてしまうくらい、名前を勝手に変えられるのは衝撃だった。


 ……今まで『ベレッタ』に悪いことしてたな。

 まぁ、未来で『ブレタ』と名乗ったのは彼女なんだけど。



「なんでぇおめぇら、今頃『ルメール語』にしがみ付くくらいなら、何故あの時帝国に屈したんだ?

 俺たち義勇兵が前線で体張って戦ってる時に、田舎に疎開して何してやがった! って、ガキだったよな、その年頃じゃ。」

「ライヨール、若いもんに昔話してっと嫌われるぜ。とっとと鑑定窓口へご案内して差し上げろよ。」

「ちっ。俺だって、本当はラギオールって名だ。ミハイロフ、おめぇさんだって、生粋の帝国人じゃねぇだろうが。獣人部族の誇りはどうした?」

「んなもん、腹の足しになるかよ。さぁ、行こうぜ、『ヨシュ』!」




――――――――――――――――――――




 結局、買取価格が相場より高いのか安いのか分からなかったが、ミスリル製の長剣2本に、小手と具足各3セットを手放した。

 熊獣人のミハイロフが交渉して値段を引き上げてくれたので、きっと損はしていない、と思いたい。



「んで、こんな大金持って何するつもりだ? 教えてくれなきゃ、そこらで吹聴してカモにするぜ。」

「ジョシュ、戦斧トマホーク出して。」

「あいよ。」



 魔道具の袋から取り出してブレタに渡したのは、野外での大型モンスター向けに作られた長大な槍斧ハルバードではなく、屋内での戦闘用に俺が考案した小型の戦斧。

 木を割るための手斧よりヘッドが小さく薄く、刃と反対側に鍵爪ピックの付いた軽い斧だ。

 21世紀になっても、A国軍で塹壕戦用の個人装備として採用されているモノを参考にした。

 建物内では剣より短く取り回しやすく、ナイフよりリーチが長く威力が高い。

 ピック部分で兜の上から頭蓋を割ることも出来るし、相手の関節に引っ掛けて行動を封じることも出来る。


 ヒュンッと風切り音を立て、慣れた手付きでトマホークを回して構えたブレタの殺気に当てられたのか、敏捷に飛び退る熊男。



「おぃおぃ、冗談だぜ。冒険者同士、仲良くしようや。」



 悪びれずに笑っているが、いつでも逃げられるよう、距離を詰めてこない。


 今のトマホークの風切り音で、実力差とブレタの本気が分かったのだろう。

 剣の鞘から手を離した熊男を見て、俺も短刀の柄から手を離した。



「……余分な詮索は寿命を縮める。あなたの腕では、私に勝てない。」

「悪く思わんでくれ。儲け話が転がってないか、嗅ぎまわるのが性分になっちまってな。」



 儲け話、か。



「それなら、俺から依頼があります。人探しを手伝って貰えませんか?」

「……ジョシュ?」



 ブレタは訝しげな視線を向けてくるが、この金が『賞金首のコルスを逃がすため、顔役に渡す手数料』という事実から目を逸らすには、うってつけ。

 なにより、俺にとって喉から手が出るほど欲しい情報だ。



「誰を探してるんだ? ギルドを通さずに直接、ってことなら、安くしといてやるぜ。」



 熊男のミハイロフを信用したわけではないが、俺の体が一つしか無い以上、彼女を探すには人を雇うしかない。



「褐色の肌を持つ、スタイルの良い美人です。昼間、中央市場の雑踏で見かけた時は旅装で、汚れ具合からこの街に着いたばかりだと思います。」

「ほう。それなら、宿と酒場を虱潰しにすりゃ簡単に見付かりそうだな。その女はダークエルフなのか?」

「いえ、違います。

 ――彼女の名前は『アルタミラ』。」

「おぃおぃ、『暗黒魔竜』の名を名乗るなんて、そいつはイカれてるのか!?」



 俺が探してるのは、まさしくその闇神竜ダークバハムート本人なんですけど。



「さぁ、どうでしょうね。

 成果は、今夜、中央市場の傍にある『帝国家庭料理・ダンケルク亭』で聞かせて下さい。

 報酬は成果次第ということで。

 あと、人違いかもしれませんが、見つけても決して手荒なマネはしないで下さいよ?

 命が惜しければ、くれぐれも。」



 呆気に取られている熊男を残し、帝国冒険者ギルドを後にする。



「……ジョシュ、その女は、何者?」

「運命の女神、かな。」



 陳腐な表現だが、そうとしか言えない。


 俺が再転生したのも、未来世界を滅ぼさないように足掻いているのも、全て彼女とカゲミツに再会し、共に生きるため。


(――彼女アルタミラに、会いたい)



 『魔神』なんて変なモノになって、どことも知れない世界に転生したあの時。


 『死の大空洞』――生命が死滅したかと思える荒涼とした世界で、孤独に苛まれ必死に生命の痕跡を探し求めた俺が初めて出会ったのは、巨大な闇神竜アルタミラの遺体。


 惹き付けられるように近づいて見上げた体は、強く、大きく、美しかった。

 神々しさすら感じ、存在感に圧倒され、身が震えた。

 傷だらけになっても卵を守り抜いたその姿に、目の前の竜がただの凶暴なモンスターではなく、愛情や知性を持った存在だと感じた。


 直後に、俺の送った魔力で幽霊(アストラル体)になって現れた彼女は、美人だけど、傍若無人で傲慢で我儘なくせに、ドジっ子でお人好しで涙もろくて情の深い女性だった。

 彼女のために奇跡を起こしたいと願い、孵るはずのなかったカゲミツに生を授け、聖魔法で神竜を蘇生した。


 気が付けば、いや、多分出会ったその時から、俺は彼女に惹き付けられ、愛していた。

 照れくさいけど、転生したのも彼女に出会うためだったと、本気でそう思っていた。



 ――魔神として転生してからの記憶が、走馬灯のように脳裡を流れ、溢れ出す。 


 忘れていた郷愁のような想いが、胸の中で大洋のようにたゆたう。

 彼女に会えたなら、伝えたいこと、伝えなければならないことが、山ほどある。


 

 ……だが、再会出来たとして、俺の事を知らない彼女に、何をどう説明しようか?




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